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第51話 旅の手始め

どろろとデビルマンは小学生の頃のバイブル

リメイクが楽しみです

 見上げた空は既に深淵の藍と化し、草原は夜風に撫でられ笑うように蠢いている。半日もの間、アムラハンの周辺を離れ過ぎぬようにグルグルと回り、その空に溜め息をつく頃、漸く初めての実戦を経験することとなった。

 相見えたのは紫の布切れを身に纏う4体のローズトード。それぞれが紅色の肌を粘液で光らせ、顎から股に掛けてはシワくちゃの渇れた黒い肌をしていた。灰色の虹彩から切れ目のような細い瞳孔が覗き、それは俺達を眼にして大きく開かれていった。

 戦闘時の指揮は俺に、次点でレシナに任されている。この戦いも俺が主導し、俺は1人で1体、残りは2人ずつで対処するように指示を出した。メーティスはロベリアと、他はカップル同士での共闘となり、それぞれがあの実技試験の戦闘を思い返して応戦し始めた。

 初めての実戦な上に俺は1対1だ。最初の指示を出して以降、俺は一旦全員を忘れて自分の戦いに集中しなければならなかった。溜めもなく放たれ、腕に絡みつく青い舌。捕まればそれを解く術もなく、『バイオ』とタックルが待ち構えている。

 俺は呆気なく舌から毒を貰うが、同時に俺からも舌に触れて『コールド』を仕返した。ローズトードは舌から全身へと白く輝き、その冷気に凍えて身体を脆くしていく。しかしローズトードがそれに臆すことはない。直ぐ様高速で突撃を仕掛けられ、俺はその場に立ち止まって身を固めて待ち受けた。

 その肩の衝突を受けた胸は肉体硬化の防御を以てしても抉れて血を噴き出し、俺の足は地面に靴底を引き剥がされつつ後方へ滑った。血塗れの足と胸は即座に赤黒い繊維を伸ばして修復する。

 俺は左手でローズトードの頭を押さえ込んで『コールド』を掛け、振りかぶったアッパーを放つ。ローズトードの舌は上空に打ち上げられた拍子に根元から千切れ、俺は再び地を踏み締めて跳び上がる。そして上を向いたまま身動きも取れないローズトードに追い付くと、その細い後ろ脚を握り締め、背中目掛けて連続の殴打を食らわせる。

 ローズトードは汗に濡れ、俺はその身体を引っ張って地面へと叩きつけた。ビタンと平らくなって地面にめり込んだ大の字の紅色は黒く褪せていき、俺は着地してその頭を拳で打ち抜くと透かさず残りの戦闘に加入し、途中ルイの『デトクス』を受けて解毒した。残されたローズトードの死体は灰のようにパラパラと空へ舞い上がって消えていった。

 …スペックはアービアンより少し高いが、行動パターンは基本同じようだ。もう戦い方は大体把握した。今後も金が十分に貯まるまでこうして素手の戦いが続くだろうが、この調子ならそれなりにやっていけるだろう。俺以外のメンツも手助けはあまり要らない様子だった。

「何とか、初戦は勝利だな…!」

 戦闘後、ふぅ、と疲れた溜め息を吐いて笑うルイの発言に、レシナはフッと笑みを溢し、その首筋に触れながら「はい、お疲れ様でした」と『ヒール』を掛ける。ジャックも『ヒール』により自分とキィマのHPを回復し、その後はローズトードの遺留品を漁っていた。ローズトードの死後には紫の布切れが残り、その裏側をひっくり返して見てみるとそれぞれ小さな赤い巾着、『耐火袋』を引っ付けている。耐火袋の中には4クルドが丁寧に広げてしまわれ、それが合計で16クルドに達していた。

「おい、16クルドだってよ。高額には高額だけど命懸けたんだからもうちょい欲しいとこだよなぁ」

 ジャックは不満たらたらに不貞腐れて笑い、ヒラヒラとその紙幣を振って見せている。俺はメーティスの番が終わって駆け寄ってきたロベリアに腕を触られて『ヒール』を施してもらい、ジャックの文句に笑って答えた。

