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第26話 選ばれし者と些末な者

 1ヶ月ぶりにセスに会いに1人で出てきたが、生憎空はどんよりと曇っている。最後に会ったのは宅飲みをした前日であり、その時はメーティスも一緒だったのだが、今日はメーティスはクリスの傍にいたがり俺にはついて来なかった。この休暇も俺達はクリスの実家で過ごしているが、クリスはやはり勉強ばかりで外には出たがらない。1年期で個人的な戦闘訓練は終わってしまい、使命への焦燥を勉強で紛らわせているのだろうと最近は分かってきていた。

 終業式から1ヶ月、魔人の身体にも慣れてきた。この1年で培った覚悟や、共に魔人となった友人達との冗談混じりの能力探究のお蔭で前向きに歩めていた。

 五感の急激な発達――物当てクイズ大会を開催し調子に乗ったジャックがムカデをぶち込みフルボッコにされる。内臓強化と差し引かれた味覚――余った酒を馬鹿笑いして消費するという暴挙に出る。疲労も感じず倍以上となった身体能力――超次元バスケを画策し学校の体育館を無断で使った罪でジャックがしょっぴかれる。

 こんな具合に新しい不安は思い出と調和する。ジャックもルイも、彼女優先と言いながらも暇があれば俺をこうした遊びに誘ってくれた。本当にいい奴らだと思う。

 シノアとは、表面上でしか言えないが、所謂『いい関係』が続いているように思う。トラブルも進展も無い、友達らしい付き合いになった。…ただ、時々シノアがロベリアと2人きりで遊んだりしていると俺は落ち着かなかった。

 兎にも角にも、大きなことも起きず平和に過ごしている。クリスがもっと肩の力を抜けるようになれば文句無いのだが、それを強要するのも違うだろう。…そんな風に最近を思い返していると、例の踊り場まで階段を登り終えていた。

「おーい、セスー!」

 毎回のようにそう呼び掛ける。寝ていなければヒョコッと出て来て嬉しそうに駆け寄ってきてくれるのだが、今日はその様子は無かった。ただ、姿はある。更に先にある階段に、岩壁に隠れて僅かに顔を覗かせていた。

 まさかこの1ヶ月程度で忘れられた訳でもないだろうし、近づいてみれば向こうもじゃれて来るだろう。そう思い歩き出すと、セスはパッと走り出して姿を消してしまった。納得が行かず追いかけていくと、驚いたことに俺の足はセスより速かった。

 そうしてセスを通り過ぎ目の前に立ちはだかると、セスはピタッと止まって逃げ出さなくなり、しかしその瞬間から低い唸り声を上げて毛を逆立て俺を睨み付けた。

「…セス…?……俺だよ、分からないのか…?」

 唐突なセスからの敵意に戸惑い、思わず俺はセスの背中に手を伸ばした。セスは攻撃的な鳴き声を上げて俺の手を引っ掻くと、また俺から逃げて階段を駆け降りていく。

「……何で…」

 困惑して項垂れ、セスが消えていった方を呆然と眺めた。…そして理解した。セスは、魔人の身体になった俺を恐怖したのだ。…もうセスと遊ぶことも出来ない。俺は魔人になってから初めて涙を溢した。


 悲しみも消えぬまま、2年に進級し始業式を迎えた。俺とクリス、メーティス、ロベリアは成績優秀者が集まるDクラスへの進級を果たし、ジャックやルイとその彼女、そしてリードもCクラスと決まった。ジャックとルイは俺のDクラスへの進級を羨ましがったが、俺は別段誇らしいとも思わなかった。

 Dクラスの担任マリー・ゼシカ。彼女はこの学校で1番の人気を誇る女教員であり、ジャック達が俺を羨んだのもこの先生が担任だったからだ。実際に最初のHRで教卓に着いた彼女を見た時、あぁ、なるほど、とその美貌に舌を巻いた。

 亜麻色のウェーブを描く長髪と天色の瞳が風のように穏やかで、身体つきは出るところが出ていながら上品さを忘れず、ホイップクリームのような儚い柔らかさを思わせる。

「今日から、皆さんの担任を務めさせてもらいます、マリー・ゼシカです。これからは演習が多く大変な時期になってくると思いますが、どうか無理はせず伸び伸びと学んで頂いて、私は最大限皆さん1人1人のフォローをしていけたらと考えております。よろしくお願いします」

