ニシュタマリゼーション後編
翌朝、ボクは村人達の気配で目を覚ました。
「歯が磨きたい。」
そう呟く。そのうち何か方法を見つけないといけない。そう考えながら昨日から借りているかまどに行く。村人達がボクを見つめている。
「これでニシュタマリゼーションは終わりだ。今後、これを続けていけば呪いは解ける。」
村人達に出来上がったモノを焼いて振舞う。
「何も違わない……こんなもので呪いは解けないだろ……」
村人達に失望の色が見える。
「ぜんぜん違うんだよ。」
誰もそれ以上何も聞いてこない。解散してそれぞれのトウモロコシ畑に向かうようだ
。
「おいマジかよ。」
ボクはできることはやったと思う。でも、聞いてくれないのではどうにもならない。白けた村人達の視線を感じながら、ボクは村はずれに歩いていった。
「おい、ボク、何かまずかった?」
空に向かって問いかけると、前回よりさらに遠くからトウモロコシの神の声が聞こえてきた。別にマズった訳ではないらしい。
「ボクにこれ以上何をしろと?」
病人達の冷たい視線を思い出しながら、問いかけた。
「音を上げるのが早いよ。」
「うわぁ!ビックリした!!」
トウモロコシ頭が立っていた。
「自分で伝えなさいよ!」
トウモロコシ頭が首を振る。
「ダメダメ、彼らには土着の宗教があって私のような他宗教の神が現れると邪神扱いされちゃう。」
まあ、もっともだがなんだか納得いかない。
「それアナタが救う必要ないですよね?」
それにも首を振った。
「それは違う、私は自分の信者を救うのではなく、トウモロコシを愛するものを救う神なのだ。」
まあ、なんとか納得できた。
「後学のために一つ聞いていいですか?」
「皆まで言うな、私の名前を忘れたのだろう?センテオトルだ。」
「心読めるんですね。」
「そこそこ(・・・・)な。」
ボクはもう一度ため息混じりにきいた。今度は本題だ。
「ボクにこれ以上何ができますか?何させたいんですか?」
「キミにはこの世界におけるニシュタマリサリシオンの伝道者になって欲しい。」
ボクは村のほうを振り返って問い直した。
「あの反応は無理ですよ。」
「いや、必ず何とかなる。信じろ。」
「信じられませんね。」
センテオトルはさほど気分を害さなかったようだ。
「キミは今までも信じて行なったじゃないか。キミはできるよ。」
「何を信じたって言うんですか?」
センテオトルは微かに笑っている。
「ワタシの実在を信じて、ニシュタマリサリシオンを伝えようとしたじゃないか。ワタシが実在すると信じている人間はこの世界にはキミだけ。元いた世界にもほとんどいなかったんだぞ?」
「実在してるのを見たからでしょ?」
「しかし、キミはワタシが神だと直感したな?素質が違うんだよ。ワタシをただのトウモロコシコスプレお兄さんだと思わなかっただろ?」
ボクは不服だったが、そういうことなのだろう。
「……変なタイプの神様だと思いましたよ。」
「ワタシが姿を現しただけでそこまで察するとは凄いじゃないか。もっと自分の素質を認めたほうがいい。しかも、昨日から今日にかけてニシュタマリサリシオンをちゃんとやって見せたじゃないか?」
「まあ?一応?」
センテオトルは私の背中を叩いた。恐ろしく熱い手のひらだった。
「うっわ!熱っい!!」
センテオトルは揉み手をしている。
「手加減したのだが、申し訳ない。キミにパワーの一つでも授けようと思ったんだ。もう授けたけど。」
まだ背中が熱い。
「これ、パワーが強すぎて死ぬ系じゃないんですか?マジで背中熱いんですけど。」
困った事に本当に神だった。これは参った。
「キミぐらいの素質がある人間ならすぐに納まるだろう。」
一番の関心ごとを尋ねた。
「……何のパワーなんですか?」
センテオトルは会心の笑顔で答えた。
「もちろん、トウモロコシを豊作にするパワーだよ!」
もうボクは何も言わなかった。センテオトルは嬉しそうな顔をしたまま歩いて去っていった。飛行能力もないらしい。