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第58話 景色の移ろい

 ジーンをリーダーとするM68期第40号パーティは男女に別れて戦闘のサポートをしてくれることとなった。速度に劣るレシナ達のパーティにはそれを補うべくサラとドナ、ステータスが上々ながら決め手に掛ける俺達の方にはジーンとグルスが参加する。大所帯では迷惑だろうということで俺達のパーティは時間を空けて出発することとなった。レシナ達と共に宿を出ていったサラは気まずそうに俺を一瞥していった。

「よろしくお願いします、ジーン先輩、グルス先輩」

 俺を先頭にし、左右に並んだメーティスとロベリアも「よろしくお願いします」と同時に頭を下げる。ジーンもフッと僅かに笑って小さく頭を下げ返し、

「ああ、此方こそ」

 その後にグルスも続いて一礼した。それから30分して俺達も防具屋へ装備を受け取りに向かい、その足でフィールドへと飛び出した。


 間もなく敵が現れる。先日と同様にティブ、チビ、スクトの3体が固まって前方から迫り、怯える俺達を安心させるように赤いグレートソードを背中のホルスターから引き抜いたジーンがどっしりと構えて前へ出た。

「俺が先に1撃入れておく。その先はお前達にやらせよう」

 ジーンは先輩として、背を向けたまま一言そう告げる。堂々と魔物を待ち構えるジーンの背中はとても頼り強かった。

「…何かあれば、俺に隠れろよ」

 ふと、俺達のすぐ真横に位置していたグルスが、これまた小さな聞き取りにくい声で呟いた。俺は彼に笑い掛け、「はい、その時は…」とお願いした。

 メーティスもロベリアも、死闘の記憶に脚を震わせ、しかし意を決するように唇は固く結んでいる。そしてその視線はジーンの大きな背中へと集中していた。

 真っ先にチビが辿り着き、大きく開いた口から『ファイア』を放つ。ジーンはその赤い火の玉を大剣で薙いで防ぎ、そのまま接近したチビへと右薙ぎの一太刀を浴びせた。両羽根を断たれたチビは地面を削って転がり込み、俺は咄嗟に飛び掛かってチビの背中を棍棒で叩き潰した。振り上げてもう1度と意気込むが、そこでチビの身体は黒く色褪せて灰と化していく。…一撃で終わった。

 続いてティブが滑空してジーンへと迫る。チビの『ファイア』のような特殊な技を持っているでもないティブは、もはや清々しく思える程真っ向からジーンに突進してきた。しかしその動きはチビよりも遅い。ジーンは大剣を脇に下げるとスッと左に避けつつまた右薙ぎを放ち、ティブはチビと同様に羽根を裂かれて地面を転げる。…今度はロベリアが棍棒で叩く。ティブは静かに黒く褪せ、行動不能に陥った。えいっ、と駆け寄ったメーティスが叩いて、サァーッとティブは消えていく。

 そして大分遅れて今度はスクトが現れる。ジーンは攻撃をされる前から大剣を両手持ちで担いでいた。スクトが背を反らして伸ばした尾の針を脇を引いて紙一重で避け、直後その硬い甲殻の身体を縦に分断した。

「…こいつは任せた。分かってるだろうが、尾は食らうなよ」

 ジーンはそう一言残して横へと後退っていく。とりあえずは最遅のスクトと俺達を戦わせて力量を計りたいということだろうか。身体を修復して此方に飛来したスクトは全身からボタボタと汗を振り撒いていた。

 一先ず俺とロベリアの2人で接近戦により対処する。初手として同時に棍棒で横薙ぎを繰り出すが、それはスクトの鋏に掴まれてあっさりと止められる。腕力もスクトに分があり、スクトは両の棍棒を内側に引いて俺達の手から振り解き、同時に関節から伸びた鎌で首を刎ねに掛かった。初見の行動だが、俺達は冷静に身を屈めて対処した。

 続けてスクトは身体の下に潜ませ狙いを定めていた尾の針を素早く俺に突き出した。体勢が悪く避けられないが、それはそれで問題無い。俺はその先端が目に刺さる寸前で尾を掴み止め、スクトは麻痺攻撃が失敗に終わるなり尾を振り払って俺を薙ぎ飛ばした。俺は尾から手が離れる前に『コールド』を掛け、その勢いに抵抗無く吹かれて遠くに着地した。

