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第39話 凄惨な現実

お待たせしました。

気持ち作りを念入りにしたら筆が進まなくなってしまいました。

 終業日前夜、腹の奥を重苦しくして凍えながらメーティスを連れて街へ出た。表立った目的はクリスへの誕生日プレゼント選びだったが、本心ではそれは差し迫った緊張から眼を逸らす口実だった。

 メーティスは途中に寄った雑貨屋でパッとタオルか何かを選び取り、俺はと言えば青い顔でアクセサリーショップのスタンドを往き来していた。メーティスは俺の後ろをずっと付いて歩き、俺が何も手に取らず時間を無駄にしていても、決して口を挟まずに手触りの無い微笑で眺めた。

 …リードに勝って、大会に優勝し、クリスの従士になれたら、次の日…クリスの誕生日を祝いに行く。…未だに顔も合わせないので約束を交わした訳ではないが、俺は必ずそうしようと決めていた。

 そしてプレゼントを渡したら、今度こそクリスに謝ろう。あの日の暴言だけじゃなく、今までずっと独り善がりに突っ走って下手にクリスを悲しませてきたことも。…この戦いさえ終わったら、これからはきちんとすると伝えよう。

 …少しは気持ちが晴れてくると、不意に1つ眼に留まる物があった。俺はそれを手にすると脇目も振らず会計に歩いた。

 ペリドットのネックレス。…価格が丁度良く、色合いも綺麗だった。少なくともこの時は、他意など無く選んだつもりだった。


 この最後の週、魔法演習の対象は炎属性魔法第2種だった。『フレイム』を使用するリードとの試合を控えているため、これは俺にとって最高のシミュレーション環境となった。

 一般的な視点で見て、MP消費量の多い『フレイム』はレベル10の魔人には2、3回の使用が限界であろうし、指定した座標に魔法を放つという性質を考えれば自分の行動範囲にも影響してくるため発動は慎重を期すであろう。この点は例外なくリードにも当て嵌まるはずだ。

 …とは言え、やはり相手はリードだ。ルイとの戦いを見て分かる通り、リードには恐怖心も無ければ行動の迷いも無い。魔法の使用時に手を翳すこともしなければ、自分諸とも相手を燃やす等もはや常軌を逸したような戦術まで使ってくる。ぶっちゃけ細かい予測や対策など無意味と言わざるを得ない。

 ならば主眼を置くべきは、攻撃を回避する方法ではなく、攻撃を誘発する方法であろう。此方がリードに合わせるのではなく、リードを俺の意図に従わせるのだ。何なら『フレイム』は避けなくても構わない。この数日はその作戦をひたすらに練り続けていた。

 また、『スリープ』への対処についても、リードと眼を合わせないことが確実かつ唯一の方法だ。そのために視点を絞るとなると、リードの足下だけを見て戦うことが最も効果的であろう。視点を固定していればリードには此方の意向は伝わらず、正確な読みさえ出来ればそれは『フレイム』の誘発にも有利に働く。腕の振りなどを察知し辛いのが難点ではあるが、そちらは避けずとも防御の活用で乗り切る方法はある。

 …また、それとは別に、それらの作戦が効果を発揮しなかった際における起死回生の手段も俺は持ち合わせている。これまでの試合で執拗なまでに攻撃を避けてきたリードの思惑が俺の考える通りであれば、単純ではあるが、この手段はまさに決め手と言えるであろう。後は用意した作戦を調子良く使えるかどうかだが…。

 こうした際限無い怯懦な計算は、当日、その試合まで残り4時間と迫ったこの瞬間にも続いていた。

「年の瀬を迎え、人々の街道を行き交う様も繁忙となってまいりました。後期日程も残す所あと2月となりますが、我ら教員一同は一層皆様の教育に尽力していく所存です。生徒の皆様にはこの冬休みに心身供に十分に休息し、今後も鍛練に邁進していただきたく存じます」

 12月24日、初雪に冷え込んだ褪色の体育館。一世一代の娯楽を控えた生徒達が儀礼に沿わず賑わって整列する中、重々しく壇上に立ち現れた校長は教員と生徒を一纏めに眺め渡して挨拶を始める。俺の頭にはリードとの決闘のことしか無かったが、その内校長の挨拶がその話題に触れ始めると引き寄せられたように少しずつ耳を傾けていった。

