婚約破棄されたら、運命の相手に出会えた
「エデン!私は真実の愛を見つけたの!だから、あなたとの婚約は破棄するわ!」
「すまないエデン。俺とハイネの幸せのために身を引いてくれ!」
放課後、突然婚約者にカフェテリアへ呼び出されて行ってみると、いきなり婚約破棄を言い渡された。
婚約者の隣には俺の友達のドワンがおり、言ってる台詞から推察するに、どうやら婚約者は浮気していたようだ。
俺、エデン・マクフェルドは伯爵家の次男で、公爵家のご令嬢のハイネ・ユリネース公爵令嬢とは幼い頃からの婚約者だった。
仲は正直あまりよくない。
というか、俺は普通に円満に過ごせるよう工夫はしているけど、あちらが何故かめちゃくちゃ俺のことを嫌ってるらしく、人前では出さないけど、裏では凄い毎回嫌みを言われた。
だから、ここ最近友人のドワンと仲良くしているのをみて、もしかしてとは思っていたのが・・・
「ハイネ。ドワン。呼び出して挨拶も抜きに本題に入るのはあまり褒められたことじゃないよ。とりあえず、話を聞くから落ち着きなよ。」
二人の大声でカフェテリアの生徒たちはこちらに一斉に注目してしまっているので、俺はそう冷静に声をかける。
しかし、どうやらその俺の態度がハイネにはお気に召さなかったらしい。
物凄い形相で睨まれた。
「あなたはいつもそう!偉そうに大人ぶって!」
「エデン。君はいつもそうやって・・・少しはハイネの気持ちも考えろよ!」
「だから少しは落ち着いてよ・・・それで、婚約破棄だっけ?」
あまり話がこじれても面倒なのでサクッと本題に戻るように仕向ける。
「俺個人としては婚約破棄事態は別に構わないけど、君の父上であるユリネース公爵様と俺の父上のマクフェルド伯爵は知ってるのかな?」
「お父様たちには後から説明するわ!マクフェルド伯爵はあなたから言いなさい!」
「つまり、承諾も得ずにこんなことしてるのか・・・」
思わず頭を押さえてしまう。
昔から頭がすかすかだとは思っていたけど、ここまでとはね・・・
「ハイネ。この婚約の意味は君のお父上から聞いているのか?」
「こんな、政略結婚に意味なんてないわよ!私はドワンと結婚するの!」
「その通りだ!愛のない結婚など無意味だ!俺とハイネは互いに愛し合ってる。だから、身を引いてくれ!」
「そうか・・・」
深くため息をついてしまう。
この感じだと俺との婚約の意味は知らないみたいだな・・・
確か、ドワンは男爵家の子供だったか?
なら・・・
「じゃあ、二人は本当に愛し合ってるんだよね?」
「そうよ!」
「もちろんだ!」
「真実の愛とか言ってるくらいだから何があっても大丈夫なんだよね?」
「当たり前だわ!」
「俺たちの愛の前に障害などない!」
「そうか。わかった。」
俺は、二人から一歩下がり、一礼をして笑顔を浮かべた。
「長い間、ありがとうございました。今回の婚約破棄のことについては後程正式に家の方にご報告します。ならびに、今回の婚約破棄の責任はこちらには一切ないものということをご了承ください。今回このような形で縁がきれるのは誠に残念ですが、どうぞ、“何があっても”お幸せに。では。」
そう一気に言い切って俺はカフェテリアを後にする。
後で何やら二人が言ってた気はしたが、スルーした。
「エデン。」
カフェテリアを出ると、後ろから知ってるの声に呼び止められた。
振り向くと、他国の留学生であるシルビアがこちらに駆け寄ってきた。
シルビアとは、学園に入学してすぐに仲良くなったクラスメイトで、放課後はよくカフェテリアに来ていたので今日の出来事も見られていたのだろう。
「やあ、シルビア。もしかしなくても見てたかな?」
「ええ。ばっちりね。」
「そうかー。恥ずかしいところを見られたね。」
「あら?別にあなたは悪くないんじゃないの?どうみても浮気していたのはあっちでしょうしね。」
「まあ、そうなんだけどね・・・真実がどうであれ俺は世間的には『他の男に婚約者を寝とられた情けない男』とか『婚約者に愛想をつかされたダメ男』とかって認識されそうでね・・・」
