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第59話 温かい非情

大変お待たせ致しました

 約1ヶ月を経て資金を集め、それぞれがレベルを1つ繰り上げた。集めた金は最終日まで取っておき、予め定めた出発の前夜、装備の修繕依頼の前に武器屋に赴いて使うこととした。俺達討伐軍は文無しになると行き場を失うため、貯められる限界まで金を温存しておこうという方針だった。

 最後の戦闘を終えて既に陽の落ちた暗闇の街に帰り、武器屋の扉を開け放つと夜番のフィーネが1人で待ち構えていた。対して此方も3人程と少数だ。人数が多過ぎると店に迷惑だと云うことで、ジーン達、レシナ達は此方には立ち寄らず宿から真っ直ぐに防具屋へ向かった。残念ながらレシナ達は魔鋼製のメイスすら買う金を集められなかったらしい。

「おーッス。フィーネ、金貯まったから来たぜー」

 メーティスとロベリアを左右に引き連れた俺が雑な挨拶をすると、出迎えたフィーネは彼女らと俺とに視線を往き来させて敬するように丸い目を向けた。

「いらっしゃい、レムリアド。魔鋼製を買いに来たの?」

「ああ。つっても1人分しか買えないけどな」

 フィーネがカウンターの裏を回って此方へ歩いてくるのを見つめつつ、俺は魔鋼製品のエリアへと2人を連れ歩いた。フィーネが横に来ると、俺はメイスを1本立て掛けから手に取って後ろの2人を見た。2人は興味深そうにフィーネを見ていたが、俺の視線が向くとパッと振り向いてくれた。そのため俺はメーティスと眼を合わせて口を開いた。

「メイス買うけど、メーティス用でいいよな?今まではロベリアが率先して前に出てくれてたが、速く動けるメーティスが強い武器を持てば戦力は一気に跳ね上がるし」

「私はそれでいいけど…、ロベリアはいいの?」

 心配そうに眼をやったメーティスに、ロベリアは薄く微笑んで「いいよ、それで」と頷いた。

「召喚中のメーティスを庇うの大変だから。メーティス自身が戦力になれるなら私の負担も減るしね」

「そっか。じゃあいいか。…でも、そしたら益々ガブノレの出番が減ってくるね」

「まだまだ『スリープ』は入用だし、そうでもないんじゃないかな。でも接近戦には使われなくなりそうではあるよね」

 2人の会話は堰を切ったように続くが、訊きたいことは訊いたのでその場でメイス代4000クルドを鞄から出してフィーネに手渡した。フィーネは「丁度です。ありがとうございました」と涼しく一礼し、その大金を特にどうとも思わない様子でカウンターの裏まで駆け足で持っていった。

 …まぁ、この額でもまともなパーティなら買っていて当たり前の装備だそうなので、フィーネも大金を受け取るのに慣れているのだろう。…俺はつい最近に会計簿と所持金の数が合わないという事件があったので、金のことにはしっかりしなければと自戒した。

 ふと、メーティスはロベリアと顔を見合わせて悪戯っぽく笑い、テテテッとフィーネのいるカウンターまで駆けていった。そして代金の処理を済ませたフィーネがパッと顔を上げて丸い目を大きく見開くと、メーティスは両手でフィーネの頬を押さえてフニフニと捏ね始めた。

「へぇ~、君がフィーネくんかぁ~。ねぇねぇ、何歳?」

「え、えっと、16歳…です…?」

 揉みくちゃにされながら、フィーネは困惑して視線をあちこちにやりながら顔を赤くしている。メーティスはそんなこと気にも留めずにより一層顔を寄せていった。此方からメーティスの表情は窺えないが、…めっちゃ楽しそうな顔してるんだろうなぁ…。無自覚の小悪魔。特に胸の部分が。何故ってさっきからフィーネの視線がおっぱいに引き寄せられてるからな。

