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第45話 炳たる和解

すみません、今回も長いです。休憩を挟んでお読みください。

 5月9日、俺は覚悟を決めてミファを体育館裏に呼び出した。朝早く出て下駄箱に投函した手紙を、ミファは読んでくれているだろうか。放課後になって一度寮に帰り、着替えを済ませて約束の場所へと赴く俺に、「頑張れ!」とメーティスは胸の前でグッと握り拳を作ってエールを送った。俺は緊張に唾を飲み込みながら、「お、おう」と震える声で答えた。…失敗の予感しかない。

 人目を避けて校舎を回って行く今の俺を誰かが見たなら、きっと不審者と断定されることだろう。そも、この格好が不審でしかない。…ミファ相手に警戒心を取り払う手段の一つとして服装をポップにすることにしたが、それでメーティスが選んだのがパーティー用の犬の着ぐるみだった。モコモコした繋ぎタイプのパジャマなのだが、これをフードの前を閉じることで着ぐるみに出来るというものだった。

 また、これに加えて「仲直りの印に!」と云うことで(ハシバミ)の花束を背に隠している。現在の俺を客観的に見ると、犬のコスプレをした謎の男が花束を手に夕暮れの校舎を徘徊していることになる。…うん、やっぱ今回は駄目みたいですね。まぁ頑張るけどさ。

 ミファへの手紙には差出人の名前を明かさず、とある男が大事な話をしたがっている旨のみを伝えた。本当なら俺からの用事であることを事前に伝えて、その上で来てもらって誠心誠意謝罪するべきなのだが、それをするにもミファの警戒を払うための腰を据えた準備が必要である。しかし今の俺にはじっくりとミファとの溝を埋めていく力も、それを可能とする関係性も無い。…正体は伏せて距離を詰め、ムードを和ませてから正体を明かすのが良策だった。

 ペースを変えないようにしっかりと歩み続け、もうじきと云う所で一度呼吸を整える。後の角を2度曲がればミファが待っているであろう体育館裏である。…大丈夫、謝り方は一晩掛けて練習した。…大丈夫だ。

 再度意を決し、俺は1つ目の角を曲がる。…すると、すぐそこには壁に背凭れて空を見上げたリードが立っていて、俺が姿を現すと初めて見るような大きな目で仰天して俺を見つめてきた。

「お前、こんなとこで何してんの?」

「…いや、君が何してるんだ…」

 近づいて他に人がいても聞こえないように小声で訊ねたところ、そんな御尤もな言葉を返されてしまった。俺はフードの上から頭を掻いて顔を逸らした。犬の目に当たるスモーク部分から見たリードの顔は明らかに呆れているようだった。

