表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/116

第6話 ありふれた遠吠え

 トレーニング勝負が空中分解し、俺もメーティスも体調を戻したその翌週、俺はクラスメイト達に避けられていた。

 …理由はまぁ分かる。授業日初めに先走って誰彼構わず女子に声を掛けたり、メーティスを悪く言っていた女子達に喧嘩を売ってしまったり、組み手では端から見たらセコいような戦法でクリスを負かしたり、そうして悪印象がピークに達していた所でリードとの組み手に敗北したのだ。バッチリいじめの対象に入ってしまいました。

 今もわざわざ俺の席の背後に来た女子数名が聞こえるように俺を馬鹿にし、俺が振り向くか、少しでも顔が向きそうになると彼女らは知らん顔をするのだ。

 …まぁ、自業自得な部分も無いでもない…というか、多分大いにあるというのがやるせない所だ。せめてあのナンパ紛いの交流さえ無かったらこうはならなかったと思うが、今更どうしようも無い。

「レム、お昼だよっ。ごはんごはん!」

 メーティスがどこか嬉しそうにしているクリスを連れて俺に駆け寄って誘うと、傍にいた女子の群れはせかせかと霧散していった。俺は先の授業で配られた武器鑑識標準表の束を机に押し込んで立ち上がると、出来るだけ角が立たないように軽く笑いながら、

「わりぃ!今日ちょっと先約があるんだ!しばらくは2人で食べててくれ!すまん!」

 両手を合わせて謝り、素早くその場を離脱して廊下に出た。教室を出る前に少し振り返ると、クリスはポカンと目を丸くし、メーティスは神妙に俺を見つめていた。

 …ほとぼりが冷めるまでは2人と距離を取って静かにしとくしか無いだろう。部屋では普通に話せるし、そう辛くはないと思う。


「…いやぁ、まさか入学して1週間でこれとはなぁ…はは…」

 流石に笑うしかなくなって、学校を抜け出して買ってきたフランクフルトに囓りつきながら直上を見つめた。校舎裏だけあって日陰が涼しいのだが、屋根まで届いた枝葉が邪魔で青空を仰げない。風が吹く度にざわざわと靡いた木々が一層寒々しい。腰掛けた冷えた石段も相まって侘しさが鼓膜を叩くようだった。

「…幸いだったのは、メーティスへの悪口が完全に無くなったくらいか。…あの時出しゃばらなきゃ良かったのにな。俺が何かしなくても、メーティスなら1人で皆の誤解を解けただろうに…」

 …裏山の森の奥に人影を見たような気になって、独り言ちて気を紛らわせた。誰かが答えてくれる訳でもなく、声は風に拐われて森が嗤うばかりだった。

 フランクフルトを食べ終わり、飲み物を買っておくんだったと後悔しながら石段に横たわる。目を瞑ると風が心地いい。このまま夕方まで此処に居ようかと息をついていると、じゃり…とおどおどした足音が聞こえて右を向いた。

 見ると、校舎から飛び出したロベリアが可哀想なものを見るような眼で俺を見下ろしていた。眼を合わせていると、ロベリアは引かれるように恐る恐る歩み寄り、スカートを押さえて俺の傍に立ち止まった。

 まっすぐに見下ろしているロベリアは何か言いたげだが、言葉が出る気配が無かったので俺から笑い掛けた。

「どうした?今はあんま俺に近寄らない方がいいぞ?…分かってるよな?」

「…うん」

 ロベリアは短く静かに頷くだけで、立ち去ろうとはしなかった。…俺も寂しかったからだろうか、ロベリアを無理に追い払うような真似はしたくなかった。

「…何か用か?…用が無いなら、多分教室に帰った方がいいと思うぞ。お前が標的になるかもしれないし」

「…別に、それでもいいけど…。レムリアドくんが、普通に過ごせるなら…。……私、どうせ友達少ないんだし…」

 互いに黙り込むと、また風が強くなる。ロベリアはぎゅっとスカートを両手で握って俯き、俺は顔を反らして去るも留まるもロベリアに任せていた。…ふと、ロベリアは風に消え入りそうな小さな声で、

