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第81話 よごしたのはだれ

どろろが終わってしまいましたね。

いやぁ、良いアニメだった…けどその分喪失感がパない。

また新しい好きを見つけにいかなきゃ…。

 俺はクリスから記憶を受け取った。彼女が物心ついた頃にはアムラハンの子供達に蹂躙されていたことを初め、そんな中で経験した初恋の思い出や、その恋の悲しい行方、そして入学へと辿る流れまで、彼女の視点で眼にした出来事の全てが当時の感情と共に俺の中へ押し寄せた。また、その入学中にも俺が知らないクリスだけの時間というものがあり、俺は彼女の生活の全てを丸裸に暴いて眼にした。

 最初に感じたのは失望だった。彼女は女性とはいえ1人の人間、動物であり、多くの人が人目のつかない場所でこっそりと行うような生理的行為のことも記憶に含まれていた。図らずも俺は掘り下げるべきでない彼女のデリケートな本質まで暴いて目撃してしまい、そんなどうしようもないことに幻滅した。

 またそれに加え、彼女の行動の裏に隠れていた心の弱い部分が赤裸々に伝わった。リードとの交流の中で次第に俺への恋愛感情や元カレとなるファウドとの思い出への固執が薄まり、本心では『誰でもいいから助けて欲しい』と考えていた彼女は誘惑に敗けてリードに身を預けてしまったということも知った。そこには使命感や運命への諦めなど、彼女らしさとして俺が考えていたような思考も確かに介入していたが、結局その決断の根幹にあるのは普遍的な『弱い心』だった。彼女がリードと交わったのは、端的に言って近くの男に甘えたかったというだけなのだ。事実記憶の中の彼女はミファにさえその矛先を向けていたようだった。

 続いて感じたのは尊さだった。彼女には当然人として駄目な部分もあるが、同時に大切にすべき長所や思いやり、人生観というものがある。何より、俺自身や他の人間と比較すれば彼女の短所や汚点など人として当たり前のものでしかない。ツェデクスの手で辱しめられたことも、彼女がどう感じたにしても、俺の眼から見れば無理に誘発された汚点でしかなく、彼女自身の価値とは無関係と割り切っていい。俺と彼女とでは何も変わらず、本質的には上下などないのだということを悟らされた。そしてそれは同時に、彼女への失望を許す感覚でもあった。

 そうした感情が混ざり合い、最後に残ったのは深くもあり浅くもある屈折した愛情だった。それはきっと自己愛のようなものだと思う。彼女の記憶が俺の中の一部となり、それはつまり俺の中にクリスという人格が入り込むことでもある。クリスの記憶や感情と共に、自己愛と自己嫌悪も受け取って俺のものとなった、と言い換えても辻褄が合うだろう。ともかく俺は自分のことのように彼女を無条件で愛し、同時に嫌悪することとなった。

 とはいえ、現時点で彼女の記憶が俺を完全に侵食したかと言えばそうではない。彼女の記憶や感情と、俺自身のものとは別物だ。それらには大きな隔たりがあり、どうしても反発が生まれた。例えるなら皿の上に2つの飴玉が転がってぶつかっているようなものだ。ただその飴玉は皿の熱でほんのりと溶け始めていて、2つが触れ合う表面だけがじわじわと混ざり始めていた。

 俺が生きていく限り俺の感情だけが大きくなっていく。その内彼女の記憶は俺の中に溶け込んで、今感じているこの違和感も氷解することだろう。…だから俺は、早く彼女への失望と嫌悪がちゃんと消えてくれることを祈った。