「子供なのに夜の番って大変だね…。眠くならない?」

「…あ、お昼に寝てるから…」

「そっかぁ、お昼寝かぁ」

 お昼寝は違くね?生活習慣が崩れてるだけなんだよなぁ…。

 ふと、フィーネは1歩後退って「ちょっと、あの…」と言いにくそうに視線を横に逸らした。「え、何?」とメーティスは不思議そうな声音で訊き返して更に顔を寄せる。がっちり両手に制限されたフィーネは顔を背けることも叶わず、堪らずギュッと固く目を瞑って、

「…ち…近い……」

 メーティスはその男とは思えない弱々しい声にハッと息を呑むと、その瞬間フィーネの頭を両腕で抱いて爛々とした顔を勢いよく振り向かせた。

「ねぇレム、待って!この子すごい可愛い!すごい可愛いよ!?」

 すごい知らねぇよ。ていうかフィーネが巨乳で窒息しそうになってるから離してやれ。

 ジタバタと両腕を小さく振っているフィーネの様子に見かねたロベリアが駆け寄っていき、事態は収拾がつく。まだまだフィーネで遊びたそうにしているメーティスだが、明日は遂にユダ村へ進むという大事な予定があるので早めに宿に帰っておきたい。ロベリアがメーティスの両手を捕まえている内に挨拶を切り上げることにした。

「じゃあな、フィーネ。俺ら明日からユダ村に行くことになってるんだ。暫く会わないが元気でな。また一区切り着いたら此処に立ち寄るよ」

 色んな圧力から解放されて息を整えていたフィーネは俺が歩み寄ってそう声を掛けると、姿勢を正して何とか笑い返した。

「あ、うん。元気で。…ユダ村っていうと、何だか大変みたいだからね。気を付けて」

「おう。お前こそ仕事頑張れよ。またな」

 そうしてフィーネに背を向けて、未だ遊びたいと駄々を捏ねるメーティスを引っ張り武器屋を去った。正直に言えば俺ももう少しフィーネと色々話して過ごしたかったが、優先することが他にある以上そうもいかない。…いつかクリス達を此処に連れてきた暁には、レベル上げのためということにして目一杯この街に留まってやろう。秘かにそんな計画を立てた。


 宿泊して翌日、正午から予約した馬車に乗り込み、俺達11人でその1台を占領した。俺達とレシナ達のパーティは利用客として料金を支払い、ジーン達がその馬車の護衛役を務める。護衛人数につきその2倍以上の利用客を抱え込める取り決めがあり、それにさえ則っていれば利用客が魔人だろうと関係無いらしい。ある種の裏技だ。なお、人数が合わなければ護衛役であろうと金を払わなければならないガバガバシステムである。

 今日まで協力してもらった恩もあるのでジーン達には無賃乗車(給与付き)してもらっていいだろう。というか、最初から向こうはそのつもりで俺達への協力を引き受けたようだった。…大人の知恵とも、がめつさとも言えるだろうが、これが仕事の関係というものなのだろうなと感慨深くもあった。責任やリスクの伴う大きな事を、親しいから、付き合いがあるからと軽んじて安く請けることは、決して大人としての器が大きいことを示す行動ではない。…まぁ、真逆の意見もあり得るし、それもそれで間違いとは思わない。要は当人が損得の重きを何処に置いているかだ。

 さて、出発から3日経ち、馬車は念願のユダ村へと辿り着く。村の門の前で馬車を降り、馭者は道中に勘定した525クルドをジーンへと手渡した。そして門番に開けられた門の先へと馬車が進んでいくのを眺め、その後俺達は門番に身分証明を済ませる。

「…ここがレムの故郷なのか。いいとこだな」

 門を通過して暫く歩くと、ルイは感心した様子で村を見回しながらそう呟いた。俺はそれに「どうも」と短く答え、両脇を歩くメーティスとロベリア、それから背後のサラにも眼を向ける。横に並んだその2人は言葉も無く穏やかに目を細め、安らかに思い耽っていたが、振り返って見たサラはじっと俺の背を見つめていたようだった。サラと横1列に並ぶジーン、グルス、ドナは別に何も感じていない様子でぼんやり前を向いていたが、俺とサラの眼が合うとその視線が一斉にサラへと集まった。