「まぁ、ミファに色々謝りたくてな。それとお前との約束もあるし。…で、普通に行くと逃げられるからこの格好よ」

「百人が百人逃げそうな姿だね…。色々とツッコミたいけど、まぁ、ようやく立ち直ってくれたようで何よりだよ」

「お前はどうしてここに?」

「ミファがラブレターのようなものを受け取って舞い上がってたからね、何かあったらいけないと思って監視に来たのさ」

 えぇ…、あの手紙をラブレターと勘違いするとか深読みし過ぎだろ…。…ていうか、俺、そっちの誤解も解かなきゃいけないのか。…無駄に仕事が増えてしまった。

 リードはフッと笑って壁から背を離すと、ポンと俺の肩を叩いて納得するように頷いた。俺はその手、その顔を交互に見て、フードの下でひそかに笑みを返した。

「まぁ君だったのなら安心だよ。僕はもう帰る。ミファならそこの角の先にいるよ。頑張っておいで」

「あぁ、ありがとう。…サーシャ達のことも、ありがとうな」

「ん?…ああ、そうだったね。礼には及ばない。じゃあ、健闘を」

 そうして俺の横を通り過ぎかけたリードに、

「あっ、そうだ。…明日の放課後、クリスに寮のロビーで待ってるように伝えてもらえるか?クリスにも謝りたいんだ」

「うん、分かったよ。…まぁ、そっちの方も健闘を」

 リードはヒラヒラと後ろ手を振って去っていき、俺はそれを見送ってまた歩き出した。…リードのお蔭だろうか、先程までの不安は綺麗に濯ぎ落とされていた。

 角の先に待っていたミファは此方を向いて畏まり、緊張気味に頬を染めていた。…内容は知られていないながらも、リードとの会話の騒ぎには気付かれていたようだ。ミファは俺の全身を見渡すときょとんと首を傾げていた。…うん、当然の反応。怖がられたり逃げられたりするよりはマシという感じだ。

 俺は威圧してしまわないように、1歩毎に身体を上下してリズムを演じながら、ゆっくりとミファに近づいた。ミファはぽーっと俺の顔を見ていたが、俺が背中に右手を隠しているのを見てそちらに気を取られ始めていた。

「ミファリー・ドレヌさん」

 距離を半分詰めてから立ち止まり、作りすぎない柔らかな声音でそう呼び掛けた。ミファはビクッと跳ねるように背を伸ばし、「は、はい!」とまた緊張し出した。…しかし、俺がまた話し掛けている間に何か気付き始め、訝しそうに眉を寄せて首を傾げていった。

「今日は来てくれてありがとう。お礼にこの花束を差し上げます。どうか受け取ってください」

「えっ、あっ、…はい。ありがとうございます…」

 ミファはまた背筋をシャンとすると、俺が丁寧に乱さないようにと気をつけて持ち替え、歩み寄って差し出したその花束を不思議そうに見つめながら受け取った。ミファは暫しその垂れ下がった松傘のような花に眼を奪われると、「これ、何て花ですか?」と顔を上げて訊ねた。

「榛と言います。花言葉もご存知ありませんか?」

「はい。…どんな意味なんですか?」

 ミファはその花言葉が『大切な話』と関係があると察したのか、少し身構えて訊き返した。その真ん丸い猫のような上目遣いに俺はまた微笑んで、ゆっくりとフードのチャックを外しながら答えた。

「『仲直り』です。…俺は今日、君と仲直りがしたくて来ました。…どうか俺の大切な話、聞いてもらえると嬉しいです」

 フードを後ろに払い、俺は微笑んだままミファと眼を合わせた。ミファは目と口を大きく開き、純粋に驚いていた。そしてハッと息を呑むと顔を伏せようとしたが、俺が何も言わず待っているとキツく唇を結んで真っ直ぐ俺と眼を合わせてくれた。

「…久しぶり、ミファ」

「……お久しぶり、です」

 ミファは自信無くまた俯き、ボソボソとそう返事した。俺は一歩後退って彼女の小さく縮んだ肩を見渡すと、深く頭を下げてはっきりと謝った。ミファは俺を見下ろすと「え…」と小さく困惑して、言葉を失ったまま聞いていた。

「4ヶ月半前、俺はお前に許されない暴言を吐いた。それだけじゃない、お前の必死の誠意をも俺は踏みにじった。本当に酷いことばかりしてお前を傷付けた。お前は何も悪くなかったんだ。…全部俺が悪かった。…本当に、すみませんでした」

 ミファは何も言わず俺を見下ろしていた。俺は許しを得るまで頭を上げまいとした。シンと辺りが静まる中、夕日を隠していた浮雲が過ぎ去ってまた世界を赤く照らし始め、地面に映った明瞭なミファの影が覗くように顔を寄せ、「ま、待ってください!」とミファの慌てた声が俺の頭上から響いた。

「顔、上げてください…。レム先輩は悪くありませんから…。あれは私が…」

「いや、俺が悪い。暴言を吐いたのは俺だ」

「いえ、違います!元はと言えば私が召喚師になったせいですし…!」

「それはお前は悪くない。お前が気負うことじゃないし、お前が一方的に恨まれていい理由にはならない」

 私が、俺がと、その問答はいつまでも決せず、いつしか俺は顔を上げて声を荒げながら言い返していた。互いに吐息が掛かる程に顔を寄せ、それに気付くとミファは顔を赤らめて口を噤んだ。

