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第49話 大人への儀礼

長いです。休み休みお読みください。

 クリスからも、ミファからも音沙汰が無いまま冬休みは終わり、学校は再開する。そして間も無く卒業試験の第1回が開かれた。しかし試験への不安感より強く、俺にはクリスの誕生日に一瞬見えたあの金髪が気掛かりだった。

 …あれはやはりクリスだったのだろうか。もしそうだとしたら、ミファが俺の本音をクリスに聞かせようと仕組んだのだろうか?ミファならやりそうなことだが、それで今日まで何も打ち明けてこないのは妙だ。ミファならその結果がどうあれ、俺に黙っておくことはないはずだ。…ということは、あれはクリスの独断行動だったということだろうか。

 そもそもクリスかどうかもはっきりしない。俺が見たのは消えていく金髪と、残された足跡のみだ。クリスと断定出来る要素ではない。そしてそれを確認する術などもなく、ミファにも訊くことは出来なかった。これをミファに確認するということは、不用意にミファを疑いに掛けることになる。それは避けたい。

 少なくともクリスから俺へ接触がある訳ではなく、クリス自身は決められた関係を守り通しているので、俺があれこれ考えるのも無駄であろう。あの日見た金の長髪は願望の幻だったと思うことにした。…とは言っても結局考え続けてしまう訳だが。

 1月24日、筆記試験より先に実技試験が行われる。事前に書類で登録したパーティが順番に列になって武道場に入るため、渡り廊下を3年生が埋め尽くす形となっている。別に教員にそうしろと命じられた訳ではなく、本来なら教室で待って出番を察して行けばいいのだが、そうするくらいなら廊下で並んで待った方がタイムロスも無いので自ずと生徒がこのように動いた。

 今年度の3年生は例年より多く卒業試験用ゴーレム・アーストとの訓練に挑んだため、殆ど実技試験の意義が失われてしまっている。その点を補うためか、単にそれを口実にしてかは定かでないが、今年の実技試験は別の相手が用意されていた。

 卒業試験用アービアン――狼の姿をした人工獣(アースト)ではなく、これは朱殷の色をした大きな蛙、人工両生類(アービアン)だった。過去にも蛙ではないがアービアンと呼ばれる存在はいたらしく、今回のものは来期から公式に採用されるためM71期型とされる。

 来期からはこのアービアンが訓練に実用されるため、俺達の実技試験は差し詰めアービアンの動作試験とも言った所だろう。何故アーストではなくアービアンを用いる予定かと言えば、話は昨年の4月まで遡る。

 魔物達の間で何らかの動きが見られていたのはサラから聞いていた。そこから俺が外の世界へと興味を向けていればすぐにでも知ることが出来たのだろうが、実際には実技試験前日のLHRでユーリから聞かされることとなった。

 粛清、則ち弱小の魔物の殲滅活動が魔王直々に行われ、それに伴って一部魔物の種類変動が起きた。それは決まって4年毎に起きる現象なのだが、今年はこの影響でラズウルフとマッシュルームウィーズル(赤白模様のイタチ)が消され、同時にレッドウルフとローズトード(紅色の大蛙)という魔物が出現したのだ。そしてそのローズトードを利用して作られるのがアービアンM71期型となる。

 アーストもラズウルフから作られた存在だった。魔物の身体から魔因子を抽出し、残された素体はレベル1の魔人とほぼ同等まで身体能力が低下し、その凄絶なストレスにより記憶と自我を失う。これを調教し、完全に管理下に置いたものがゴーレム・アーストのレベル1ということになる。ラズウルフが用いられたのは比較的捕獲が容易だったためであり、ラズウルフがいなくなった後釜としてローズトードが最適だったという訳だ。

 ゴーレム・アーストは改めて魔因子を注入されることで能力を向上させることができ、その上限は魔人のレベル10相当までとなる。レベル2、卒業試験用のものはそうした経緯で作られ、またそれらはある程度本来の姿(アーストで言えばラズウルフの身体)の頃の戦闘スタイルをそのままに戦闘を行う。よって戦闘スタイルに差が出ることはあっても、より強い魔物で作った所で完成するものは同じ強さにしかならない。

