第83話 ぜんぶわたしがわるい
2本立てで投稿したかったんですが風邪を引いてしまいました。
来週は2本やります。
皆さん体調にはお気をつけください。
「すいません、レムリアドさん。ちょっと出ていってもらえますか?もうどうにもならなそうなので」
俺はシノアに言い付けられてクリスの部屋を後にした。閉まりゆく扉の向こうには、自らを追い詰めるような険しい顔をして俯きノブを引くシノア、その先には看護師達にベッドのシーツを代えられたりエラルドとレイラによって服を着替えさせられながら放心するクリスがいた。
もうクリスは俺に縋り付くこともしない。俺が傍に居ても居なくても、彼女は変わらず過去に苛まれ、発狂し錯乱する。声には出さずひたすら口元だけで『ごめんなさい』と繰り返し、俺が安心させようと掛けた声や触れた手も全て振り払って闇雲に暴れ散らし、その様はまるで刺激された凶暴な猿のように野蛮極まる。クリスが暴れれば人間の看護師では怪我をしかねないため、直接触れなければならない世話は暫くアカデミーの女性教員達が行うことに決まった。混乱が収まるまで互いに時間を置くべきとして離別を命じられ、今や俺がクリスに出来ることも無くなっていた。
「…どうすりゃいいんだよ……」
奥歯を噛むように、覆らない現状を嘆くように、世界に自らの間違いを問うように独り言を呟いた。声は白日を差す長い廊下に吸い込まれ、何も残らない。そこへカツカツと革靴を踏み鳴らして近寄る人影が1つあり、それが俺の足の向く先に立ち止まったので顔を上げて見た。
居たのは貴族らしい白いジャケットスーツを身に纏った男だった。芝生のようにチクチクと尖っていながらも暑苦しさも何故か感じないロイヤルパープルの短髪と、同色の瞳を持つ穏やかで柔らかい目。…彼が誰かは知っている、ファウドの兄…第1王子のアレキサンダー。国王譲りの温かさを持つ彼がいつもファウドとクリスを遠巻きに見守ってくれていた。クリスにとっても、兄と呼ぶには親しくなかったものの信頼の置ける人物であると感じられる相手だった。
それを知っていたせいで、俺の対応は王子に対するものとしては非常に好くないものになってしまった。
「あぁ…第1王子の…」
敬語も用いないその物言いに、アレキサンダーはキョトンと目を丸くし、しかしすぐに何処か嬉しそうな微笑を浮かべて距離を詰めてきた。
「知ってくれていたのですね。その通り、私はアレキサンダー・P・ガーディアンと申します。尤も『ピラー』のイニシャルを背負うには些か力不足ですがね。善意を胸に国を治めるには、やはり技量が欠かせません。なかなか父上に手が届かず日々精進です」
「それは…、…そうですか。あ、いえ、申し訳ありません!このような無礼な振る舞いばかりで…」
「いいえ、構いませんよ。普段気を遣われてばかりいるので、気軽に話されるのは嬉しいものです。尤も、他に兵や役人がいる場では控えていただいた方が私も助かりますが」
「あー…、はい、すいません。…気を付けます」
アレキサンダーは何処までも穏やかに切り返して笑っている。…クリスの記憶が確かなら、歳は26くらいだっただろうか。年の功と言っても桁外れている成熟した物言いに、次期国王としての覚悟や誇りを窺える。
「…クリスティーネ様のご様子は如何でしょうか?ご出産から2日も床に伏せられたままで、私共には経過が分からないので」
アレキサンダーは俺が出てきたドアの方に一瞥をくれて俺の目を見て訊ねた。クリスの現状を把握しているのは俺やアカデミーの派遣者達、そして国王、大臣、医療陣営の人間達だけだ。勿論あの子供のことも、他の誰にもバラしてはいない。
「…申し上げ難いことですが、私から王子にお伝えすることは出来ません。城の方々には期が熟してから国王様により伝えられることになるかと思いますので、今暫くお待ちいただけますと…」