 俺は空を見上げる。俺達が飛び出してスクトの視界を塞いでいた間に現れていたガブノレが、そのまま上昇してスクトの頭上で待機していたのだ。スクトは目の前のロベリアに気を取られ、棍棒を拾い上げた彼女へと未だ鎌と尾の攻撃を浴びせ掛けている。…勝ちを確信し、俺はスクトの下へと駆け出した。

 ロベリアが最後に尾の一撃を棍棒で捌き、飛び退くと同時にスクトは漸く上を見る。時は遅く、羽根を広げて滑空してきたガブノレはスクトの背を爪で捕まえ、鋭い嘴の一突きで甲殻の頭をかち割った。ロベリアは横に飛び出して俺に棍棒を投げ渡す。そしてガブノレがスクトを離れ、潰れた頭を修復するスクトへと、俺は背後からトドメの一撃を食らわせる。尾を巻き込んで背中へと与えられたその打撃に、スクトは全身を黒くして灰と消えていった。

「…ほう」

 ジーンは俺達の戦いを見届けると大剣を背に納めて歩み寄り、魔物達の残した衣類から金銭を奪い取る。そしてそれらを数えると半分を俺に手渡して微笑みながら告げた。

「及第点だろう。まだまだ無駄が多い気はするが、全員無傷で勝ったからな。それに複数対1の戦いで起こりがちな混雑や飛び火も見られなかった」

「ありがとうございます」

 俺は大きく頭を下げて受け取り、馬車の鞄へと金を仕舞いに行く。そして戻ってくると、ジーンはグルスと相談し顎に手を当てて考えていたことを話した。メーティスとロベリアは緊張してはいないが無言で気を付けの姿勢を取ったまま微動だにしていなかった。

「俺が最初に攻撃してしまうとほぼスクトだけとの戦闘になってしまうな。次からはグルスに初撃を任せ、俺は自分に攻撃してきた奴にだけ攻撃しよう。そうすれば綺麗に半分ずつHPを削れるはずだ。勿論、お前達は危なかったら俺やグルスの後ろに隠れてきてくれて構わない。無理の無いようにやってくれ」

「ですね、ジーン先輩の攻撃で2体とも終わりましたもんね。分かりました、そうします」

 軽口を言いながら了解し笑い合っていると、ロベリアが「あの…」と手を上げてジーンの視線を誘った。そして手を下ろすとおずおずと質問を始めていた。

「チビに『スリープ』が効かないんですけど、状態異常は全部効かないんでしょうか?教科書ではそんなことは言われなかったんですが…」

「…いや、チビは精神力が強いから効かないというだけだろう。もう少しレベルを上げれば効くようになるはずだ。俺達はレベル18で初めて戦ったが、その時にはサラの『スリープ』が有効だったからな」

 その問いはメーティスのためのものだった。ジーンは腕を組んで難しい顔をしながら答える。ロベリアはそれを聞き届けると、

「分かりました。ありがとうございます」

 と一礼して下がった。続いてメーティスも礼を言って頭を下げた。…ただ、メーティスがレベルを上げてもこれはどうにもならない。問題はガブノレの精神力にあるからだ。

 精神力とは、この場に置いて魔物や魔人が肉体の異常に抵抗するための意思の力、およびその意思と肉体との繋がりの強さを指す。人間が思い込みで病を治すが如く、魔人も意思の力でその手の魔法に対抗出来るのだ。『スリープ』などはまさに精神力の勝負であり、魔法使用者は対象者の半分より上の精神力さえ持っていればその勝負に勝てるものなのだ。…ジーンが言っているのは、スクトの精神力がガブノレの倍以上あるということだろう。

 メーティスのレベルは召喚獣のステータスを左右しないため、これは解決のしようがなかった。とにかくは、そういう相手もこれからは出てくるということを肝に念じておかなくてはならない。いつまでも『スリープ』には頼れないようだ。

「ともかく、この1ヶ月はこの調子で続ける。その間にレベルの1つくらい上がるだろう。その都度可能な戦略を極めていけばいい。その経験はより強い力を手に入れて別の戦略を用いるようになっても、必ず何処かで役に立ってくる。…さぁ、次へ行こう」

 ジーンはそうして俺達を先導して歩き始める。今一度、彼への尊敬の念を胸に強く抱いた。しかし同時に、以前より明らかに彼との距離が開いてしまったことに一抹の寂しさを覚えた。


