第73話 臍噛む者達
来週投稿出来るか微妙です。
頑張ります。
かつて、彼は俺に謝ったことがある。『君を裏切る』と、彼は俺にそう告げて頭を垂れた。その時は何に対してそんなことを言っているのかも分からず、謝罪する彼に俺から言えることは何もなかった。果てに俺はそれまでの彼との日々を思い返し、裏切り者と自らを詰る彼を擁護した。…その頃の疑問が、こんな最悪な形で 氷解することになろうとは夢にも思わなかった…。
「…リードが…裏切った…?」
唖然とする俺をレシナは満足そうに笑う。それは俺を嘲笑したのか、それとも彼女に与えられた最大の使命を行使した満足から来る安堵の笑みか。…少し力の抜けた俺の腕に頭を乗せる彼女は、俺を見下すようにしてその先を続けた。
「裏切るも何もないわ。あのお方は初めから全てを利用する気で入学し、アカデミーに潜入捜査していたのよ。私のような不幸な女を導き、手先として働かせてくださった。私はリード様を愛しているのよ、ルイなんかじゃない。駒として利用されようとも、あのお方に求められ、寵愛を受けるなら本望というところ。そしてリード様は勇者の末裔というこの上無い収穫を見つけた。それを手にするため、あなたもリード様の駒として利用されていたのよ」
「…俺が、利用…?……リードが、お前達が、暗躍して今日を目指してきたことは分かった…。だが俺を利用したってのは何だ?俺は俺のやり方でクリスを助けようとしてきただけだ!利用だと…!?おかしなことは言うな!」
「あなたはクリスティーネの意識をコントロールする鍵よ。あの女にとってあなたはとても大きな存在となった。あなたを引き合いに出せばあの女はどんな要求も無下に出来ない。…本当に便利な駒だったわ、あなた」
「…『要求』だと…?…お前ら、クリスに一体何をした!?」
もう足は止まっていた。人目があろうと構わず声を荒げた。公衆にその姿を晒すことは彼女にとって羞恥にも至らないであろうとは知りながらも、俺はその場に立ち止まることを明確に拷問の一種と感じた上でそうしていた。そうしてでも、彼女から全てを聞き出さなければならなかった。
「…私はあなたに事の経緯を全て話して、正しい理解を促す役割も持っているわ。けどそれは私から言うまでもないことまで話して時間を浪費する理由にはならない。…彼女が何をされたか、でしたっけ?…それは救い出した後、彼女に直接訊きなさい。今私から言う必要は微塵も無いわ」
…彼女は奇妙なことを言った。『全てを理解させる』と言った上で、『クリスを救ってから本人に訊け』と言うのだ。それはつまり、彼女の…否、リードの計画の上では確実に俺がクリスを救うことが前提になっている。…彼らは、誘拐したクリスをわざわざ返却するつもりでいるのだ。
…何のために?リードの所属する組織…ツェデクスは、魔王軍直属であると話していた。ならクリスを誘拐した時点で、もしくは誘拐などしなくても、クリスを殺してしまえば解決したはずだ。そうしてしまえば世界は魔王の手に墜ち、ツェデクスとやらも大戦果のはずだ。
…以前何度も聞いたことがある。光の神はこの地上にその力を分け、その息子である勇者は地上の力を使って聖水林という加護により人里を魔物から守っていた。勇者の血縁は等しく光の神そのものであり、その血が絶たれることは神の死と同義である。神を失って地上から光の力が消え去り、聖水林の加護を失えば、人間が生きていく場所は無くなり、全人類が魔王にひれ伏すこととなる。…クリスが死ねば、文字通り人類は魔王に敗けるのだ。
しかし話を聞くに、クリスは誘拐されただけだ。そしてそのまま危害も加えず返してくれるらしい。…それで取り引きを命じるつもりだとしても、クリスの殺害以上の目的を想像することは出来なかった。