「…おかしい」

 通院3日目となる3月22日、診察室にてカルテを一覧したシノアはそう首を捻った。診察台の上にお利口に横たわったクリスはぎゅーっと俺の手を掴んで離さず、しかしシノアに応答する気配も見せない。ただ口をモゴモゴさせて唾液を飲み下し、瞳一杯に涙を滲ませるばかりの彼女に代わり、「何か…?」とシノアに先を促した。クリスの体調は今日まで1時間置き程の速度で悪化の一途を辿り、エチケット袋が手放せなかった。今日の通院も見送ろうかと考えたが、通常の妊婦と比べても様子がおかしいので無理を押して連れてくることにした。流石にお姫様抱っこで街を歩くと人目を引いたので、明日からはシノアに自宅まで来てもらえると助かると告げると、ありがたくもシノアはすぐに了承した。

「胎内の変化が剰りにも目紛るしいんです。確かにセントマーカ家の女性は普通の人より妊娠の経過が早くなりますが、それでもこんなに早く進むはずがありません。『初日から昨日』の変化と比べても、『昨日から今日』の変化は明らかに早いんです。普通の何倍の速度だと言うような法則付けも出来ないような滅茶苦茶な変化です」

「…それは、クリスティーネ様にも何かまずい影響が出たりなどは…?」

「…今のところ何とも…ただ、経過が早いだけで赤ちゃんにも悪影響が出ている様子はありません。診察は今後も欠かせませんが、このまま順調に産まれてくることを願う限りです」

 シノアは明るめにそう告げたが、表情には懸念が残った。繰り返し健康状態に気を遣うようにと念を押して彼女は俺達をロビーまで見送りに出た。

「あ、母子手帳とかってどうなりますか?」

 ふと気になって受付の呼び出しまでの待ち時間に訊くと、シノアはきょとんとして答えた。

「まだ交付を受けられなくても…あぁ、でもこの様子だと早い方が良いかもしれませんね。念のため此方で届出書を発行するので明日にでもお役所で貰ってきてください」

「はい、それもですけど…、普通の人間じゃない俺達でも交付を受けられますか?」

「えっ?…それは、受けられますよ。当たり前に」

 それこそシノアは目を点にして答えた。…馬鹿なことを訊ねたな。刑法や墓理法などの法律に関して魔人が何かと冷遇される身分とはいえ、出産に関する制度など規定が追い付いていないはずがなかった。イシュルビアだって無事育児に励んでいるし、そもそも勇者達は魔人同様に異形と括られるとは言っても血筋が途絶えてはならない存在なのだから考慮されているに決まっている。…『迫害される存在』としての自覚がクリスの記憶に裏付けされて強烈になってしまっているのかもしれない。

「とりあえず、クリスティーネさんではなかなか難しいと思うので、レムリアドさんが代わりに受け取りに出向いてください。また困ったことがあればサポートに回りますから。明日は14時頃にお家まで伺います」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 お辞儀すると、シノアもそれにペコリと返す。クリスも俺の真似をするように此方を見つめたまま少しだけ頭を前に傾けた。そこへ受付が俺達を呼び出し、支払い諸々を済ませると玄関までシノアが見送りについてきた。今度こそまた一礼を交わし合って別れの挨拶に入る。

「クリスティーネさん、どうか気をしっかり持って身体を大事に過ごしてください。レムリアドさんも、やっぱりお顔が優れませんから休める時に休んでくださいね」

「シノアこそ。…いえ、先生も、お仕事続きで大変でしょうけど、どうか身体を壊さないように。では」

「はい、また明日」

 シノアに手を振られて病院を去り、真っ直ぐ家へと戻る。また注目を浴びると厄介なのでクリスには頑張って歩いてもらっているが、どうしてもその足は止まりがちになってしまう。クリスは両手で俺にしがみつき、覚束無い足取りで歩いては青い顔で喘ぐ。俺はいつでも彼女の粗相に対処出来るようにエチケット袋を彼女の前に持ち上げ、急かさないように応援して一歩一歩に合わせて進む。