 街へ戻る頃には既に日も傾いていた。俺はレシナと装備の修繕依頼を済ませるとそのまま武器屋へと赴いた。早い内からどんな武器がどんな値段で売れているのか確認しておき、今後の計画を練っておきたかったためだ。レシナも誘ったのだが、何やらキィマに相談があるとのことで2人だけで何処かに飲みに出掛けた。わざわざ一番付き合いの長いキィマにだけ話すというのだから、俺が何の相談かを訊くのも野暮だろう。誰も彼女の相談の内容に触れたがる者はいなかった。

 多くの店が路地にテントを構えた簡易なものである中、やはり武器屋は防具屋と同様に小さいながらしっかりした石造りの建物だった。引きの軽い木の扉を開けて入ると、店内は釜戸の熱気に満たされ、この砂漠の極寒の中では寧ろ暖かい様子であった。そしてカウンターの向こうにはポツンと1人の少年が椅子に座っていて、その少年は小川のような涼しくも透き通る声で「いらっしゃいませ」と笑い掛けた。

 店には俺以外に客がいなかった。それもあってか、俺は左右に並んだ武器のことなどすっかり忘れてその少年へと真っ直ぐに歩み寄っていた。

「君、夜中に1人で店番してるのか。まだ若いのに大変だな」

 声を掛けると、少年はコテンと首を傾げて赤い髪を揺らし、黄色い瞳を柔らかく微笑ませた。

「そうでもないよ?僕の番は夜だけだから。午前中はちゃんと寝てるし」

「いや、その歳で昼夜逆転してるのも稀だからな。…歳いくつ?」

「16だよ。先月16になった」

「そうか…」

 やっべ、顔が幼いからもっと下の年齢のつもりで話し掛けてた。失礼極まりない。

「そっか、16か。それなら、まぁ、夜の店番もそんなにおかしくないわな」

「そうだね。…それで、何か買いたいものがあるの?それともオーダーメイドの依頼?」

 少年は特に嫌味もなく、心底不思議そうにそう訊ねてきた。それはそうだ、カウンターの前で長話されても困るだろう。俺も今更本来の目的を思い出して「おっと、悪い」と陳列する武器類の下へと歩き出した。

「どういうのが売れてるもんか確かめに来たんだ」

 そう言って店を見回し、黒い武器が纏めて置かれている場所を見つけて近づく。それらの黒く妖しい輝きを放つ武器の上の壁には『魔鋼製』とあるプレートが貼られている。

 …買うなら魔鋼製だ。普通の武器を買った所で棍棒から大した変化は無い。…俺達が装備し得る武器で安価なのはメイスだが、それでも魔鋼製となると4000クルドにもなる。俺達のパーティの資金は3480クルドだが、ユダ村への移動経費を考えると使える金は更に少ない。…ここからユダ村までは3人分で1125クルド…これを差し引くとメイス購入に使える資金は2355…あと1645クルドか。今日手に入った金が宿代を引いて135クルドだから、1645クルド集めるのに、…何日だ…?んーとね…わかんない。

 暗算に限界が出てきたのでポケットから手帳と携帯ペンを取り出して紙面に式を紡ぎ始めると、カウンターを離れて歩いてきた少年が俺の横に並んで話し掛けてきた。俺の肩ほどの身長の彼が警戒無く見上げる様は、やはり随分と幼かった。

「お兄さんも普段ここに来る討伐軍の人に比べると若いけど、何年くらいになるの?」

「まだ1年にもならないな。先月までアムラハンにいたんだ」

「そっか。…僕ぐらいの子も討伐軍にいたりするの?」

「…まぁ、いるにはいるだろうな。少数派だろうが」

 少年は感慨深そうに「ふぅん…」とコクコク頷くと、遠くを見るような眼で目前に飾られた魔鋼製のロングソードの鍔を指先で撫でる。

「すごいなぁ…。僕はこういうことでしか頑張れないけど、同い年でも危険な所で頑張ってる人がたくさんいるんだもんね。僕も、もっと頑張らないと…。って、言っても安全圏でなんだけどね」

「それだって立派じゃねぇか。場所なんか関係ないさ。お前が頑張れる場所を見つけて頑張ってるなら、それは誇るべきだと俺は思うぜ。…何なら、今からでもアカデミーに入学してみるか?俺も入ったのは15の時だし」

