あけぼの
村人たちは無言で食べた。数ヶ月前、ボクが振舞ったときとはまるで違う。静かにがっついている。王子は褐色の丸太のような腕で給仕をしている。ボクの感覚だと彼はハワイの人っぽい風体をしている。分厚い肩を揺らしながら、シチューを村人に配っている。「普段、肉を食べない人間が急に沢山食べると良くない」とは彼の弁で、シチューはかなり薄めに作ってあるはずだが、心配になるほど勢いよく食べている。薄焼きパンに肉のシチューを浸して、口へ運ぶ。当然、七面鳥を〆てここに来た訳だが、その死が彼らに生気を与えているように見える。トウモロコシもそう。生きているものを食べなければ、人間は生きていけない。
「これを、できれば毎日、皆さんに振舞えたらと思っています。」
村人たちの手が止まった。
「ウソだろ?」
ボクは強く繰り返した。
「毎日、振舞いたいと思います。少し遠いですがボクの畑は十分に実っています。それをエサにして丸々太った七面鳥が柵の中に数え切れないほど囲われています。」
ルデリクが先を続けた。
「冬が来る前に干し肉を作りましょう。野菜も塩漬けにしておけば、冬の間もずっとこれが食べられます。だから、誰か手伝って下さい。」
ボクはそう語りかけるルデリクは将来立派な王になるのではないかと思った。もし、自分の国で王になれなければ、ここで国ぐらい作れるだろうという気さえしていた。その後、この土地にも雪こそ降らないが冬はやってきた。王子は春になって暖かくなったら国に帰らなきゃといいながら、しばらくはシチューを作っていた。本格的に寒くなる頃、王子の代わりにシチュー番をする人間が現れた。そして、もう一つ。
村人たちは自発的にニシュタマリゼーションを行なうようになったのだった。