「…ねぇ、レムリアドくん。…何だったら、私と…」

 そっぽを向いたままその先を待ったが、ロベリアの口は閉ざされていた。痺れを切らして振り向くと、ロベリアは沈んだ表情のまま、「ごめん、何でもないよ」と告げて走り去っていった。…何だったのだろうか。


 ロベリアが去っておそらく10分も経っていない内に、校舎裏へ再び来客があった。ただ、今度は知り合いではない。黒い長髪の背が高い男子と、赤髪で悪ガキっぽい背の低い男子が並んで俺に向かって歩いてくる。

 その2人の好奇心に似た食い入るような眼に、俺は少し警戒して身体を起こし待ち構えた。2人は俺が顔を向けると、やぁ、と気さくに手を上げて話し掛けてきた。…喧嘩でも売られるのかと思っていたが、そうでもないようだ。

 彼らは俺の前で立ち止まり、悪ガキは開口一番に、

「なぁ、お前ってクリスティーネとメーティスの部屋だよな?」

 ニッと笑ってそう訊ねていた。…どういうつもりだろうかと訝しがりながら立ち上がると、黒髪の奴が「自己紹介くらいしろよ…」と赤髪の奴を呆れた顔で窘め、続いて俺に笑い掛けた。

「悪いな、いきなりで。…俺、ルイ・ネーロ。それと、こっちの変なのがジャック・カーマインだ。レムリアド、でいいんだよな?同じクラスだけど、覚えてるか?」

 同級生だったらしい。…俺ってほんと女子以外のクラスメイト覚えてないんだな。今後は改めよう。

 一応此方からも自己紹介はしておいた方がいいと思い、ルイに右手を差し出しながら口を開いた。

「悪い、てんで周り見てねぇもんだから…。レムリアド・ベルフラントだ。よろしくな」

「あぁ、よろしく」

 そうして穏やかに握手で親交を結んだ俺達に割り込んだジャックは、相も変わらず(あるいは一途に)、

「それよりさ、あの2人と一緒の部屋なんだよな!?俺達に紹介してくれよ!頼むよ!」

「ジャック、お前もうちょっと礼儀を知るべきだぞ」

 ジャックに対し冷ややかに告げるルイの様子を見るに、この2人はそうとう仲がいいらしい。…接する態度に悪い感じも無かったので、一先ず俺の中で警戒は解けていた。

 無言で顔を寄せ、目を輝かせて鼻息を荒くしているジャックに、身を引いて面倒に思いつつも話してやることにした。…その前に近いので押し離しておく。

「紹介って何だよ?話すきっかけでも作ればいいのか?…つっても、メーティスは普通に話し掛ければ相手してくれると思うが…」

「話し掛けられるんなら苦労しねぇよ!きっかけ作ってくれ!マジで頼むって!」

 ジャックは両肩を掴んで顔を寄せようとし、対して俺はその両手を剥がそうと躍起になって力比べを始めていた。

「金か!?それとも飯か!?何をやれば引き受けてくれるんだ!?何でもするからお願いしますよレムの兄貴~!」

 ジャックは力んだ愛想笑いのような顔をして必死に懇願し、俺は暑苦しいのでその額を押して対抗する。

「いい加減にしろ!」

 ルイの手刀が脳天を打ち、ジャックは呻きながら頭を抱えてその場にしゃがみ込む。俺はそうしてふざけるジャックと、代わりに謝っているルイとを見比べながら制服の襟を正し、先に伝えておくはずだったそれを思い出して思わず俯いていた。

「…協力してもいいけどさ、とりあえず今はやめといた方がいいと思う。…俺に関わったら、今度はお前らが標的になるかもだしさ」

「知るかそんなもん!どうせ腹が黒い女子共が勝手に悪口言ってるとかだろ!?一刻も早くメーティスとお近づきしたいんだよこっちは!そっちが最優先だ!」

 ジャックの乱雑な一言に、当然俺は目を見張り、気が軽くなって思わず吹き出していた。腹を抱えて笑っている俺を2人は不思議そうに見つめ、俺は息が整うと「いやぁ、わりぃ」と首を振ってから答えた。