「左様ですか。でしたら野暮なことを訊きました、忘れてください」
アレキサンダーは苦笑して首を振ると、立ち去らずまた俺と眼を合わせる。用件は今の1つではなく、寧ろここからの方が本題だというように視線が迫ってきた。
「アカデミーの皆さんで会議を行うそうです。見た所お呼びされていないようですが…」
「会議…ですか。はい、呼ばれてはいませんけど……うーん…」
「おそらくクリスティーネ様のことでしょうから、聞けば貴方も参加したがるかと思いまして。それに皆様が敢えて貴方を会議から外したのだとしても、貴方には知る権利があるはずです」
「それは…まぁはい、そうですね。けど会議室の場所は知らないんですよ。滞在を許されていたこの客室の他には案内をされていませんので、王室や玄関までの道しか分かりません」
アレキサンダーは「でしたら」と翻り眼で廊下の先を指し示し、また振り返って、
「私がご案内致しましょう。どのみち貴方も部屋の間取りを知らないままでは苦労が絶えないでしょう」
「いえ、そんな…。わざわざ王子自ら案内をする必要は無いでしょう。一介の魔人に王子が、となっては城の方々に示しがつかないのではありませんか?」
「私がそんなつまらないことを気にする質に見えますか?それに、威厳を振りかざして高く留まることが『示し』とは到底納得しかねます。下手な威圧などせず人として当然の善行を貫き、その上で信頼を勝ち取れば何の問題も無いはずしょう?」
「それは、そうですがね…」
口で言う程簡単なことではない。王子がその態度では庶民はどうせ付け上がる。現にアムラハンでは国王の善良さを甘えた未熟者として罵る声もある。困窮した世界で民衆が望むのは、粗暴だろうが何だろうが力強く権力を行使する者の庇護下に居られることだ。そこに善悪は関係無く、自分達に利がある限りどれ程悪質な政策でも正義と讃えるだろう。民衆を団結させるのは案外独裁の方なのだ。
どのみち口出しをする身分では無いと思い、素直にアレキサンダーの案内を受けて廊下を歩いていく。俺個人の思いとしては、現国王やアレキサンダーの『人』としての政治思想は賛同したいもので、その実現が可能だというならどうにでも後押ししたい。しかし世の中には俺が考えもつかないような利己的な思考で他者を踏みにじる輩が大勢いることも知っている。人間達が今のままでは必ず何処かで破綻するのは眼に見えていたため、どうしても彼を肯定することが出来なかった。
主要な部屋の配置の他には特に話題も無く、スタスタと会議室を目指して歩いていると、廊下の向かいからアレキサンダーと同じようなデザインの黒いスーツをキッチリと纏った男が現れた。髪と瞳はアレキサンダーの補色を思わせる緑色で、男にしては長い髪を七三に分け、目付きは吊り上がり、女性的にすら見える幼い顔立ちはアレキサンダーと相対的に映った。18という実年齢にもそぐわない浅はかな表情や態度は、なるほどクリスが靡く訳がないと納得してしまう程に幼稚そのものだった。
第3王子、パトリック・C・ガーディアン。彼は俺を連れて歩くアレキサンダーを見掛けるとフッと鼻で笑って行く手を塞ぐように前に立ち止まった。アレキサンダーは他人や身内にも殆ど見せることの無い冷たい視線をパトリックに浴びせ、対してパトリックはアレキサンダーを軽視するようにニタニタと見上げた。
「何だ、パトリック。勉強していたのではないのか」
「勉強?これ以上何を私が学ぶというんです、兄様。王位は兄様が継ぐでしょう?私が政治を知って何になるんです?」
「…呆れた男だ。前に立たれては客人の邪魔になるではないか。立ち去ってくれないか?」
「ハッ、王太子が!庶民に!奉仕!呆れるのは此方ですよ兄様、当期に続いて次期国王もそれですか。国民にナめられますよ。貴方がポックリ逝ってくれるなら私だって政治学くらい学びます。ファウディアーの兄様も席を開けてくれましたからね」
