【青い夏の夢】‐1
発車のアナウンスが響き、扉が閉まった。電車はゆっくりと進み始め、徐々にスピードを上げていく。扉の前に立つと、ガラスに自分の姿が映る。何の表情も浮かべていない、自分でも何を考えているのか分からない顔。
私は自分の顔を見ないように目を凝らして、すれ違っていく電車を見つめる。銀の車体に緑のラインが入った車両は、あっという間に過ぎていった。
「……」
始業式の日からカレンダーをめくること三枚。春はとうに過ぎ去って、今日から七月。季節はすっかり夏だ。白いブラウスに結んだ青のリボンと、同じ色の夏服のスカートが揺れた。
「この夏服も、今年で最後かぁ...」
ポツリと溢したのは、三好 小春。私の中学校からの友人で、クラスは違ってもこうして登下校を一緒にしたり、休みの日には遊んでいる仲だ。
「もう三年生だよ、早くない?」
「そうだね。感覚的には、あと一年はあるような気がしてた」
「本当それ……あ、宿題やってなかった!」
「朝終わらせちゃいなよ、急ごう!」
なんて、他愛もない会話をする時間は楽しい。例えそれが、残りわずかだったとしても。
私のクラス、三組の教室に入ると、人懐こそうな笑顔が目に入った。
「おはよう、ナツ。それとコハル」
「それとって……私はナツのおまけじゃないんですけど」
膨れっ面のコハルに向かって笑いかけているのは、藤田 秋良。コハルと同じ、私の中学校からの友人だ。
「コハルは四組じゃなかったっけ? 三年になってもう三カ月経つのに、自分のクラスを忘れちゃったの?」
「そんなわけないでしょ? ナツと一緒に宿題をやろうと思っただけ。悪い?」
一見仲が悪そうにも思える二人のやり取りには、慣れている。コハルとアキラは小学校に上がる前からの知り合いで、いわゆる幼なじみという仲なのだ。
微笑ましくも羨ましい二人の掛け合いを眺めていると、言いようのない寂しさに襲われる。原因は分かっているけれど、この寂しさを埋める術を私は知らない。
ふと自分の隣を見ても、そこに居て欲しい人はいない。
「ナツ?ナツってば!」
「え?」
コハルに腕を強く引かれて、我に返った。
「ボッーとしちゃって。大丈夫?」
心配そうに覗き込んでくる二人。私は小さく笑いかけた。
「うん、大丈夫。心配してくれてありがとう」
大丈夫と言葉では言ったけれど、胸がちくちくと痛んだ。