第80話 よごれたあい
遅くなってしまい本当に申し訳ない。
過去に犯した罪は覆せない。お前が憎悪する醜い人々とお前は何も変わらない。世界がそう告げてきたように感じた。不意打ちのように現れた鮮明な罪の記憶が、際限無く俺を苛んでいた。
イシュルビアは懐かしそうに微笑んで歩いてきた。そこには俺への恨みなど無く、それが却って俺には恐ろしかった。かつての俺は彼女を自分のために利用して、必要でなくなるとあっさり捨ててしまったのだ。当時は別れるのが正しいと開き直っていたが、今思えば関係を持ってしまった時点で過ちだった。そして仕方が無かったとはいえ、その上でまた自分の都合で彼女を突き放したのは罪の上塗りに他ならなかった。俺は彼女に全面的に許しを乞うべき立場にある。
腕に抱く青髪の赤子はその身を包むおくるみに、ぷっくりとした桃色の頬やそこに挟まれるようにしてアヒルのように突き出した唇を下半分埋め、安らかに小さな寝息を立てている。それはまるで普通の赤子だった。
「お久し振りですね、レムリアド様。まさかこんなところで会えるなんて思ってもみませんでしたよ」
イシュルビアは赤子を抱き直して俺の前に立ち止まった。…抱き直す際、彼女が赤子の寝顔を愛しそうに見下ろしたので俺は戸惑った。その姿はとても幸せそうで、俺が抱く罪の意識や贖罪の気持ちなどは今の彼女にとって鬱陶しいものではないかと感じたのだ。
…そして、正直な所を言えば、今彼女が幸せであるなら俺の罪も少しは和らいで心が軽くなるのではないかと考えた。当時の4人の中で、最後まで別れに納得出来ないでいたのが彼女だ。他の3人は『俺に付き合ってくれた』という感じが強く、それに対して彼女だけが『俺に使われた』と言えるような依存の仕方を見せた。俺の罪は彼女に集中していると言っても過言ではなく、その彼女が俺の行いなどと無関係に幸せになれているのであれば俺も罪の意識を感じる必要は無かったということに出来る。それを俺は期待した。
「…俺も、驚いたよ。子供が出来たのか。おめでとう」
「あっ……ええ、ありがとうございます。マカナって名付けました。男の子ですよ」
「へぇ、マカナくんか…。可愛いな」
イシュルビアはマカナを軽く持ち上げて見せながらはにかんでいた。マカナは深く眠り、むずむずと動く唇の他は置物のようにじっとしている。…状況がどうあれ、赤子の寝姿というのは見ている内に心が穏やかになってくるものだ。俺がその子の顔を覗いて微笑んでいると「抱いてみますか?」とイシュルビアがマカナを差し出してきて、俺は苦笑いを返して首を振った。
「いや、怪我をさせたら怖いから…。その子、人間の子だろ?」
「はい、人間の子です。魔人同士の間で身籠っても、産まれてくる子は人間ですからね。今4ヶ月になるんですけど、なかなか首が座りきってくれなくてちょっと心配なんですよね」
彼女は聞いてもいないことまで言及する程度に、俺がマカナのことを訊ねるのを喜んでいるようだった。マカナがイシュルビアに望まれて産まれてきたことを確信でき、俺もまずは安心した。
「けど、子供を育てながら旅するのは大変だろ。…ずっとアムラハンにいるのか?それか、出産に合わせて病院や施設が充実してるこっちに戻ってきたとか?」
安心したから軽い気持ちで気になることを訊ねていた。イシュルビアも何でもない顔で頷いて赤子の腹を撫でながら答えた。
「ずっとアムラハンですよ。これからもアムラハンにいようかと思ってます。まぁ、事情が変わればダルパラグに移住も考えますけど」
ここに来てそれは違和感だった。移住と彼女は言った。…彼女はアムラハンに住んでいると言うのだ。彼女は旅をしていない。それが気に掛かると、途端に不安が色濃くなった。