「2パーティで分け合うから取り分は8クルドだな。今後もこんな感じで少なくなるが、鎧くらい手に入るまでは一緒に戦うことにしたい。どうだ?」

「いや、俺達もお前らがついてくれるのはありがたいしいいけどよ、これじゃあ途方も無ぇなって思っただけだ」

 ジャックは手柄の半分をレシナに、もう半分を歩いてきて俺に渡した。拳に付いた血をうへーっと苦い顔をしてハンカチで拭いていたメーティスは、ふと俺に歩み寄って恐る恐る訊ねてきた。

「ねぇ、街で市民の方々から支援を受けた方が良かったんじゃない?金羽根手帳を見せてお願いすれば物貰えるんでしょ?…もう他のパーティが全部貰っちゃってるかもだけど…」

 金羽根手帳というのは、討伐軍にとっても身分証のようなもので、これを持つことで討伐軍としてのあらゆる権限を行使することが出来る。報告書の投函や、装備の修繕をアカデミーに負担してもらうことも出来れば、メーティスが言ったように市民から支援を任意で受けることも出来る。…その辺りのことは俺も先日レシナと相談して、既に決めていたことだった。

 俺がそれに答えようとしていたが、俺の場所まで皆を連れて歩いてきたレシナが首を振って答え始めた。メーティスはレシナが得意では無いようで、その返答に対し肩をやや竦めて困り顔になっていた。…いつかは『大人っぽくてかっこいい人』とレシナを評していたメーティスだったが、今では少し評価が違うようだ。

「それもあるだろうというので、どうせ他のパーティと取り合いになるくらいなら次の機会に回すことにしたのよ。レムリアドくんとも話したのだけど、他の街に移るタイミングが来たら支援を募るのが妥当よ」

「あっ、…そ、そっか。…うん、分かった」

 レシナは真っ直ぐメーティスの目を見ようとしているが、メーティスは眼を逸らして愛想笑いしているだけで会話も終わってしまう。俺はポンとメーティスの肩に手をやって笑い掛け、

「今支援されても貰った物を置いておく場所も無いからな。これ以上手で持つにも限界がある。荷車を買うために50クルド要る。テントだって荷車が無きゃ運べないしさ。…まぁそもそも、恵んでもらう立場の俺達が他のパーティと争うなんてのは支援する側にだって失礼だろ」

「わ、分かったってば…。うん、そうだよね。失礼だよね」

 メーティスは顔を赤くし、ムッとして俺の手を肩から外させると、ふと何か気付いてロベリアに顔を向ける。ロベリアは引き攣った表情をしており、メーティスはロベリアと俺の話に感じたものがあったらしく徐々に同じ顔をし出した。

「…テントとか買ってないけど、…初日だし宿なんて贅沢はしないつもりなんでしょ?…ってことは、今日ってもしかして…野宿だったりする?…テント無しで…」

 ロベリアの一言にメーティスはより一層嫌な顔をする。レシナやキィマは別に何とも思わない様子で、男性陣も…ルイがレシナを気にしているの以外は特に嫌ではない様子だ。俺も野宿くらいどうとも思わない。

「まぁ、野宿って言っても街の中…門の傍の広場だし、ね」

 キィマは2人に微笑み掛けて説得する。それでも2人は嫌そうだったが、そこへレシナが俺を向いて提案した。

「レムリアドくん、私達4人の所持金をまとめて52クルド…この8クルドと合わせて60クルドになるわ。荷車が1台買える。テントを2つ買って、それを一先ず全員の荷物と一緒に荷車に積みましょう。そうすれば少なくとも地べたに寝たりせずに済むわ」