「…お前達の目的は何だ?…クリスを渡す代わりに、俺達に何を要求するんだ?」
レシナは俺の質問に腹を抱える勢いで吹き出した。そしてヒーヒーと息をつくと、不意に表情を消して真剣な顔で俺を見た。
「別に何もさせないわ。ただ私の案内の通りに支部に向かって、彼女を引き取ってくれればそれで十分。強いて要望するなら、絶対に他の人物に悟られないこと。彼女を引き取るまで下手な動きもしないこと。それだけよ」
「だったら、クリスを誘拐する目的は何なんだ。何年も掛けて準備してきたんだ、それなりの目的はあるはずだろ」
「それは私から言わなくてもいずれ分かるわ。…そもそも私は飽くまでリード様の駒でしかないわ。駒が盤面の細部まで承知しているはずないでしょう?」
…これ以上は訊ねても何も出てこない。そう理解した。漸くまた歩き始め、無言になった俺をレシナは涼しい顔で眺めていた。
まだ状況を把握しきれないが、…今のところクリスはまだ無事なのだ。焦ってもどうにもならない。とにかくレシナの命令に従って動きながらクリスを迎えにいかなければならない。
「…あぁ、そうだ。レムリアドくん」
ふと、レシナの声に俺も顔を合わせる。レシナの命令に、俺は逆らってはならない。
「大至急アムラハン行きの馬車を手配して。それだけの金はあったでしょう?そしてその出発の際には必ず私を連れていくこと。勾留されるでしょうから、スムーズな脱出のため見張りは買って出なさい。それが出来なければ見張りは殺していかなくてはならなくなるわよ。じゃあ、よろしく」
ネウロとキィマからの聴取は終了していたものの、その情報を纏める作業は必要である。そのためレシナへの聴取は後日に回される事となった。レシナは身体検査を受けた後、責め苦の意味合いを含めてその姿のまま枷と鎖で拘束し、部屋の壁に首輪で繋いで見張り付きで勾留されることとなった。
メーティス達は完全に疑いが解けて既に宿に返されており、それ自体は一先ず安心だったのだが、結果として身内に見張りをさせられないので困ってしまった。この後グルスを連れて戻らなくてはならない俺には見張りを買って出ることは出来ず、辛うじてジーン達のパーティに見張りを任せてはどうかと提言出来た程度だ。『自分達は参考人とされていた立ち位置だし、聴取で忙しくなったりもしないジーン達のパーティが最適』という切り口で然り気無く提案すると、サラが乗り気になってくれて上手くその流れに持ち込めた。お蔭で俺が指名するまでもなく自然にサラがレシナを見張ることが決まる。…後は、何とか見張りを代わってもらえるように頼むしかない。
一方、キィマについてはレシナ程過酷な処遇ではない。身体検査は免れなかったが、聴取に協力的だったネウロと同様に彼女も衣服の着用を認められ、今は白い囚人服一枚を身に纏いネウロと同じ部屋に勾留されている。今回の事件への接点も非常に少ないことはネウロの証言にも裏付けされており、身体を差し出したのもレシナに脅されていたためで事件の詳細を殆ど知らされていなかったとのことで、彼女は行動不能にされるようなことはなくただ見張られているのみであった。手枷は当然しているが、見張りを行うことになったドナもネウロしか警戒していない様子だ。見張られながらとはいえトイレ等のための立ち歩きを許可されている点を見ても、彼女がレシナ確保に貢献した事実は相当に処遇を免除したことが窺い知れた。
グルスを連れ出す前に、とそれらの話し合いに参加させられた後、随分と時間が掛かってしまったので足早にジャック達を迎えに向かった。到着してすぐ、『お疲れ』の一言をジーンと交わし合ったグルスは即座に2人を行動不能から立ち直らせた。そして立たせると、アジト内の調査は一旦放置してそのまま連絡所まで戻ることとした。聴取から得た情報を基に調査した方が合理的であるとのジーンの判断だった。