「あはは…。ちょっと、勇気が無いかな。それにお金も無いし。…そういうの、向いてないしね」

 少年は困ったように笑って、少し寂しそうに鍔から手を下ろした。…確かに、少年の言動は必要以上に優しそうで、強く触れれば忽ち傷が入りそうな繊細さも感じる。殺し合いの場には剰りにも不向きだ。こんな時間に店の番をしていることを考えても、決して裕福な家庭ではないのだろう。彼を無理に誘うような真似はどうにも憚られた。

 ふと、そんな彼を見つめながら懐かしい空気を感じた。その正体が分かると、俺は自然と語り出していた。

「…後輩にさ、お前に雰囲気が似てる子がいるんだ。確か、その子も今年で16だったと思う。お前ほど静かじゃないけどさ、大人しくて優しくて、とても戦いなんか出来そうにない、なのに頑張ろうとしている強くて純粋な女の子だ」

「へぇ…すごい…。でも、それだと僕には似てないよ。僕はそんな強くなれないから。…でも、会ってみたいな」

 少年は穏やかに微笑んだ。それが社交辞令だとか話を合わせたとかではないことは、何となく伝わってきた。

「あぁ、会ってみるといいさ。何なら来年再会する予定だから、その後ここに連れてきてやるよ。…言っとくけど、滅茶苦茶可愛い子だぜ。惚れんなよ」

 少年は俺の軽口に仄かに顔を赤らめて、両手と顔をブンブンと振りながら少し身を引いた。

「えっ…あ、いや、僕なんかに女の子をどうこう出来ないよ…!…それに、そんなわざわざ僕のためにしてくれなくても…」

「まぁまぁ、会うだけ会っとけよ。向こうも多分お前とは波長が合うだろうしさ。あ、そうだ。お前、名前なんて言うんだ?」

 少年は未だ顔を赤くしたまま、反応に暫し悩んで俺を見上げ、おずおずと溢れるようにそれに答えた。

「…フィーネ……フラット…」

「フィーネ・フラットか。…へぇ、いい名前じゃん。じゃ、その子にもお前のこと話しといてやるよ。繰り返し言うが惚れるなよ。その瞬間から俺のおとん属性が炸裂するからな」

 フィーネは困り果て、または恥じらうように身を固めて眉を寄せた。こうもからかい甲斐のある奴は珍しいので、少し意地悪くしてしまったかもしれない。笑っていた俺に責めるような眼を向けていたフィーネは、その上目遣いの色調を変えて問い掛けた。表情に大きな変化は無いが、その口調から純粋な疑問なのだろうと分かる。

「その子は、何て言う名前なの?」

「ん?あぁ、女の子の名前か?…ミファリー・ドレヌだ」

「ミファリー…」

 フィーネは俯いて口元でその名前を転がすように呟くと、「綺麗な名前だね」と慈しんで微笑んだ。俺はその返事に満足すると、はたと手帳の計算を思い出し、パッと済ませてポケットにしまった。

 正直武器を選ぶ気分ではなくなってしまったが、さっき思い描いたように一先ずメイスを買えばいいだろう。魔鋼製というのは耐久性だけでなく攻撃力も通常より高いらしいので、その購入でメーティスの攻撃を魔物に対し有効に出来れば、戦況も優勢に傾くはずだ。とにかく13日間資金を貯めてその購入を済ませよう。

「じゃ、今日はこれで帰るわ。また金が貯まってからここに来る。じゃあな、フィーネ」

 そうして唐突に別れを切り出し、後ろ手にヒラヒラと振ってドアへと歩き出すと、フィーネは「えっ?」と困惑して俺を向いた。そして俺がドアノブに手を掛けると、堰を切ったように「待って!」と呼び止めた。

「…まだ聞いてないよ。君の名前は?」

 背に受けて立ち止まった俺は暫しノブの手を見下ろして、自然と込み上げた笑みを沈めてから勢い良く振り返って答えた。

「レムリアド・ベルフラントだ。よろしくな、フィーネ」

「うん。よろしく、レムリアド」

 俺はむず痒い心地で武器屋を出た。どうやら俺はフィーネから名前を訊かれたのが嬉しかったらしい。…きっと、何処までも甘く優しい彼の姿勢に何かを望んだのだ。その彼に認められたと感じて、俺はそれを嬉しく思ったのだろう。