 道程は遠く、やはり抱いて帰った方がいいかと思案する。おぶって腹を圧迫してしまうとクリスが辛いので、そうなると必然的に抱っこするしかない。横抱きでは咄嗟に袋を使わせてやれないので、片方の手に余裕を持たせた抱き方にした方がいいだろう。そうして考え込んでいる所に、「レムリアドくん!」と大声で呼びながら駆けてくる女性がいた。

 後ろから走ってきた彼女は振り向いた俺の顔を見て息を呑み、怯えたように立ち止まった。クリスは声に驚いて途端に震え出し、ぴったりと俺にくっついたまま後ろに隠れるようにしながら彼女を見つめていた。

「…サラさん、お久しぶりです。…1ヶ月ぶり、ですかね。あの時は何も言えず、裏切ったようになってしまって、不安にさせていたら申し訳ありません」

 笑って声を掛けるも、サラの怯えは拭えない。彼女は俺の肩を掴もうとするように両手を上げて1歩近寄るも、それが躊躇われる行為であるようにそれ以上は近づかなかった。

「…ど…どうしたの……その顔…真っ青で、死人みたい…」

 それはクリスとの夜の翌日から、シノアにもメーティスにも、ロベリアにも言われた感想だった。死人のような顔…それは、俺がクリスと再会した時に抱いたのと同じ感想だった。クリスの記憶と感情を手にした俺は、それらを無自覚の内に顔に出していたのだろう。本当はネガティブな感情を自分の奥に抑え込むのだって一苦労なのだ。懸命に『俺らしさ』にしがみついて生きているだけだ。俺までクリスのようになってしまっては誰がクリスを守るのかと、その一心で今までやって来ていた。

「それに、クリスさん…クリスティーネ様も……2人とも、一体何があったの!?」

 サラは動揺を隠さず声を大きくして問い掛けた。クリスはその声に驚き怯え、身体中を震わせながら必死に俺にしがみついた。

「はぅ…ぁっ…うぅぅ…ぅぅぅぅ!」

 ボロボロと涙を溢して発狂しているクリスを胸に抱き寄せ、「大丈夫…大丈夫さ、安心しろって」と宥めていると、彼女の内腿の触れる辺りがじわりと熱く濡れていくのを感じる。…帰ったら風呂に入って着替えないと、と抑揚も無く予定立てて、クリスが少し落ち着いてきてからサラを向いた。その間放置されていたサラは困惑したまま何も訊けずに俺達を眺めており、眼が合うと何処か気まずそうに俺の足下に眼を移した。

「すみません、怖がるので、出来れば大声は控えてもらえると…」

「あ、うん。…ごめん…けど、本当に…何があったの…?」

「説明してもいいんですけど、…アカデミーには行きましたか?」

「え、ううん。さっきやっと戻ってきたばかりだから」

「ならアカデミーに行って話を聞いた方が確かだと思います。俺も、クリスティーネ様の面倒を見るので忙しくて」

 サラは俺達の異様な空気に怯え、話にもあまり集中できていない様子で拳を握り震えを抑えていた。それでもこのまま俺達の事情に深入りするのは良くないと感じたのかコクコクと頷いていた。このまま彼女がアカデミーに向かうのを見送ればいいかと思ったが、気になることもあったので申し訳なくも俺は彼女を引き止めてしまった。

「…あれから、そちらはどうなりました?例の事件の処理とか、…ジャックとルイの処遇とかは…」

 サラは恐る恐ると答えた。『怖い』、『不気味』、『関わりたくない』という感情が彼女から押し寄せてくるようで悲しかった。…一時期はクリスの訓練をサポートしてくれていた彼女だが、言ってしまえば2人の関わりはそれっきり終わっていた。クリスの変貌は彼女が哀れむ領域を遥かに超えていたのだろう。