足取りにも表情にも覇気の無いルイに続き、ジャックも顔面蒼白のまま眉を寄せて困惑していた。確かめた訳ではないが、ジーンからキィマのことも聞かされたのだろうことは様子からして明白だった。ジーンとグルスで今後を話し合う後ろで、俺とルイ、ジャックが横に並んで歩いていると、不意にルイが「なぁ、レム…」と俺に呼び掛けた。
「…うん?どうした?」
…意識したのではない。自ずと俺の声はそんな風に静かな優しさを伴って呟かれた。壊れかけた彼に罅を入れぬよう、無意識に心掛けたのだろうか。
「…レシナとは、1年の秋に知り合ったんだ。食堂でさ、俺が珍しく1人で食ってた時に正面に来て、あいつが溢したコーヒーが俺に少し掛かって、…そのお詫びにって猫のコースターを貰った。今じゃ別人にしか思えないような大袈裟な慌てぶりだったし、俺がコースターを受け取って礼を言った時も、満面の笑顔を向けてくれた。…その笑顔が何処か色褪せてて、寂しそうで気になって、学校で顔を合わせる度に声を掛けた。レシナはいつも寂しそうに満面の笑みを向けてた。…突然だった、レシナからカフェを巡りたいって誘われた。女子と出掛けるなんて初めてで、いっぱいいっぱいで、今考えれば芝居掛かってたレシナの過剰なスキンシップも全部受け入れた。…その日の内に、誘われても、何も怪しまなかった」
ルイは震える程に拳を握った。顔を赤くし、奥歯を食い縛って足下を睨み付けていた。その独白は後悔だろうか、怒りだろうか。…いずれにせよ、彼はその感情を何処へ向けるべきかも決めかねているように見えた。ルイはレシナを憎めなかった。
「…全部だ!全部、嘘だったんだ!…冷静になれば幾らでも判断出来た。不自然なところなんてたくさんあった!騙されてるのはとっくに自覚してたんだ!良いように使われてるだけじゃないかって、本当はレシナに愛なんてないんじゃないかって何度も何度も不安になったんだ!…近づく度に距離を置かれて、なのに離れそうになると身体で繋ぎ留められた。愛し合ってるなんて自信はいつも持てないまま、それでも傍にいたいからあいつに身を任せた。レシナが俺に笑顔を見せなくなったのも、変に気を張らなくなっただけだとずっと自分を誤魔化してきた!…だから、ネウロに向ける笑顔が見たことないくらい晴れやかで、俺はもう何も分からなかったんだ…」
激情を露わにした彼は、言い終えるとまた俯いた。感情が纏まらず、自分が言いたいことも分からなくなったのだろう。…俺も、彼に掛けてやれる言葉は何も無かった。安易な慰めなど傷を広げるだけで何の役にも立たない。彼が自分の気持ちを理解出来るまで、待ってやることしか俺には出来ないのだ。
「…そっか」
溜め息のように呟いた。その終端を切っ掛けにルイは涙を溢し始めた。俺は何も言わず、ただ彼に肩を貸して共に歩いた。ふと見ると、ジャックもルイに慈悲の眼を向けていた。視線がぶつかるとジャックはすぐ視線を落とし、俺もまたジーン達の背中を追って歩くことに努めた。不意に、今度はジャックが声を掛けた。その声は沈んでいたものの、まだ諦めてはいないようだった。
「…キィマは、助けを呼んでくれたんだよな?…俺達のために」
質問ではなく、確認だった。「…ああ」と即座に頷くと、ジャックは小さく微笑んでみせた。
「なら、俺はまだ信じてみる。…きっと理由があるはずだ。それを分かってやれるのは俺だけだ。それに、もし下らない理由だったら俺が叱ってやらねぇと。…俺が幸せにしてやるって、約束したからな」
ルイは目を見開いてジャックを見上げた。ジャックはルイの視線に頷いてみせた。嘆くのを止めたルイは、俺の肩を離れてまた悩み始めた。
