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第70話 人型の魔物

投稿予約してたと思ったらしていなかった件


本当に申し訳ない!

 それまでと変わらない穏やかな日だった。透き通るような晴天に切れ切れの雲がポツリとある程度で、何も怪しむ所の無い明るい半日を過ごしていた。それが14時、唐突な男の訪問から急速に事態の進展を見せる。…そう、それは、俺の眼には()()としか映らない出来事だった。

 男は全身を血の色を模した防具に包み、同色のカトラスを手にして自信に満ちた嫌らしい笑みを浮かべている。その屈強で背の高い立ち姿と眩く光る青瞳に相当の実力を感じたものの、場数を踏んできた者にしてはその表情に威圧感は無い。…何だか、新しい遊びに胸をときめかせる子供のような無邪気さを孕んで見えた。

「おう、来たぜ。ネウロだ。手筈通り準備出来てんだろうな?」

 その男は、早々に自らがネウロであると名乗った。こんなにも堂々と、真正面から現れて正体を晒すなどまるで考えられない事態だった。余程の自信家で策を弄さなくとも戦えると自負しているのか、もしくは此方の考えの及ばないこの大胆さを以て混乱を狙ったのか…そう考えを巡らせてから、彼の発言の真意に辿り着く。

 彼は『手筈通りの準備』と言った。それはつまり、俺達が彼の登場を見越した手筈を用意していることを前提とした発言である。『戦う準備』とか、『心の準備』とか、そういうことでは決してないと云うのだ。…最近に危惧され始めていた『内通者』の存在が真実味を帯びてきたと考えて良さそうだ。となると、怪しいのは知り合いを除いて、捜査協力班のもう1パーティの内誰か、または全員ということになる。

「メーティス、ロベリア、ネウロを捕らえろ!」

 俺は咄嗟に叫んでネウロに駆け寄った。混乱は勿論あったが、立ち止まっていてもどうにもならない。何より内通者が付近に潜んでいるとしたなら、すぐにでも動き出さなければ不意討ちを食らう恐れがある。ならば状況を掴めないながらも動くべきだ。どのみちネウロと名乗る人物と接触したなら確保すべきだし、別人だとしても街に他の魔人が滞在していること自体イレギュラーな案件なため多少乱暴にでも捕らえなくてはならない。

 メーティスとロベリアは当惑し、動き出せなかった。門を守る民兵達も(どよめ)いて見ているだけだった。ネウロも咄嗟には対処しきれなかったのだろう。結果として俺1人が素早く動き出し、障害も無くネウロの目前へ辿り着く。ここ最近戦闘から離れて過ごしていたために空振りを避けようとネウロの胸部を狙って袈裟斬りを仕掛けたが、その強靭な鎧と本人の防御力の共鳴に阻まれ、ネウロを少しよろつかせる程度にしかならなかった。

「…くっ…!話が違うじゃねぇか…!」

 ネウロは憎らしげに顔を歪め、身の泳ぐままに後退ると縦持ちの刃で追撃を防いだ。暫しの鍔競り合い、そして互いに押し合って距離を取り、正段に構えて睨み合う。…この男、やはり強そうだな。普通に攻撃しても通らなそうだし、見るにどうも俺より動きが速い。ある程度勘も利くのだろう。身体能力もそうだが、対応能力もレベル31に相応しい。

「『フリーズ』」

 唱えて左手を指し、冷気を放つ。噴出した冷気は地を凍らせてネウロに攻め寄る。しかし同刻、ネウロも左手を指して無言のまま『フリーズ』を放っていた。双方の冷気がぶつかり合い、両者の中央に高い氷の壁が築かれる。濁った氷に視界を阻まれ、その後ろでネウロが翻って走り出していた。

「逃げる!追い掛けるぞ!」

 俺は指示を出しつつ氷を避けて後を追い、メーティス、ロベリアと続く。ロベリアは去り際、「連絡所に報告してきてください!お願いします!」と民兵に告げていった。返事を待つことは無く、俺達は辛うじて見えるネウロの背を目指して走る。しかしネウロの俊足は俺達の足では到底敵わぬ程のもので、その背は数度の曲がり角で見失ってしまう。それでも超人の聴力により聞き取れた足音が頼みとなり、暫くは追い掛けられる。とはいえ、このままでは撒かれてしまう。手立ても無いため半分諦めていたが、追える限りは追ってせめて尻尾だけでも掴んでおきたいというのが本音だった。