右肩を竦めてケラケラ笑っているパトリックの物言いに、アレキサンダーも俺も、怒りを露にして睨み付けた。パトリックはアレキサンダーの表情を満足そうに見たが、俺の顔に気付くと心外だと言うばかりに目と口を開けて驚いてみせた。
「ほら兄様、貴方が下手に出るから勘違いした庶民が私を睨みましたよ。全く腹立たしい」
「言いたいことが済んだなら早くこの場を去れ、パトリック。私も彼も急いでいるんだ」
「はいはい分かりましたよ」
パトリックはゆらゆらと馬鹿にしたようなふざけた態度でアレキサンダーを通り過ぎ、今度は俺の前に立つ。そして両手を腰に当てて顔を寄せてくると、俺の目を睨みながら吐き捨てるように告げた。
「その光る目はまるで野犬だな。知ってるぜ、お前ら風呂にも入らずテントなんかで寝るんだろ?そんな汚ならしい身で城に入ることを許されたんだ、もう少し頭を低くした方がいいぞ」
下らない了見だ、まともに取り合う意味もない。俺はその場に跪き、「大変失礼致しました、パトリック王子殿下」と低く頭を下げた。パトリックはフンと敵意を剥き出して鼻を鳴らしさっさと離れていく。アレキサンダーはそれを見届けてから俺の横に膝をつき、「弟が失礼を働きました。申し訳ありません」と手を貸して立たせた。
「あれは大臣に毒されて手に負えなくなってしまいました。私は王太子として父から一身に教育を受けましたが、弟妹達は別の教育係りをつけられて、中でもあれの幼少期の教育係りというのが大臣の息が強く掛かった者だったので横暴な思想を植え付けられてしまったのです。昔はまだ少しは聞き分けがあったのですが、ファウディアーの亡き今となっては奴に諭してやれる者は誰もいません」
「…このお城で大臣閣下のいい話は聞きませんね。それ程の不支持でどうして大臣を続けていられるのか…」
「大臣が横暴なのは、先代の圧政に長く同調していたせいです。老いに倒れた先代から、自分の意思一つでは撤回のしようが無くなってしまったその時代の無念を受け継いだ我が父が、苦心を重ねて持ち直したのが今の政治です。大臣は圧政時代の功労者として一応の地位を得ているためすんなり隠居をさせられませんし父も可能な限り顔を立てているのですが、やはり過去の政治で表に立てていた分この時代の変化が気に入らないのですよ」
…老害か、と気分悪く思いながらまた廊下を歩き始めると、アレキサンダーは俺から眼を放して、廊下の先よりも更に遠くを見るようにして告げた。
「とはいえ、その大臣ももうじき老年です。そうなれば確実に引退でしょうから、王位継承と共に新しく大臣も就任されましょう。私が父の時程の苦労をすることはないはずですから、その分アムラハンを、そしてアムルシア全土を栄えさせるよう尽力します」
彼の独白に「お願い申し上げます」と、此方も呟くように告げていった。
「…気を悪くしたなら謝る。かなり滅入ってるだろうと思い遠慮したんだ」
「いえ、謝ることは…。気が滅入っているのは事実です。お気遣いはありがたいのですが、寧ろ此方に顔を出す方が手が空かずに済むんで、気分は楽です」
会議の途中に割り込む形で現れた俺をマイクは謝りながら椅子の1つに招いた。俺に続き、マイクも元の席に座ると会議は続行する。案内を務めたアレキサンダーは私用に急ぐように去っていき、俺も簡単な礼だけを告げてあっさりと別れたのだった。
「レムリアドのためにもここまでの話を整理する。クリスティーネの処遇は一先ず予定通りとするが、リーベルの状態が思わしくなければ、場合によってはまたクリスティーネを勇者に改任することになる。それも世界で最後の勇者として、これまで以上に責任の伴う立場を背負ってだ。正直今のクリスティーネにそれは不可能だろうと分かってはいるが、他にやりようがない。せめて魔王討伐寸前までは討伐軍だけで動き、その時が来るまでに何としてもクリスティーネを再起させてもらわなきゃならない」