 ゴーレムは何を基にして作られたのか。どのクラスでも生徒から質問があったらしいが、誰も答えなかった。俺も後でユーリに問い質したが、「知らなくていいのよ」と笑って断られた。…討伐軍の囚人とかだったら嫌だなと大袈裟な想像にまで行き着き、下手な詮索はしないことにした。

 …と、暇でしょうがなくてぼんやり近況を思い描いていると、武道場からユーリの声が響いてきた。

「次、50番パーティ入りなさい!」

 渡り廊下で静かに待っていた俺、メーティス、ロベリアは顔を見合わせ、速やかに黙って入館した。館内はアービアン3体を従えたユーリ、レイラ、…後は魔法演習で一瞬会ったような気がしないでもない4人の教員が待ち構えていた。…あ、1人知ってた。メリッサ・コイルというやたら肉感的な教員だ。状態異常魔法の指導員であり、演習後は毎回男子女子問わず絡んできてはお茶目で済まされない嫌がらせをしている女性だ。眼ぇ合わせないようにしよ…。

 パーティ番号はメンバーの2年時の所属クラスと出席番号を鑑みて決まるのだろう。そのためDクラスの最後尾の番号だった俺達はこのパーティ番号でも最後尾となり、実技試験のアンカーを務めることになった。

「へぇ、この子がレムリアドくんねぇ…」

 武道場の中央まで出ていき、テープの白線の前に立ち止まると、玩具を見つけた子供のような眼をしたメリッサが恐ろしい笑みを浮かべて俺の方に歩み寄ってきた。薄紫の長髪が左右に揺れ、長く伸びた前髪から赤い目がギラギラと覗いている。呼ばれて眼を合わせてしまうと、もう逸らすことは許されなかった。

「定期テスト1位を繰り返してDクラスに進級した頭脳派、けれど準優勝とは言っても一手差の所まで優勝者を追い込んでいた肉体派でもある。…そしてそれらの一定の評価に届くと今度は飽きたようにどちらからも手を引いて女遊びにご熱心。…知勇兼備で、女の敵。…有名人じゃない、レムリアドくん。確かに顔立ちも綺麗で背も高い。実力もあって、まさに生まれながらの勝ち組という所ね。出身はどちら?さぞ格式高い名家の出なのでしょう?」

 メリッサはニタニタと意地悪い様子で俺の顎を下からなぞり、身体を添わせるようにして背後に回ると絡み付く蛇のようにねっとりした声を掛けた。その口元が耳に近づいてくると、ゾワゾワと腹の底から悪寒が騒いで俺の一挙一動を制し、呼吸さえ許しが必要と思われるような威圧感を覚えた。

 無視をするなど以ての外のように思い、俺は緊張に唾を飲んでそれに答えた。

「…別に、出身はユダ村の農家…ですが…」

「あら、存外に小ぢんまりしてるのねぇ。けれど田舎では女に困ったでしょう。アカデミーに来てからはどう?貴族の美人な娘がわんさかいて、それなりに腹の足しになったのではないかしら?」

「…腹の足し…とは…」

「そのままの意味じゃない。あんた、脇目も振らず女を食い焦っていたでしょう?そういう噂になっているもの。それとも違うと言うの?」

「……腹を足すとか…俺は…そんな…」

「なぁに、足りないの?欲張りさんねぇ。そこらの女では満足出来ないのかしら?まぁ仕方ないわね、闇雲に女を食い散らかしてもあなたに釣り合う程立派な女なんて見つからないのよねぇ?知勇兼備のあなたに並ぶにはそれなりの地位がなくっちゃ。どれもこれも力ではあなたに並べないものねぇ。高々中級貴族の娘では一夜捨てする程度でしょう。皇族くらいではないと…。クリスティーネ様なんていかがかしら?あんた、あの方にお熱だったんでしょう?」