 と、彼女からの挨拶があった。その丁寧で優しい言葉とお辞儀1つからも伝わる穏やかな物腰に、生徒は男女問わず魅了された。

 …俺もそれを見てからはこの先生が担任になってくれて嬉しく思ったが、元々俺はクリスとさえ同じ教室になっていつでも眼が届くようになればそれで良かった。クリスと別のクラスになって、一緒に頑張っていけない状況にだけはなりたくなかったのだ。

 また進級に伴って席順が変わりメーティスが隣にいなくなった。俺は1番右の列の2番目、ロベリアは俺の3つ後ろ、メーティスは2つ左の列の真ん中、クリスは左から2列目の3番目の席になる。授業中、気持ち良さそうに寝ているメーティスの寝顔を盗み見るのが日々の密かな楽しみだったのだが、…まぁ、真面目に勉強しろってことだな。


 始業の翌日は入学式である。朝の3、4限を返上して2、3年生が中央に参列する中、新入生の一同はドギマギと身を固くしていた。私服で頬を染めて畏まり、初々しく壇上で入学証書を受け取っていく生徒らの中に、…例の少女、ミファリー・ドレヌも混ざっていた。ミファリーは緊張して頬が赤いながらも楽しそうであり、寧ろ新鮮そうに目を輝かせてキビキビと歩いていた。そうして自分の席に戻っていったが、俺の視線には気づかないようでそのまますんなり座っていた。

 ふと、クリスの方を見てみる。以前ミファリーと別れた後の、「私、あの子とずっと一緒にいたような気がする」という意味深な言葉が気に掛かったためだが、クリスはやはりミファリーに何かを感じるようで、じっとミファリーのいる方を凝視して他には眼もくれていなかった。

 式が終わり、1年生の退場後2、3年生も教室へ帰される。そしてその後は3人揃っての昼食となるが、クリスはそわそわと落ち着かない様子のまま手早く食事を済ませ、そうかと思うと1人で1年の教室へと歩き出した。俺やメーティスも急いで食べ終わり、クリスの後をついていったが、1年の教室が続く廊下には人っ子1人の気配も感じられない。

「…あれ?…あ、そっか。そういえば私達の時も時間割渡されて初日は終了だったよね。じゃあ、1年生はもう寮か」

 Aクラスの前まで歩いてくるとメーティスはポンと手を打ってそう呟いた。クリスも今気が付いたようで「あぁ…」と頷いて教室のプレートを見上げた。

「ミファリーに会いたかったのか?」

 訊ねるとクリスは上げていた顔を此方に向けて真っ直ぐ眼を合わせた。

「えぇ…。…前に会った時少し気になって…。初対面で接点も無いはずなのに、やっぱりあの子と私の間に何か繋がりのようなものを強く感じるの」

「繋がり…。…まぁ、それなら明日の昼でも会いに来ればいいだろ。入学式で確かBクラスって言ってたはずだ」

「えぇ、そうね。分かったわ。…じゃあ戻りましょうか。付き合わせてしまってごめんなさいね」

 クリスは笑って頷くとまた俺達を連れて教室へ帰っていった。教室の黒板にはマリーの可愛らしい丸文字で武道場の場所が明記され、教室の生徒達はそれを見て場所が何処か話し合ったりしていた。…俺達はクリスの戦闘訓練を見に行ったことがあるので場所は覚えている。

 授業の10分前にクリスが武道場へ出発すると、皆それについて歩いた。


 選択武器演習および戦闘訓練は全クラス合同で行い、またその影響で全クラスで時間割は共通である。

 訓練では、生徒同士で自由にグループを作り(大抵は寮で同じ部屋に住む者同士のグループとなる)、出席番号の和の順に1回ずつレベル1のゴーレムを相手に戦闘し循環する。その方式のため、自分が戦闘訓練をする時間より他の生徒の訓練を見ている時間の方が長い。

 クリスは他の生徒とレベルが段違いなので、1人だけ特別に卒業試験用のゴーレムを相手にすることになる。俺はメーティスとロベリアを誘って班を組むが、そうなると俺の班の出席番号の和は101と馬鹿デカくなるので、全13班の内、クリスは1番手、俺達の班は13番手と順番は大きく開いた。っていうか最後じゃん。

