センテオトルが台所にやってきた
「ふうん、なるほどな、こうやるのか。」
ボクは何となく自宅のキッチンにいた。一ヶ月ほど前、聞きなれない「ニシュタマリゼーション」という単語に出会った。元々、創作神話の邪神の単語を検索しようとうろ覚えで入力した結果、ぜんぜん違う単語がヒットしたのだ。そのニシュタマリゼーションという単語の異質さに取り付かれたボクはとうとう自分でそれを試してみる事にした。
「まあ、やってみるとあっけなかったな。」
独り言を呟きながら成果物を食べる。特に美味しくもまずくもない。日本ではこの技術を生かす機会はほとんどなさそうだし、なんなら材料の入手ですら手間取った。
「無駄なスキル覚えたな。」
そう呟くと、急に台所の一角が輝き始めた。
「青年、無駄な事ではないぞ。」
ボクが輝くほうを見ると光の中に褐色の肌、屈強な肉体、さわやかな笑顔、頭にトウモロコシの絶対に日本人じゃない男性が立っていた。
「そんなん絶対何かの神じゃん。」
「よく分かったな。私はトウモロコシの神、センテオトルだ。キミのニシュタマリサリシオンを役立てる時が来たぞ。キミはこのセンテオトルのメッセンジャーとして異世界の民を救うのだ。」
ボクとセンテオトルはしばらく台所で見詰め合っていた。
「スマホ持って行っていいですか?」
「充電できないよ?携帯会社ないし。むしろ、コッチに置いて行った方が帰ってきた時便利よ?」
「帰れるんですか。なら、良いですけど。」
ボクはキッチンの椅子に座ったまま輝き始めた。
特に帰る予定はないということに気づいたのは異世界へ行った後だった。