 メリッサの声音が意気揚々と明るくなっていく中、その発言は俺の胸を細い針が掻き分けてくるような激痛を生じた。心の中で『そんなつもりじゃ』と何度も呟くが、俺には反論も何も出来ず、その発言を棒立ちで受けるしかない。過去の自分の浅ましさや醜態を順番に眼前に晒されるような羞恥と断罪が熱を齎して喉に迫り上がる。

「メリッサ、やめなさい。その子はあんたが思うような子じゃないわ。真面目な子よ」

 メーティスとロベリアが涙目になって一斉に抗議しようと口を開けた瞬間、それに先んじてユーリがメリッサを睨んでそう告げていた。メリッサはそんなことも気に掛けず俺と顔を合わせ、

「じゃあ、私を抱いてみたいとは思わない?地位で測れないなら身体しかないわ。元々あんた、肉体関係ばかり広げて恋人を増やそうとはしなかったもの、考えてみれば身体にしか興味無かったに決まってるわね。私の胸はどう?顔は?腰の括れは?具合も折り紙付きよ、それも大勢から。それともあっちの黒い女はお嫌いかしら?自分を棚上げしてそんな好き嫌いはしないわよねぇ」

 ロベリアはメリッサに怯えきっていてアウアウと口を動かし涙を堪えていたが、メーティスはその一線を越えて泣きながら「レムはそんなんじゃないです!」と叫び出していた。メリッサは一転してつまらない顔をメーティスに向け、ユーリは静かに歩み寄ってメリッサの腕を掴んだ。

「いい加減子供染みた悪ふざけはやめなさい」

「はぁ?嫌よ、こんなに弄り甲斐のある男なんて滅多にいないもの」

「あんたの過去には同情するけど、それをこんな子供にまで押しつけるんじゃないわよ!そもそもこの子はあんたが嫌うような男とは全く違うの。至って真面目な子!それが若さ剰って捻れただけなの!」

「そんなの関係無いわねぇ。勝ち組の男が挫けていくのを見ること以上に楽しい娯楽なんてないでしょう?」

 ユーリは苛ついて目元を震わせているメリッサに舌打ちすると、俺から彼女を引き剥がして出入口の方へと離れていき、俺達に背を向けて歩きながら大声を上げた。メリッサは大人しく引かれて歩くが、その足取りのもたつきが怒りを露わにしていた。

「試験の準備に入ります!レベルとコンディションの検査を行うので、その間受験者は作戦などあればパーティ内で確認し、戦闘の準備をしてください!」

 館内はシンとして返事もなく、ユーリとメリッサが渡り廊下へと去ってから残された教員達が駆け寄ってきた。そして消沈した俺を、さっきからずっとしゃくり上げているメーティスを、メリッサの恐怖が消えて泣き始めたロベリアを、教員達は口々に慰めながら光度計を当て、健康状況の如何を訊いてきた。

 …この半年余りいろんな生徒に悪口を言われたが、ここまで内側から抉って来るものは初めてだった。俺でさえ危うく泣きかけたのに、2人が堪えられる訳もない。結局俺からも2人を慰めていて、5分が過ぎてもそうしていた。

 この後悔を大切にしなければならない。言い訳もしてはならない。そうしてこれからは、どんなことを言われようとも、彼女ら2人が仲間として誇れる人間でなければならないと改めて自戒した。


 ユーリの指示から10分経ち、漸く実技試験が開始される。やっとメーティスが泣き止んでくれた。まだまだ目が充血していて切っ掛けがあると思い出し泣きしてしまいそうな雰囲気があるが、埒が明かないので一先ず始めることとする。きっと戦っている内に気持ちが切り替わるはずだ。

 俺達は3人とも防具も武器も持たず1mの幅を空けて横に並び、同じように並ぶアービアン3体と10m離れて対峙する。レイラが試験官を務め、残る教員は審査ともしもの場合の戦力として壁際にて監督している。