傷心した彼らに非情な追及の手が伸びぬよう抗議に苦心し、宿に帰った時には既に陽が暮れていた。彼らへの聴取はレシナから十分に事情を聞くまで保留ということにしてもらい、とりあえずは安心と云った所だ。ジャックとルイは明らかな被害者とはいえ、恋人の間柄なため証拠隠滅などの擁護を行う恐れもあるとして連絡所にて監視下で軟禁する措置が取られた。
こう言っては彼らに申し訳ないが、これは俺にとって絶好の機会だった。俺にはメーティスとロベリアにレシナのことを聞かせる時間が必要だったのだ。どうにかして彼らを引き離さなければならなかった俺には正直言って大助かりだった。…この思考は彼らに対して心苦しくはあるが、クリスのためだと割り切っていた。
フロントに話を通し、男部屋から荷物を持ち出して女部屋に現れると、先に帰ってベッドに座り途方に暮れていた2人は同時にパッと顔を上げて驚いていた。ドアを閉めるなり、2人は俺の前まで駆け寄って縋るように目を見上げた。メーティスは大量に訊きたいことがあるのか発言に悩み、対してロベリアは率直に浮かんだ疑問をぶつけた。
「レムくん、ジャック達は…?」
「何とか間に合ったよ。2人とも無事だ。…レシナも、まぁ、捕まえて後のことは先輩方に任せてある。ジャック達は参考人として今日のところは連絡所で過ごすってさ。この人数で部屋2つ使うのもアレだから、今日は俺も此方で過ごさせてもらうと助かる。いいか?」
「…そっ、か…。…まぁ、うん、いいけど…。レシナさん達はいないし…」
ロベリアは頷きながら荷物を纏めて置いているソファーを振り向いた。見るとメーティス達の荷物しか置いていない。当然ながらレシナとキィマの荷物は押収されたようだ。男部屋にも俺の荷物しか置いていなかったため想像出来ていたことだった。
俺は彼女らを避けてソファーに近づき、荷物を置くとゆっくり振り返る。彼女達はその場から少し此方に寄って不安そうに俺を見た。…今、この事実を伝えることは、きっと彼女らの心をより一層掻き乱すことだろう。しかし、気長に構えてもいられない。伝えられる時に伝えておかなければ後々困るかもしれなかった。
「…話しておかないといけないことがある」
俺の口調の重さに勘づいたか、2人の表情は緊張に強張る。ロベリアは嫌な予感がしてか唾を飲み、メーティスは俺の真剣さに応えるかのように1歩近づいて「…何?」と先を促した。俺としてもこれを告げることは重大な仕事となり、心の準備が必要だった。
「他言無用でお願いしたい。…実は、クリスのことで相談があってな…」
前置きに前置きを重ねてから本題に入ろうとしていた。2人にも俺と同等の覚悟をしてもらわなくてはならない。下手をして捕まればクリスを助けられない上に俺達がレシナと共犯の扱いを受け得るため、気持ちを固めてもらわなくてはならなかった。
その先へと進もうとした時、遠くから騒々しく足音が迫るのに気付く。2人もハッと息を呑み、共に耳を済ませてその接近を待った。足音は部屋の前で止まり、続けて開け放たれた扉から血相を変えたサラが飛び込み叫びを上げた。
「レムリアドくん!キィマちゃんの居場所分かる!?」
説明も無く訊ねられ、困惑しつつも何とか首を振る。サラは落胆して息をつき引き返そうとしたが、俺が声を上げると踏み止まって聞いた。レシナの見張りをしていたのではないのか、と頭を過ったが今それを言及している場合ではなさそうだった。
「いえ、知りませんけど…一体何が?」
「脱走したの、あの子!敵意が無かったから油断してたけど、突然見張りのドナを凍り付けにして飛び出したって!今手分けして捜索してるけど、アジトにもいないし手掛かりが無くて…!」