 そのまま顔を反らすこともせず見つめ合っていると、ふとどちらからともなく笑いが込み上げた。…もうとっくに互いを許し合っていた。俺は自分に非があると感じ謝罪した、ミファも同様に謝罪した。ならばそれで決着なのだ。今更どちらが悪いかなど、不要の議論だったのだ。

 一頻り笑うと円かな沈黙が訪れ、微笑み合っているとミファがピッと俺の胸辺りを指差した。

「その服、かわいいですね。どうしたんですか?」

「謝るために用意したんだ。普通に行くと逃げられるかと思って」

「そうなんですか。…先週は、話も聞かず出ていってすみませんでした。…顔を見せちゃいけないって、それしか頭になくて…」

 ミファはまた申し訳なさそうにして頭を下げ、俺は「いや」と首を振って頭を撫でた。…ここで俺が謝り返すとまたさっきと同じことになりそうだ。

「気にしなくていい。こうしてちゃんと会えたんだから」

「…はいっ、ありがとうございます!」

 ミファは嬉しそうに笑って頷いた。…何はともあれ、仲直りは出来たようだ。今後も継続して付き合っていくかは、明日クリスと話して決めることにしよう。…大事なのは次だ。

「…カーダ村のことは、残念だったな」

 それまで機嫌を良くしていたミファはスッと顔色に影を差し、しかしそうかと思うと微笑んで首を振った。その姿は見るからに痛々しく、しかし踏み込むことも許さない固い護りのようでもあった。

「ううん、もう大丈夫です。正直、あまり実感も湧いてませんでしたし…。…それにきっと、お父さんもお母さんもちゃんと避難して何処かで生きていてくれていると、私は信じてます。…だから大丈夫です」

 こう言われてしまうと慰めの言葉などそう何度も伝えられない。下手に慰めても、それは彼女の悲しみを癒すどころか、反感と怒りを引き出す結果にしかならない。…ここで必要以上に言葉で慰めることは、彼女にとって『両親は死んだ』と何度も言われるのと同義だろう。

 …分かってはいたが、慰めるのが遅すぎたのだ。これが通達の当日などであれば、俺に対し彼女が胸の内を曝け出すのに障害も無かったであろう。しかし今日まで強がるしかなかったミファは、既にその悲しみに蓋をしてしまい、どんな慰めも意味をなさなくなっている。

 …俺がもっと早く自分の問題を解決していたら、いや、勇気さえ出していれば、ミファも涙することが出来ただろうに。

「…そうか。まぁ、何か困ったり落ち込んだりしたらいつでも頼ってくれ。出来る限りのことはするからな」

「はい、よろしくお願いします!私も何かあれば力になります!」

「ああ、頼むよ」

 そうして握手を交わし、慰めの言葉は終わる。…ミファには言葉より行動で示した方が素直に伝わるだろう。今の彼女を慰めるには、何か心置き無く楽しめることを提供するのがいい。それで彼女が素直になれたなら良し、ただ楽しむだけだとしても元気付けられるならそれも良し。どう転ぶにせよ、それは結果として良い方向へ向かうに違いなかった。

「なぁミファ、折角だからこれから街まで出ないか?久しぶりに何処かに遊びに行こう。何ならメーティスも連れていっていいし」

 俺がミファの手を引いて笑い掛けて誘うと、ミファは特に遠慮するでもなく嬉しそうに頷いて訊き返した。その表情は相変わらず無邪気で、他意などまるで感じなかったが、それが余計に俺には堪えた。

「クリス先輩も一緒でいいですかっ?」

 …俺は笑顔を取り繕う余裕を一瞬失っていた。…それはそうだ。俺がメーティスを引き合いに出したなら、ミファがクリスも誘いたがるのは道理だった。…しかし、俺にはまだクリスと出掛けられるような資格は無い。それを得るには済ませなければならない問題が残されていた。

