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第62話 優しい嘘

 近頃は投稿頻度が低下していて申し訳ございません。週に2回以上の投稿を目指して来ましたが、今後暫くそれは叶いそうにありません。熱心に読んでいただいている読者の方々には安定しない投稿で手間取らせることもあったかと思い、非常に反省している次第です。

 そのため、今日以降投稿は毎週水曜日の18時とさせていただきたいと思います。調子が良ければ2本同時投稿ということもあるかと思いますが、休載だけは回避していく所存です。

読者の皆様には大変ご迷惑をお掛け致しましたことをお詫び申し上げます。今後ともよろしくお願い致します。

 戦闘の舞台はユダ村南西の草原、ジーン達とのレベル上げの最終日の一幕である。既に防具は買い換え、俺達は魔鋼の鎧、鋼の盾、鋼の兜を身に付けていた。武器も棍棒からそれぞれに使い勝手の良い物へと変更し、レベルも作戦に加われる十分な程度へと上がっていた。多少無理はしたが、準備は整ったと言っていい。

 ロベリアは『ノーウィンド』と唱え、彼女を中心に薄く緑に輝くドームが10m程広がっていく。手には魔鋼製のコバルトワンドが握られ、その先端の魔石は青い光を放っていた。彼女の傍らに身を寄せた俺は、更にその横に立ったグルスと彼女との両方から肩に触れられる。ロベリアからは『パワー』、グルスからは『スピード』の強化魔法を受け、俺はその場に立ち止まったまま敵の動向を窺っていた。

 黒いローブを纏うしゃくれ顔の青い男、魔法使いのマーリンへ、メーティスは一直線に駆けていく。そこから左側に佇む巨漢を模した動く石像のゴードンは、魔鋼製グレートソードを手に構え、同じ得物を持って迫り来るジーンを待ち構えている。マーリンの右側に待機した全身の毛を逆立たててそよがす薄緑の狐、エメラルドフォックスは、『ノーウィンド』の結界により風魔法を無効化した俺達への攻撃は諦め、見た目には虚弱そうなメーティスへと接近を試みる。ジーンとメーティスにより稼がれる10秒が、この戦いの雌雄を決する。

 エメがメーティスに接近すればマーリンはエメへの飛び火を警戒して魔法を自粛する。それを読んだ上でメーティスは冷静にガブノレを召喚し、瞬時にエメの目を捉えて『スリープ』で眠らせる。その1秒にも満たない瞬間的なガブノレの出現故に、メーティスが脱け殻となる時間も僅かしかなく、マーリンはその隙を狙い損なう。メーティスは速やかにマーリンへの接近を果たし、背後へと回るとそれを維持しながら慎重に魔鋼製メイスの攻撃を加えていく。マーリンは3属性全ての中級魔法を扱えるが、こうして動揺を誘いつつ近接戦を続ければ、その能力も宝の持ち腐れだ。

 一方、ジーンはゴードンの攻撃を捌くことのみに気を配り、今はとにかく注意を引き付けることに専念している。ゴードンの腕力はこの場の誰をも上回り、力比べに持ち込まれれば劣勢となるため下手なことは出来ない。その上、ゴードンは『フレイム』も習得しているため、動きを止めればそれもまた状況を危うくする。

 マーリンにも言えることだが、ここで『フレイム』の使用を許しては俺への強化魔法が妨害されてしまう。ジーンとメーティスが前線に出て注意を引く最大の理由は、この『フレイム』を未然に防ぐことだった。そしてその貢献により、俺への強化魔法は完遂する。

 俺は真っ先にエメへと攻撃を仕掛ける。一撃により眠りから覚めたエメは、その素早い動きで回避に徹しようとするが、『スピード』の効果で殆ど拮抗した速度では単なる読み合いに他ならない。その経験に分のある俺が勝利するのに時間は掛からなかった。魔鋼製のロングソードを装備したことも時間の短縮に大いに貢献してくれた。

 続けてジーンの戦いに加勢する。マーリンの方はメーティス1人で成り立っているため、人手が増えても大して変化は無いだろう。対してジーンとゴードンとの戦いは、速度が拮抗している限り腕力の低いジーンが受け身になるのは必然だった。速度と力を共に強化した今の俺だけが、ゴードンに対して優勢に立ち回れる唯一の戦力である。