「…アカデミー通信では色々言われてるけど、実際はまだ長閑なもんだよ。どう?君がいた頃と変わらない?」

 サラはそう訊ねて微笑み、俺は村を今一度見回した。広大な田畑が森に縁取られ、木々と小川を爽やかな音が泳いでいる。そこへ鳥や蛙、虫などの生命の気配が混ざり合い、田舎独特の静穏を醸していた。…しかしそこに混入する異質――見回りで歩く討伐軍の人々が、恐怖と不安を俺に押し付けた。そしてそれに伴って、

「…村の人達に覇気が感じられません。…滅入ってるんでしょうね」

 俺の返答にサラは悲しそうに眼を伏せて顔を逸らし、「…そうだね」と呟いた。会話はそれで途切れ、俺はまた前を向いて歩く。

 先頭を歩いていたレシナの横へとルイが早足で追い付き、2人はユダ村での今後の動きについて話し合っている。その直後を歩くキィマとジャックは、暗い話題から大きく距離を取り、ずっとイチャついて明るく装っていた。ジャックが普段に似合わぬ探るような視線をチラチラと此方へ向けるのでそれらが気遣いと分かるが、随分と風変わりな気遣いだなと苦笑した。

「それで、まずは宿に行くの?それとも先に例の作戦本部に挨拶かしら?」

 レシナが振り返って無表情でそう訊ねた。相変わらず言い方や姿勢は無愛想だが、それにもいい加減慣れてきた。レシナが意見を求めるのなど俺かルイに対してしかあり得ないようなので、一応の信頼は獲得しているだろうかと少し嬉しくも思う。

「荷物が邪魔になるだろうからな。先に宿かな」

「そう」

 訊くだけ訊いてレシナは前を向くが、「いや」と後からジーンが口を出して俺もレシナも同時に振り返った。ジーン達はダルパラグの前はユダ村に滞在していたと聞いていたので、彼からの意見には従うべきだと考えた。

「今行っても宿はおそらく泊めてもらえない。先に連絡所で話を通せ。荷車は連絡所の傍に特設で自由に停める場所があるからそこを使わせてもらえ」

「そうなんですか。…泊めてもらえない、というのは…?」

「例の作戦で討伐軍が大勢滞在しているからな。特に要請されて来たパーティを優先して宿泊させているはずだ。末端のパーティや、本部を離れられない主導者パーティなども連絡所で寝泊まりしている。作戦に参加出来なければ何処も受け入れてくれないだろう」

「…なるほど。分かりました」

 ジーンの助言に頷いて前を向き、眼が合ったレシナとも頷き合って進路を変える。以降は黙り込んで歩き、前後に並ぶ仲間達が他愛なく会話しているのに軽く耳を傾けながら考えた。

 …ラバカ港奪還作戦。同時に、ユダ村防衛戦でもある。自分の故郷に纏わる大事な作戦だ。参加したいに決まっている。…しかし考えれば考えるほど、俺達がそこに介入する余地などまるで在りはしないのだということが強く身に滲みてくる。

 ふと、メーティスが俺の袖をきゅっと摘まんで見上げた。その心配そうな顔に笑みを返し、言葉無くその頭を撫でてやった。


 すっかり古びた木造の連絡所、その2階にある会議室へと揃って入室した。その小さなドアに掛かった簡易な木札には『ラバカ港奪還作戦本部』と記名され、内部は教室一部屋分程度の広さしかないありふれたものだった。

 失礼します、と先陣を切ったジーン達の後に、シンとした空気に疎外される感触を受けながら「失礼します」と声を上げて続く。一様に緊張する俺達を宥めるように、その部屋中央の長テーブルの一角に席を設けてたった1人書類整理をしていた長身の醜男が、立ちながら朗らかに笑い掛けて見回した。