「……事件は、あの時点で判明したことをそのままアカデミーに報告したよ。あの後色々揉めたけど、結局私はレムリアドくんを信じることにした。…よくは分からないけど、クリスティーネ様のため、だったんでしょ?…脱走の件も、全部…。…だから、ポーランシャに残った皆がジャックくん達に下手に追及しないように私の方で説得とかしといた。あの2人も一緒にアムラハンに戻ってきてるよ。アカデミーで事情を聞いたら私から2人にも聞かせるね。…レムリアドくんは、会わない方がいいと思う。2人とも故郷に戻りたいって…誰とも会いたくないって言ってたから…」

「…そうですか。…ジャックとルイのことは、すみませんがよろしくお願いします。俺からは何も言ってやれないでしょうから」

「ううん、『心配してた』って伝えとく。…あぁ、あと、これ」

 サラはいそいそとポケットから取り出した物をピンと限界まで腕を伸ばして渡した。それはかつてリードが『お詫びのしるし』として渡し、それ以来常用してきた黒い腕時計だった。

「宿のゴミ箱に捨ててあって…これ、レムリアドくんのだったかなって思ったんだけど…違った?」

 サラは自信無さげに訊ねながら見上げるように瞳を覗いた。…彼女は仕事以外の場所であまり俺とは会わなかったせいか、腕時計にしか眼が行かなかったようだ。腕時計と一緒に、誕生日に貰ったベルトも捨ててきた。リードから渡されたものを手元に残していたくなかったのだ。

 元々、大会での敗北を機に周囲から距離を取られるようになってからは人からの貰い物は殆どを小物入れの袋にしまってバッグの奥に押し込んでいた。リードからの物を例外的に常用していたのは、袋にしまうことが敗けた記憶に蓋をするかのようで情けなかったからだ。リードの本性を知った時、俺は腕時計を着けていた自分に腹が立って仕方なかった。だからこれも捨てたはずだったのに、結局こうして手元に戻ってくるとは思わなかった。

「俺のでしたけど、もう要りません。良ければ捨てておいてもらえますか?」

「……そう…。…何か、ごめんね。つくづくと…」

「いいえ」

 サラは申し訳なさそう腕時計をポケットにしまい直すと遠慮気味にまた俺の顔を見つめた。自分でも表情に怒りが滲んでいるのが分かったが、サラは怯えるではなくただ申し訳なさそうにしていた。

「…えっと、じゃあ私、これで…」

「はい。お疲れ様です」

「う、うん…」

 サラはヒラヒラと小さく手を振って足早に去っていった。残された俺達はポツンと立ち尽くし、俺は未だに震えている彼女を優しく撫でた。

 …リードのことは決して許さない。レシナの時のような同情は湧かない。次に眼にしたら絶対に逃がしはしない。それは心に決めたことだ。…ただ、唯一解せないのは、リードもクリスの記憶を受け取ったはずだということだった。

 リードは彼女を言葉巧みに誘惑して手中に収め、その油断に付け込み誘拐した。そのために、時には俺の名を挙げて惑わし、時には周囲の人間を動かして追い詰め、ジリジリと這い寄るように身体の関係を結んだ。しかし、それまでの過程や思惑がどうあれ、俺と同様に彼女から記憶を受け取ったならリードも彼女に深く同情するに違いなかった。そこには奴の性格などは関係無い。クリスの記憶と自我が奴にとっても自分事になるのだから、クリスの痛みは嫌でも分かったはずだ。自分にとっての痛みになったはずだ。それでもなお目的のために心を圧し殺せたというのなら、それは並大抵の覚悟で成せる業ではない。リードがクリスのトラウマや自尊心の弱点を把握して周到に人間性を破壊した裏には、そうした強い信念があったことは疑いようがなかった。

 …リードを庇うつもりはない。殺す以上に非道な行いをした奴を許してはならない。ただ、リードも悪戯や安易な私利私欲のためにこんなことをしたのではないことは認めなければならなかった。

 もう濡れた足が冷たくなっていた。彼女の腕を引いて帰る間、…そういえばクリスに渡すこと無く捨てたネックレスの宝石はペリドットだったなと思い出した。何とも皮肉で、街灯を蹴飛ばしてやりたかった。