 人間である彼は魔人の俺を受け入れ、そしてならばこそ彼は、召喚師であるミファをもきっと温かく迎え入れてくれる。その子供のような純粋さ故に、いつかは薄汚れた女達に嫌われた彼女であるが、…彼なら、フィーネならミファを真っ直ぐに見つめてくれると感じた。だからこそ俺は、ミファと彼を引き合わせたいと願っているのかもしれない。


 帰り着くと皆、入浴を済ませていた。…入浴と言っても限られた量の水と石鹸で軽く身体を洗う程度のもので、湯船に浸かれる訳ではない。俺もそれをサッと手早く済ませ、またロビーに歩いてアカデミー通信を棚から引き出すと情勢の確認に入った。昨夜はメーティスに気を揉んだため、今夜に回すことにしていたのだ。

 寝間着でソファーに腰掛け、ぼんやりとその雑誌に眼を通していると、大して時間も経たない内に「やっほー」と背中にサラの声が掛かる。今朝の薄暗い雰囲気からこの気軽い挨拶へと、何やら心境の変化が窺えたので俺も一安心して振り向く。「どうも」と笑い掛けてみると、サラも幾分肩の荷が降りた顔つきで笑って頷いていた。

「隣いい?」

「ええ、どうぞ」

 俺はソファーの左に詰めて場所を提供しながら答え、サラは空いた右にバサリと落ちるように座って両脚を放り出した。そして俺の持つアカデミー通信に眼をやると首を振って肩を竦めつつ告げた。

「今月はあんまり大切なことは書いてないよ。殆どが非公開情報にされてるからね。気になることがあれば逐一バーに行くといいよ」

「そうなんですか。道理で雑誌が薄いんですね。じゃあ、また何かあれば行くことにします」

 助言に従って俺は雑誌を棚に返し、また元の位置に座り直す。サラはそんな俺をニヤニヤと意味ありげに笑いながら見つめ、此方が「何でしょう?」と苦笑気味に首を傾げて訊くと「ううん」と小さく首を振った。

「いや、元カノ2人からレムリアドくんのこと色々聞いたからね。ちょっと面白いなぁ、って」

「えぇ…、何聞いたんすか…。あっ、いいです。言わなくていいです」

 ろくな話じゃないだろうなと制したのだが、サラはカラカラと笑って続けてきた。

「違うよ?別に君の悪口とかは全然無かったの。寧ろ、君ってホントに愛されてるんだなって再確認したっていうかね?」

 そう言われると、それはそれで小恥ずかしくて聞きたくなくなる。「そっすか」と適当に返事を返して顔を背けるが、サラはそのまま突っ走っていく。

「今はあんまりそんな感じじゃないけど、前のレムリアドくんって何となくいつも何かに怯えてる感じしてたんだよね。それが何なのか、私にもあの子達にも分からなかったけど、でもそういうのに機敏な女の子は皆やっぱり君を放って置けなかったんだと思うんだよね。その癖君って基本的におちゃらけてたりするから、余計にね」

「そうでしたかね。女子からも男子からも、結構悪口は言われたもんですけど」

「それは、その人達は君を知らないんだから、仕方無いよ。でも女の子は抱えてるものが色々あるからね、君から何かを感じる子もたくさんいたと思うよ。少なくともメーティスちゃんやロベリアちゃんはそうだったと思うな」

「サラ先輩もですか?…まぁ、結構女の子ですもんね」

「おっと、生意気だぞ?」

 ハハ、とサラの返しに笑ってしまい、俺は漸くサラと顔を合わせる。サラは俺の目を見て笑うと、転じて意を決したように佇まいを整えた。俺も少し身構えて眼を合わせた。

「メーティスちゃんのことだけどね、やっぱり暫くは黙っておくのが正解だと思う。今日ドナが言いそうになって、それを止めて思ったんだ。まぁ今言っても良いこと無いし、君だって自分のことで心中は穏やかじゃないと思うしさ。もし責められたら私が口止めしてたことにしていいよ」

「…そんなことはしませんよ。ちゃんと俺が責任を負うことです」

「これは私のお節介から始まったんだから、そうしてもらっていいよって話。逃げ場の提供だよ。…君、無駄に強くなって全部1人で抱え込んじゃってるでしょ?適度に力抜かないと。メーティスちゃんが、ずっと距離取られてるって寂しがってたよ」