「本日は従士抜擢試験最終日、決勝戦です。この試合の勝者が従士に認定され、クリスティーネ様、ミファリー様とのパーティに所属しお2人を守護する使命を与えられます。…リード・I・ベトルくん、レムリアド・ベルフラントくんと、両者共に従士となる者として相応しい力量を見せ、これまでの戦いに勝ち進んできました。クリスティーネ様の入学に合わせてこれ程の才能を持つ2人が現れてくれたことは私としてもこの上無くありがたく、こうした奇跡もまたアポリオス様の思し召しなのではないかと歓喜しております。…しかし、選ばれるのは1人だけです。今日この誇り高き戦いも終わりを迎えます。教員、生徒の皆様、そして残る選手の皆様も、彼ら2人の勇姿をしかと見届けましょう。そして決着の時には、その勝敗に関わらず、彼ら2人の健闘を平等に湛え、大いに彼らを祝福しましょう。…この戦いは、世界の命運を変え得る乾坤一擲の戦いとなります」

 一同の視線が俺を、リードを向く。教員も誰も、その不躾な眼を咎めない。…渇れる喉で唾を飲み、俺は全ての視線を無視してリードを見た。遠方で胡座を掻いて床に座るリードは、悲しそうに目を細めて俯いていた。


 時は満ちた。俺とリードは武道場の中央に向かい合い、ロングソードを片手に下ろしている。俺はステージ側、リードは入り口側に背を向けて立っていた。俺はリードの頭頂越しにクリスと眼を合わせる。クリスは一心に俺を見つめ、何とも言えない寛容で真っ直ぐな視線でいて、それは眼が合ってなお変わらなかった。

 またリードに顔を戻す。これまでの緊張は嘘のように何も感じられなくなり、同時に頭から色々な想いも全て抜け落ちていた。真っ白な思考で、ただ1つ、リードを倒すことのみを目指し続けていた。リードは何かを諦めたように深く眼を伏せていた。

 ギャラリーは静まり返っている。この世紀の決戦を見逃すまいと大抵の生徒達は厳かに俺達を眺めているが、知人として観戦する者はその心境に更なる奥行きがあったことだろう。ロベリアは複雑そうに、メーティスは無感情に、ジャックやルイは勝利を祈るように、それぞれが熱い視線を俺に向けた。

 そして、校長が俺達の間に現れるとそれらは一斉に甚だしくなった。

「決勝戦。C5、リード・I・ベトル。D6、レムリアド・ベルフラント」

 校長の声と共に俺はリードの爪先へと視点を移した。そして柄を握り直し、校長がギャラリーへ飛び立つのを耳で確認した。続いて笛の音が鳴る瞬間を、下段に身を縮めて飛び出す準備をしながら今か今かと待ち構えた。

 リードは棒立ちのまま、動き出す予感も無い。焦燥し待ち倦んできた頃になり、漸くその笛は鳴り響いた。

 ピィーッ…と甲高い笛声は壁に吸い込まれていき、俺はそれと同時に脇目も振らずリードへと駆け出した。蛇のように床を這う程の低姿勢で、剣は右脇に引いて、左手は身体を支えるように前方に伸ばし床を滑らせる。

 互いの距離が間合いの2歩手前に届く頃、リードは俺も自分も巻き込んで広範囲に黄金色の火をじわじわと燃え上がらせた。その炎に焼かれて全身に激痛が走り、眼球は裏側まで涸れ果て、慌てて足を止めてしまう。視界も塞がれていき、もはやリードの足下を目指すことも出来なくなった俺は顔を上げ正段の構えへ移行してまた走り出した。

 『スリープ』を仕掛けられてもこの激痛なら寝た瞬間に起きてしまえるだろう。眼を合わせないように戦い続けるよりは状況はマシだ。ここから先は我慢比べ。この環境での戦闘は確かに辛いが、俺の推測ならリードは俺以上に過酷な戦いとなるはずだ。

 距離が近づいてくると細めた目での霞んだ視界でもある程度は相手の姿を判別出来てくる。ゴウゴウと唸る火の音に聴覚も遮られ、限られた不確かな情報を頼りにリードへと薙ぎを仕掛ける。リードはそれを後ろ歩きで避けると同時に引いた剣を腕の振り一つで俺の胸に突き刺した。…構わない。俺はそのまま左脚を伸ばしてリードの胸に置いた。