 飛び退いたジーンと代わって、駆けつけた俺は左手をゴードンへ差し向ける。俺はこの1ヶ月の間に『フリーズ』を習得していた。その手から放たれた白い冷気がゴードンの身体を凍り付かせ、俺は動きの止まったゴードンを回って背後に立つと、死角を移動して絶え間無く斬撃を浴びせ掛けた。ゴードンは大剣を振り回したが、どうしても大振りになり回避は容易い。マーリンの死に続き、この戦闘も速やかに決着した。

 戦闘が終わり、灰と化したゴードンの手から落ちたその大剣を、俺はジーンに手渡した。それに対しジーンはゴードンの懐から溢れた複数の耐火袋から紙幣を抜き取り半分に分けて俺に渡す。これは毎回の流れであり、1日に2回の戦闘があるため大剣はそれぞれに1本ずつと分け合うこととしていた。この辺りでの戦闘ではほぼ必ず敵の構成が統一されているため例外も起こらない。…アムラハン付近では敵の構成など疎らだったように思うが、何か理由でもあるのだろうか?

「今回も上出来だったな。もうお前達だけでやれるだろ」

 ジーンは慣れない小さな笑みを湛えて軽口を叩いた。俺は仲間達が魔物から抜き取った資金を両パーティで分け合う様子を眺めながら笑い返し、「まさか」と首を振った。

「ジーン先輩がゴードンを止めてくれなきゃまだまともに戦えませんよ。村の反対側でなら何とかなるかもしれませんけど」

「そうか?お前には『フリーズ』があるし、ロベリアは『アメン』を習得しただろう。お前の指示力と作戦立てがあればどうにでもなりそうだが」

「過信は失敗の素です。確実に勝つ保証が無いなら、まずその保証を固めなければなりません。俺が西側で戦わせてくれと頼んだのは、先輩方の協力があれば確実だと踏んだからです」

 ジーンはフッと笑うと、「煽てるのも上手いな」と大剣を担いで荷車へ戻っていった。俺もその後に続いて仲間達と合流し、戦闘の機会を探して再度練り歩き始める。

 『アメン』とは『パワー』の上位互換であり、より強力な効果を1秒の準備で付与出来る。これの他にも『スピード』に対する『イダト』、『ディフェンス』に対する『イワン』など強化魔法の上位互換が存在するが、いずれも『神秘の卵』という肉体強化用の道具の名前を捩っているらしい。教科書にこれらの記載が無かったのは、そもそもこの魔法を習得する魔人が非常に少なく、普遍性に欠けることが理由のようだ。早期に存在を知らせて不要な期待を持たせないという目的である。

 そこを行くとレベル20代でそれを習得したロベリアは異例と言える。また、サラに言わせればレシナ達のパーティはこれに勝る程の異例であるとのことだ。ジャックやルイのような身体スペックであれほどの魔法の習得はまず例が無く、レシナやキィマのような過剰な魔法習得率も珍しいという。レシナに至っては『イダト』を習得したと聞いている。…以前から思っていたことだが、つくづく俺は仲間に恵まれていたのだと分かった。

 しかし、それを考えると惜しいことをした。俺達のパーティは無理を言って村の西側でレベル上げを進めたためにレベル21まで登り詰めたが、レシナ達は実力に見合わないと言って東側でのレベル上げを続けたためレベル17で今日を迎えてしまったのだ。ユダ村まで付き合わせてしまった手前無理に勧めないようにと考えていたが、これならレシナ達にも西側へ来るように誘えば良かった。…とは言っても、やはり無理強いは出来ない。

 そうして仕事のことを考えていると、実家のことが頭から閉め出される。本当はフルのことを真剣に考えなくてはならないのだが、正直この頃はその余裕を持てないでいた。作戦など気掛かりなことが多いのも要因だが、そもそも『家族と自分』という俺にとって土台たる部分での問題が発生したために、これまでに無い程の動揺が俺を襲っていた。未だ嘗て無い、逃げることも認めることも出来ない異様な状況の中にいて、俺自身がどちらを向けば良いのかまるっきり見失っている状態なのだ。こうして平静を保つのが精一杯という精神状態にあった。