「おお、ジーンくんか!ダルパラグでは何か耳寄りの情報は得られたかな?」

「いいえ、残念ですが…。この作戦と、マニ大陸にも討伐軍が多く出払っているため、暫くは他の情報が集まることは無いかと思われます。情報収穫が期待できず本作戦の決行も近いので、こうして帰って来た次第です」

 幾らか気の知れたように安らいだジーンの声音に俺達も多少緊張は砕ける。男はその返答にうんうんと頷くと、歩み寄りながらジーン越しに俺達を見つめて、

「そうだったかい。いや、こうして期日内に戻ってくれて何よりだ。…ところで、そちらの方々は?」

 ジーンは「はい」と俺に振り向きながら脇へ避け、俺に手を指しながら男と眼を合わせた。

「彼らはダルパラグで合流した新米のパーティです。この作戦に参加したいという強い熱意に応え、勝手ながら案内を務めて参りました」

「ほう…。なるほどね、確かに若輩なりに成熟した顔つきに見える」

 男は親しみ易かった気軽い表情から一転して視線を鋭くし、値踏みするようにじっと俺の目を見据えた。俺は喉が詰まりそうになりつつも決して眼を逸らさないように気を張り、目前に立った彼は少ししてにっこりと微笑み右手を差し出した。

「僕はノルビス・ハル。僭越だがここの総指揮を執っている者だよ」

「…第71期第50号パーティ、リーダーの…レムリアド・ベルフラントです。…あの、」

「うん、今後よろしくね」

 彼は頷いて右手を少し持ち上げて、俺は顔と手を見比べながら握手に応じた。

「…よ、よろしくお願いします」

 しっかりとした力で、しかし痛みを伴わない程度に握手を済ませたノルビスは、続いて名乗り始めたメーティスにも「よろしく」と同様に握手を交わした。次にロベリア、レシナ、ルイと名乗っては握手し、ノルビスの柔らかい表情と優しげな手付きは一見すると俺達を受け入れるようであった。

 しかし全員が自己紹介の流れを終え、僅かに俺達から距離を取って佇まいを整えたノルビスの優し過ぎる視線から、その対応が単に俺達をあしらうだけのものだというのが如実に伝わってきた。彼は一呼吸つくと俺を見て、子供に言い聞かせるようにゆったりと話し出した。

「さて、レムリアドくん。君達のレベルは現在どの程度か教えてくれるかい?」

「…はい…その、全員15です…」

「そうだろうね。今期卒業で今の段階なら、そのレベルが現実的だ。…いや、普通よりはペースが早いのかな。少なくとも卒業して3ヶ月少しでここに辿り着けるのは類い稀なる才能が故だろう。それは評価に価するし、誇るべきだよ」

「…ありがとうございます」

 言葉ばかりの世辞と分かるが、こうとしか答えられない。ノルビスは俺の肩をポンと叩いて、続けて言い聞かせた。

「けれどね、レムリアドくん。…この作戦はレベル20以上を対象としているんだ。そこを1度ねじ曲げて参加を許すと、他のパーティにも公平を期す必要が出てくる。弱いパーティを庇ってやれるほど今回の戦いは甘くないんだ。如何に君達が有望であろうと、ルールだけは守ってもらわなければならないんだよ」

 …こうなることは分かっていた。当然の結果だった。アカデミー通信でも記載されていた条件だったが、ジーン達がそこに触れようとせずここまで協力してくれていたから何とかなる気がしていたのだ。…いや、そう思いたかっただけだ。

