表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/116

第56話 別格の戦場

一週間も掛けてしまいました。

猛省します。すいませんでした。

 馬車を予約して2日後、俺達は遂にアムラハンを旅立った。2日掛けて関所を、また2日掛けてカーダ村跡を通り過ぎ、そこからまた2日目と進んでいた。

 通り掛けたカーダ村の様相は…、まるで、この世の光景とは思えなかった。超人の目を持つ俺達には、遠くからでも克明に見えた。焦土と湖を囲むように残った僅かなジャングルは、一部は内側から燃え落とされたようにくっきりと炭になり、その禿げたジャングルをまるごと包んでいる透明で清らかな姿をした聖水林は、ただその村の虚しさを際立たせているだけだった。村があったはずの中心は干上がった小さな水溜まりになり、灰緑に濁ったその泉に黒々とした木片が浮いたり刺さったりしている、それだけだった。

 …人のいた気配だけが捨てられたようにその村に留まり、それ以外の何も無い。どこにも命が無いのだ。ある時まで人の営みがあったこの場所は、たった一つの事象の下でぱったりとその営みを途切らせた。…そして、その()()()()()とは……。…せめて、この光景を2度と見ることの無いように、俺達が出来ることをやらなくてはならない。

 リッパー、トロール、オーク…その道のりの中で2度の戦闘を経てそれらと(まみ)えた。オークとの戦闘は初めてだったが、それは大して困難でもなかった。普段とそう変わらぬ戦いの手応えに、俺達は少し安心していたと思う。しかし、今日この日、ダルパラグに近づきつつあるこの場所では、俺達がまだ見ぬ恐ろしい怪物が待ち構えていた。

 タイガーバード――虎柄の羽毛を繁らせた大鳥であり、長く鋭い爪を得物とする。通称をティブと言う。

 タイニードラゴン――体長が0.5mと小柄の、白い皮膚に赤い鱗を持つドラゴンである。通称をチビと言う。

 スキドティス――サソリの胴体にカマキリの羽、巨大なハサミの前脚の関節には長い鎌を持つ。全身が白く、大きさはチビと同程度の魔物である。通称をスクトと言う。

 相手は3体、此方は7人。…しかしそれでも、戦局は最後まで難航していた。まず、3体の内で最も鈍足なスクトをまともに相手に出来るのが俺、メーティス、ジャックしかいない。ティブはトロールとほぼ同等と言える実力を持ち、いつもの作戦が通じそうではあるが、敵が複数な上に初戦な分タイミングが掴めない。そしてチビはと言えば、その極端な程の素早さを以てして俺の攻撃をも軽々と避けていく。極め付きには『ファイア』の射出によって遠距離から狙い撃ちされてしまい手も足も出ない。

 様子見に俺はティブを相手にし、ジャック達はスクト、メーティスとロベリアはチビに当てる。それぞれがやや不利な状況のまま戦闘は続き、ふとジャックが焦った声を大きく張り上げた。

「おい!レム、やべぇぞ!キィマとレシナさんが動けねぇって!多分麻痺してるぞこれ!」

「ルイと合流して治してもらえ!俺なりにサポートする!」

 言いながらティブの爪を棍棒で捌き、メーティスにその場を交代させる。ルイは速やかにジャックと合流しに走り出し、俺が彼に代わってチビとの戦闘に入る。それまでルイが模索していた戦い方に倣い、俺は足を止めて棍棒を脇に下げた。

 全身に力を込め、チビの動向を窺いながら1歩ずつ足を進める。近づかれれば防御し、チビが距離を取って開口したら『ファイア』が来るため予測して回避に徹する。1人でスクトを相手取らなくてはならないロベリアに「無理はするなよ!」と声を掛け、同時に視界の外でメーティスが此方へと迫るのを察知した。ティブの気配もしない。

「『スリープ』、何とか掛けたよ!私はどっちに回る!?」

「ロベリアの方に行ってくれ!『祈り』やってもう一度眠らせろ!」

「分かった!」

 メーティスは俺の傍まで来て、指示に従いロベリアの後方へと急いだ。そしてロベリアに隠れながら祈り始め、ロベリアはスクトの攻撃を捌くことに専念する。

 一方俺は少しずつ近づこうと歩きつつ防御し、『ファイア』を放たれる直前に横へと飛び避ける。チビも俺の目論見が分かっているためか接近する様子はなく、飛び回って俺の背後を目指していた。そうした状況の停滞の中、ロベリアが捨て身で取り押さえたことでメーティスはガブノレの召喚でスクトを眠らせることに成功する。ロベリアは尾を胸に受けて全身を硬直させ、どうやら麻痺状態に陥っていた。