「それでは試験を開始します。合図と共に始めてください」

 レイラは両手に持ったプレートを右手側の2体の前に翳し、「戦闘開始」の声と共にアービアンにプレートの戦闘指示を出した。左手側の1体にはその後に続けて行うが、3体ともほぼ同時に駆け出していた。

 レイラはその場から飛び退き、俺達はアービアンへと立ち向かう。俺が先陣を切り、続いてロベリア、メーティスはガブノレを召喚して俺の後を走る。メーティス自身は動かずに元の場所に立っているが、俺達はそこへの攻撃を防ぐための壁となることを意識して動いた。

 アービアンはペタペタとゆっくり散らばるように歩き、俺達もそれに合わせて1人が1体とメーティスとの間に挟まるように移動する。アービアンは距離が十分に詰まると不意に足を止め、かと思うと姿勢を低くして天井を見上げた。何をする気かを蛙という生態からすぐに割り出し、「跳ぶぞ!」と手短に叫びながら真ん中の1体に狙いを付けた。

 アービアンは皆、予想通り勢い良く天井スレスレまで跳び上がる。俺の発言を意に介した2人もそれぞれが対するアービアンに合わせて飛翔、または跳び上がり、空中で捕まえて攻撃する。アービアンの跳躍速度はガブノレの移動速度と同レベルと言え、パーティ内でも鈍足なロベリアは1歩足りないながらも冷静な先読みで対処していた。

 アービアンの柔軟な皮膚は殴打の衝撃を緩和し、そのために此方からの攻撃はダメージを半減されるのが手応えで伝わる。両脚で捕らえ、左手で押さえたアービアンに右の拳を2度振るう。動きが制限される中で腰を入れて殴る故にその動作には間が空くが、アービアンの長い舌が腕に絡んで拘束するのと同時にアービアンは行動不能に陥って全身を黒く褪せさせる。舌はすぐに緩まって離れた。

 他はどうなったかと2人を見やると、ガブノレは首を舌に絞められながらも爪でアービアンを捕らえ、翼をはためかせて緩やかに降下していた。両者とも攻撃出来ず膠着状態かと思いきや、アービアンの優勢のようだ。ガブノレの美しい毛並みが撚れて荒れ、覗く皮膚は薄く緑掛かっている。バイオを食らったようだった。

 ロベリアはどうかと見ると、アービアンに発汗を促す程度のダメージは与えたものの、その長い舌に叩き落とされ、メーティスのいる場所とは明後日の方向に投げ出されていた。そしてそのアービアンの着地点はメーティスの背後と予想された。

「メーティス!召喚を解除して逃げろ!」

 大声で指示を出すとガブノレは息を呑み、顔を振って状況を確認するとスッと風のように消え去る。それまでガブノレに捕まっていたアービアンは解けた舌を引っ込めて俺を向き、目標を変えて舌を伸ばしてくる。一方召喚を解いたメーティスは近づいてきていた汗だくのアービアンを見上げ、位置を変えてからその着地点へと身体を向けて待機した。…着地の隙を狙うらしい。

 俺はそれまで抱えていた行動不能のアービアンを放り出し、「誰か受け取って下さい!」と教員に伝えながら、伸びてきた舌を左手で掴む。既に行動不能となった対象であれば、教員も面倒を見てくれるだろう。これで無視されたとしても貴重なアービアンが1体灰と消えて教員が損するだけで、試験評価にも影響しないし俺には痛くも痒くもない。ぶっちゃけ俺が面倒見る謂れはない。

 俺に舌を掴まれたアービアンはそのまま舌を飲み込んで距離を詰め、俺は近づくその身体に合わせて拳を打つ。隙を見せればガブノレのように『バイオ』を食らうことになるかもしれないと考えられるが、2回攻撃すれば倒せるなら問題無い。決着ももうじきのはずだ。

 1擊は額に当たり、滑ったもののダメージはきちんと与えた。そしてその右手をアービアンは噛みついて止める。ならばと俺は両腕をグッと引いて膝で蹴り、難なくアービアンを行動不能に追い詰めた。そして同時に床へと着地する。