 そこでふと、ネウロの行く先から「おい、止まれ!」と叫ぶルイの声。続いてジャックが、

「おい、こいつ犯人か!?他の魔人が街にってこたぁ…!」

「さぁな!けど取り押さえるべきだろ!」

 ルイは焦ったように早口に答えた。そして俺達が近づくに連れて目的地から聞こえる足音も慌ただしくなる。ジャック、ルイ、ネウロの3人の縺れ合うような騒音と怒号、時に混ざる悲鳴とが、俺達の足を急かす。そして辿り着いたその通りでは、汗に塗れたジャックとルイが必死にネウロに組み付き、ネウロは肘打ちや頭突きで撃退を試みていた。

「装備も無しに…!」

 私服姿のまま戦っていた2人の蛮勇に思わず苦言を呈し、俺は左手を指してネウロへと駆けつける。「許せよ、2人共!」と叫び、俺は3人を纏めて凍り付けにした。僅かに振り返るジャックとルイは、『おう』とでも言うように笑っていたが、後で必ず謝らなければならない。

「メーティス、頼んだぜ!」

「うん、了解!」

 俺は脇に退いてメーティスに振り向き、短く指示を済ませる。メーティスも問答無しにそれを理解し、立ち止まると神に祈るように両手を合わせて目を瞑った。ロベリアはメーティスの横に付き、メイスを手に周囲を警戒した。

 メーティスの目前で旋風が砂を巻き上げ、その渦を押し広げるようにして突如獣が現れる。砂塵の去った後には風の召喚獣が鋭い眼を此方に向けていた。その姿は、空色の鳥から胴体と翼、純白の雄鹿から四肢と頭部を授かったキメラのような見た目をし、胴体に茂る羽毛の奥には金色の肌が煌めいていた。真上の太陽に照らされ、その足下からは屈強な成人男性のような形の影が伸びている。…その名を、ペリュトンと言う。

 ペリュトンの赤い瞳は瞬く間にその鋭さを失い、代わって穏やかで柔らかくも闘志に燃えた少女の様相へ移る。ペリュトンは「行きます!」と俺に告げて駆け出し、氷を打ち割ってネウロを空高く角で投げ上げた。ネウロは意識を取り戻し、忌まわしげにペリュトンを、続いて俺を睨む。俺はそれに睨み返し、ネウロの怒りが俺へと逸れると同時にペリュトンは額の先を始点に続けざま『ウィンド』を放つ。

 2度の突風、そしてネウロが地に近付いてくると最後に『ブレイド』により風の刃を浴びせかけた。ネウロは全身に風の縄を纏わり付かせ、鈍くなった動きでペリュトンへ刺突を仕掛けるが、ペリュトンはその寸前に消えていなくなる。そうしてネウロが不安定な着地を取った所へ、俺は再び『フリーズ』で凍り付かせる。ジャックとルイは既に溶けた氷から抜け出してメーティス達に駆け寄っていた。

 俺の横薙ぎが氷を砕いてネウロの腹に届く。しかしやはりそれではダメージにならず、氷が割れて解放されたネウロは透かさず俺の首を左手で掴む。そして在らぬ方に一瞥をくれると俺をグッと引き寄せて膝蹴りし、防御により一時的に動かなくなった俺を突き放し、蹴り飛ばした。

「レム!」

 メーティスが慌てた声を上げて駆け寄り、数m転がって起きた俺の背を「大丈夫!?」と撫でる。「ああ」と短く答えて前を向くと既にネウロはそこにはいない。何処へ消えたかと急いで見回すと、ネウロは左手にある路地裏の入口に立って剣を此方に向けて笑っている。その左腕には、いつか見掛けた小物売りの少年と、薄汚れて破けたドレスの女が纏めて抱かれている。その少年は肩、女は右の太腿に奴隷の烙印を持ち、恐怖に竦んで震えていた。

「さぁ向かって来やがれ!こいつらを死なせてもいいんならなぁ!あっはははは!」

 ネウロは上機嫌に嘲ると人質を抱く腕に力を込めた。その些細な動きだけでその2人は絶体絶命の呻きを上げ、力が弱まると噎せながら呼吸にありつく。…人間が人間に触れるのと、魔人が人間に触れるのとでは訳が違う。人間とは比較にならない強大な力を持つ魔人は、その僅かな力の加減で人間を殺し得る。もし仮にネウロに殺すつもりが無くとも、あの2人は単なる手違いで死んでしまいかねなかった。

「…クソッ、下衆野郎が…」

 俺がそう吐き捨てるとネウロは俺を見て満足そうにまた笑い、しかしふと思い返したように眉を寄せて辺りを見回すと怒鳴り散らした。その情緒の急激な変化に異質さを覚え、悪寒が走る。