それは当然アカデミー側でも無理のある方針だと分かっているのだろう。言っているマイク自身も声が萎んでいて、両隣のユーリ、カトリーヌも俯いて溜め息を漏らしている。後に並ぶ教員達もほぼ同様だ。ならば俺も、クリスの傍に居た者として本音を伝えることにした。
「クリスティーネ様は、以前にも増して心を病んでしまわれています。私が傍に居ても発作を起こしてしまう程で、掛かり付け医の話ではもう殆ど回復は見込まれないとのことです。普通の生活への復帰もままならないので、…勇者の使命など、到底果たせたものではないかと思います」
マイクは深くそれに頷いた。しかし、だからと言ってアカデミーとしては『そうですか』とはいかない。無理と分かっていても要求はしておかなければ本当にどうしようもなくなった時に何の準備も出来ていないことになってしまう。引き下がらない姿勢を取ることで、飽くまでも俺やクリスに心の準備だけはさせておかなければならないのだろう。
「それを承知で、何とか頼む。此方も此方で解決を目指すが、クリスティーネには『そのつもり』でいてもらわなければならないんだ」
「分かっています。私も単に報告しただけです。断りきれないのは理解できます。…ただ、その時は俺も彼女の横に立ちます。これだけは絶対に譲りません」
「ああ、勿論構わない。…構いませんよね、校長」
マイクは四角に連なる机の向かい端に座る校長に、押し付けるような力強さでそう訊ねた。気難しく腕組みをしながらも「勿論だとも」と校長は頷き、マイクはそれを確かめてから会議を続けた。
「クリスティーネは現在『フェイディング』という光の血族の出産時に起こる現象の影響で、元々のレベル16から8まで退化している。リーベルもフェイディングの効果に則ればクリスティーネの力を分け与えられてレベル8相当になっているだろう。両者とも時間を置いて1つレベルを繰り上げ、レベル9になると予想される。…そう、あのリーベルという……子…が、レベル9もの能力を持った状態で成長していくんだ。…つまり、だな…」
「マイク先生、そんな慎重に言葉を選ばなくても俺は怒りませんよ。言いたいことは分かってます。人語を介するかも分からない力を持った魔物の子が、堂々と街の中に住むことになる。さっさと処分するのが安心と言っても、残念ながら光の血を引いているのでそうも出来ない。…こうでしょう?」
「…悪意で語れば、その通りだ」
マイクは溜め息を溢して首を振りながら答えた。実際、リーベルのその見た目は魔物と言う他無く、いくら何でも光の勇者として民衆の支持を受けることは不可能と言わざるを得ない。おまけにリーベルは生殖機能を持っている様子が無いため、今後光の血を繋いでいけるかすらも疑わしい状況である。こうなると最悪の場合、本当に世界を救うまでクリスが責任を負い続けなければならない。
「…リーベルは、あの後どうなったんですか?私はずっとクリスティーネ様の傍についていたので何も聞いていないんですが…」
ふと気になって訊ねるとマイクはそれにも気落ちしたような萎んだ声で答える。
「城の一室に装備を整えた教員の監視付きで軟禁状態だな。…部屋の中をチョロチョロ動き回るらしく、監視する側は気が気でないようだが、まぁ本物の魔物とは違って敵対する存在でもないし無害には違いない。1人だけ自ら世話を買って出た奇特な女中がいてくれてな、食事を持ち込んだり部屋の掃除をしてくれたりするお蔭で監視の先生も仕事が減って助かっている。だからまぁ、現状ではそれほど悪い待遇を強いてはいないよ」