 俺はミファと繋いでいた手を離してだらりと垂れ下がらせた。ミファはそれを不思議そうに見下ろして、俺を見て首を傾げていた。

「…ごめん、ミファ。やっぱ今日はやめよう。行くなら土曜日にしよう。で、それまでにはクリスも誘うかどうかをはっきりさせておくからさ。…それで構わないか?」

「えっ、…はい、それでいいですけど…」

「悪いな。俺も何とか出来るように頑張るから」

 ミファはそれを聞くと一層首を捻って考え込んだが、納得すると「…そっか」と1人頷いてまた俺を見上げた。

「…次は、クリス先輩と仲直りする番なんですね」

「ああ、そういうことだ。だからちゃんと仲直り出来るまで、クリスは遊びに誘えないんだ」

「そういうことでしたか。…だから土曜日に…」

 ミファはじっと俺を見ながら思い耽り、何か思い至るとふわっと微笑んで頷いた。

「レム先輩なら大丈夫です!私とも仲直り出来たんですから、絶対にクリス先輩とも仲直りできます!それに、クリス先輩も何かあると時々『レムとは前にね』って懐かしそうに話してくれるので、多分悪いようには思ってないと思いますから!」

「…そっか。サンキュー、ミファ。それ聞いてちょっと安心したわ」

「はいっ!…がんばってください、応援します!」

「ああ、サンキュー」

 俺はそれに微笑み返した。慰めるつもりだったはずが、俺の方が元気を貰っていた。お蔭で明日の予定にも幾らか自信を持って臨むことが出来そうだ。

 俺はミファを寮のロビーまで送ると、1人で少し街を歩いてメーティスにおやつを買って帰った。それを一緒に食べながらミファとの和解を報せると、メーティスは自分のことのように笑って祝福した。

 そして今更になって気付く。自分が犬の着ぐるみという変人極まりない格好で街を歩いてきたということを…。

 俺は1人で慟哭した。


 そして翌日、俺は次の仕事に取り掛かる。クリスとは放課後に話すが、それまでに必ず顔を合わせる分、先に話を付けなければならない相手がいた。

 火曜日は1日ダンジョン演習をやる。ダンジョン演習とはその名の通りダンジョンの攻略を実際に演習用のダンジョン(4つのタイプがあり、難易度はAからDへと順に上がる)に潜って学ぶものだ。となれば、複数班での連携のために仲間との会話の頻度は上がり、ロベリアと話し易くなる。これをきっかけにしてロベリアとの距離を縮め、直接話し合うための場を設けることを考えていた。

 基本的には2つの班で協力して行い、その組み合わせは教員側により乱数的に決められる。この日は男3人のパーティと俺達とで組まれ、3限の時間帯からダンジョンBへと挑戦した。

「「よろしくお願いします!」」

 共同する班とはダンジョンに入る前にこうして一礼を交わすのだが、俺の正面に立った相手は頭を下げただけで挨拶はしなかった。そしてダンジョンへ歩き出し、俺と向かい合わなくなると俺を盗み見てフッと鼻で笑ったりしていた。…気が小さくなったからか、他人からこういう態度を取られると逆に申し訳なく感じる。

 ダンジョンの奥にある赤玉、青玉を探して戻るのがBでの流れとなる。Aより迷路は入り組んでいるが、予め渡されているクリップボードの用紙にマッピングしながら進んでいると然して難しくはない。普段はこの役は相手の班のリーダーに任せているが、今回は積極的に名乗り出て受け持つことにした。これからはこういったことにも真剣に向かい合っていく。

 いつも演習では相手の班に前を譲り、俺達はその後ろで静かにしていて、戦闘の時にだけ出ていって力になるような不真面目な姿勢を取っていた。しかし今日はマッピング役を引き受けたために俺達の班が先導し、相手の班が後ろを談笑しながらついて歩いていた。メーティスは俺の事情を理解しているためすんなり協力してくれていたが、ロベリアは困惑して口数が少なく、怪訝な顔で俺を見ていた。