「話すなら、公園とかで話しませんか?私も別に予定は無いですし。流石にここにずっと立っているのは…」
彼女の提案にはすぐに乗った。もっと詳しく事情を聞いて、この不安から完全に解き放たれたいと考えた。2人で横並びに公園へ歩き、子供達が視界の遠くで遊んでいるのを眺めながらベンチに座って話した。
「…そういえば、2人で会っていて良かったのか?男と一緒だと旦那さんに怒られるんじゃないか?」
「いいえ、夫はいません。誰との子かも分かりませんし」
そうして、早々に俺の不安は具体化した。ひやりとして肝が縮み、しかしそんな俺と対称的にイシュルビアは冗談を言うようにカラカラと笑っていた。それが開き直った絶望から来る笑い声でないとも言い切れないので、俺は内心怖々で訊いた。
「…何があったんだ?仲間達は何も言わないのか?」
「仲間は私を残してダルパラグに旅立ちました。3人ともから堕ろせと言われたんですが、私はちゃんと産んで育てたかったんです。…まぁそうじゃなくても、臍の緒で繋がってる限りは胎児にもHP作用が働きますから、堕胎というより産んで殺す形になるので嫌だったんです。そうなると当然、人間の子がいると旅がし辛いということになって、私はパーティを外されたんですよ」
「そんな薄情な…。…けど、どうして子供が出来たんだ?口振りからして、彼氏との子とかって訳じゃないんだろ?」
あはは、とイシュルビアは肩を竦めて困ったように笑い、どこか申し訳なさそうに俯いた。約束を破った子供のようなおずおずとした態度で静かに答え始めた。…その瞬間に嫌な予感がした。もしかすると、俺は心の何処かでこれを予期し、恐れていたのかもしれない。
「…そうですね。私、レムリアド様との関係が終わってから暫くは、勉強やら色々頑張ろうとしてました。けど女友達からは全員に見限られていましたから、やっぱり寂しく、辛くなって、そんな時にレムリアド様との噂を聞き付けた男が言い寄ってきたので耐えられず身体を許したんです。だけどその人は乱暴な上に自己中心的で、全然心が満たされませんでした。またレムリアド様と同じような関係を結べる相手を探して、それからなし崩しに何人もの男と寝たんです。仲間になった3人は、その中でもまだ丁寧に扱ってくれた人達です。アムラハンを拠点に資金を貯めながら、私は毎夜3人を慰めて過ごしました。そうしている内に出来たのがこの子です。責めを負うのは私ですけど、あまり褒められた出生ではありません」
彼女は言い方こそ『ちょっとした失敗』のように取り繕っていたが、微笑みながら告げてマカナを見つめるその眼差しは悲哀や謝意に満ちている。俺は彼女の瞳に心を奪われ、暫く放心していた。そこへ薄紙を剥ぐように激しい悔恨が顔を覗かせ、思わず彼女の前に跪いていた。額を地に擦らせ、腹の底から謝罪を吐き出していた。
「すまない!俺のせいだっ!…お、俺が君に、あんなことをしなければ…!ああしなければ、君に不要な重荷は背負わせなかったのに…!」
イシュルビアは叫ぶ俺を前にして呼吸を忘れたように息を止めていた。辺り一面が凍てついたような静けさに、遠くの子供達まで驚かせてしまったのが伺えた。一時の静黙の中、目を覚ましたマカナが咳を吐くようにぐずり始め、そのまま泣き出してしまった。
俺は焦り過ぎて気が動転していたのだろう。自分の大声のせいで泣いてしまったマカナを鎮めなければならないと思い、すぐに顔を上げて両手を伸ばしたものの、どうすればいいのか分からずわたわたとしていた。目を丸くしていたイシュルビアは俺の様子をポカンと眺めると、不意に吹き出してカラカラと笑い出していた。