 班決めは先日終わっているので、それぞれ装備品を倉庫から取って来て自分のクラス用の訓練場所に集まった。

「よし、全員装備は決まったわね。じゃあ、今から1班から順に白線の枠に入って戦闘を行ってもらうわ。所要時間は12分、今回はレベル1のゴーレムを相手しての訓練よ。ただ、クリスティーネは例外で卒験ゴーレムが相手。他の子らも次回からはゴーレム2体を相手させるから覚悟しなさい」

 Dクラスの戦闘訓練担当教諭ユーリ・ムカイ(俺達は武器演習のメイスの指導でしか知らないが、炎魔法の演習も受け持っているらしい)は快活に告げてクリスを呼び寄せ、自らは卒業試験用の赤いゴーレムを連れて10m四方の白線枠内へと進み入った。クリスは皮の鎧兜と皮の盾、ロングソードを手にゆったりと落ち着いた様子で歩き、その視線は精神を統一するようにゴーレムへと向けられ続けている。

 俺達やクラスメイトは皆壁に沿って座り込み、その様子を見学する。メーティスはいつかの戦闘訓練を思い出してかゴクリと唾を飲み、ロベリアは初めて見る戦闘に興味を示していた。クリスとゴーレムが5m距離を開けて双方を配置すると、ユーリはゴーレムの背後に回ってプレートで指示をしながら、

「じゃあ、1班の訓練を開始するわ。お手本見せてやりなさい。…では、始め!」

 合図と共に枠線から外へ飛び退いた。攻撃指示を受けたゴーレムは素早く駆け出し、同時にクリスも動き出す。ゴーレムはやはり速いが、夏休み前に見た時と比べると多少その姿を遠目で追うことが出来た。しかしクリスは一切眼に映らず、その場から完全に姿を消していた。

 そして気づくとゴーレムは灰色に褪せて汗の水溜まりを作り、その場に倒れ込んだ。クリスはその目の前に立っていて、剣に付いた血を脇へ振り落としていた。

「はい、そこまで!次、2班、前へ!」

 ユーリもウムと頷くだけで驚きもせず、クリスは剣を絹布で拭きながら見学の集団へ歩み寄ってきた。生徒は皆ポカンの目を丸め、「何してたか見えなかった」と騒いでいた。次の班の連中は若干怯えながら出ていき、ユーリが準備したレベル1の土色のゴーレムと向かい合っていた。

 俺は焦った。クリスが剰りにも遠い場所へ行ってしまっていて、魔人になって、一緒の時間に戦闘訓練が出来るようになっても、まるでクリスの立場に並び立ってなどいなかったからだ。

 逸早く自分の番を迎えて、この焦燥を癒したい。しかし13班の俺達にはまだまだ出番が無く、3時間の授業では11班しか終わらなかった。意気込みが無駄になった気になり、心の中でユーリに八つ当たりしてしまい、…以前クリスが戦闘訓練をお預けにされて苛ついていた時の気持ちがよく分かった気がした。


 続きは翌日の1限から始まった。水曜日は午前中の全授業が戦闘訓練に宛てられているため、上手くすると1周出来るかもしれない。12班が最初に出ていき、俺達はその次だ。ゴーレムに腰が引けてしまっている12班の生徒達を眺めながら、メーティスとロベリアは青冷めた表情で緊張に凍りついていた。

「怖がっては駄目よ。焦っても駄目。常に冷静に、敵の動きから展開を予測して、パーティでの連携を崩さないように戦うの。間違っても1人でやろうとしないで。全部滅茶苦茶になりかねないわ」

 いつも1人で抱え込んでいる奴が何を言っているのか。クリスはメーティスにそうしてアドバイスを送り、俺には「頑張ってね」とエールを送った。ロベリアには背中を擦ってメーティスと同じにアドバイスを送った。

「はい、次!13班前へ!」

 ユーリは行動不能に陥ったゴーレムに復帰薬と回復薬を与えながら声を上げ、12班は全身から力が抜けた様子でフラフラと戻ってきた。メーティスもロベリアも不安そうにしているので、俺が先陣切って立ち上がり、「行くぞ」と2人を引っ張って出た。クリスは再度、頑張ってと告げていた。