 メーティスもロベリアもそれを聞いてパァッと目を輝かせ、訴えるように俺を見つめる。俺は苦笑してそれに頷いた。

「…ああ、そうだな。うん、了解だ。…なら、今からアムラハンに戻って、手分けで買い物を済ませよう」


 そうして草原に放り投げていたバッグを手に街まで戻るも、時刻は日を跨いで2時に差し掛かっている程度だった。アカデミーの討伐軍支援局はこの時間でも辛うじてやっているかもしれないが、テントを買うことは出来ない。このまま荷物でも枕にしてタイルの地べたに眠るのか、再度フィールドを練り歩いて夜を明かすのか、どちらがいいかと訊ねると満場一致でフィールドに出ることに決まった。

 そこから昼間まで街の外で過ごし、また1回の戦闘を経て帰り着いた。そのお蔭で俺達の所持金も合計して50クルド以上まで集まり、荷車は2台買うこととなった。50クルドをロベリアとレシナに握らせて、残った俺達でテントを見繕う。聖水林と門を通って街へ入ると早々に別れ、荷物は肩に提げたまま街の北西区にある服屋へと赴いた。その服屋の奥に防具店があり、そこにはテントや聖水をはじめとする旅の必需品も販売されていた。

「聖水はまだ買わないんだよな?テントだけか?」

 コトンと音を立てて売り場の棚から聖水瓶を1本取り上げたルイは俺に振り返ってそう訊ねた。ジャックは真っ直ぐテントを見に行き、それについて行ったメーティスと一緒にあれだこれだと色を選んでいた。キィマはそんな2人の子供を後ろで苦笑いして窘めている。…あいつら絶対見た目とかでしか選ばないだろ。早く止めないと…。

「ああ、そうだな。聖水は魔物を退ける気体みたいなのを発するものだから、歩きながらじゃ効果があまり無いんだ。だから街の外で野宿するとかじゃない限りは使い道が無い。暫くは使うことは無いと思うぜ」

「そっか。まぁ、今はどちらかというと魔物を呼び寄せるものの方が欲しいくらいなんだけどな」

 ルイはまたコトンと音を立ててそれを戻し、俺と並んでジャック達の下へと歩く。ジャック達は俺達が近づくとすぐに振り向き、ジャックは傍の棚に横たわったテントを親指で指しながら、メーティスは俺の服の裾をグイグイ引っ張りながら声を上げた。

「おいレム、赤にしようぜ赤!広場にいた奴ら皆テントの色ダサかったし箔が付くぜ!」

「レムレム、一足先に靴選んでよーよ!もう素足で歩きたくないし!」

 自由だなぁこいつら。

「もうっ、ジャック!そういう子供みたいなことするのはやめて、恥ずかしいでしょ!?」

 キィマは呆れ半分羞恥半分に顔を赤くして後ろからジャックの両肩をギリギリと掴む。ジャックの肩は今にも折れそうに歪んでメシメシと音を立てていた。

「アッハイやめますカーキとかにしま―――ィダダダダッ!」

「毎回毎回、恥を掻くのは私なんだから!」

「分かった!分かったから放せ!折れる折れる折れるゥッ!」

 仰け反って痛がるジャックになおも睨みを利かせているキィマの姿は、まるで躾をする母親のようにも見えた。…っていうか、ジャックの奴キィマさんにも下手に出てるし。

「ねぇレムー、いいでしょー?買おうよー」

 メーティスはジャックの惨状になど一切興味を払わず未だ俺の服を引っ張っていた。ルイが2人の仲裁に出向いたので俺はそれに任せることにしてメーティスと顔を合わせた。

「まぁそうだな。ロベリア達が靴選んでる間も荷車を見張る奴がいないといけないし。テントはまぁどれでもいいんだから、俺らで選んどくよ。何か希望あるか?」

「うん、ありがとう!あんまり目立つのじゃなかったら何でもいいよ!」

「ん、了解。気をつけて行けよ」

 小遣いを渡してメーティスがパタパタと駆けていくのを見届け、俺は残ったメンバーを見渡すとキィマに顔を合わせた。キィマは走り去るメーティスと俺を見て、ジャックから手を離して身体を俺に向けた。なお、ジャックはしゃがみ込んで両肩を擦っている。