 リードの顔色が変わり、その瞬間炎は叩かれたように吹き消える。俺は素早くリードの顎を右足で蹴り上げた。…いつかのお返しだ。リードにとっても予想外だったらしい俺の挙動に、俺の胸に刺さった剣はそのままリードの手を振り払っていた。リードは咄嗟に防御したが、顎への攻撃では剰りに衝撃が大きく身体を泳がせていた。俺は宙返りして着地し、自ずと後退ってくれたリードへ、突きを――

「『スリープ』!」


 ――一瞬眠っていたらしい俺は後頭部の激痛と共にリードの腕に凭れ掛かり、目を覚ますと同時に膝に蹴り離される。手から離れかけていた柄を握り直すことに気を取られ、無防備だった俺は胸の剣を引き抜かれて背中を床に摩らせる。そこへリードが腹を狙って突きを仕掛けるが、咄嗟に剣を当ててその照準を逸らし、勢い剰ってリードの剣は床に刺さる。……行けるか…!?

 息を止め、歯を食い縛り、リードから眼を逸らすことも忘れて、全ての感覚をリードの右手のみに向けて研ぎ澄ませる。俺は剣を放して引いた右肘と右の踵で床を叩き、その勢いに乗せて左手を伸ばす。その先は剣を手にして動けずにいるリードの右手だ。…そしてその左手は確実に右手を掴まえた。

 …これまでのリードの試合、その全てにヒントがあった。より顕著だったのは前回のルイとの試合で、リードはルイのカウンターを警戒して()()()という点だ。リードは防御で簡単に済ませられる場面でも極力『避け』の姿勢を取っていた。リードは僅かでもダメージを負う状況があれば回避する。…それが意味するのは一つ、リードはHPが極端に少ないということだ!

 ここでリードの動きを封じて『バイオ』を掛ける。この状況下であればリードが『フレイム』を使ったとしても俺が勝てる。全ての決め手は、迅速にリードを取り押さえることだ。

 リードは明らかに焦り、滅多に崩すことの無いその顔を震える程に歪ませた。俺に掴まれた手を一気に引いて振り払おうとしたが、それを許す俺ではない。俺はリードの動きを止めようと右手を伸ばすが、それは空振ってリードの脇を通過する。

 リードの左手が俺の腹を打つ。痛みと共に倦怠感が身体を襲うが、止まるわけにはいかない。俺はリードの左腕を右腕で絡めとり、そのまま自分の身体に取り押さえる。

 これで、俺の勝ち―――

「――試合終了!勝者、リード・I・ベトル!」

 校長の声が武道場に響き、校長はギャラリーから此方へ飛び降りてきた。…何が起きたのか、何を言われたのか分からず、『バイオ』も発動しないままリードの肩越しに天井を見つめ、足音に導かれてゆっくりと顔を横に向いた。

 リードは俺の腹から手を抜くと、掴み掛かっている俺の両手はそのままにして俺の背に左手を回して起こそうとした。俺は何のつもりか分からず、警戒を剥き出しにしてリードを突き飛ばし、脚を縺れさせながら後ろへ駆け出すように立ち上がった。

 そして拾った剣を両手持ちに正段に構え、再びリードの足へと視線を下ろす。リードは棒立ちのまま、動き出す気配も無い。…ここまででいくらダメージを与えられたのか分からないが、あと一撃、剣だろうと拳だろうと当てれば勝てるはずだ。もう一度『バイオ』のチャンスが訪れてくれるとは思えない。少しキツいが、真っ向から剣で突きを――

「勝者、リード・I・ベトル!」

 校長は俺の真横に立ち、俺の腕を掴むと叱りつけるような声音で繰り返した。……聞き間違い…空耳……そう考えた瞬間、何処からか風が舞い込んで俺の額、こめかみ、頬をヒヤリと撫でていった。

 …ヒヤリ…その感触に疑問を抱いたが最後、俺は自分の頭から汗の筋が流れ落ちていくのを理解した。横に立って凄む校長、前方で力無く剣を提げて悲しく俯くリード、…嫌に静まった観客達に、俺はとうとう自分の敗北を知った。