「レム、もう少し耐えてて!ロベリアを馬車に逃がすから!」

 メーティスが大声で報告しながらオーバーに馬車を指差すのを見て不可解に思い、彼女がロベリアを背負うのを眼にしてその思惑を察した。俺は頷いてチビへと駆け出し棍棒で殴り掛かる。溜めも短ければ振りも軽い。…それでいい、俺は振り切らずに手を止めて防御し、軽々とそれを避けたチビの反撃を鎧で往なした。チビはそのまま俺の脇を通り抜けてメーティスへと迫っていく。

 メーティスは振り返らない。チビは油断していることだろう。…しかし、俺にはよく分かった。彼女らは単に離脱を目指している訳では無く、一つの作戦を思い付いたのだ。俺はそれを信じた上でチビの後を追い掛けた。

 チビは圧倒的な速度で飛来していき、メーティスの真後ろまで近づく。口を大きく開け、至近距離で『ファイア』を食らわせるつもりのようだった。チビもメーティスが振り返って反撃を仕掛けるくらいのことは想定していただろう。…しかし、振り返ったのはロベリアだ。俺は見ていた。チビの死角になるように手を潜め、メーティスがロベリアの太腿に筋弛(筋肉弛緩剤の略称)を注射したのだ。

 ロベリアは背に負ぶられたままメーティスの脇から棍棒を受け取り、薙ぐように素早くチビへと振り投げた。チビは思わぬ反撃に焦って下降し、地面すれすれを飛びながら接近を急ぐ。ロベリアの動きに引かれるようにメーティスも振り返り、彼女もまたロベリアと同様に棍棒を投げた。2擊目を予想し得ずチビはその棍棒を肩に受け、ベタリと地面に打ち付けられると砕けるようにその場を転がってきた。

 メーティス達は無茶な動きの反動でバランスを崩してそこに転ぶ。次は俺の仕事だ。俺は目下へと地面を擦って差し迫ったチビへと棍棒を叩きつけ、そうして屈んだ勢いのままチビを取り押さえる。そしてありったけのMPを使って『コールド』を掛け、チビの防御力を削いでいった。そしてトドメの一撃を振り翳したその時、チビが身体を起こして藻掻き始めた。

 闇雲に顔を振り回して『ファイア』を乱射し、此方が急いで右手でも押さえると更に乱暴に動き始める。加えてHPが半分を切ったためにチビの身体が汗に塗れ、押さえようにも手が滑ってしまう。…クソッ、もう少しという所で…!俺は歯を食い縛ってチビを背中から押し潰して押さえ込むが、腕力がやや足りていないため10秒が限界だった。俺の腕を跳ね飛ばし、チビは俺から抜け出し飛び立つ。報復とばかりにメーティス目掛けて襲い掛かるチビに、俺も慌てて立ち上がった。

「まずい、メーティス!」

「大丈夫!」

 大声を上げた俺に対し、胸の前で手を組んでいたメーティスはそう言い放ちながら目を開き、余裕そうにチビと向かい合う。ロベリアも緊張した面持ちながらメーティスを信じて背後に待機していた。…何をする気なんだ…?

 見ると、メーティスの正面にふわりとガブノレが現れ、その青い瞳が発光に伴いチビを睨んだ。どうやらメーティスは先程の時間でまた祈りを完了させていたらしい。…これでチビも眠らせ、戦闘を終わらせられる!そう喜んだのも束の間に、チビは『スリープ』の発動を無視してガブノレへと迫っていく。

「え、うそ!?」

 ガブノレは驚愕した声を上げて身を引き、チビの接近に逃げることも忘れていた。チビは怒りの籠った激しさでガブノレの首へと噛みつきに掛かるが、ガブノレはその寸前に消え去り、チビは空気を噛み砕いてそのままメーティスへと突進していった。おそらくは、メーティスのMPがガブノレを1秒召喚する程度しか残っていなかったためだろう。