「キィマさん、そっちのパーティの分は君が選んでくれ。こっちのは俺が選ぶことになったから」

「あ、うん。分かった」

 キィマは素直に頷いてテントを手に取り選定していき、ジャックは俺がその隣に立ってテントを選び始めると、あいやまたれい!というように手を突き出して俺とキィマの間に割って入った。

「おいてめぇ何キィマと肩並べてんだ、ぶっ飛ばすぞ!」

「いや、そんな気はこれっぽっちも無いから安心しろ。つーか、お前らはもうちょっと真面目に買い物しろよ。一応これは仕事の買い出しだぞ。遊びじゃねぇんだから」

「おいてめぇ『これっぽっちも』って何だ!人の彼女バカにすんなこの野郎!」

「面倒臭いなお前!」

 ジャックは若干訳が分からないキレ方をして俺に掴み掛かり、キィマはその後ろで顔を赤くしながらせかせかとテントを漁っている。…いや、止めて!キィマさんこいつ止めて!

 「お前らって…え、俺も?」と不服そうにルイが独り言ち、そうは言いながらもジャックの腕を掴んで俺から引き剥がした。

「じゃあ、俺らも先にフィールド探索用の靴探してきていいか?ついでに防具の相場を見て来るから」

「おぉ、助かる。此方もテント決めたら行く」

「ああ。…行くぞ、ジャック」

 ジャックはぐちぐち文句を言いながらも連れ拐われていき、その場には俺とキィマだけが残る。ジャックが残していったその何とも言えないムズ痒い空気に堪り兼ね、テントを1つ片手に持ち上げ不作法ながら軽口を叩いた。

「ジャックと、上手く行ってるみたいだな」

 俺からこんなことを言われるとはキィマは思わなかったらしく、驚いた様子で見開いた目を俺に向けて緊張気味に頷いた。…ろくに話したことも無いのに出していい話題ではなかった気がする。

「う、うん。…あっ、いや、どうなの…かな」

「いや、2年以上付き合ってて、今でも仲良くしてるみたいだからさ。見てて安定してるっていうか。…そういうの、羨ましいなと思った」

 キィマは丸くしていた目をふわりと細め、どこか物憂げに虚空を見据えると、取り繕うように微笑んで首を傾げた。その様子が何故だか酷く悲しそうに見えたが、他人が踏み入っていいこととは思わないので気付かないフリをした。

「…レムリアドくんって、何だか思ってた感じと違うね。私が見掛けた時はいつも眉間にシワを寄せてて、大会の時も…鬼人っていうか、おっかない感じがしてた。…その後も噂で聞く人物像は…女の子には、ちょっと怖い人みたいな感じがしてた。…ジャックからはそうじゃないって教えられてたんだけど、何かピンと来なくて…」

「…俺も余裕が無かったからな。それを免罪符にはしないつもりだけどさ」

「…うん、そうみたい。今こうやって話してると、…ジャックが言ってた通りの人だね。…凄く、純粋な人」

 キィマはうっとりするような優しい目で微笑み掛け、俺はその視線を受け流してテントを棚に戻し、「それはありがとう」と簡単に片付けた。…俺は『純粋な人』などではない。しかし、折角の称賛を無下にする行為は謙虚の押し付け、所謂自己満足だ。軽く受け止めて礼を言うのが両者にとって一番なのだということを近頃は悟っていた。

「ジャックの奴、迷惑掛けてないか?良い奴ではあるんだが、どうも直感で行動する節があるからさ、君が振り回されてないか心配だよ」

 こうして速やかに話題を変えるのも、この半年で身に付けた空気を悪くしないための知恵だ。以前に増して他人に気を遣う癖がついたように思うが、そうして取り繕うことに嫌悪感は無い。寧ろ自分の意に反して他人を傷付けるようなことが減ったので、自分では良いことだと思っている。気を遣わない相手はジャックやルイくらいなものだが、まぁあいつらは別に大丈夫だろう。

「そうなんだよね。いっつも突っ走ってくから、私は疲れてばっかりだよ。…馴れたけどね」

 キィマはうんざりしたような大きな溜め息をついた。しかし、その表情は朗らかで、頬には赤みが差している。…本当にジャックが好きなんだな、と察すると此方も妙に照れ臭くなった。