 作戦に参加するにしろ、しないにしろ、この作戦が一区切りつけば多少は今より気が休まるだろう。そうしたらこの問題をしっかり考え、もう一度フルと正面から話し合おうと思う。今言えることは、俺が家族を守りたい気持ちや、フルを大切に思う気持ちは決して変わらないということだけだ。


 翌日、代表のジーンと俺、そしてレシナの3人で作戦本部へ訪れた。レベル数を伝え、改めて作戦参加の申請を行うと、まずは光度計によりレベルを確認された。レシナは第36号パーティの総意である所の『雑務などでの参加』をリーダーとして訴え、なおかつ俺達の作戦参加の口添えをするために同伴したが、その表情の軽薄さを見るに彼女の意には反するようだ。

「…なるほど、確かにレベル21のようだね」

 以前と同様に本部の椅子に腰掛け、書類整理をしていたノルビスは、俺が計測して返却した光度計を見て頷いた。俺のレベルは戦闘を共にした者達、つまり第50号パーティ全員のレベルであり、それ以上の計測は不要と見なされた。レシナは俺の瞳の発光から逆算してレベル17に相当すると目測されたため計測はせず、話はそのまま進んでいった。…しかし、ノルビスの表情は固く、ふむと難しそうに息をついていた。

「…ジーンくん、この1ヶ月彼らを見ていて、その実力をどう見る?他のパーティと比べて、どう感じた?」

「……パーティのメンバーそれぞれが卒業1年以内での基準を遥かに凌駕しています。彼単体で見ても、…若干のトリッキーさは有りますが、その采配と指示力、機転の利かせ方には目を見張るものがあるかと。それはこの1ヶ月の間にレベルを6つ繰り上げた実績から見て明らかとご理解いただけると思います」

 ジーンは真っ直ぐノルビスと眼を合わせて報告した。ノルビスも深く頷いて腕を組み、熟考の末、立ち上がって俺の前まで歩み出てきた。その表情は苦悩に満ち、それが彼にとって苦渋の選択であったことが窺い知れた。ジーンは眉を寄せ、レシナは不満そうに目を細め、俺はその左右からの視線を受けながらノルビスに肩を叩かれていた。

「分かった。本作戦への参加を許可しよう」

「…あ、ありがとうございます!」

 念願が叶い、その感激に大きく頭を下げた俺を、ノルビスは「うん」と冷静な返事をして見下ろした。そして俺が顔を上げると、変わらない表情のままレシナへと眼を移し、ノルビスは諭すように続けた。

「しかし、君達にはやっぱり出ていってもらわないといけない。雑用はもう間に合っているし、その為だけに滞在はさせられない。最終的に守るべき対象が増えるのは不本意だからね。これはもう諦めてもらうしかない」

「そうですか。…わかりました」

 レシナは大人しく、寧ろ素っ気なく頷いて了承した。今朝ジャック達がレシナに頼み込んでいた様子を見ていた分、『そんなに簡単に諦めていいのか』と心配な気分だったが、彼女がどうアプローチをしてもこれは覆りそうにないとも気付いていたので口は挟まなかった。ノルビスは俺に顔を向けて更に続けた。

「作戦当日は7月20日だ。それまでに彼女らのパーティをダルパラグに送ってきてくれるかい?ついでにメアリーズ・バーにおつかいを頼みたい。馬車の乗車代は此方で負担してあげるから」

「…はい、承りました。…しかし、馬車代は此方で用意してありますから、任せていただいて構いませんよ」

「いやぁ、そうはいかない。作戦の都合で君達に移動を願うんだ、経費で落とすべきさ。君のその気持ちは、作戦本番で発揮してくれればいい」

 ノルビスの表情と頑なな姿勢に何か奇妙な印象を受けたが、だからと言って俺達は意見出来る立場にはない。気のせいだろうと割り切って、「では、お願いします」と引き下がった。詳しい作戦内容はユダ村へ帰還してから伝えると告げられ、俺達はジーンを先頭に本部を立ち去った。