その光景に混乱した俺に「ごめんなさい、笑って」と首を振り、イシュルビアは身体を揺すってマカナをあやしつける。マカナの泣き声が少しずつ安らいでいき、再びウトウトし始めた所で、イシュルビアはゆらゆらとマカナを揺すりながら俺に笑い掛けてきた。
「謝らなくて大丈夫です。マカナも言ってるでしょう?『謝らないで』って」
「け、けど…」
「あなたとの出会いだけが私の道を決めた訳じゃありません。前にも話した通り、私は親の期待に応えようと躍起になって自分を追い込み、大会であなたに敗けて自信を失い、それからあなたに依存しました。あなたに会う前から私はたくさん悩んでいて、それらが全部繋がって現状を作り出したんです。だから原因と言うなら、あなたとの出会いだけじゃなくいろんな人との関わりが原因です。もっと言うなら『私自身』と『私を中心にした世界』のせいとも言えます。…だから、レムリアド様1人が私に謝る必要なんて無いですよ」
イシュルビアの微笑みは温かく強かった。マカナがまたくてんと眠りにつくと、イシュルビアはそっとマカナを抱き直してベンチに背凭れた。未だ膝をついていた俺に手を差し伸べて、イシュルビアは更に続ける。その視線は俺を誘うようにマカナに向けられた。
「それに、私は今をそれほど悪くは思ってません。この子に会えて素直に嬉しいんです。この子、私と眼が合うとニコニコ笑うんです。私が鼻歌を歌ってると脚をパタパタ動かすんです。普段会わない人に抱っこされると、泣かないんですけど、口をへの字みたいにしてその人をガン見したりして…。最近だと『あー、うー』って、一生懸命話し掛けてくれるんです。他の道を辿ったらマカナに出会うことは出来ません」
俺もマカナを見つめていると、イシュルビアは伸ばしていた腕を引っ込め、ポトポトとベンチを叩いて笑う。俺はおずおずと立って、悩みながらも彼女の横に座り直す。彼女は俺に頷いてみせるとマカナの頬に指先を添えて慈しんだ。
「でも確かに最初は、やっぱり前向きではありませんでしたね。自分の軽率で命が産まれてしまったから。…お腹にいた頃は名前を決めかねていたんです。私なんかが名付けていいのかな、って。…でも、産まれてきたこの子を抱いて、指を握ってくれた時、この子には私しかいないんだって思ったんです。私が親になったんだって、この子が親になる日まで繋いでいくんだって」
「…けど、それは大変だろ…。……仕事は?仕事は、ちゃんとあるのか?魔人の身体じゃ普通の職種には就かせてもらえないだろ?…どう、してるんだ?」
「そうですね、長期間街を離れたりが出来ないので、討伐軍の仕事は無理です。普通の商売も、例え法で許されたとしても胡散臭くて客が付きませんしね。……だから、まぁ、あまり誇れる仕事じゃないですけど、こそこそ裏道でお花売りです。妊娠するようなことはしませんけど、それでも人には言えませんね。魔人の娼婦なんて何処に行ってもいないから需要はあるらしくて、一応繁盛してます。一般人にバレないようにという条件でアカデミーも公認してくれてますし、幸い私は大して抵抗無くやってしまえるので。…マカナが物心つく頃にはちゃんと脚を洗えるように、十数年働かずに暮らせるお金を今から頑張って貯めていきます。……魔人は納税義務が無くて貯金が楽しいですねっ」
イシュルビアの言葉はいちいち底抜けに明るい。その様子は『謝らないでくださいね』と念を押すかのように見えた。…俺も彼女に偉そうなことを言えた人間ではない。しかし、彼女の選択はきっと報われないのだろうと予感があって、何も言わずにはいられなかった。
「…マカナには、いつか出生の経緯を話すつもりです。今私がしている仕事のことも」
イシュルビアは俺が口を出す前に宣言していた。今度の言葉は決して明るくはなく、重々しく放たれた。だからこそ、図々しく俺も口を開けたのだろう。