「っていうかおい!プセフ!プセフトラ!いい加減に出てこい!何のつもりだ、俺を裏切ったのか!?」

 ネウロは一頻りそうしてプセフトラとやらを呼ぶが、周囲からは反応は無く、遂に諦めて舌打ちし閉口した。そして表情が消えたかと思いきや、また思い出したようにニヤついて人質に眼をやる。…あれが精神疾患の症状ということだろうか…。

「…プセフトラ…『嘘つき』…?」

 メーティスは目を細めて呟き、俺は彼女に眼をやってから周囲を見回す。ネウロの仲間だというプセフトラが何処かに居やしないかと考えたが、それを確認するより先に別の異変に気が付く。…いつの間にかロベリアがその場からいなくなっていたのだ。

 何処へ…?そう考えた矢先に彼女は姿を現した。路地裏の奥から足を潜んで徐々に日の下へ、そうしてネウロの背後に彼女は回り込んでいた。そしてネウロの真後ろに数秒立ち止まると、勢い良く彼の両腕を掴み人質から引き剥がす。『アメン』を唱え腕力を向上したらしいロベリアにネウロは敵わず、あっさりと人質は解放された。驚いた女と少年に、ロベリアは「逃げなさい!早く!」と叱咤し、2人は手を繋いで路地に飛び出した。そして2人がメーティスに手招かれて俺達の傍に駆け寄ると、同時にネウロがロベリアに押し出されてきた。

 ロベリアはネウロを力尽くで路地に出すと、背中を蹴る形で地面に転がす。そしてロベリアが遠くを見て頷き、タッと地を蹴って後退ると、同時に黄色い大きな火の玉が高速でネウロに迫る。炎の激突と爆発が、連続で3つ巻き起こり、黒煙の去った後にネウロは行動不能に陥り灰色に肌を染めて横たわっていた。

「…ちっ、クソォッ…!」

 ネウロは拳を振るいそうな激昂をただ口にのみ出した。それでは物足りないというように、繰り返し「クソッ…クソッ…」と唾を飛ばす。ロベリアは仕事を終えた安堵感から微笑み、真っ直ぐ俺の場所まで駆け寄ってくる。

「やったよ、レムくん!大活躍?」

「あぁ、大活躍だな。流石だ」

 褒めて欲しそうに頬を染めて見上げたロベリアの頭を撫で、「む…」と文句を言い出しそうになったメーティスにも気付いて同じく頭を撫でた。

「メーティスも、な。お蔭で逃がさず済んだ。ありがとう」

「…へへー」

 メーティスは冗談めかして胸を張り、ニマニマ笑いながらそっぽを向いた。その態度の可笑しさに微笑んでいた俺の下へ、先程の『ミファイア』発動の主であるサラが訪れた。

「レムリアドくん、お疲れ!引き止めてくれてありがとうね!ロベリアちゃんもメーティスちゃんも!あっ、そっちのメンズ達もね!ありがとう!」

 サラはバシッと俺の肩を叩いて笑い掛けると、律儀にその場の全員へ向けて礼を言った。この成功を心から喜んでいるのが見て取れた。サラの肩越しに見るとまた次々に仲間が駆けつけ、ジーン、ドナ、グルスと順に到着すると俺達に駆け寄ってくる。その後に現れたもう1パーティは、軽く荷物を積める台車を運び、赤い鋼の鎖と手枷を手にしたリーダーを先頭にネウロへと歩いていった。

「レムリアド、よくやったな。助かった。やっぱりお前達を頼って正解だった」

 ジーンはサラ程でないにせよ、ホッとした面持ちで笑い掛けていた。その向こうではネウロの怒号と交えて手短な質疑が行われていた。捜査事情に明るくない俺には聴いてもどうにもならないことであるため、そちらは気に留めずジーンとの会話に専念した。サラはジーンが俺と話し始めると、メーティスやロベリアに声を掛け始めたようだった。

「そう言ってもらえると嬉しいです。仲間達が上手くやってくれたお蔭ですよ。それに運も良かった」

「それらを引っ括めてお前の力でもある。とにかくありがとう。…それと、分かってはいるだろうが…」

「はい、レベルのことですよね?ネウロから、…今後についてもですが、下手に経験値を貰ってレベルを上げたりしないようにちゃんと気を付けていきます。仲間にもうざがられるくらいに口を酸っぱくして言ってあるので大丈夫ですよ」