 ジーンは宿へ、俺とレシナは一旦自宅に待機している皆へと事の顛末を報せに向かった。玄関に着くと、忽ちメーティスとジャックがドタバタ廊下を走って現れ、「どうだった!?」と声を合わせていた。俺は苦笑し、小さく頷いてレシナと顔を見合わせた。

「俺達のパーティは参加を許可されたよ。けど、やっぱりレシナ班はレベルが足らないし、雑用も要らないんだそうだ」

 メーティスは「ふぅ…」と肩を下げて、ジャックは「はぁー…」と項垂れて溜め息を溢した。そして後から歩いてきた3人は、話が聞こえていたようで悟ったように微笑んで俺を見た。何となく結果が分かっていたのだろう。

 ジャックはガバッと顔を上げ、眉を寄せたまま振り絞ったように「…分かった!」と頷いた。

「お前らの足枷にはなりたくねぇしな、俺らは大人しく他所で待っててやるよ。けど、後で必ず合流するからな。ちゃんと故郷救って迎えに来いよ。絶対だからな」

「ああ、ありがとう。約束するよ」

 俺は頬を崩すように笑い返し、大きく息を吸い込みながら天井を見上げた。内装を見渡して心に焼き付け、「よし」と皆に言い聞かせた。

「ダルパラグへの出発日は追って連絡が来る。それまで連絡所の空き部屋を使わせてもらえることになったから、今日からそっちに泊まることにしよう。皆、準備してくれ」

 各々が応じ、寝室へと荷物を取りに出向く。そして俺から親父とお袋に話を通し、皆も家を出る支度を整えると代わる代わる挨拶をしていった。親父は「この家で過ごせばいいだろう」と引き止めたが、郷に入っては郷に従えだ。作戦に加わる以上、そのコミュニティに積極的に踏み入らなくてはなるまい。そうした旨を伝えると何とか納得してくれた。

 親父が俺を引き留めたい理由の一端であろうフルは、そのタイミングで出払っていた。急なことで話も拗れるだろうと予想出来たので、親父達から説明してやって欲しいと伝えて家を出た。


 出発は8日と決まった。それまでの時間は僅かながらレシナ達と組んでレベル上げに励み、作戦に向けて少しでも役立つ戦力となれるよう準備を整えていた。また、ここまで付き合わせておいて一方的にダルパラグへ追いやることとなった責任も感じたので、6月末に手に入れた魔鋼製グレートソードの1本と、以降に入手したそれらもレシナ達に譲り渡すこととした。流石はレシナと言うのか、全く遠慮もせずそれを受け取っていた。…いや、別にそれでいいが…。

 1本はジャックが気に入って装備し、残りは売り払って装備を整える資金にした。少なくともこれで俺達と離れている間も安心して資金調達を行える。それらの準備が済んで8日、俺達はメアリーへの極秘の手紙を搬送し、同時にレシナ達を送迎する任のため朝早くから馬車の並ぶ街門前へと赴いた。

 そこへはジーン達が送り出しに訪れ、また同時に出発日を聞き齧ってきたフルが待ち構えていた。…ジーン達もレシナ達を連れてきたことに色々と思う所があるようなのでそこまでの行動自体に然程違和感は感じなかったし、フルの行動も想定内のことだった。しかし、何故だか彼らの様子から妙に緊迫した気配を感じて仕方がなかった。

 また、ジーン達は綺麗に4人並んでいたのに、実際に挨拶のため歩み寄ってきたのはサラ1人のみで、あとは皆黙り込んでいた。そして何より不可解だったことには、サラが声を掛けたのがレシナ達ではなく、また此処に戻ってくる予定である俺だったのだ。

「レムリアドくん、私達、君が帰ってくるのを待ってるね。それまでちゃんと、この村は守ってみせる」

「はい、お願いします。…えっと…」

「約束するからね…!絶対、絶対守るからね!」

 サラは俺に抱きついてそう誓った。俺は彼女の必死な宣言に嫌な予感がしたが、それを考えて何になる訳でも無いため、何も見なかったことにした。

 サラが離れると、ジーン達は小さく頭を下げて無言のままサラを連れて去った。…何だったのか、と仲間達が不思議がる中、フルは固い表情のまま俺に駆け寄ってきた。そして俺を目前にして何か告げようとしたが、いざ口を開いた途端に言葉が引っ込み、怯えたように後退っていた。