 俺は更に足を速めた。このままじゃ2人が危ない。焦る俺と同様にメーティスも慄いて脚を震わせて顔を青くし、しかしその間にもチビは目の前まで近づいている。駄目か…!と思われたその瞬間、ロベリアはメーティスを押し退けて飛び出し、チビの前脚を手早く掴んでその場に押し止めた。首と肩をチビに押し付け、チビの口が自分を向かないように押さえると、「レムくん!早く!」と叫び上げた。

 早く、速く…!焦る気持ちのままに俺は雄叫びを上げ、着地も考えず飛び掛かって暴れるチビの背中を打ち砕く。続けざまに休まず棍棒で叩きつけ、ロベリアが手を離したと同時にチビが黒ずんで灰となり戦いの終わりを悟った。

 息を上げて棍棒を下ろした俺にメーティスとロベリアは大きな溜め息をつき、「…戻ろう」とメーティスの一言で棍棒を拾って馬車へと乗り込んだ。…ロベリアがチビを止められたのは、メーティスの『祈り』と同時にロベリアの『パワー』使用があったためなのだと後の道程で聞かされ、今回の戦いは殆どまぐれに近い形で全滅を免れたのだと悟った。ルイの負担を考えてアムラハンで3人分筋弛を買っておいたのも、この戦いを助けてくれた。…戦い方を考えなければならない。


 また2日経ち、俺達は何とかダルパラグへと辿り着く。夜の砂漠は極寒なれど、一先ず街に着いたことに多大な感動を覚えていた。その喜びは舌をざらつかせる砂吹雪の不快すらも跳ね退けた。

 しかし、パーティの現状は無事とは言い切れない。途中にまた1度戦闘があり、そこでは『スリープ』と『フリーズ』による無傷の離脱を目指したにも関わらずレシナとロベリアを行動不能にされてしまった。足の遅いレシナとキィマにはチビのいる戦闘は過酷過ぎたのだ。ロベリアもキィマを庇う形で行動不能に陥っていた。

 …俺達にはこの周辺での戦闘は厳し過ぎる。ユダ村を目指して早まり過ぎた。もっと慎重に、長い時間を掛けてここを目指すべきだったのだ。リザードは俺達なら問題ないと言ってくれていたが、どう見ても問題大ありだった。

「ここまでの送迎、ありがとうございました」

 俺は皆を代表してこの8日間を付き合ってくれた馭者に礼を伝えた。その後ろではレシナがルイ、ロベリアがキィマに背負われ、ジャックとメーティスで馬車の連結錠から荷車2つを取り外す。馭者は荷車を引っ張って馬車後部から離れた2人を見届けて、

「いえ、此方こそ。かなりハラハラさせられましたが…。…今日はもう診療所はやっていないでしょうから、手術にしろ薬にしろ、そちらのお2人の処置は明日に回すしか無いでしょう。ともかくお疲れ様でした。今後ともご利用お願いします」

 とレシナとロベリアを見やり一礼する。乗車料金は前払いなのでそのまま解散となり、馭者が去っていくのを見送ると俺達も宿へと急いだ。…仕方ないので、馭者が言うように2人の回復は明日に回すとしよう。2人も戦闘で汗を掻いただろうが、今日は入浴は断念してもらう他無さそうだ。食事を摂るのもトイレの問題が出てくるので諦めてもらおう。

「…まぁ、仕方ないわね…。私がヘマをしたのだし」

 レシナは深い溜め息を溢してそう諦め、ロベリアも同様に溜め息を溢す。ルイが笑い掛けてレシナに振り向き、

「…嫌じゃないなら、俺が身体洗ってあげようか?」

「…それも悪くないけど…。…いえ、そうね。お願いするけど、変なことはしないようにね」

 ルイはピクリと肩を揺らし、レシナの返答にハハハ…と渇いた笑みを返す。キィマも悩むことなくロベリアを向き、

「じゃ、じゃあ、私もロベリアさんのお風呂手伝うよ!」

「えっ!?い、いや、それは…いいかな…。私は今日は入らなくてもいいよ」

 ロベリアは苦笑いでキィマの申し出を丁重に断り、「あ、ごめん。そうだよね」とキィマは後からその提案が変だと気付き謝っていた。荷車を引きながら、ロベリアをじっと見ていたメーティスは、んー、と少し悩んだ後に首を傾げて声を上げた。視線は俺を向いている。

