来訪者
「うん?」
遠くに人影が見える。ここに誰かが尋ねてくる事はセンテオトルを除けば全くない。
「こんにちは!」
向こうから声をかけてきた。
「ああ、どうも。」
村の人間ではない。この世界に来て初めて血色がよい人間を見た。
「預言者の教えを聞きに来ました。塩を渡せば預言者の教えが聞けるとお告げを受けたのです。」
「はあ……ええっ!?」
話を聞くと遠い国の王子だそうだ。ボクがこの世界にやってきたと同時に夢の中でお告げを受け、この場所を目指して旅をしてきたらしい。ルデリクと名乗った。彼はボクに塩をもたらした。そして、このままこの土地で働くという。ボクは彼に助けられながらどんどん作業をこなしていった。その作業中はずっと彼に地球の話をしていた。彼はとても頭が良かったが、選挙権の話や女性と男性が同じ仕事をしていることなどは理解にかなり時間がかかった。
「素晴らしい。預言者さまはとんでもない世界から来たんですね。」
ボクが褒められているわけではないのだが、彼からするとボクは超人の類なのだろう。一度、センテオトルが岩場の影からボクを呼びつけた。
「こっちに来れば良いじゃないですか。」
「迂闊に私が近付くとルデリク王子が倒れてしまう。というか、キミ以外の一般的な人間は本当はこんな風に直接、神と喋ると死ぬか気絶する。」
「そんなもんなんですかね?」
以後、危険なのでセンテオトルと喋るときは、岩場の一角にスペースを定めて、ルデリク王子は近付かないようにすることにした。そんな事をしながらトウモロコシは二期作目に入っていた。
「七面鳥のフンを集めて、トウモロコシの茎と葉、軸を砕いて混ぜて、発酵させます。」
「発酵?お酒造るんですか?フンで!?」
王子の表情から、この世界では堆肥を作る技術がないことが理解できた。ボクだって、「トウモロコシ栽培」のパワーがあるから知っているのだ。
「酒じゃなくて堆肥を作るんだ。鳥の糞を直接畑にまくと毒になるけど、こうして草の類と混ぜて発酵させると、土を肥やして収量が上がる。」
ルデリクはしばらく考えていたが、急に何かをひらめいたようだ。
「なるほど!森の土を運んでくると作物が育ちやすくなるのと同じ理屈か!」
森が周りにないため、なかなかその方法は採用できないが、理解してもらえたようだ。そして発酵を始めた堆肥は臭かった。
「預言者様……メチャメチャ臭いです。」
「ボクもここまでとは思わなかった。」
鼻が曲がる強烈なアンモニア臭だ。