方針
ボクは草ぶきの粗末なテントに住んでいる彼らの生活を思った。
「地球で言うところのこの世界の文明はどのレベルなんですか?」
「うーんとなぁ……青銅器文明ぐらいといえば分かるか?」
ボクが村で見た道具は青銅器だったのか。
「別の地域ではもう少し発展した場所もあるんだが、ここは遅れているな。」
彼らの受けている呪いを考えればそれも仕方がない。子供が育たない、慢性的に不健康、早死にする……それら全て栄養失調に由来している。
「農耕より狩りをしたほうが、マシじゃないんですか?」
「彼らは別の土地から追われてきた農耕民族だ。弱いんだよ。ただ、この世界で唯一……」
ボクはわかった気がした。
「トウモロコシを主食に選んだと。」
「察しがいい!さすが私が選んだメッセンジャー!」
褒められてもうれしくはない。気が重くなる話だ。
「まあ、ボクも塩がなくて困ってますが、彼らも放っとけば全滅しますよね?」
「するだろうなぁ……」
まあ、何と言うか、知らない集団に打ち解けるのはボクが最も苦手とする分野だ。
「なんでもっと社交的な人間を選ばなかったんですか?」
「あれ?気づいてないの?地球でワタシの事が見えるの、多分、キミ一人だけだよ?」
「その貴重な人材を地球から連れ出したんですか?」
「まあ、轍鮒の急だな。」
岩場を登ると、村が見下ろせる。
「何ですかその言葉?」
センテオトルは答えた。
「とにかく、時間はないよね?急いでいたんだよ。」
上から見ると良くわかるが、ボクがいじくった場所だけ見るからに豊作になっている。パワーが本物だと分かったところで彼らの今の窮状は救えないのだ。センテオトルはしばらく話し相手になってくれた。自分が古代の地球でなにをしたか、ここの狼達がそうであるように神のメッセンジャーは多くの野獣に襲われないということ、そしてワニやヘビは襲ってくるらしいことなどだった。
「彼らを救ってどうしたいんですか?」
「崇められたいわけではないんだ。ただ、トウモロコシを主食とする民をワタシは愛しているんだよ。ワタシの話し相手になってくれる貴重なキミを派遣するほどには、彼らを愛しているんだ。」
ボクはどんな顔をしてセンテオトルを見ているのだろう。
「初めて、アナタの事を神様だと思いました。」
「ワタシはずっとキミの事をワタシの預言者だと思っていたよ。キミが生まれた瞬間から確信していた。」
なにかがボクの心の中で動いたのだろうか。