「それなら、今日はもう全員入らないでいいんじゃない?私はベッドで寝れればそれでいいよ」

 俺は決を取るべく全員を見回し、視線を受けた仲間達はロベリアを見てそれに頷いた。俺もそれに異論は無い。1人だけが遠慮して、仲間外れのようになるのは誰にとっても気分の良いものではないだろう。第一、ゆっくり休めればそれでいいというのも本音だ。

「分かった。じゃあ、今日は夕食も風呂も辞退しよう。皆、それでいいな?」

 夕食も!?と大半が驚いた顔をしたが、それでも渋々頷いてもらえた。明日2人が復帰したら必ず宿に泊まり直そう、と心に決めて勘定の計算をしながら宿を探し歩いた。


 オアシスの傍に宿はあった。砂漠の真ん中で緑を生やすオアシスは、月を映した水面をゆらゆらと波立たせ、静かに見るものを癒してくれる。…こういう光景を見られるのも旅をする者の楽しみの一つだろう。色々と考えなければならないことはあるが、これを見られたことはダルパラグに来て素直に良かったと思う。

 宿は他のものと同じく屋根らしい造形の無い長方形の建物ながら、やはり他に比べるとその軒高は高かった。メーティスとジャックを荷車の見張りのため外で待機させ、残りは木製の大きな扉を開けて宿へと入る。ロビーは朱色の明かりに満たされて暖かく、それだけでもう胸が一杯になりそうだった。旅の疲れでもう限界なのだろう。

 外の2人もすぐに迎えてやろう。俺はレシナの代理としてルイに書類の記入を命じ、急ぎ足に2パーティ分の受付を済ませる。ギリギリ2部屋空いていたので男女別に取ることに決め、一方の部屋の鍵はキィマに渡した。…ロベリアとレシナの世話を女子に任せきりにしてしまうが、他にどうしようもないだろう。

 悪いけどよろしく、とキィマに告げようと頭を下げかけた所に、ふと聞き覚えのある明るい声が横から聞こえてきた。俺はその声に逸早く気が付いて、顔を上げてそちらを向いた。

「あれ?もしかして…レムリアドくん?」

 かつてアムラハンの宿の前で見た4人組がロビーの中央に固まり、その中心に立っていたサラが俺を見てそう呟いていた。そして俺の顔を確認すると、「あ、やっぱり!」と嬉しそうに笑って駆け寄ってきた。あとの3人もサラに同じく黒い防具を身に纏い、腰や背中に付いた専用のホルスターに各々血のような赤色をした武器を納め、サラの後ろを笑って歩いていた。ジーンも懐かしむように俺に眼を向け、「久し振りだな、レムリアド」と声を掛けた。

「サラ先輩!ジーン先輩も!お2人もこの街に来てたんですね!」

 旅路の邂逅に感激し、我知らず声を大きくして身体を向けた。仲間達は面識が無いので『誰?』と俺に視線で訴えていたようだが、俺はそれにもすぐに気づけない程舞い上がってサラに笑い掛けていた。

「うん、3日前からね。レムリアドくん達は今日?」

「あぁ、はい。さっき着いたばかりです。…まぁちょっと、色々と無理して来てしまったんですけど…」

「無理って?」

 バツが悪く頭を掻きながらレシナ達を振り向き、サラもそれを追って彼女らを見つめる。そして背負われる2人の黒褪せた肌を見て、「あらら…」と納得した様子でコクコク頷いた。サラは自分の仲間に顔を向け、

「グルスくん、お願いしていい?」

「…ああ」

 グルスと呼ばれた瞳と短髪が暗い紫の痩せた男が、小さな声で返事をして頷くとゆったりと身体を揺らしてレシナに近づいた。レシナが警戒し、俺が不思議に思って見ていると、グルスはレシナの肩に手を置いて『コネクト』『ヒール』とまた小さく唱えていた。レシナはその魔法を受けて肌を平常の色へと還し、驚いた様子で自分の手を持ち上げたりした。

「あ、ありがとう、ございます…」

 レシナはルイの背を降りてぎこちなくグルスに頭を下げるが、グルスはそれを無視して次にロベリアの処置を行う。愛想が悪いように見えてしまうが、よく見ると頬が赤らんでいるのでどうやら照れているだけのようだ。…眺めながら勝手に好感を抱いていると、ロベリアの回復を見届けたサラが俺にまた声を掛けてきた。少し声音を低くして、窘めるような様子ではあるものの、その口調は穏やかだった。