「これからも良くしてやってくれよ。あいつ、きっといつまででも君を大事にするはずだからさ」

 自信を持ってそう言えた。キィマは俺と顔を合わせたままその言葉に耳まで赤くなり、顔を伏せて「…はい」と小さな声でぽしょりと呟いた。その返答に満足した俺はテントの列に眼を戻したが、視界の端で唐突にキィマの顔が青冷めて強張った気がした。


 無事にテントを買い求め、それを他の客の邪魔にならぬよう縦に抱えたままメーティス達と合流すると、地味な色だとジャックから文句を言われた。…寧ろ赤とか他のパーティに角が立つし馬鹿っぽいんだよなぁ…。因みに色は両パーティともベージュに決めました。

「靴はもう選び終わったのか?」

 キィマから無言でテントを受け取るジャックとそれに赤面する彼女を尻目に、メーティスにそう問い掛けた。メーティスは手に持った買い物袋の中を広げて見せながら、嬉しそうに頷いた。

「うん、可愛いのあったよ!ルイ達もさっき選んできた」

「そっか。じゃあ俺も適当に選んで来るかな」

 そう告げておきながらテントを抱えていて動くに動けない俺に、メーティスが「ん」と両腕を広げる。助かる、と礼を言ってテントを渡しかけたが、ふと思い至ることがあって俺はその手を止めた。

「なぁメーティス、着替えとかのことだけどさ」

「ん?なに?」

「職業柄そんなに高い頻度で着替える訳じゃないし、持っていくのは私服と寝間着2着ずつ程度でいいと思うんだ。要らない物は今日ここで売ってしまってくれ」

 平然と告げた俺に暫しきょとんとしていたメーティスは、その発言を理解し始めると一気に顔を強張らせて憤慨し、

「ちょっ、何言ってるの!?女の子に要らない服なんか無いよ!全部必須アイテムだよ!」

「そうは言ってもな…、邪魔になると困るし…」

「そう言うレムはもう売ったの!?」

「売ったよ、ほら」

 身体を傾けて日用品を詰めたバッグを見せ、メーティスはそれをポンポンと叩いて中に服が少ないことを確認すると恐ろしいものを見たように目を見開いた。しかし、とうとう観念したのか苦虫を噛み潰したような顔のまま拳を震わせて、

「…じゃあ…私服は1着残して新しいの買う…いい?」

「お、おう。まぁ、何だ。私服3着にしても大丈夫かもな。2着残して1着奮発して買って来ていいぞ」

「…分かった」

 メーティスは別れを惜しむようにバッグを見つめながらトボトボと洋服売り場へ歩いていく。その背中を見送っているとルイが歩み寄ってテントを取り上げ、

「それ持っとくよ。靴選んできたらどうだ?」

 俺は素直にそれに頷き、「あぁ、サンキュー」と手を振ってフィールド探索用品のコーナーまで歩いていく。キィマは女の子にしては淡白なのか、先に靴を選び終えていたらしく入れ違いに去っていった。その背中にメーティスと合流するように伝え、そのまま自然に事が進んでくれるように祈った。

 …ちょっと可哀想だったかな。けどまぁ、仕方ないかな…。

 上手いやり方が無かったかと思案しながら陳列する靴の前に手を彷徨かせ、やはりどうしても荷物が嵩張るなと納得せざるを得なかった。気持ちを切り替えて靴を選んでいると、少し遠くに並ぶ戦闘補助用具に眼が留まる。

 …もしもの事があってはいけないし、早い内に離脱手段として何か買っておくべきだろう。次の戦闘で金が入ったらレシナと相談してみようか。

「お前さん、連れの子らとは回らんのかい?」

 ふと背後にヨタヨタと現れた背の低い丸眼鏡の老人が、気配に気付いて振り向いた俺に、少し心配したような声音でそう訊ねてきた。青いオーバーオールとカウボーイハットを身につけ、シワだらけの華奢な身体つきの彼は、奥深く洗練された灰色の瞳を向けていた。