「…ま、…待ってください。もう1回ください。…そうしたら、今度こそ勝てます…」

「勝負は付いた。君もよくやった。再戦は認められない」

「…そんなの…おかしいじゃないですか……高が1度の決闘で、力量が決まる訳がない…決勝戦なんですから、3回勝負にするとか…それこそ慎重な見極めを…」

「紙一重だったが君の敗けだ。勝ったのはリードくんだ」

 校長は1歩も譲らなかった。俺は脳震盪でも起こしたようにぼんやりした頭で、何やら色々言っていたように思う。そうしている内に他の教員もギャラリーを降りて集まってきて、校長がリードの方へ歩き出すと立ち代わって教員達が俺の腕を掴んで取り囲んだ。

「…な、何ですか…。あんたら、何のつもりなんですか…。…俺は、まだ…」

「…勝負は終わったんだ。…しっかり現実を受け止めろ」

 マイクが正面に回って俺と顔を向かい合わせた。俺は目を見開いてマイクの目を食い入るように見つめた。…夢か?それとも、何かの冗談なのか?…脳内を大量の情報が駆け回り、俺は何の結論も出せないでいた。

 徐々にギャラリーから見下ろしている生徒達が隣同士でざわざわと騒ぎ始める。ウザい、うるさい、考えが纏まらない。

 ふと、その中で一際大きな声が「クリス先輩!?」と武道場に反響した。雑音は一斉に掻き消され、生徒、教員も全員がその声の方を振り向いた。…そこでは、クリスがギャラリーから飛び降りて、まっすぐ俺の下へ歩いてきていた。

「…レム」

 クリスは優しく微笑んで首を傾け、マイクや、俺を掴む教員達も俺とクリスの間から退いた。クリスの前髪には銀のヘアピンが歩く度々照明に煌めいていた。

 俺はガタガタと身体を震わせて、意味も分からない恐怖から僅かに後退った。クリスは淡々と歩み寄り、俺の目の前で一瞬立ち止まると、一際優しく微笑んで瞳を潤わせた。

 そして、次の瞬間、クリスは俺を抱擁していた。…俺は口を動かすことすら出来なかった。何か一言発した途端に、俺を形作る壁が豪快に崩れ去り、俺の外からは現実が、内からは激情が雪崩れ出る予感があった。…そうでなくとも、俺はクリスに言えることなど何も無かったのだった。

 クリスの抱擁は触れるだけのか弱いもので、それは一見優しくもあり、同時に冷たくもあった。そしてその声音は、何もかも諦めてしまったような悲愴な慰撫の囁きであった。

「…あなたのことが好きよ。だから、私、今すごく安心しているの。…あなたと旅に出れたなら、きっと私もいろんなことを頑張れると思う。本当にいろんなことを…。でも、それと一緒に旅をすることが酷く辛いものになってしまうの。…あなたがいつまでも隣にいると、私は勇者になれないのよ。…だからね、レム、あなたとは旅に行けないの」

 クリスの抱擁が、一瞬だけ強まった気がした。俺は虚空を見ていた視線をクリスへと移そうとしたが、クリスは俺の肩に顎を乗せていて顔を見せてはくれなかった。

「ねぇ、レム。約束するわ。…旅が全て終わって、世界が平和になったら、あなたに私の全部をあげる。…いつまでだってあなたと居てあげる。…だから、今は、…少しのお別れよ」

 クリスの身体が肩から離れ、そしてクリスの綺麗な長髪がふわりと俺の鼻先に掛かった。例えようのない甘い香りがして、同時に頬に熱くて湿ったものが触れた。それが頬から離れると雫が弾けるような小さな音がして、続いて温かい吐息が頬の同じ所に掛かった。

「今までありがとう」

 そして、クリスは俺の顔を見ないようにして早足に背を向けて歩いていき、俺は力が抜けた膝をその場に突いて項垂れていた。


 …学校ではリードの従士着任の式が執り行われ、壇上にはきっとクリスもミファも上がっていることだろう。俺はそこに参加などしなかった。…そんなものに参加したくもなかったし、暫く独りにならなくてはならなかった。

 試合の後、教員達に控え室まで連行された。クリスの姿が無い空間に訪れた途端、俺の中の箍が一気に取り払われて自分でも訳が分からない滅茶苦茶な理屈を付けて自分を従士にするように懇願した。