今日1日に詰め込まれたあらゆる唐突の事件に比べても、それは驚愕のものだった。レシナを差し置き、キィマが脱走するなどとは全く思わなかった。彼女はレシナとは事情が違うと完全に思い込み、何の警戒も払っていなかったのだ。
「捜索、手伝います!」
「うん、お願い!」
申し出た俺にサラは短く答えて了承し、先んじて飛び出していく。俺も続いて走り出し、未だ混乱している2人には「話は終わってからだ!行こう!」と告げていく。2人は迷いを断ち切れないながらも頷いて俺の後を追い掛けてきた。
宛もなくサラは街を走り回り、道行く人にキィマの特徴を挙げて訊ねた。しかし首を振られるばかりで時間だけが進み、やっと証言を取れてもそれを追って辿り着いた武器屋には既にキィマの姿は無い。ただサラの後を追うだけの俺達も、キィマの居所に検討など付かなかった。
「ジャックなら何か知ってるんじゃないですか!?一旦連絡所に戻って訊いてみれば…!」
武器屋を出て行き場に困った末にそう提案するも、焦りから眉を寄せたサラはそれに首を振った。
「ううん、ダメ!出る前に訊いたけど何も分からないって!それに今から訊きに戻っても、もう…!」
こうなるともう発見は難しく思われた。何しろキィマの目的が分からないのだから、行き先のヒントも当然見つからない。武器屋で得た情報に依れば爆炎弾を1つ購入していったとのことだが、それも用途は不明のままだ。ヒントになり得ない。
手詰まり…そう考えたその時、住民らしき男が慌てた様子で息を切らして駆け寄ってきた。サラは自らも駆け寄り、立ち止まって膝に手をついた男に「どうしました?」と訊ねた。男は息を整えない内に顔を上げて来た道を指差し必死に訴えていた。
「む、向こうッ…!すぐそこの通りにッ…!魔物…魔物が這ってる!あんたら討伐軍だろ!?は、早く!早く殺してくれ!」
「ま、魔物!?は、はい!分かりました、すぐに!」
サラは俺達に振り向くと付いてこいと言うように頷いて走り出した。安心したように俯き溜め息をついた男を尻目に俺達も走り出す。…聞いている内は状況が読めなかったが、向かいながら考える内に男の発言に納得してしまう。…後の3人も気付いたのだろうが、表情は焦りきっている。行き着いた思考を素直に受け止められた者はいないようだった。
…這う魔物、と言われて検討がついた。その上街中でも現れ得る魔物と来れば、『スライム』しかいない。正確には魔因子結合体と呼ばれ、魔人の死後に魔因子が本人の細胞を食い尽くして生まれる半液体状の黒い魔物だ。その外見からスライムと呼ばれるが、悪趣味な名だと思う。今はその見知らぬ名付け親に憤慨している時ではないが、焦りと相俟って憤慨せずにいられなかった。
辿り着いた先には、想像した通りの残酷な現実が待っていた。魔鋼製のナイフが1本、大の字に横たわった白い囚人服の傍に転がっている。穴の開いた腹部から血の染みを広げた囚人服は首の辺りが焦げて無くなり、そこから抜け出してきたようにスライムがぶにぶにと蠢いていた。よく見れば爆炎弾のピンが少し離れた場所に飛ばされており、また別の方向には4つ折りにされ手の平大になった紙が落ちている。…スライムを前に立ち止まり、事の顛末を悟った俺達は言葉も無く彼女が蠢く様を眺めた。…キィマは、自殺したのだ。
俺は1人スライムに背を向け、落ちていた紙を拾い上げてその手に広げて読んだ。走り書きに綴られ、構成も出鱈目なその文面を、繰り返し目に焼き付けてからスライムに眼を移す。サラが覚悟を決めてスライムに火の玉を放ち、その後ろで膝をついて涙を溢すメーティスの肩にロベリアが手を置いて瞑想する。
遺書に後悔と懺悔を残していったキィマの最期は、呆気なく、醜く、そして悲しい程に静かだった。