「あぁ、いえ、今は俺個人の買い物なので。靴を選んだら合流するんです」

「あぁ、何だそうかい。いやぁ、そんならいいんじゃ。どうやら背中が寂しそうにしとったもんだから気になったんじゃよ」

「…寂しそう、ですか…。…御気遣いありがとうございます。このお店の方ですか?」

「うむ、ここの店長をしとる者じゃ。他の街の防具とは防御力で見劣りするかもしれんが、デザインの多彩さでは一家言持ちじゃぜ。お前さんも1つ買っていかんか?」

 その老人はニカッと少年のような輝く笑顔で胸を張って告げ、俺もその快活さに感化されて笑みを湛えながら正面を向いた。身長は明らかに俺の方が上だが、俺にはその老人が大きく見えた。

「今は金が足りませんから、もう数日もすればお邪魔しますよ」

「おう、いいやつ見繕っとくぞ!」

 カッカッカッと老人は愉快そうに笑い、背を向けて小さい歩幅で立ち去っていく。俺も靴選びに戻り、また新たに手に取って見ていると、「おう、お前さん」と老人は遠くから声を掛けてきた。振り向き、更に小さく見える老人と顔を合わせ、その老人の真っ直ぐで明るくも深みのある眼に心を奪われた。

「あんたァ、まだ若い。もっと地道に大人を目指してもええじゃろう。焦る必要なんざ最初からありゃせん。若い内は存分に若さを楽しむべきじゃ。まぁ好きにするのが一番じゃが、せめて後悔の無いようになぁ」

 老人はまた背を向けて歩き出す。その小さくも大きな背中を眺め、その姿が曲がり角に消えていくと、俺は自分の身の振りを改めて思い返した。

レム

Lv.12 HP39 MP24 攻39 防31(26) 速39 精13 属性:氷

装備 旅人の服(防5)

黒魔法 コールド(50秒間防10低下、消費MP6)、

バイオ(毒、消費MP6)


メーティス

Lv.12 HP46 MP12 攻13 防31(26) 速39 精25 属性:炎

装備 旅人の服(防5)

コマンド 祈り(5秒でMP1回復)

召喚 ガブノレ(5秒でMP1消費)


ガブノレ

HP20 攻30 防20 速30 精15 耐性:なし

行動 引っ掻く、突つく、飛翔、スリープ(相手を眠らせる、消費MP8)


ロベリア

Lv.12 HP48 MP24 攻26 防18(13) 速26 精13 属性:風

装備 旅人の服(防5)

白魔法 ヒール(HP30回復、消費MP3)、

パワー(80秒間攻20上昇、消費MP6、10秒必要)、

ノーウィンド(風魔法を無効とする半径10mの空間、5分持続、消費MP12)


ジャック

Lv.12 HP42 MP36 攻26 防31(26) 速39 精13 属性:炎

装備 旅人の服(防5)

白魔法 ヒール、パワー


ルイ

Lv.12 HP52 MP24 攻39 防44(39) 速26 精13 属性:風

装備 旅人の服(防5)

白魔法 デトクス(状態異常解消、消費MP5)、ノーウィンド


キィマ

Lv.12 HP32 MP24 攻13 防18(13) 速26 精15 属性:氷

装備 旅人の服(防5)

黒魔法 コールド、

フリーズ(防20低下、10秒停止、消費MP12)、

バイオ、スリープ


レシナ

Lv.12 HP20 MP36 攻13 防31(26) 速13 精14 属性:風

装備 旅人の服(防5)

白魔法 ヒール、

スピード(80秒間速10上昇、消費MP8、10秒必要)、

キュアー(HP120回復、消費MP15)、

ディフェンス(80秒間防15上昇、消費MP6)


ローズトード

HP30 MP20 攻10 防20 速10 精5 耐性:打撃 弱点:炎 経験値80 金4

行動 跳躍(跳び幅80m、速度30)、激突(跳び幅40m、速度40、攻撃力50)、噛みつく、舌で拘束、バイオ

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