 装備は皆、皮の鎧兜に盾、武器は俺がロングソードに2人がメイスだ。武器の方は選択武器演習時に選択している物から選ぶのだが、俺は剣技一筋に絞っているのでロングソードしか今後も使わないだろう(ロングソードはメジャーなだけあって間合いが掴み易い)。メーティスとロベリアもメイスのみだ。殆どの生徒が複数選択しておいて指導が優しい武器に絞るという手法を取るので、武器を1つに絞るのは一般的と言える行動だった。

 両手ですがるようにメイスを握り締めるメーティス、深呼吸して眉を寄せ、肩を強張らせるロベリア、そしてその2人の前に立ち鞘と納刀した剣の柄に手を添えて腰を屈める俺。ユーリは初めメーティスに期待していたようだが、俺がそのように姿勢を変えると「へぇ…」と面白そうに笑った。

「じゃ、始めるわよ。…よーい、」

 ユーリはゴーレムの前に黄透明のプレートを翳し、

「スタート!」

 赤プレートを見せて飛び退いた。ゴーレムは速やかに走り寄る。

「わっ…わっわっ…!」

「…っ!」

 メーティスはアワアワと涙目でメイスを前に突き出し、ロベリアは怯えた顔で息を呑み僅かに後退る。ゴーレムは構わず突撃してきて、2人は耐えきれず背を向けて逃げ出した。…だが、俺だけは逃げずにゴーレムを迎え討とうとした。ここで逃げてクリスに失望されたくはない。

 ゴーレムは正面に迫り、その黄色い目がギラギラと俺の目を見る。恐怖が全身を包み、爪先から髪の毛の先まで震えるような心地に、俺は感情を振り切るようにゴーレムの胴目掛けて抜刀で薙いだ。しかし、恐れ故にその出が早く、ゴーレムがまだ間合いに入りきらぬ間に剣を振り切っていた。

 しまった…!と思うも、動けない。ゴーレムの拳が勢い良く迫り、身体を大きく開いた俺は格好の的となった。

「レム!」

 メーティスが叫び、それと同時に突風が背後から俺の目前へと押し寄せてゴーレムを吹き飛ばす。ゴーレムは遠く床を転がって行動不能に陥り、風と共に現れた美しい鳥が静かに俺へ振り向いた。

 全身が白く、羽毛の先が薄花色に滲んでいる身の丈程の孔雀。それは赤い瞳を優しく此方にさしむけると、「レム、大丈夫!?」と少し低い女性のような声で人語を話した。…その口調はメーティスのもののように思われた。

 俺は倒されたゴーレムとその孔雀とを交互に見て、孔雀がスーっと透明に消えていき始めるとハッとメーティスを振り向いた。メーティスは床に座り込んでくったりと項垂れ、孔雀の消失と共に顔を上げた。…それを見て先程のそれが召喚獣と呼ばれる存在であることを理解した。

「そこまで!次、また1班から始めるわ。2班以降は今度はゴーレム2体との戦闘だから気を張りなさい」

 ユーリがそう声を掛け、俺は我に帰って渋々見学場所の壁へと身体を向ける。メーティスと、その傍に立つロベリアも戦闘の終了を察して歩き出し、そこへまたユーリが「メーティスさん」と呼び掛ける。

「初回だし、生徒達に見せるのもいいかと思ってさっきは何も言わなかったけど、今後は訓練で召喚は禁止よ。強過ぎてゴーレムじゃ相手になんないでしょう?」

「あ、はい!わかりました!すいません!」

 メーティスはペコッと頭を下げて謝り、ユーリはそれに笑って頷くと歩み出たクリスに眼を合わせる。…その視線は、メーティスとクリスを結びつけた視線のように思われ、そしてその視線を向けられない俺はクリスの仲間としての資格を持てていないのだという卑屈な不安を覚えた。