「…そう、ですよね」

 俺は納得せざるを得なかった。落胆という程の衝撃も無く、ただ俯いてそう受け答えた。しかし、メーティスはタッと俺の横まで飛び出して、

「あの、雑用だけでもさせてもらえませんか!?ここ…ユダ村は、彼の故郷なんです!少しでも、力になりたいんだと思います!」

 ノルビスはそう聞くと感慨深そうに目を細め、「そうか、故郷か…」とまた俺を見つめる。しかしその悲しげな様相から、撤回はあり得ないのだろうと諦める他無かった。

「残念だけど、雑用の人数は僕らで足りているんだ。それに宿の部屋を村の防衛をしてくれている方々に優先して使わせたいから、雑用係りを増やすのは頂けない」

「だ、だったら、ずっとテントで休むからいいです!お願いします、本当に小さなことでも構いませんから協力させてください!」

 メーティスはめげずに頭を下げた。その姿にノルビスだけでなく、俺も、皆も驚いた。しかし感心して目を見張ったノルビスも、やはり譲るわけにはいかずとうとう背を向けて元の仕事に戻っていった。

「本当に申し訳ないけど、作戦決行前にダルパラグに引き返してもらうよ。乗車代のこともあるし、とりあえず6月一杯は滞在してもらっていいから、それで頼むよ。…ジーンくん、件の連絡事項は明日の夜7時に会議に出てもらった時に伝えるから、今日のところは彼らをお願い出来るかい?」

 ジーンは悔いるように拳を強く握って俺とメーティスを見ると1歩踏み出て、テーブルに向かって書類を手に取ったノルビスへと語気を強めた。

「ノルビス・ハル総指揮、私事で恐縮ですが、6月中は彼らの資金調達をサポートさせていただけませんでしょうか?我々にはここに彼らを導いた責任がございます。それに監視を付けるという意味でも、彼らが反抗しないための抑止力が必要だと思われます。防衛の任を降りることとなりますが、どうか聞き入れていただきたく存じます。当然減給して下さって構いません」

「…いいだろう、惜しくはあるがね。ただ、その分作戦の際には最前線に出てもらうことにするから、その時はよろしく頼むよ」

「はい。…では、失礼します」

 ジーンは「行くぞ」と俺達を押して部屋を出で、サラとメーティスがそれぞれ不満そうにジーンを睨んで足取りを重くしていた。しかし両者とも暫くは黙り、外に出てからメーティスだけがその昂りを吐き出す。他の者は居心地が悪そうに下を向き、その中では唯一ジャックが腹立たしそうに腕を組んで虚空を睨んでいるだけだった。

「ねぇ、何でレムはそんなに聞き分けがいいの!?折角ここまで来て、悔しくないの!?」

「…そう言ったって仕方無いだろ。ノルビスさんの言うことは尤もだし」

「私は納得出来ない!」

 メーティスは嫌々と顔を振り、「落ち着けって」と肩に触れた俺の手も激しく叩き除けてしまった。皆の視線が俺へと集まる中、そうして駄々を捏ねるメーティスの両肩を掴んだ俺に、ジーンは歩み寄って申し訳なさそうに告げた。

「…レムリアド、1ヶ月は稼いだ。俺達も協力するから、その間で出来る限りレベルを上げてもう1度頼み込もう。俺達には既に専用の部屋を用意されているから、休む場所は何処へなり自分達で確保してくれ。…あまり力になれなくて悪い。明日、午前10時に街門の前で待っている」

 去っていくジーンにグルス、ドナが振り返りつつも続き、その最後尾にサラが俺へと「…やれることはするからね」と残して付いていった。その場に残された俺達は俯き加減に途方に暮れ、その内空白を切り裂いてロベリアが、

「レムくんの家、行こうよ。…宿が駄目なら、そういう予定でしょ」

 俺は促されるままに頷き、メーティスの手を引きながら、

「そうだな。行こう、皆。こっちだ」

 そう言って無理に誘導した。メーティスはやはり俯いて唇を結んでいたが、もう俺の手を振り解くこともしなかった。寧ろ歩くに連れ一層結ぶ手が強まり、本当に見透かされているのは俺の方だろうなと漠然と感じた。

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