 挙げ句の果てに怒鳴り付けた、

「俺は『勇者の助けになる者』だって占い師に言われてんだ!それを無視してパーティ組んで、酷いことになっても知らねぇぞ!」

 この一言に、遂にそれまで不機嫌に腕を組んで部屋の隅に静かにしていたゾルガーロが歩み寄った。

「そうかそうか、それがお前をクリスティーネに縛り付けてるんだな。なら教えてやる」

 そうして俺を見下したゾルガーロを、マイクが腕で制しながら「やめろバカ!そんなことしてどうなる!?」と険しい顔で窘めた。しかし、他に止める者はいなかった。

「…『どうなる』か?…こういうバカにはきっちり言わないと分からん。…そこのところはお前がよく分かってるだろ」

 マイクは言い返されると痛い所を突かれたようにしかめた顔を背けた。そして腕も下りると、ゾルガーロは俺の前まで来て真っ直ぐ睨みながら告げた。

「世界各地の占い師や号外売りにはアカデミーから金を渡している。より多くアカデミーへの入学生を獲得するためにな。…お前はただの野人だ、特別でも何でもない。ましてや選ばれてもいない。…いい加減に現実と向き合え」

 …教員達はその一言に茫然自失となった俺を置いて体育館へ準備に向かい、俺はその間にトボトボと抜け出してきたのだった。少しは時間が経ってきて言い訳も何もしなくなったが、現実を認めるか否かの前にものを考える頭がすっぽりと溢れ落ちてしまっていた。

 誰にも会いたくない。その思いばかりがはっきりとしていて、俺は下を向いたまま街をグルグル歩き回っていた。…通り掛かった時計塔を見上げるも、まだ15時だ。このまま寮に帰ってもじっとするしかなく、その内メーティスも帰ってくる。…知人に会うのは嫌だった。

 ふと、その足が登城石段に差し掛かったのを自覚して、フッと笑みが溢れた。…人が駄目なら猫に慰めてもらおうということらしい。かつて、女を恐れた俺がそうしていたのを思い出す。

 しかし、黒猫のセスは以前俺を威嚇した。魔人となった俺に怯え、忌み嫌ったのだ。今度もそうなるだろうことは容易に想像出来た。…それならそれでもいいかもしれない。逸そ否定された方が心地良いかもしれない。降り続ける雪を肩に積もらせ、白く染まった階段をのっしりと登りながら延々と自嘲していた。

 踊り場に辿り着く。いつもセスと会っていた場所だ。しかし見回しても耳を済ませてもセスの気配は何処にも無い。考えれば当たり前だった。今は冬で、こうして雪が積もっている。何処か暖かい場所に寝床を移しているか、他の野良猫と身を寄せ合って過ごしているのかもしれない。

 …猫にすら相手にされない哀れな奴。笑いながら引き返そうとしたその時、岩壁に沿って横たわる妙な形の石があるのに気づいた。雪に埋もれていて全貌が明らかでないが、どうしてもそのシルエットが気になって凝視していた。

 その石はまるで仰向けになった痩せぽちの猫のような形で、顔に当たる部分は目のような窪みがあって雪と泥が詰まっていた。…そこに、黒い動物の毛が乱れて挟まっていた。

 急いで雪を掻き分けて見た。猫の骸骨だった。既に血肉は土に還り、体毛は泥と共に細くなった骨に引っ付いていた。肋骨や首の骨などが崩れていて、そして傍には、3つ程黒いものがこびりついたパチンコ玉が転がっていた。

 俺は頭を空っぽにして踞り、その小さな骸骨を抱き締めて呻いた。行き場の無い悲しみは涙に変わってくれず、骸骨を近場の土に埋め終えると途方に暮れて一晩中人通りの少ない路地を転々とした。

リード

Lv.10 HP21 MP20 攻47(33) 防55(22) 速33 精25 属性:炎

装備 皮の鎧(防10) 皮の盾(防12) 皮の兜(防11) ロングソード(攻14、耐550)

黒魔法 フレイム((秒数×1.2)小数点以上分ダメージ、60秒後消火、消費MP10)、

スリープ(相手を眠らせる、消費MP8)


レム

Lv.10 HP35 MP20 攻47(33) 防55(22) 速33 精11 属性:氷

装備 皮の鎧(防10) 皮の兜(防11) 皮の盾(防12) ロングソード(攻14、耐550)

黒魔法 コールド(50秒間防10低下、消費MP6)、

バイオ(毒、消費MP6)

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