 口を開く気も周りを見る気も失せ、そうして壁沿いに膝を抱える俺を心配するメーティスに、ロベリアは何の悪気も無く好奇心を示した。

「ねぇ、今のが召喚獣?どうやってるの?」

「あ、うん。…どう、って言われても…普通に呼ぼうって思ったら出てきてくれるし…多分魔法とかと同じだと思う。…今はMPが足りなくて5秒しか持たないけど」

「名前とかってつけたりするの?」

「あ、ううん。名前は私が付けるんじゃなくて、向こうから教えてくれたよ。…私のは、ガブノレって名前」

 若干受け答えし辛そうなメーティスに、俺の方も少し申し訳なくなる。…当たり前だがメーティスが悪い訳ではなく、単に俺のプライドの話なのだ。

 クリスは例の如く一瞬で戦闘を終えて戻ってきて、俺を見ると優しく微笑んで隣に座り、頭を撫でようとしたのを触れる前にやめて、甲斐甲斐しく俺の顔を覗き込んでいた。

「レム、そんなに落ち込むことは無いのよ。初めての戦闘で怖がるのは当たり前だし、召喚獣は基本的に魔物並の力を持っているものなの。レベル1のあなたが召喚獣と自分との力量を比べたってしょうがないわ。次の戦闘で頑張れば大丈夫よ」

 俺は余計惨めな気がしてきて、その後の他の生徒の訓練もろくに見なかった。1時間、2時間、そして3時間経って12班まで戦闘が終わり、「次、13班!」と再度ユーリに呼び出された。武道場の壁に掛かる時計を見上げ、俺達が今日の訓練の締めになりそうだなと直感した。

 また白線へと踏み入るが、今度はロベリアしか怯えていない。俺はゴーレムへの恐怖以上の怒りに支配され、メーティスはガブノレとなって戦ったことで恐怖を覚えなくなっていた。そうして2体のゴーレムと向かい合い、ユーリの開始合図と共に俺は左のゴーレムへと駆け出した。

 ゴーレムは2手に別れ、左のゴーレムは俺を、右のゴーレムはあとの2人を狙って走る。正面へ真っ直ぐ近づくゴーレムに、俺はまた一瞬恐怖した。…しかし、同じミスは絶対に避けなくてはならないと自分に言い聞かせ、剣を抜いて右へ下げてギリギリまで距離を詰めに行く。ゴーレムと俺は、互いに右腕を後ろに引いて攻撃前のモーションを整える。そして残り1mと縮んだその瞬間、ゴーレムはパッと立ち止まった。

 ゴーレムが怯えて止まったのだと思った俺は幼稚な優越感にニヤついて、左足を軸に胸への突きを放った。ゴーレムはそれを見越して低く身を屈め、俺の剣が頭上へ伸びきると跳ぶように立ち上がって俺に顔を寄せた。

 剣を右に払って飛び退こうしたがもう遅い。ゴーレムは俺の胴にしがみつくと足を絡めて押し倒し、そのまま畳み掛けるように右手で腹を殴りまくった。焦り、身動きも取れず、完全にパニックに陥った俺は過呼吸気味にジタバタともがく。しかし数秒それが続くと違和感に気づいて混乱は一気に冷めた。…殴られてるのに全然痛くない。

 ゴーレムは鎧の上からしか攻撃していなかった。そして鎧はその攻撃を完全に防ぎ、一切のダメージも俺には届かない。…そう、これは訓練だ。いくら攻撃を受けようと怪我をすることはない。恐れることなど最初から何も無かったのだ。

 そうと気づいた俺はゴーレムの背に左腕を回し、グッと自分の身体に押さえつける。そして慎重に剣先をゴーレムの背中に突き立て、一息に刺す。

 今度はゴーレムがジタバタともがき始めた。形勢の変化を理解すると、この気を逃さずもう1撃。ゴーレムの発汗に、『行ける!』と確信する。魔物の発汗はHPが半分以下となったことを意味する。そのままHPを0にすれば勝ちだ。

 更にもう1撃と右腕を引いた瞬間、その大量の汗に左腕が滑り、ゴーレムの抵抗を許してしまう。ゴーレムは右腕へと身体を向けて俺の右手を殴り付ける。当たり方が悪いため俺の手に傷は出来ないが、その衝撃に剣は打ち飛ばされてしまう。クルクルと回転しながら滑っていく剣を見つめ、一気に恐怖が再発していると、ゴーレムは俺の左手を押し退けて立ち上がってしまった。

