【青い夏の夢】‐3
私、日向 夏が彼に出会ったのは、中学校に上がってすぐのことだった。小学校時代仲の良かった友達と学校が離れてしまった私は、新しい友達を作るのに勇気を出せずにいた。元々内向的な性格に加え、そのうちに誰か話しかけてくれるだろうという甘い気持ちだった。
けれど、そんな甘い気持ちはすぐに打ち砕かれた。知っているということはとても大きなことで、グループはすぐにできて、余所者の私はなかなかクラスに馴染むことができなかった。私自身、他人に話しかけることに腰が引けてしまい、一人黙々と読書をする日々が続いた。
そんなある日。
「日向さん、だよね?」
顔を上げると、同じクラスだけど一度も話したことのない男の子がいた。知らない人だ。どうして私に話しかけるんだろう、とびくついていると。彼は困ったように眉根を下げながら微笑んだ。
「本、好きなの?」
私は頷く。
「よかった。僕も、好きなんだ」
この日をきっかけに、持っていた本や読んだことのある本の話題で意気投合し、仲良くなっていった。お互いに本が好きなので、図書室に行くと高い確率で遭遇する。学年で一番背の高いトウやは、図書室で一番高い書架のホコリを払うことができた。
上の方にある本に手が届かない時は、トウヤに取ってもらった。題名を確認し、笑いながら手渡してくれる。その仕草に胸がドキドキして。図書室に行っても、読書に集中できないこともあった。つい、トウヤの横顔を見つめてしまう。私の方を向いて、困ったような不思議な笑みを浮かべる顔や、真剣な表情で本を読んでいる横顔を、ずっと見つめていたかった。