 噛みつかれてもダメージは無かっため、アービアン単体の攻撃力は皆無と思われた。ならば2人も無傷で勝つだろうと残った1体の着地を許したが、それはどうやら計算違いだった。

 汗だくのアービアンは着地してメーティスに背後を取られると、腕のリーチまで近寄られる前に前方へ跳ぶ。メーティスは右手を虚空に振り切って足を止めてしまい、足の速さに分があるにも関わらず取り逃がしてしまう。アービアンは10m先の壁に張り付くとまた跳んで宙を返り方向転換する。そしてメーティスを向いたアービアンは勢い良く跳び出して接近していく。…今度の跳び方は何かが違う、見るからにスピードが跳ね上がっていた。

 メーティスはその急速な接近に回避を諦め、前傾姿勢で顔の前に両腕を横にして受け止める準備を整えた。そして防御し、真っ向からアービアンのタックルを受ける。メーティスの足は3m後方に滑り、挟まれた左腕がひしゃげている。しかしアービアンの動きもそこで止まった。

 ここぞとメーティスは受け止めたアービアンの肩に上から肘打ちを食らわせるが、防御すらしなかったアービアンにさえ傷1つ与えられない。…メーティス自身は滅多に格闘戦を行わないため、攻撃力が足りないことに気付かなかったのだ。そしてその隙に乗じてアービアンはメーティスから跳び退いていた。

 そして着地後、アービアンはロベリアに身体を向ける。ロベリアは戦闘に加わるべくメーティスのすぐ横まで近付いてきていた。鈍足なロベリアには避ける選択肢などなく、再度タックルを仕掛けてきたアービアンに気付くも進行方向を変えなかった。

 アービアンの接近に対しロベリアは拳を引く。そして双方の接触はタックルとストレートパンチの相打ちとなる。ロベリアの腕はひしゃげ、その拳は手首に掛けてアービアンの肩口へと突き刺さる。

 両者とも衝撃に足を掬われて滑るようなことはなく、その場に立ち止まって風を吹かせた。館内に染み渡る静寂の中、ロベリアの腕はうねるようにして治癒していき、そしてアービアンの傷口はロベリアの腕に沿って仮初めの皮膚で埋まり、そのまま体色は黒ずんでいく。

「勝負あり!第50パーティ、試験終了!」

 レイラが館内に高い声を轟かせ、ロベリアはそれに振り返りながらアービアンの肩から手を引き抜く。そして倒れたアービアンへと他の教員達が駆け寄り、復帰薬や回復薬を服用させる。メーティスは一安心と息をつき、俺はそれらの光景を一望して3人で1ヶ所に集まる。

 レイラは元気付けるようなゆったりとした笑みを浮かべて歩み寄り、俺達3人とそれぞれ眼を合わせた。

「さすが、今年のNo.1ルーキーと言われるだけはありますね。15秒以内に決着したパーティは皆さんが初めてですよ」

 それは純粋に褒めたに違いなかったが、メリッサのやり口を見た後ではどうにも疑わしくなり、俺達は3人とも互いに顔を見合わせて不安を顔に出した。レイラもそれを察してか苦笑いして、「褒めてます、悪口ではありませんよ」と補足した。

 色々とあって気持ちは浮かないながらも、実技試験は無事通過することとなった。…ただ、これならもっと前から時間を掛けてアービアンとの訓練もしてみたい所だったな、と残念にも思ったりした。


 筆記試験はその翌日、1月25日に各教室で実施された。前日の夜はしっかりと休み、朝からテストに向けた最終確認を行って万全で挑んだ。

 全部で3つのテストとなり、探査旅行学Ⅰ・Ⅱが100点、全魔法学(白魔法学、黒魔法学、総合魔法応用学)が200点、武具戦術学(武器講習の内容)が100点の合計400点満点となる。それぞれ1時間半の回答時間が与えられ、間に30分の休憩があった。その30分にも次のテストへ向けた確認をロベリアと行い(人数が多くてもしょうがないのでジャックとルイは放置)、各テストでは一切の穴も空けず全てに回答し、見直しも2周繰り返した。