 …俺がフルや家族のことに怯えたように、フルも随分と悩んだのだろう。あの夜も、本当はあんなことがしたかったのではなかったのだと思う。彼女なりの愛情とその表現の仕方というものがあったのに、俺が性急に事を運ぼうとし過ぎたためにから回ってしまったのだ。彼女が後に引けなくなった原因の一部は俺にある。

 フル、と優しく呼び掛けた。フルは驚いて飛び上がるように俺を見上げた。俺はうっすらと笑い掛けたまま、変わらぬ声で話し続けた。

「作戦が終わって一段落ついたら、またあの夜の話の続きをしよう」

「…本当?」

「ああ、本当だ。…ただ、先に言っとくけど、俺はお前の彼氏になるつもりは今の所全く無いからな。それとこれとは別だ。だが兄として、お前の気持ちはちゃんと受け止めたいってだけだ」

「うん、それでいいよ。それでもう十分…」

 フルはホッと胸を撫で下ろした。俺は頭に手を伸ばし掛けたが、自分の身体がどんな物なのかを思い返してその手を戻した。フルはその手を見つめていたが、構わず俺は告げた。

「フル、お前は俺の大切な妹だ。今までも、これからもそうだ。俺はお前が大好きだ。大切だ。何があったって嫌いになんかならないからな」

 フルは俺の手から眼を離し、俺の言葉が途切れると見上げた。丁度その時、「もう出発しますよ!」と馬車の横で待っていた馭者の男が声を上げ、仲間達は俺を一瞥しつつ馬車へ乗り込んでいった。最後に一言交わそうとフルに向き直ると、フルは切なく訴える目付きでいた。

「ねぇ、兄さん。…もう一度、頭を撫でてくれる?」

「…悪い、もう無理だ。流石にレベル20を超えると力がありすぎる。おまけに短期間での急成長となると日常生活も一苦労だ。人間の頭を撫でるなんて出来そうにない」

「…そう…」

 フルは落胆し、素直に諦めた。しかし、俺はまた笑い掛けて小さく手を振りながら、最後にささやかな約束を交わした。それが叶う保証など何処にも無いが、彼女のために告げたいと思った。

「ちょっと練習しとくよ。出来そうなら、次話す時にでも撫でてやる」

 フルは無言のまま頷いて、ヒラヒラと小さく手を振り返した。俺が馬車に乗り、互いの姿が点に映る程遠退いても、彼女は手を振り続けていた。その微笑の儚さが、ユダ村を去っても脳裏にこびりついて離れなかった。


 首尾良くダルパラグへ到着する。宿を取り、装備の修繕を依頼し、メーティスやロベリアとの3人で連絡所に歩く。予定として翌日にはユダ村行きの馬車に乗って帰還する手筈となっており、予め本部からダルパラグへ申請と支払いが済んでいたはずだった。その確認のためにと受付の係員に向け、「第70期50号パーティです」と申し出たが、係員はきょとんとした顔をしてそれに訊き返していた。