 急いで俺も立ち上がろうとするが、まだ立ちきらない不安定な姿勢の所を前蹴りされてまた倒れ、ゴーレムはそんな俺を右足で踏みつける。

 必死でその脚を掴み、押し上げようとするが、力はゴーレムの方が上のようでビクともしない。どうするべきかと悩み、脚を折ればいいのだと気づいて実行しようとしたその瞬間、投げ飛ばされたメイスがゴーレムの顔に突き刺さり、ゴーレムはフラフラと後退って俺の脚に躓いて、背中から倒れると行動不能に陥っていた。

「レムくん、大丈夫!?」

 ロベリアが悲愴に叫んで駆け寄り、膝を擦りながら俺の横に座り込んだ。そして両手で俺の肩を掴むと、俺の顔を見てホッと息をついた。メーティスもそれをロベリアの背後から見て安心し、落ちているロングソードやゴーレムに刺さったメイスを引き抜いて寄ってきた。

 俺が起き上がり、ロベリアはメーティスからメイスを返してもらうと俺に手を貸しながら立ち上がる。2人共も笑っていて、メーティスはロングソードの柄を此方に向けて差し出した。俺は顔中が熱くなって思わずロベリアの手を払い、2人は俺の眼を見て驚愕していた。

「…何で助けたんだ」

 俺の言葉に2人は目を見開いて困惑し、青冷めた微笑を向ける。俺は、自分が情けないことをしていると分かっていながらも、言葉を止めることが出来なかった。2度も女に助けられるなんて、とどす黒く醜い羞恥心が無力感を伴って湧き上がり、どうしようもなく腹が立った。

「今の、自分でやれたんだ…。ゴーレムの脚を折って、剣を拾って、それで……」

 震える拳を見下ろして、独り言のようにそう呟く。2人は言葉を失って申し訳無さそうに俯き、また俺達のそんな様子に構わずユーリは、

「今日の訓練は終了!各自装備品を倉庫に戻して解散!」

 とゴーレムを引き取っていく。見学していた生徒達もわらわらと倉庫へ歩き出し、駄々を言う情けない男を見守っていた2人もそれについて歩いていき始めた。剣もそのままメーティスが返しに行ってしまう。ただ1人、クリスだけが俺に近づいてきて、

「よくやっていたわ。また次回頑張りましょう」

 と微笑んだ。俺は泣き出しそうなのを堪えて「1人にしてくれ」と言い返し、クリスが行った後を歩いて倉庫に装備を戻した。

 ダサ…、と食堂への廊下で通り過ぎたクラスメイトの女子に嗤われて、昼も食べずにトイレに引きこもった。

レムリアド・ベルフラント

Lv1 HP17 MP2 攻20(6) 防37(4) 速6 精3 属性:氷

装備 皮の鎧(防10) 皮の兜(防11) 皮の盾(防12) ロングソード(攻14)


メーティス

Lv.1 HP13 MP1 攻15(2) 防37(4) 速6 精3 属性:炎

コマンド 祈り(5秒でMP1回復)

召喚 ガブノレ(5秒でMP1消費)

装備 皮の鎧(防10) 皮の兜(防11) 皮の盾(防12) メイス(攻13)


ガブノレ

HP20 攻30 防20 速30 精15 耐性:なし

行動 引っ掻く、突つく、飛翔、スリープ(相手を眠らせる、消費MP8)


ロベリア

Lv.1 HP15 MP2 攻17(4) 防35(2) 速4 精2 属性:風

装備 メイス(攻13) 皮の鎧(防10) 皮の兜(防11) 皮の盾(防12)


訓練用ゴーレムLv1

HP22 MP0 攻9 防6 速6 精0 無効:状態異常 弱点:なし 経験値2 金0



クリス

Lv.12 HP47 MP43 攻40(26) 防57(24) 速39 精21 属性:光

装備:皮の鎧(防10) 皮の兜(防11) 皮の盾(防12) ロングソード(攻14、耐550)

白魔法 ヒール(HP30回復、消費MP3)、

デトクス(状態異常解消、消費MP5)、

ディフェンス(80秒間防15上昇、消費MP6)



状態異常魔法

(自分の精神力/2>相手の精神力で成功)

相手に耐性ありの時→(自分の精神力/4>相手の精神力で成功)

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