「それは、…何だか気の休まる話ですね。その女の人も、きっと正義感や思いやりの強い方なんでしょう。他の人々にもリーベルが容姿だけで否定されるようなことが無くなれば私は嬉しいんですが…」
マイクはきょとんと目を丸くし、それからフッと笑みを溢して、
「まぁ、そうだな。ただ誰もがお前みたいに優しくはなれないからな。結局は皆先入観で物事を決めるものだ。魔物の容姿をしていれば、多くの人にはそれは魔物でしかない」
その物言いは何処か寂しげだった。不意の静寂の後、俺はまた呟くようにしてもう1つの疑問を口にした。その問いにはすぐにマイクの答えが来た。
「…何でリーベルはあんな姿で生まれてきたんでしょうか」
「さぁな、はっきりとは分からない。しかし心当たり程度になら答えられる。クリスティーネが身籠るに至るまでの相手は、リードからツェデクスのメンバーまで全員が魔人だったという話だろう?魔人の闇の力が光の血に混入した結果あんな姿になった、という風に考えるのが今のところ一番しっくりくる。実際には過去に事例が無い上に、魔人同士でも生まれるのが普通の人間だからそれほど説得力は無い訳だがな」
イシュルビアの子供が普通の子だったのは俺自身が眼にしたことだ。だから出産に闇の力は関係ないと考えていた。しかし結果を見るに、無関係とは流石に言えないようだった。…これを見る限り、リードはこれを予見して行動していたのだろう。その手段はやはり魔人とクリスによる交配だったのだろうか。他に考えられるのは薬物の類いだが、薬物は魔人に効かないため、クリスにも効かないはずだ。だからこれは薬物に誘発された現象とは考え辛いし、もし薬物だとしてもリーベルの姿は単なる奇形児の域からも逸脱していて、この線は限り無く薄い。となれば結局魔人との交配が原因と考えるのが妥当だが、そうだとするならリードは何処でそれを知ったのか疑問が残る。過去のデータがある訳でもないのにこの現象を察知できるはずがない。本当に何もかも謎だった。
「ともかく、リーベルの今後の処遇について話したい。レムリアドからも意見を出してもらえると助かる」
マイクがそう告げて、俺への説明が終わり元の会議に戻っていったことを知る。その後は各々の意見が飛び交うが、結局確実なものは無かったため会議は翌日に持ち越すことになった。
その夜はクリスと過ごしたのとは別の部屋を用意された。眠る気になれず、ベッドに手枕で仰向けになったまま窓から青い夜空を眺めていた。自らが置かれる現実から必死に眼を反らすようにして夜空に集中するも、結局はクリスやリーベルのことが気掛かりで仕方無かった。
…こんな時にメーティスがいてくれたら、と心の底から願った。どうして今に限って彼女が出掛けているのかと、分かりきったことに腹を立てた。いつものように彼女の温もりに癒されれば、俺も少しは強くいられるだろうに…。
こんなことを考えてもしょうがないのは分かっていた。だからさっさと寝てしまえばいいものを、けれどクリスとリーベルを夢に見るのが恐ろしくて、俺はどうしても眠れずにいた。
ふと、遠くで女の悲鳴が聞こえた。いよいよ俺も参っているな、と苦笑していると、立て続けに男の悲鳴が響く。流石に幻聴とは思えなくなり、耳を済ませていると城中から忙しない足音が木霊す。次々に悲鳴が上がり、しかしその悲鳴は一瞬では済まない。悲鳴を上げたのなら、それが怪我であれ何であれ、要因が去れば悲鳴も収まるはずだ。しかし悲鳴を上げた者達は、今なお恐怖に曝されているように延々叫び続けている。…どうしたことか、悲鳴の中には俺がよく知る声も……エラルドやユーリの声も混じり始めた。
とうとう俺は飛び起きて廊下へと駆け出した。当然防具も武器も無い。しかし、そんなことに気を取られる場合では無かった。クリスを守ること、リーベルを守ることしか、その時の俺の頭には無かったのだ。