「…はい。…ご用件をお伺いします」

 その時点で妙だと感じた。

「……あの、明日の馬車を申請してあるか確認に来たんですが…。ユダ村の連絡所から申請が来ていますでしょうか?」

「少々お待ちください」

 係員は手元のファイルを捲ってスケジュールの確認を行ったが、ファイルを閉じても変わらず訝しそうな顔をしていた。

「…明日の馬車の申請はありません。本日申請いただくと、最低でも2日後の出発となってしまいますがよろしいでしょうか?」

 絶句し、言葉が出なかった。メーティスも顔面蒼白で目を見開き、ロベリアは唾を飲み込んでカウンターに身を乗り出すと声を上擦らせて訴えた。

「あの、ファイルをもう一度確認していただけませんか!?仕事上の契約なんです、申請していないなんてことはあり得ません!」

 係員は再度同じ頁を確認したが、その顔は怪訝の色を濃くするだけだった。その顔を見てロベリアは目を見開き、対称に開かれていた瞳孔は小さくなっていった。

「そうは言われましても、此方としてはやはり記録にございません。後程ユダ村と連絡致しますので、とりあえずは2日の出発とさせていただきます」

 …俺達は係員に言い諭され、途方に暮れたまま連絡所を後にした。宿に帰ってからも何の気力も湧かず、3人とも夕方まで部屋を出なかった。その間に会話も無い。

 誰も口にはしなかったが、もう明白だった。俺達はダルパラグに逃がされたのだ。作戦への参加など、許可されていなかったのだ。何故、どうして…と、そんな悲観とも呪いともつかない葛藤に苛まれながら、メアリーへの手紙に一抹の望みを託した。しかしそれも、殆ど薄い望みだというのが分かっていた。

レム

Lv.21 HP57 MP42 攻94(66) 防169(44) 速66 精22 属性:氷

装備 魔鋼の鎧(防60) 鋼の兜(防30) 鋼の盾(防35) 魔鋼製ロングソード(攻28、耐55000)

持ち物 回復薬、筋肉弛緩剤

黒魔法 コールド(50秒間防10低下、消費MP6)、

バイオ(毒、消費MP6)、

フリーズ(防20低下、10秒停止、消費MP12)


メーティス

Lv.21 HP73 MP21 攻48(22) 防169(44) 速66 精43 属性:炎

装備 魔鋼の鎧(防60) 鋼の兜(防30) 鋼の盾(防35) 魔鋼製メイス(攻26、耐30000)

持ち物 回復薬、筋肉弛緩剤

コマンド 祈り(5秒でMP1回復)

召喚 ガブノレ(5秒でMP1消費)


ガブノレ

HP20 攻30 防20 速30 精15 耐性:なし

行動 引っ掻く、突つく、飛翔、スリープ(相手を眠らせる、消費MP8)


ロベリア

Lv.21 HP75 MP42 攻70(44) 防147(22) 速44 精22 属性:風

装備 魔鋼の鎧(防60) 鋼の兜(防30) 鋼の盾(防35) 魔鋼製コバルトワンド(攻20、消費MP-5、耐30000)

持ち物 回復薬、筋肉弛緩剤

白魔法 ヒール(HP30回復、消費MP3)、

パワー(80秒間攻20上昇、消費MP6、10秒必要)、

ノーウィンド(風魔法を無効とする半径10mの空間、5分持続、消費MP12)

アメン(80秒間攻30上昇、消費MP15、1秒必要)


ジーン

Lv.24 HP87 MP48 攻165(75) 防250(50) 速46(50) 精28 属性:炎

装備 魔鋼の鎧(防60) 魔鋼の盾(防80) 魔鋼の兜(防60) セネメイト製グレードソード(攻90、速-4、耐7000000)


グルス

Lv.24 HP64 MP48 攻120(50) 防275(75) 速50 精25 属性:氷

装備 魔鋼の鎧(防60) 魔鋼の盾(防80) 魔鋼の兜(防60) セネメイト製ロングソード(攻70、耐5500000)

白魔法 ヒール(HP30回復、消費MP3)、

ノーフリーズ(氷魔法を無効とする半径10mの空間、5分持続、消費MP16)、

スピード(80秒間速10上昇、消費MP8、10秒必要)、

コネクト(行動不能から復帰、HP10回復、消費MP10)



エメラルドフォックス(エメ)

HP100 MP20 攻40 防30 速80 精20 耐性:炎 弱点:氷 経験5000 金250

行動 噛みつく、引っ掻く、ヒール、

ブレイド(ダメージ20、10m飛ばす、50秒間速20低下、消費MP12)


マーリン

HP100 MP200 攻20 防20 速50 精30 耐性:全魔法 弱点:なし 経験20000 金600

行動 ミファイア(40ダメージ、消費MP15)、

ミフレイム((秒数×6)ダメージ、消費MP20)、

フリーズ、ブレイド


ゴードン

HP150 MP200 攻236(200) 防200 速46(50) 精30 耐性:炎 弱点:なし 経験300000 金15000

行動 ミフレイム、剣撃、殴る

装備 魔鋼製グレードソード(攻36、速-4、耐70000)

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