「いいぜ。2人と話す機会、すぐ作ってやるよ」

「おっ、マジか!よっしゃぁ!セッティングよろしく!」

 ジャックはガッツポーズで喜びを噛み締め、ルイは「ありがとう」と笑っていた。…ふとジャックの発言を思い返し、『俺達』に紹介してくれと言っていたのを思い出した。

「…確認するけど、ジャックはどっちと、ルイはどっちと話したいんだ?ジャックが両方と話したいって訳じゃないだろ?」

 ルイは照れ臭そうに頭を掻いて眼を逸らすと、誤魔化すような半笑いのまま頷いた。

「えーっとな、…俺がクリスティーネさんと、ジャックはメーティスさんと話したいんだそうだ。…だから、上手いことやってもらえると助かるんだけど」

「おー、なるほど。了解了解」

 高身長のくせして頬を赤らめて恥ずかしがっているルイは好印象だが、その横で「っしゃぁ、メーティスゲットだぜー!」と騒いでいるジャックは共感と同時に敵意に似た感覚を覚えた。…こいつにメーティスを紹介するのは何だか惜しい気がするのだが、とはいえ、元気付けてもらったし、悪い奴ではないと云うのが分かってしまったので撤回する気も無かった。

 ふと、ジャックが平静に還って校舎を向き、

「そろそろ体操着取りに行かなきゃヤバくねぇか?戻ろうぜ」

 その一言で教室に帰った。これからはこいつらと一緒に過ごそう、と少し前向きになれた。


 教室に近づいてくると、廊下に居ても聞こえるような怒声を誰かが上げているのに気づく。何だろうかと左右の2人と顔を合わせて、よく耳を傾けながら歩いていると、それはメーティスの声だと云うのが明確になっていった。

「何でそんな酷いことするの!?どうして誰かを敵にしないと仲良くなれないの!?意味が分からないよ!」

 メーティスの大声に返事は無く、教室はシンと静まっていた。入り辛い空気を感じ、教室の引き戸の前で立ち止まると、流石にジャックとルイも取っ手を掴みあぐねていた。

「これからもこんなことするんなら、私もう誰とも仲良くしたくない!」

「…い、いや、ね?…メーティスちゃんにも、ほら、問題とかあったと思うんだ…。…ね?…だから、お互い様っていうか…」

「私のことはもういいの!今怒ってるのはレムのことだよ!私の態度が気に入らないから、それを話題に友達を作ってたっていうのは百歩譲って納得することにしたよ…。でも、私の悪口が言えなくなったから今度はレムの悪口を言ってた?…それはまったく理解できないよ!」

 普段のぽわぽわしたメーティスからは想像もつかないような敵意剥き出しの怒鳴り声が、教室を震わせて俺達までも突き刺すようだった。反論していた女子生徒も、その声音に涙目で黙り込む。

 そっとドアを少し開けて隙間から覗いて見ると、シュンとした女子生徒らを前にメーティスが唸るように激怒し、その横に並ぶクリスは殺意すら感じる冷たい眼で全員を睨み据えて溜め息を溢していた。そしてその2人の背後には、おろおろと戸惑いながらも傍観しているロベリアの姿がある。どうやら、ロベリアが2人に俺の状況を報告したらしい。

 その威圧感に俺達まで冷や汗を掻いて唾を飲み、メーティスは立ち替わって食い縛るような静かな声音でポタポタと呟いていく。もはや怒りを越えて嘆いているように見えた。

「…レムがいつ、悪いことしたって言うの?…どうして普通に仲良くできないの?…どうして誰かを突き落とさないと安心できないの?…みんなそうなの?…ホントに、わかんないよ…」

 教室が凍てついた空気に包まれ、誰も彼もが身動き一つ取れなくなっている。俺達も同様だったが、不意に他教室に集まってきた足音に、いい加減体育館に向かわなくてはならないと悟る。

 意を決してドアを開け放ち、一斉に振り返った視線を浴びながらギクシャクと席に向かうと、クリスとメーティスが俺の傍まで駆け寄ってキッと全員を睨む。さっさと体操着袋を持って立ち去りたかったが、2人を差し置いてそうするのは許されていない気がしていた。…因みに、ジャックとルイは俺の入室と共にドアの後ろに隠れた。はぁーほんまクッソ。