「そうか、ならいい。レベル20代の後半では精神に異常を来す可能性が出てくるからな。上げるとしても慎重に1つずつ上げて様子を見る必要がある。…くれぐれも頼むぞ」

 ジーンが肩を叩いて声を潜め、俺もそれに真剣に頷いた。…今日のネウロの異質感を眼にすれば、誰でもレベル上昇への恐怖を覚えることだろう。自らが異常者になり、仲間だった人々からも敵意を向けられ、それまで大切にしてきたものをさえ滅茶苦茶にしてしまう、そんな未来の自分を想像すると剰りにも恐ろしい。絶対にそうはなってはならない、そう強く胸に抱いた。

 ふと、「離せ!離せぇ!」とネウロの叫び声が大きくなり、その声音に恐怖が滲む。見ると、質疑に当たっていたパーティは全員でネウロを取り押さえ、公衆の面前でその鎧や衣服を剥ぎ取っていた。騒動が落ち着いた途端に安心して出てきたのであろう野次馬の群れが、必死に叫ぶネウロを興味深そうに見つめている。

「…ちょ、何を…」

 そのパーティの常識離れした行動を止めに行こうと足を踏み出すと、ジーンとサラが共に俺の肩を掴んで首を振り、眼で『やめておけ』と告げていた。俺は困惑し、ただじっとネウロの末路を見届けることにした。

 ネウロは全てを取り上げられて丸裸にされ、手足を動かせないがためにその身を隠すことも出来なかった。野次馬達の好奇の眼に晒され、苛立たしげに地面を睨んで口を噤んでいた。

 行くぞ、とそのリーダーが指示を出し、装備や服は台車に乗せて、ネウロ自身は背に回した両手を手枷で封じられた。そして首輪を嵌めると、その輪から伸びた鎖を引いて歩き出し、ネウロは地に引き摺られて連絡所に連行されていった。…その様はまるで、囚人や家畜よりも下に部類する存在のような扱いで、しかも野次馬達はその扱いを受けるネウロを当然のような顔で見つめていたのだ。

「…何なんですか…あれ…」

 思わず俺は呟き、ジーンがそれに眼を伏せて答えた。ジャックとルイも傍に歩いてきていたが、その2人を含めて仲間達は皆俺と同様に驚愕していた。

「言っただろう、…人型の魔物なんだ、犯罪を犯した魔人は。…例えば、魔物が有益な情報か何かを持っていて、留置しておく必要があるとするなら、お前ならどうする?…まず、行動不能に追いやるだろう。だが、その魔物を留置するためには周到に不安を駆除しなくてはならない。衣服があったならそこに何か仕掛けをしていて、ふとした時に復活して行動を起こすかもしれない。そうでなくともその身体に情報を隠し持っているかもしれない。そうした諸々を危惧し、極力早い対処が必要となれば、先程のような仕打ちも致し方無くなる」

「…いや、そうは言っても…。…わざわざ街中で…」

「……そうだな、今のは理屈の…言い訳の話だ。実際の所、あの仕打ちには『晒し刑』や『見せしめ』の意味合いも強くある。…魔人は日々魔物と戦い、傷を負って生きている。そのため肉体的な苦痛には比較的強い。拷問しようにも鞭打ちなど意味が無い。魔人に拷問を行う以上、それには必然的に精神的な責め苦が必要となる。人間性を崩壊させ、再起不能に陥れる程の羞恥と人格否定だ。…アカデミーが民兵の訓練施設と比べて生徒の教育に『精神面の強化』を説いていないのもここに原因がある。強い自我を持っていながら明確な意思で人間に敵対する魔人なんかが現れるくらいなら、心も意思も弱く、簡単に操れて簡単に除去できる半端な兵が量産される方が楽なんだろう」

「…それじゃあ…俺達は…まるで…」

 言いそうになった言葉を俺は、人質にされていた捨て奴隷の女と少年を見て呑み込んだ。ジーンもそれ以上話を続けたりはしなかった。野次馬も徐々に去り、辺りが静まってきた頃になり、ふと奴隷の女がロベリアに頭を下げて皆の視線を誘った。

「…あの、ありがとう…ございます。…助けていただいて」

 ロベリアは困惑したが、続いて少年も「…ありがとうございます」と頭を下げると穏やかな笑みを溢してその頭を撫でようとした。…しかし、相手が自らの憎む『捨て奴隷』であることを思い出したのか、表情は思い詰め、その手は空中に止まってしまう。どうするべきかと悩んだ挙げ句、ロベリアは「…別に」と素っ気無く告げて視線を脇に逸らす。