 クリスを風呂から上がらせて、時間は早いが寝間着に着替えて共に部屋に籠ることにした。ベッドに横になるクリスの手をしっかりと握って、本屋で適当に買っておいた姓氏語源事典を捲りながら話し掛けた。

「オリビアなんていいんじゃないか?オリーブの木から来てるんだけどさ、『優しさ』とか『平和の象徴』とかの意味があるんだってさ。縁起良いだろ?」

 サラとの邂逅で受けたショックから立ち直れないのか、クリスの反応は薄い。目も見えているのかいないのか分からないような細い開け方で、口も半開きのまま、視線は常に天井の一点に注がせる。しかし、俺の言葉に感じるものがあって、彼女は「…へいわ……」と枯れた声で呟いた。

「そう、平和だ。この子が大人になる頃には、きっと平和になってるさ。俺も父親としてやれることはやるし、クリスだってこの子のただ1人の母親だ。俺達の意志を継いで、きっと強くて優しい子になってくれる」

 クリスは無言で俺の言葉を聞き遂げた。そしてツーッと、彼女の頬を涙が伝う。彼女は表情を変えないまま、天井を見つめたままに、静かな謝罪をその子に送った。

「……ごめんな…さい…」

「謝ることはないさ。クリスがやることは済んだんだから」

 笑って慰めてやっても、彼女にそれは届かない。…この出産が終われば、クリスは勇者の使命から解放されることが決まっていた。彼女にはまた旅に出て戦い続ける力も心も残ってはいない。次の勇者に時代を託し、しかしまた長い月日を経て元の彼女に戻れたなら、その時こそ勇者として矢面に立って欲しいとアカデミーからはお願いされた。この話を聞かされて彼女が反応を示したことは無かったが、言葉ではない何かを通じて伝わっていたのだろうと思う。

 俺はまた事典を逆引きでペラペラと捲り、狙った単語が見つかると賑やかしに笑った。

「確かに『オリビア』は平和になってから名付けるべきだよな。…だったら、『リーベル』にしよう。名前の意味は『自由』だ。俺達の時のような過ちが起きないよう、自由に生きる意志を育んでやろう。どうだ?」

 目の前の彼女は答えない。しかし、俺の中に記憶と共に息づく彼女は微笑んだような気がした。俺はパタンと本を閉じて「よし、決まり!」と椅子から立ち上がった。本を椅子の座面に置き、ベッドに歩み寄って軽くしゃがむ。そうして目の前に近づいたクリスのお腹に手を添えて、お腹の子と、クリスの顔の交互に向けて笑い掛けた。

「俺達の子の名は、今日からリーベルだ!お務めが終わる分、今度は親としてしっかりやっていこうぜ!」

 クリスは当然答えない。不意に呟くことはあっても普通の受け答えは全くままならない。それでも、彼女の表情に僅かな笑みが差したのを俺は見逃さなかった。そしてまた、入浴前にバッグから引っ張ってきた物をポケットから取り出して彼女の枕元に置く。それはかつて、俺の誕生日に彼女が渡してくれた紫色のお守りだった。

「ペリドットのネックレスなんか買い戻さなくていいんだ。俺達には俺達の未来がある。…そうだろ、クリス」

 それは目の前のクリスに告げたのでも、彼女から受けた記憶に告げたのでもない。俺の目で見てきた、俺にとってのクリスに告げた。或いはそのクリスは俺の幻想でしかないかもしれないが、少なくともクリスがそうあろうと努めてきた姿であることは確かだ。俺は歯を食い縛って正しさを目指す彼女の姿勢に惚れたのだ。それが今の彼女から失われた魅力だとしても、それが彼女の中にあったことの気高さを忘れてはならない。

 全てを乗り越えた先に、俺が愛した彼女が待っている。今はただそれを信じ、彼女を支えていくだけだ。

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