 メーティスは俺の左腕に抱き着き、クリスもぎゅっと俺の右腕の袖を摘まんだ。メーティスは声を張り上げ、生徒は皆、気まずそうに顔を伏せて黙り込んでいた。

「次、誰かがレムを悪く言ったら、私絶対許さないから!もうやめてよ、こんなこと!」

 直後、それまで沈黙を保っていたクリスも恐ろしく低い声で告げた。その眼には殺意じみた凄味があり、擁護されている俺ですら恐ろしい程だ。

「次は無いわ」

 メーティスの胸の中をぶちまけるような声に比べ、クリスの声は剰りにも小さく、剰りにも短い。しかし、辛酸の回想が伴ったと直感される程に怨みの籠ったそれは、生徒らを恐怖させるには十分だった。全員息を殺して肩を跳ねさせ、瞬き一つしない。

 しかし、そこに折良く訪れたマイクが、

「おーい、そろそろ着替え始めなきゃ間に合わんぞ。急げよー」

 とドアを軽く開けて告げて行き、それと同時に男子生徒から先に逃げるように体育館へと歩み出ていく。

 誰もクリスとメーティスに明確な返事をしないまま、我先にと消えていく。2人は不満げだが、これ以上ここに留まるわけにも行かず自分の体操着を持って俺を体育館に連れて歩き出した。…俺的にはホッとした。


 2、3人の女子からの謝罪を受け、クラスメイトから俺への接触が完全に絶たれて数日後(と言うより怖がられてる)、例の約束を実行に移した。この数日でいじめの終わりを確信し、今日からはまたクリス達と共に給食を摂ることになっていたのだ。

 そこへ俺からの提案で、5人用テーブルを取ってジャックとルイも交えようと取り決め、今まさにガッチガチに緊張した男2人を気遣いながらお見合いの真似のようなことをしている。月曜日のことでジャック達がクリス達を恐れやしないかと考えたが、寧ろクラスを敵に回して俺を庇った行為に素直に感激していたらしい。

 俺から右へ、ジャック、メーティス、クリス、ルイと1周する並びとなっているので、両ペアとも隣り合って話し、すぐに俺も助け船を出せる配置である。

 先日2人には敢えて正直に、『話したがってる男子がいるから話してやれ』と告げてある。メーティスはその時からソワソワと落ち着かず、今もジャックを前にほんのり顔を赤くしているが、対してクリスは無関心と言うのか、変に大人びた微笑みを湛えてルイの相手をしていた。

「あー…なぁなぁ、メーティスってさ、好きな食べ物って何?」

「えっ…えっ…えっと、そのぅ…うーん、…タ、タルト?かな?…ジャック…くんは?」

「俺はやっぱ肉じゃがだな!濃い目の味付けだとなお良し!メーティスって料理できるか?」

「ま…まぁ、ちょっとなら…」

 ジャックは緊張と焦りから早口になり、色々とすっ飛ばして手料理にありつこうとしている。メーティスもメーティスで恋愛込みの男性経験には疎いのか、ひたすら一方的なジャックに合わせ続けている。…まぁ、口を出す程のことは無い。

 ジャックに比べればルイは落ち着いて話せるものと思ったが、

「…えっと…す、好きな食べ物は…?」

「そうね、アボカドとかは好きよ。…料理も一応、最低限は心得ているつもりだけれど」

「…あ、そ、そうなんだ……」

 この通り、ジャックと同じ質問をしては会話を終わらせてしまっている。これではジャック以上に可能性が薄い。何なら、クリスは子供の相手をしているかのような接し方をしていてまともにルイを男と見ていないらしかった。…常識があるのはルイの方だが、勢いがあるジャックの方がこうした場面では前へ前へと進んでいけるようだ。

 …見ていて、剰りにもルイとクリスの会話が続かないので放っておけなくなる。ふと、俺から気になったことをクリスに訊ねることにした。ルイがそこから上手く話題を作ってくれるといいのだが…。