「ふふ・・・そうね。」
世間からみれば、俺はどんな形であれ、婚約者とうまくいかなかった不良物件みたいな扱いを受けるだろう。
うちは、長男がすでに家を継ぐことが決まっているから、俺には婿入りしか選択肢がないのに、この出来事のせいでマイナス評価は確実だろう。
「あーあ。誰か俺を婿入りさせてくれる素敵な女の子はいないかな。」
「あら。なら私が貰うわよ。」
いつものノリでシルビアにそうぼやいてみると、思わぬ返事が返ってきた。
一瞬フリーズしてしまうが、きっと冗談だろと思いおどけてみせる。
「シルビアみたいな美少女からそう言われると嬉しいけど、その冗談は今の俺にはきついよー。本気になったらどうするの?」
「あら?私は本気よ。」
そんな馬鹿なと、思いシルビアの顔をみると、真剣な表情をしていて、冗談ではなさそうなのがわかった。
「えっと・・・本気?」
「もちろんよ。私はあなたが好きだったんだから。エデン。」
「えっ・・・?」
思いもよらないことを言われた。
シルビアが俺を好き?俺なんかを?
シルビアは長い金髪とアメイジストの瞳をもつ美少女だ。容姿端麗、成績優秀、運動能力も高いらしい。そんな才色兼備揃った美少女が俺みたいな普通の存在に好きと言った。
「えっと・・・いつから?」
「興味を持ったのははじめて会ったとき。明確に好きって意識をしたのは私が暴漢に教われてるのを助けて貰ったときよ。」
確かにそんな出来事はあった。
たまたま、買い物で出掛けていたら、シルビアが囲まれて連れ去られそうになってるのを発見して助けたのだ。
シルビアは冗談で言ってる様子はなくどこまでも真剣だ。
「本当に俺なんかでいいの?君ならもっといい人もいるだろう?」
「あなたがいいのよ。いえ・・・あなたじゃなきゃダメなの。あ、拒否権はないわよ。すでにあなたの屋敷へはあなたが婚約者から婚約破棄をされて私が拾ったっていう報告が行ってるから。」
「はは・・・仕事が早いね。」
思わず苦笑してしまう。
シルビアはそこでいつものような笑顔を浮かべてきいた。
「嫌だった?」
「いや・・・」
混乱はしてるけど、不思議と嫌ではなかった。
むしろ・・・
「婚約破棄されたばかりで、不謹慎かもだけど・・・俺もシルビアがいいって思った。だから・・・」
俺はシルビアへと近づき、彼女の手を取った。
すべすべした俺より小さい手にドキドキしてしまうが答えをだす。
「こんな俺でよければあなたの婿にしてください。そして、俺の嫁になってください。シルビア。」
「はい。喜んで。」
「ありがとう。シルビア。」
「こちらこそ。ありがとうね。エデン。」
ハイネの時には感じなかった胸の高鳴り。
婚約破棄されて、早々だけど、俺はシルビアに恋をしたようだ・・・。
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報告も兼ねて、シルビアとその足で我が家へ向かった。
移動中に聞いた話だと、どうやらシルビアは隣の国であるアンドレット国の宰相の娘らしい。
爵位は公爵で筆頭公爵家と呼ばれるほどに家柄は高いらしい。
「ねぇ。それって俺が婿入りで大丈夫なの?」
シルビアのことは好きだけど、話を聞くとますます俺で大丈夫なのか不安になる。
すると、シルビアは。
「あなたなら大丈夫よ。だって、ユリネース公爵家で婿入りのために色々勉強したり王宮でも時々仕事手伝ってたんでしょ。なら、特に問題ないわよ。」
シルビアいわく、それだけ出来れば特に問題ないらしい。
不思議とそれで心は軽くなった。
そうこうしていると、実家に到着した。
すぐに、執事のジェットが出てきて突然の帰宅に驚いてたけど、父上の元へと案内された。
「久しぶりだな。エデン。それで?婚約破棄たんだって?」
「父上。ストレート過ぎますよ。エデンお帰り。大丈夫かい?」
応接間にいくと、父上と兄上がいて、いつものノリで聞かれた。
父上はおちょくるように、兄上は少し心配そうに。
「お久しぶりです。父上、兄上。話はすでに聞いておられるんですね。」