 …距離を取っていたつもりはないが、聞いていて、確かに構ってやれていないなと気が付いた。抱えていることも無いのだが、不安を与えたなら改めなければとは思う。

「…その内何処か連れていってやることにします。サラ先輩も相談とか受けたら、すいませんけど付き合ってあげてください」

「ほら、それ!それだよ!もう完全に保護者の眼で見てるでしょ?それが距離感の正体だよ。もうちょっと歩み寄ってあげてよ。あの子、ずっと君の傍にいてくれた子でしょ?可哀想じゃない」

 サラはピッと俺を指差して叱りつけ、俺は予想外の意見にパチクリと瞬いた。…保護者…、俺はメーティスの保護者のつもりになってしまっていたのか。いや、ロベリアにもそうだった気もする。俺は2人を子供として見ていた。…これはあまりいい関係とは言えない。俺からの対応が一方的な上、それは結果として彼女らを押さえ付けていた。彼女らを想っているつもりで、エゴを押し付けてしまっていたのだ。

 ちゃんと、彼女らの気持ちを考えて向き合わなければ。サラの言葉にそう反省した。自分では気付かない内に立場が変わって、見ている景色も変わったりするのだ。そのことに気付かないまま歩いていては、彼女らとの距離は遠ざかるばかりだ。

 ちゃんと足並みを揃えなければならない。彼女らと対等でいたいならそれは重んじるべきだ。俺はまた1度、自らの身の振りを省みることにした。

レム

Lv.14 HP43 MP28 攻55(45) 防68(30) 速45 精15 属性:氷

装備 鉄の鎧(防27) 皮の兜(黒、防11) 棍棒(攻10、耐500)

持ち物 回復薬、筋肉弛緩剤

黒魔法 コールド(50秒間防10低下、消費MP6)、

バイオ(毒、消費MP6)


メーティス

Lv.14 HP52 MP14 攻25(15) 防68(30) 速45 精29 属性:炎

装備 鉄の鎧(防27) 皮の兜(朱色、防11) 棍棒(攻10、耐500)

持ち物 回復薬、筋肉弛緩剤

コマンド 祈り(5秒でMP1回復)

召喚 ガブノレ(5秒でMP1消費)


ガブノレ

HP20 攻30 防20 速30 精15 耐性:なし

行動 引っ掻く、突つく、飛翔、スリープ(相手を眠らせる、消費MP8)


ロベリア

Lv.14 HP54 MP28 攻40(30) 防53(15) 速30 精15 属性:風

装備 鉄の鎧(防27) 皮の兜(黒、防11) 棍棒(攻10、耐500)

持ち物 回復薬、筋肉弛緩剤

白魔法 ヒール(HP30回復、消費MP3)、

パワー(80秒間攻20上昇、消費MP6、10秒必要)、

ノーウィンド(風魔法を無効とする半径10mの空間、5分持続、消費MP12)


ジーン

Lv.24 HP87 MP48 攻165(75) 防250(50) 速46(50) 精28 属性:炎

装備 魔鋼の鎧(防60) 魔鋼の盾(防80) 魔鋼の兜(防60) セネメイト製グレートソード(攻90、速-4、耐7000000)


グルス

Lv.24 HP64 MP48 攻120(50) 防275(75) 速50 精25 属性:氷

装備 魔鋼の鎧(防60) 魔鋼の盾(防80) 魔鋼の兜(防60) セネメイト製ロングソード(攻70、耐5500000)

白魔法 ヒール(HP30回復、消費MP3)、

ノーフリーズ(氷魔法を無効とする半径10mの空間、5分持続、消費MP16)、

スピード(80秒間速10上昇、消費MP8、10秒必要)、

コネクト(行動不能から復帰、HP10回復、消費MP10)



タイガーバード(ティブ)

HP80 MP40 攻80 防40 速60 精10 耐性:なし 弱点:炎、風 経験700 金35

行動 引っ掻く、突つく、飛翔


タイニードラゴン(チビ)

HP70 MP100 攻60 防50 速80 精30 耐性:炎、状態異常 弱点:なし 経験900 金45

行動 噛みつく、飛翔、ファイア


スキドティス(スクト)

HP100 MP10 攻100 防40 速40 精15 耐性:炎 弱点:氷 経験1400 金70

行動 ハサミや鎌で斬る、尾で麻痺攻撃(消費MP1)、飛翔

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