「あのさ、クリス、お前友達は俺とメーティスが初めてだって言ってたよな?」

「え?…えっと、そうね」

 クリスは眼を逸らして照れているが、俺の懐疑の表情に気づいてすぐ不思議そうに首を傾げた。

「その割にはルイと話してても落ち着き払ってるのな」

「そう?…でも、確かに緊張は特にしていないけど」

「ただの勘なんだが、お前、…友達はいなくても彼氏はいたことあるんじゃないか?」

 きょとん、と目を丸くしたクリスはゆっくりとそれに頷き、ルイはその返答に目を見張って固まっている。メーティスの視線も意外そうにクリスを向き、ジャックも釣られて見て黙り込んでいた。

「何でわかったの?」

「何でってお前…まぁ、いいや。今は誰かと付き合ってたりとか無いよな?」

「ええ、今は…。…でも、恋愛する気力はあまりないわね」

 …ここですっぱり宣言させたのは後々のことを考えれば正解だったであろう。それか、先に訊いてルイに報告してやっていればよかったのかもしれない。

 唐突に過酷な現実に襲われてルイは口から魂が出そうに放心しているが、これを知らないまま行けば間違いなくアプローチをミスするはずだ(彼女がいたことがない奴の供述)。やはり知っておくに越したことは無かったと思う。

「メーティスは彼氏いたことあるのか?」

 予想通りだが、触発されたジャックは小細工無しにそう訊ねていた。メーティスはジャックから好意を受けていることを意識してか、単なる羞恥心からか、一層赤面してブンブン首を振った。

「い、いない!いないよ!いたことないっ!」

「そうか!」

 グッとジャックはテーブルの下でガッツポーズを取り、ルイは何とか正気に還って必死に話題を探し始める。…そろそろ俺はいなくなって大丈夫そうだな、と感じて立ち上がると、同時に、

「レムは?」

 メーティスが俺を見上げてポツリと訊ねた。探るような、やもすると小動物的な上目の視線に、心臓が大きく跳ねて勘違いを起こしかけた。

「彼女がいたかってことか?…残念ながら無いぞ」

「…そうなんだ」

 メーティスはコクコクと何か納得するように頷いて、またそれきりジャックと話し始めた。何となくその場に留まったが、クリスもメーティスも俺を引き止める様子が無いのでそれで教室へとおいとまする。…俺には俺の予定があるのだ。


「こないだのあれ、助かったわ。ありがとな」

 丁度女子達との会話を切り上げて席に戻ってきたロベリアに、前置きも無くそう声を掛けた。ロベリアは伏せた顔を綻ばせて俺を横目に見て、

「あれって、どれ?」

「ほら、1人で飯食ってたとこに会いに来てくれたり、ジャック達と俺を結びつけてくれたり、クリス達に事情を話してくれたりさ。今回のことは、全部お前のお蔭だったんだろ?マジで感謝してるよ」

 ロベリアはニマニマと笑って首を振り、席に着いて授業の準備を始める。そうして教科書を出すと、上を向いて俺に笑い掛けた。

「友達だもん、当たり前。そうでしょ?」

「その当たり前に礼が言いたいのさ。何かして欲しいこととかあったら言ってくれ。何でも1つ言うこと聞くからさ」

 それを言うと、ロベリアは途端に驚いて俺に見入る。そして1秒近く固まると、誤魔化し笑いで濁しながら頷いて答えた。その間、少し生徒達の視線を背中に受けた気がした。

「それなら、何頼むか考えておくから、1回保留にしてくれないかな?折角のお礼なら、何してもらうか厳選したい」

「おー、いいけどあんまり無茶なことはやめてくれよ?」

「わかってるよー。ちゃんとレムリアドくんも楽しめるようなことにするから」

 …それはそれで、お礼をする立場のはずなのに俺が何か楽しんでいいのだろうかという気になってしまうが、ロベリアがそうしたいならそれでいいだろうか。

 俺とロベリアとの間の距離が今度のことでグンと縮まった気がする。これで俺達は、正真正銘の友達になれたのだとそう感じていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