「ああ。さっきな。それで、お前の後ろにいるご令嬢は?」
そこで、シルビアが一歩前に出て淑女の礼をとった。
「お初にお目にかかります。この度、エデン様に求婚させていただきました、アンドレット国ローランド公爵家のシルビア・ローランドと申します。」
「ほう?ローランド公爵家か。これはまた、大物を連れてきたな。エデン。」
「もう少し言い方を考えてくださいよ。父上・・・。でも、ローランド嬢ひとつ聞いてもいいかな?」
「はい。なんでしょう?」
「こう言っちゃなんだけど、エデンは一度婚約者に裏切られてる。本人はなんとも思ってないかもしれないけど・・・君はどうしてエデンを選んだんだい?」
真剣な表情で問いかけてくる兄上。
すると、シルビアは。
「私はエデンが好きです。エデンの優しいところも、能力はあるのに自己評価が低いところもなにもかも。」
「君はエデンを幸せにできるの?」
「もちろんです。」
「そう・・・なら、エデンを頼んだよ。」
兄上はにっこりとそう微笑んだ。
「心配してたんだ。前回の婚約はあちらの都合で無理矢理だったから、エデンには辛い思いをさせたしね。でも、君なら大丈夫だと思えたよ。エデンを・・・いや、エデンと幸せになってください。」
「俺からも頼んだ。馬鹿な息子だけどよろしく。」
兄上と父上はそう言って頭をさげた。
「こちらこそ。よろしくお願いします。」
「兄上、父上。ありがとう。」
そうして、その日のうちに、シルビアの家からも正式に婚約の打診があり、俺とシルビアは晴れて婚約者となった。
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それから、1週間は平穏な日々が続いた。
学園では俺が婚約破棄されたというのが噂で流れていて親しい人には心配されたけど、シルビアとの婚約の話をすればすごい祝福された。
どうやら、俺とシルビアの仲の良さをみて、ハイネよりシルビアの方が婚約者としていいんじゃないかと思ってくれてたらしい。
シルビアとは、今までは親友のような距離感だったけど、婚約者となってからは今まで以上にべったりと仲よく過ごしている。
そんな楽しい日常をエンジョイしている中で面倒なのはやってきた。
それは、婚約破棄されてから1週間後のとある日。
用事のあるシルビアを教室で待っていると、ハイネがものすごい勢いで訪ねてきた。
「どういうことよ!」
突然訪ねてきての第一声はこれだった。
「えっと・・・なんのこと?」
「とぼけないでよ!援助のことよ!なんでうちへの援助をやめるのよ!」
「なんでって・・・俺との婚約がなくなったからでしょ?」
もともと、俺とハイネの婚約はユリネース公爵家が金銭的に危ういために無理矢理結んだもので、援助という名目でうちからお金を巻き上げていたのだ。
マクフェルド伯爵家は、商人としての顔もあり、その資産は一国にも届くとさえ言われている。
ゆえに、お金目当てに俺はユリネース公爵家に人質にされていた。
だから、俺との婚約がなくなれば当然援助も消える。
しかも・・・
「その上、婚約破棄の賠償金に援助の分の返還ってなんなのよ!」
そう、今回の婚約破棄で俺は結果的にはシルビアに拾われたけど、本来なら婚約者に公衆の面前で名誉を傷つけられたいわばワケアリ物件にされたのだ。俺には批は全くないので賠償金をきっちり請求して、なおかつ、今までユリネース公爵家に援助していたお金を戻すように要求したのだ。
元々、俺との婚約が条件でのもので、書類にも書いてあるから当然なのだ。
当事、脅された我が家がとった苦肉の策がいきたのでこちらとしては万々歳だが、あちらはお気に召さなかったようだ。
「当たり前のことだよ。今まで、君や家族が使ったいたお金の8割りはうちのお金なんだよ?それを不当に婚約破棄されたから帰せっていうのは当たり前だと思うけど?」
「だったら、私の愛人にするからお金出しなさいよ。どうせ、あんたに結婚相手なんていないでしょ?」
当然というふうに言い切るハイネ。
もしかして、俺とシルビアとの噂知らないのかな?