 模試を除けば久しぶりのテストであり、それが卒業を決定する重大なテストなので緊張しっ放しだったが、全力を出し切ることは一先ず出来た。後は結果次第と心を落ち着けつつ、合格点に届かなかった場合のために数日は勉強を続けた。

 そしてその結果は金曜日に各クラスで担任から伝えられ、ある者は歓喜し、ある者は項垂れた。…そして俺達勉強会のメンバーは皆、この第1回試験にて合格を叩き出した。

 340点。…堂々の合格点ながら、賛美はしかねる不全の評価。しかし合格は合格であり、これは俺の学生生活を象徴する点数と言える。俺はこの学校を卒業し、社会へ出る資格を手にしたのだった。

 …340点…。俺の精神の成熟度に点を付けるとして、果たして俺はその点数に辿り着けただろうか?…必ずしもそうとは言い切れない。しかし社会は辿り着いたとしてその振る舞いを俺に求めることだろう。いや、そう優しくもない。…社会は否応無く俺達に完璧を求め、俺達はそれに応える義務があるのだ。そこに言い訳も嘆きもあってはならない。

 これで終わりではない。まだまだ歩き続ける。何処までも何処までも宛の無い暗がりの階段を、買い溜めたオイルの火で細々と照らしながら、僅かな天望を目指して俺達は登り詰めなくてはならないのだ。

 だから俺達はその小さな火を持ち寄って、仲間と共に進み続ける。踏み外さぬように互いに身を寄せ、支え合う。この先の未来、俺達の進む道を照らし続けられるのは俺達しかいない。道を交えた人々にオイルとその火を分け合っても、照らすのは自分の手なのだ。

 時に人は他人のオイルの色を見てとやかく言うだろう。オイルが濁りもするだろう。しかしそれを恐れて手を下ろしてしまえば、その瞬間に道は暗がりに還る。進む先がある限り、俺達は道を照らし続けなくてはならない。

 俺は自分のため、そして共に歩く仲間のために道を照らそう。だから今は一時の手休め。今を祝って、笑って馬鹿騒ぎしよう。

 愛する同志に祝言を。そしていつか、愛する彼女が行き先を見失わぬよう、その先を明るく照らす灯火の決意を。…あらゆる思いを胸にして、泣き笑う仲間達と肩を組んで祝い合った。

(補足):普通の蛙は発汗しません。


レム

Lv.12 HP39 MP24 攻39 防31(26) 速39 精13 属性:氷

装備 旅人の服(防5)

黒魔法 コールド(50秒間防10低下、消費MP6)、

バイオ(毒、消費MP6)


メーティス

Lv.12 HP46 MP12 攻13 防31(26) 速39 精25 属性:炎

装備 旅人の服(防5)

コマンド 祈り(5秒でMP1回復)

召喚 ガブノレ(5秒でMP1消費)


ガブノレ

HP20 攻30 防20 速30 精15 耐性:なし

行動 引っ掻く、突つく、飛翔、

スリープ(相手を眠らせる、消費MP8)


ロベリア

Lv.12 HP48 MP24 攻26 防18(13) 速26 精13 属性:風

装備 旅人の服(防5)

白魔法 ヒール(HP30回復、消費MP3)、

パワー(80秒間攻20上昇、消費MP6、10秒必要)、

ノーウィンド(風魔法を無効とする半径10mの空間、5分持続、消費MP12)


卒業試験用アービアンM71期型

HP10 MP10 攻10 防20 速10 精0 耐性:打撃 無効:状態異常 弱点:炎 経験値10 金0

行動 跳躍(跳び幅80m、速度30)、激突(跳び幅40m、速度40、攻撃力40)、噛みつく、舌で拘束、バイオ

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