 …何か話して仲を修復しようと息巻いていたはずが、マッピングに追われて思うように行かない。そうでなくともずっと話せないままパーティとして一緒にいたせいで、話し掛けること自体に抵抗がある。…このまま演習が終わるまで話せず終いだろうか。せめて昼食時にでも話してみなければどうにもならない。

「レム、こっち行き止まりっぽいから引き返そう?さっきの分岐からやり直せば大丈夫だと思う」

「ん、了解」

 メーティスは用紙を睨む俺より更に前を歩いて時折そうした声掛けをする。男子3人はどうやら俺に良い印象を持っていない様子であるため、メーティスによる声掛けがあると非常にやり易かった。

 …ただ納得出来ないのは、メーティスは俺のマップも見ずにこのダンジョンの地理を把握しているという点だ。きっと頭の中だけでこの複雑な迷路をマッピング出来ているのだろう。…ほんと天才ってズルい。

 そうして分岐まで戻り、また次の道へと入ると、カサッという小さな音が洞窟に反響し、次第にその音は増えて大きくなっていく。

「…敵だ!全員構えてくれ!」

 俺が指示を出しながらクリップボードを腰に掛けた専用のポーチにしまってロングソードを構えると、メーティスは「うん!」と速やかにメイスを構え、ロベリアも一拍子後から無言でメイスを構える。

 しかし、男子達は未だ戦闘準備もせずケラケラと談笑していた。

「5班も!準備してくれ!」

 と再度指示するが、彼らは俺を脇に見て笑いながら、

「おい、2位の負け犬がなんか言ってね?」

「準備しろってよ」

「別に俺ら要らねぇだろ。嫌味かよ、感じわりー」

 そうしてまたゲラゲラと笑い出す。俺は強く言い返せず、仕方なく放置して目先の戦闘に意識を集中する。メーティスもロベリアも、何か言いたそうに男子達と俺とを交互に見ていたが、前方からレベル2のアースト3体が迫ってくると深く息をついて精神を統一した。

 メーティスはガブノレを召喚し、ガブノレはその純白の翼をはためかせてアーストへと先陣を切った。その嘴と爪、素早さと飛翔によるヒット・アンド・アウェイでアーストに猛攻し、取り零した1体を俺とロベリアで攻撃する。男子3人はそれでもなお俺達を他人事に見ながら談笑を続けていた。

 擦り抜け際に俺が一撃を加え、ロベリアもアーストの目前で足を止め、冷静に斬り付ける。アーストは俺の攻撃の時点で発汗し、ロベリアの攻撃は辛うじて避けていた。アーストはロベリアに噛みつき、ロベリアは防御に徹する。ロベリアが掴むなり投げ飛ばすなりすればそれだけで勝てるはずだが、ロベリアはアーストに何をされようとそのままでいた。

 …『防御に徹し援護を待つ』。その戦法は、今までの彼女では絶対に見せないものであり、俺は彼女の心境がこの数時間で大きく変化していたことを直感した。

 ロベリアの眼が試すように俺に向けられる。俺はそこへ駆けつけながらそれに頷く。そしてロベリアから今更離れようとしていたアーストの背後に辿り着き、その背中を一息に突き刺した。

 アーストはぐったりと黒ずんで倒れ、俺はロベリアに笑い掛ける。彼女も俺を信用に足ると認めてくれたのか微笑んで頷く。

 …言葉など要らなかった。何も言わずとも、俺の真剣な思いを彼女は汲んでくれた。しかし謝罪と告白はしなくてはならない。それは俺にとって責任であり、彼女にとってけじめである。だから俺は彼女と話さなくてはならない。