そう思って口を開こうとすると教室の扉が開き、よく知ってる声が聞こえてきた。
「あら? そんなことないわよ?」
入ってきたのはもちろん、シルビア。
シルビアは廊下で話を聞いていたのか笑顔だけど、若干怖かった。
「なによあんた?今私が話してるんだけど?」
「あら?婚約者が女と二人きりなのをみて諌めてはいけないのかしら?」
「婚約者ですって!?」
ハイネはそこでこちらをみると詰め寄ってきた。
「ちょっと!どういうことよ!」
「いや、どうって・・・婚約破棄されてから新しく婚約者が出来ただけだけど?」
「聞いてないわよ!」
「いや、言ってないし。」
言い方だけを考えるとなんだか俺はポジション的に浮気がばれた二股男みたいだなーっとそんな現実逃避をしてしまう。
すると、黙っていたシルビアがこちらへとやってきて俺の腕に抱きついた。
こんなタイミングだけど思わずドキドキしてしまう。
シルビアは笑顔を浮かべて口を開いた。
「あいにくと、この人はもう私のものなのよ。お分かりかしら?尻軽女さん?」
「誰が尻軽よ!あんたこそ、婚約破棄したばかりの男に取り入ったじゃないの!」
「あら?でも、私は正式な手順で婚約しましたよ。どこぞの家みたいに無理矢理ではないし、あなたは婚約者がいながら浮気してたじゃないの?それなのに、今さら元婚約者にすがってる時点で尻軽でしょ?」
「なっ!?」
あきらかに憤怒の形相のハイネと笑みは浮かべていても切れてるのがわかるシルビア。
「シルビア。行こうか。」
「そうね。もうここに用はないしね。」
面倒なので、俺とシルビアはそのまま教室を後にしようとする。
「待ちなさいよ!」
が、後ろからハイネが何やら叫んでいたので、俺は振り返って普段なら絶対言わないようなことを冷めた瞳で言った。
「あのさ。今後一切俺とシルビアには近付かないでくれる?いい加減目障りなんだよ。今まで我慢して仲良くしようもしてきたけど、君は俺をとことん嫌ってきたじゃないか。なのに、浮気して婚約破棄してからお金目当てにまた来てさ。いい加減にしてよ。はっきりいうけど、君のことは嫌いだよ。俺が好きなのはシルビア。分かるかな?それに、君は婚約破棄のときに言ったよね?“何があっても大丈夫”だって。真実の愛とか言ってその程度なわけ?とにかく、お金は返してよね。あと、これ以上付きまとったら、俺は早々にシルビアとこの学園から消えるから。じゃあね。」
言いたいことを言い切って俺とシルビアは唖然とするハイネをおいて教室を後にする。
「ふふふ・・・珍しく辛辣だったわね。」
楽しそうにそういったシルビア。
「まあね。溜まってたのかな?」
「まあ、でもちょっとすっきりしたし、何よりさっきのあなたは格好よかったわよ。」
いたずらっぽく頬笑むシルビア。
俺はその笑顔を愛しく思いながら敵わないなーと思ってしまった。
「ねぇ、シルビア。」
「なに?」
「好きだよ。」
「あら?私もよ。」
残り僅かな学園生活。
俺はシルビアとともに歩きだした。
お読みいただきありがとうございます。
男が婚約破棄される話です。
本当はヒロインは宰相の娘ではなく王女様にしようとしてたんですが、なんとなく変えました。
いつも、作者の他作品を読んでくださる方や感想をくださる方、本当にありがとうございます。
感想を返す時間がないのでこの場で失礼します。
それでは、この辺でm(__)m