「…俺のことも、名指しで話していい。君だけが恨まれるのは筋違いだ。身を売っても女手一つで育てた君をこの子が責めるとは限らないが、もしそうなってしまっては俺の収まりがつかない。責められるなら俺だ」
「これは私がしたことです。私が悩んで、迷って、間違えながら踠いて進んできた結果です。正しい正しくないは関係無く、これが私の道なんです。あなたは私の人生にとってほんの一部でしかない。だからこれは、私に背負わせて欲しいんです」
「…けど、それじゃあ君はどうなる?感情が昂ると理屈が見えなくなるのが人間だ。その子がどんなに優しく育ったとしても、君を許せるとは分からない。寧ろその子が真っ直ぐに育てば、それだけ君を憎み得るんだぞ」
「そうなったらそれは、マカナが世間を分かってしっかり間違いを理解するようになった証です。それは喜ぶべきことだと思います。胸を張って送り出せます。…確かに、マカナが私から離れていったら寂しくはなると思います。でも、元々親子ってそうあるべきですよ。いつまでも傍にはいられません。私の事情はともかく、それだけは肝に命じておくことです」
イシュルビアは弱音一つ無く言い切ってみせた。学生時代に見た弱々しい彼女からは想像もつかなかったように大人びていた。きっと、マカナが彼女を強くしてくれたのだろう。そう思うと、彼女の言葉に妙に納得してきて俺は知らず知らず微笑んでいた。
「…強くなったんだな、イシュルビア」
「『お母さん』ですからね」
笑い返したイシュルビアに、俺も一緒になって笑う。ふとマカナがまた目を覚まし、イシュルビアはハッと顔を上げて公園の設置時計を見上げた。その内夕方に差し掛かるということで、立ち上がり正面を此方に向けたイシュルビアに俺も立って身体を向けた。
「そろそろ失礼させてもらいます。家のことをしたいので」
「ああ、引き止めて悪い。いろいろ頑張ってくれ。俺も、また会えば声を掛ける」
「はい、ありがとうございます。ほらマカナ、お兄ちゃんにバイバイ~って」
視線を集めたマカナは不思議そうな顔でじっと俺を見つめて動かない。バイバイしてくれるのかなと少し期待してマカナに笑い返していたが、変わらずそうして不思議そうにしている。イシュルビアと顔を合わせて互いに吹き出して、「じゃあ」と手を振り合い今度こそ別れる。俺は彼女が公園の敷地内を去るまでずっと手を振って見送っていた。
「ただいま、クリス」
大人しいノックでドアを開け、部屋に入りながら声を掛けると俺に代わって面倒を見てくれていたメーティスが浮かない顔のまま歩いてきた。
「…レム、ごめん」
「いいよ、代わる。休んでこい」
「うん…」
短くやり取りを済ませてメーティスは部屋を出ていき、以降の世話を俺が引き受ける。ベッドの横の椅子に腰を落ち着けても、クリスは投げ出した脚にシーツを掛けてベッドに座ったまま反応を示さなかった。
俺は努めて明るくクリスに話し掛け続ける。イシュルビアとマカナから貰った元気と勇気に、俺は自らの役目で応えることにしたのだ。
「シノアから聞いたよ、赤ちゃんが産まれてくるんだろ?一緒に育てていこうぜ!俺達の子としてさ!」
クリスはすーっとゆっくり首を回してその眼を俺に向けた。やはり表情らしいものは無く、真意は読み取れなかったが、反応が返ってきたのは思わぬ希望だった。俺は少し狼狽えながらもまた笑って続けた。
「折角生まれてきてくれた命なんだ。『誰の子か』とか『倫理』とか、煩わしいのは放っといて、俺達で新しい命を育てていこう。今はそれだけの気持ちでいいと思うんだよ」
「…りーどさまとのこよ」