「レムリアドくん、無理させちゃ駄目でしょ!ちゃんとアムラハンで時間掛けて準備しなくちゃ!」

「いや、俺達が言えたことでもないだろう、それは…」

 眉を少し寄せて俺に詰め寄っていたサラの後ろから、ジーンが苦笑いしてそう呟いた。うぐっ…とサラは苦い顔をして俺から心持ち下がっていき、戻っていったグルスを出迎えて歩み出た仲間の女性も「ウチらもおんなじことしてたよねー」とケラケラ笑って言った。「うるさいドナ」とサラは決まり悪そうに顔をしかめて彼女を睨み、ドナと呼ばれた黄緑の長髪の女性はわざとらしく口笛を吹いた。

「ま、まぁ、…次から気を付けようねレムくん。パーティに無理させちゃ駄目よ」

「は、はい。気を付けます」

 グダグダした空気の中サラの忠告に素直に頷いておき、サラもうむと納得したように頷いた。そして互いに肩の力を抜くと、今度は俺達をずらりと見渡したジーンがサラの隣に進んで俺に問い掛けた。

「ギリギリでも自分達だけでここまで辿り着いたのは大したことだ。だが、今後はこの周辺での戦闘で収入を得なければならないだろ。お前達だけでやっていけるか?」

 流石は先に卒業して経験があるだけのことはある。ジーンは早速俺達の問題の核心を突いてきた。実際それを解決する手立てが見出だせていなかった。このまま行くと毎回レシナとロベリアのように危険な状態まで追い込まれる者が出てしまい、最悪死者まで出しかねなかった。

「…実は、少し…厳しいかと…」

「まぁ、そうだろうな。鉄の鎧はまだいいが、武器がトロールの棍棒ではあまりに厳し過ぎる。…今、お前達のレベルはいくらだ?」

「14ですね」

「…14か。本当によく全滅しなかったもんだ」

 ジーンは感心なのか呆れなのか腰に手をやって息をつき、暫し俺の目を凝視した。それから俺の後ろで状況が掴めていない皆を見回して、もう一度俺の顔を見ると、願ってもない提案を伝えてきた。

「しばらくレベル上げの面倒を見てやろうか?」

「えっ…」

 俺は思わず驚愕を声に出した。改めて彼らの装備を見て、その実力の程がはっきりと伝わり頼もしさで胸が膨らむ。もし本当に彼らが手を貸してくれるならこれ程心強いことはない。

 レシナ達も息を呑み、俺が振り返ってそれぞれに眼を合わせると、その提案への期待を露にした。俺はジーンに向き直り、「…い、いいんですか?」と確認する。ジーンは深く頷いて笑うとサラに顔を向け、

「構わないだろ?ここにはどのみち暇潰しで来ただけだ。最初から本腰を入れて資金を集めている訳でもない」

「んー…そうだね、私はいいよ」

 サラは穏やかに微笑んでグルスとドナに視線を移す。グルスは黙ったまま表情も変えずゆっくりと頷き、ドナは「賛成~!」と剽軽(ひょうきん)に手を上げた。サラはまたジーンに笑い掛け、ジーンはそれに頷くと俺へと視線を戻す。

「そういうことだ。どうする?お前達が自分でやりたいというならそれでもいいが」

「い、いえ!協力してもらえたら本当にありがたいんですけど…。…生憎、お返し出来るものが今のところないので。…さっきグルスさんにしてもらったこともそうですけど……」

「礼は当然してもらおう。ビジネスはビジネスだ。…だが、それは今じゃなくていい。その内俺達がお前達に頼ることがあるかもしれないからな。これは先行投資だ」

 ジーンはそう言いながらも優しく笑っていた。…ふと扉の方を見るとジャックとメーティスも顔を出し、話を聞いていたのかじっと俺を見つめて繰り返し頷いていた。

「…じゃあ、明日から、よろしくお願い致します」

 俺は深く頭を下げ、続いて仲間達も礼をした。7人同時に謝意を示され、ジーンはサラと照れ臭そうに顔を見合わせ、「ああ、よろしく」と笑って了承した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