 女はそれでも十秒近くはそうして頭を下げた。そして顔を上げると、ドレスの懐から袋を取り、その中の小さく潰れたパン切れを差し出した。そうしてドレスが揺れた拍子に、まだ乾き切らない男と女の臭いが広がってきた。

「…あの、これ……小さいし…汚れたかもしれないけど…」

 女はそう言って自信無さげにパンを渡そうとした。ロベリアはそんな彼女の顔と、そのパン、そして破れ目から顔を出す奴隷の烙印とを冷たい眼で見渡し、「要らないわ」と突っ撥ねた。

「道端の奴隷が、それも小汚なく娼婦なんかして手に入れた食べ物なんて、貰うわけがないでしょう。いい迷惑よ、そんなの」

 ロベリアの発言に女は唇を結び、泣きそうになるのを堪えて俯いた。その手も力無く下がり、傍に立つ少年が心配そうに女を見上げてパンを取り落とさないように両手で支えていた。それを見て、メーティスは「ちょっと…!」とロベリアに批判的になりかけたが、ロベリアが徐に腰のポーチから自分の財布を取り出すのを見て不思議がりつつも口を止めた。

 ロベリアは財布から10クルドばかり取り出して女の手に持たせると、代わりにそのパンを受け取ってその場で口に放り込んだ。皆がポカンと見つめている中、「…うぇっ…砂……」と呟きつつ何とか飲み込んだロベリアは一息ついて告げた。

「その10クルドで買ったわ。それを元手に仕事を変えなさい。さっきの私みたいに言われたくなかったら、後ろ指されない仕事を選びなさい。それでそこの子にもっと美味しいパンを恵んであげて。それが出来て初めてあなたのパンを貰ってあげる」

「…あ、…ありがとう…ございます!」

 女は涙ぐんで大きく頭を下げた。少年も彼女とロベリアとを見比べると同じようにお礼を言った。ロベリアは顔を背けたまま「早く行って」と言い付け、その2人はそれから歩く毎に何度も頭を下げながら去っていった。その姿が遠くなる頃に、嬉しそうに笑ったメーティスがクイクイとロベリアの服の裾を詰まんで話し掛けた。

「…ロベリア、偉い!」

「偉くないよ。見ていたくないからお金渡して行ってもらったの。…まぁ、あれで真っ当に暮らせるようになれば皆幸せでしょう」

「うん、偉いね!」

「……本当、不味いパンだったわね」

 褒め称えるメーティスからも複雑そうな顔で眼を反らすロベリアに、俺からも笑い掛けていた。…彼女は彼女のやり方で現実を見つめ、その葛藤と戦ったのだ。それは結果の善悪に問わず、称賛に価することだと感じた。

 魔人と奴隷――どちらも人々に忌み嫌われながらも使うだけ使われて、常に偏見に晒される者達だ。連行されるネウロの姿に感じた感情の交錯を、恐らく彼女も感じたのだろう。それもあり、彼女は奴隷を理解しようと思えたのかもしれない。

 他者を認めること、自分を認めることは難しい。それでも出来ることがあるのだと、それを認めて小さな努力を重ねていくことだけは諦めてはならない。

 例え他者が、最初から人を見ようとさえしないとしても…。

メーティス

Lv.24 HP82 MP24 攻51(25) 防250(50) 速75 精49 属性:炎

装備 魔鋼の鎧(防60) 魔鋼の兜(防60) 魔鋼の盾(防80) 魔鋼製メイス(攻26、耐30000)

コマンド 祈り(5秒でMP1回復)

召喚 ガブノレ、ペリュトン(5秒でMP1消費)


ガブノレ

HP20 攻30 防20 速30 精15 耐性:なし

行動 引っ掻く、突つく、飛翔、スリープ(相手を眠らせる、消費MP8)


ペリュトン

HP100 攻30 防30 速60 精50 耐性:風

行動 突撃、飛翔、

ウィンド(3m飛ばす、50秒間速10低下、消費MP3)、

ブレイド(ダメージ20、10m飛ばす、50秒間速20低下、消費MP12)



ネウロ

Lv.31 HP111 MP62 攻186(96) 防324(64) 速96 精33 属性:氷 経験値80000 金9434

装備 セネメイトメイル(防80)セネメイトシールド(防100) セネメイトヘルム(防80) セネメイト製カトラス(攻90、耐6000000)

黒魔法 コールド(50秒間防10低下、消費MP6)、

フリーズ(50秒間防20低下、10秒停止、消費MP12)

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