 少し先ではガブノレがアースト2体を仕留め、召喚を解除したメーティスが祈りに入っている。俺はその場に立ってロベリアと共にそれを眺めながら切り出した。

「…日曜日、空いてるか?よければ話したいんだ。…色々とさ」

 ロベリアは俺と眼を合わせると、一も二も無く頷いた。俺を真摯に受け止めるように、その視線は強く真剣に俺に向けられた。

「…うん、いいよ。でも、それならメーティスも一緒でいい?…多分レムくんより、メーティスに訊くことの方が多いから」

「そう、か…。…分かった、メーティスに伝えとく」

「うん、お願い」

 ロベリアは深く頷くとメーティスの傍へと歩いていく。その背中を見つめながらふとした不安を覚えた。…俺の姿勢はロベリアに伝わったかもしれないが、それがロベリアとメーティスの仲違いを修復し得るとは限らない。2人が俺に対して取った選択は平行線のまま、未だに歩み寄ることも出来ていない。…日曜日の話し合いがそのまま怒鳴り合いになったりはしないかと危惧し始めていた。

 俺もロベリアの後に続き、祈りを終えていたメーティスは目を開けて俺達を待つ。メーティスは俺、続いてロベリアを見たが、彼女らの交わした表情はあまり穏やかではない。

 それを見て、今すぐにでもその喧嘩が始まるのではないかという不安を覚えたが、予想に反してメーティスは男子3人に振り返り、眉を釣り上げていた。

「ちょっと!何で一緒に戦わないの!?私達だけ地図作って戦ってじゃおかしいでしょ!演習は真面目にしなきゃダメだよ!」

 男子は皆談笑から一転して腹立たしそうにメーティスを睨み、その内の1人が代表するように笑い飛ばした。

「何だぁ?んなクソみてぇな奴のために俺らが戦う義理あんの?どうせ取り巻きの女が守ってくれるだろ、お前らみたいになぁ?あーあ、いいご身分いいご身分、イケメンならゴミみたいな男でも良い目が見れるってんだから世の中良くできてんな」

 …俺は彼らに何も言えない。全部正論だった。彼らの言うことは全て現実であり、俺は見知らぬ他人から罵倒されても仕方の無い人間だというのがよく分かった。

「なっ…レムのこと、何も知らないくせに…!」

 メーティスは歯を剥く程の憤怒の形相で叫び返し、拳を震わせながら1歩を踏み出していた。…しかしロベリアはその横を早足で通り過ぎ、何の躊躇いも無くその男子に平手打ちを食らわせた。その平手にしては鈍く重い音は洞窟に反響し、男子は目を丸くしてロベリアを見ていた。彼らにはロベリアが味方に見えていたらしい。

 ロベリアは頬の抉れた彼の胸ぐらを掴み寄せると、低く鋭い声音で告げた。

「あなた達に何が分かるの?レムくんが好きでそうなったと思う?あなた達みたいに悩み無く、他人の迷惑も考えず暮らしていけたら拗れたりなんかしないのよ。レムくんは優しいの。だから傷つくし、だから私達は彼のためを想うの。…レムくんがイケメンだと言うなら大いに賛同するよ。あなた達は性根が顔に出ていて凄く不細工ね」

 早口で捲し立てたロベリアはその男子を突き飛ばして放すと俺の横まで歩いてくる。さぁ進もう、と微笑む彼女にメーティスは丸い目をしたまま笑って頷いた。俺は先へと進む彼女らとその場に留まって茫然としている男子達とを見比べて、地面に座ったままの彼に「とりあえず行こう」と手を貸しに行った。

「うるせぇ色狂い!さっさと行きやがれ!」

 俺の手はそうして弾かれ、俺はその3人それぞれに眼を向けながら、

「そうか、悪い…。…じゃあ、行くけど追い付けよ?」

 と言い残してロベリアに追い付いた。男子もぶつぶつと文句を言いながらも後から歩いてくる。

 …彼女達は分かり合える。笑い合う彼女らを見て、不安はもう取り払われていた。

 …俺は背負っていこう。俺のしたことを忘れず、彼女らが笑っていられるように強い人間になろう。

 秘かにそう覚悟して、また迷路の地図を描き進めた。

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