やっとまた話してくれたクリスだが、その口調は虚ろだった。一度は明確に退行し、言動も限りなく幼くなった彼女だったが、今はまた言葉に元の彼女の面影を感じた。妊娠という強烈な現実に『逃避など無意味』と思い知らされたかのような変化だと気付いたが、今はそんなことはいい。
「構わねぇさ。愛さえあればウチの子だ。俺も養子の身の上なんでね、そこら辺は割り切ってやれる」
俺が答えると、クリスは重力に敗けるようにして顔を俯かせ膝を見下ろす。俺は椅子を引いてベッドに近寄ってから、また元気付けるように笑い掛けた。
「赤ちゃんと言ってもピンと来ないなら、いっそのこともう名前を決めちまおう。2人で名前で呼んでればその内実感湧いてくるさ、俺達の子だって。…ま、俺ネーミングセンス皆無だけどさ」
うーん、とわざとらしく腕を組み、おちゃらけている俺にクリスは反応を示さず俯いている。やはり文学に疎い俺には特にこれと言ったワードを導き出せず、名付けは予想通り困窮を極めていく。
そこへポソリとクリスが呟き、「うん?」と聞き返すと今度ははっきりとそれを告げた。口調がはっきりしていたので喜んだが、しかしそれは名前の提案などではなかった。
「わたしをだいて」
俺は呆気に取られ返事を忘れていた。その間の胸中では、お腹の子への負担は無いか、何か無理をしてはいないかと、彼女との行為を避けるような思考が巡らされていた。かつて交わした約束が胸の隅で引っ掛かり、内心では僅かにも抵抗を感じたのかもしれない。…もしくは、愛する人に向けるべきでない、自分でも認めたくないこの不当な嫌悪感が故か…。
「…どうしてだ?」
「…わたしのきおく…あげるわ…あなたに」
「記憶…?……悪い、意味がよく…」
「わたしのこと…ぜんぶおしえる…かくしごとはしたくないから…」
ここ最近の様子から見れば会話は大きく改善しているが、それでも彼女の言葉は俺への返答としては的を射ていなかった。根気よく耳を傾けなければならない現状を苛立たしく思うこともあるが、それを彼女に向けてはならない。彼女を悪く思わないようにと気を張らなければならないことを俺は悲しく思った。
結局静かに聞いていても、彼女の口から納得のいく細かい説明は無く、ただ『隠し事はしたくない』、『ちゃんと全てを見た上で自分を断罪して欲しい』という要求を告げられるだけだった。此方で汲み取るに、その『行為』が『記憶の共鳴』の儀式となるということだろう。勇者の末裔という特殊な事情を持つ彼女のこととなれば、それを夢物語と考えるのは逆にお門違いだろう。仮にそれが彼女の妄想でしかなくとも、彼女が俺に抱かれることを望むなら俺はそれに応えるだけだ。
…彼女が言うことが真実ならば、彼女にとってそれはただの『行為』ではない。それこそ自分を何よりも鮮明に表現し、愛する人に全てを捧げるための契約的な作法に他ならない。その行為こそ彼女にとっては愛そのものだったのだろう。…詳しく事情を訊いた訳ではないが、彼女はそんな大切な行為をリードに捧げなければならず、挙げ句悪意ある大勢の男達にまで捧げてしまった。それはきっと彼女にとって凄惨な自己否定だったに違いない。
「…受け取るよ、君の記憶を。代わりに、俺からは精一杯優しい夜をあげよう。嫌なことなんて全部忘れるように、どこまでも君を大事にしよう」
「…ありがとう…」
クリスはやっと微笑み返してくれた。変化を見届けなければ気付けない程にささやかな微笑。…この弱々しく小さな笑顔を彼女に生み出すために、俺は果てしない努力を繰り返さなければならない。…いつかはその先に、俺が愛した彼女の笑顔が戻ると信じて。
俺は今も彼女を愛している。…愛して、信じなければならない。これはそのための契約なのだと、意を決し彼女の頬に唇を押し当てた。




