表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

1.キャトられ婚約破棄

・拙作「悪役令嬢オーディション!」http://ncode.syosetu.com/n0863dx/ と登場人物が被っていますが物語としての関連性はありません。(ダイマ)

・1、2、3はそれぞれ別の話としてお読み下さい。

 


「――ベラドンナ、貴様との婚約を破棄させて貰う!!」


 目前には、金髪碧眼の美しい王子がこちらを憎々しげに睨み付けている。その傍に寄り添う、栗色の長い髪と丸い大きな目が愛らしい少女。


 暖かな陽が注ぐ学園の中庭。

 穏やかな昼下がりを乱した彼らへ、其処此処のテラスで思い思いの時間をすごしていた学生たちの視線が集まる。


 既視感を覚えるその光景に、これと全く同じ光景を、昔プレイしていた乙女ゲームで見たことを思い出した。

 その瞬間、はっきりと悟る。

 ――つまり、日本人だった自分は死んで、乙女ゲームの世界に転生してしまったのだ。それも、ゲームでは主人公(ヒロイン)を苛める悪役として、破滅的な最期を迎える令嬢ベラドンナに転生してしまったことを。


(しかも終盤も終盤、婚約破棄の最中に思い出すとかこれなんて無理ゲー!!)


 オタクらしい従順さですぐさま状況に順応したはいいものの、現況の詰みっぷりに焦って視線をうろつかせてしまう。

 それをどうとったのか、王子はいよいよ声を強め、隣に立つヒロインは健気に頭に生えたアンテナを震わせている。


「覚えがないとは言わせんぞ! 貴様が行った数々の卑劣な行い!」

「待ってアンテナ待って」


 言質をとったとばかりに王子は声を上げる。


「やはり部下の報告は本当だったようだな! 貴様がリリィの容姿を口汚く罵っていると!」

「それほんとに罵倒かなあ?!」

「“人間ではない”“化け物”……これのどこが罵倒でないと!?」

「いやっうーんえー!? いやだってアンテナ! 頭にアンテナ生えてるんですけど!?」

「この世界のどの物質とも合致しない素材不明の銀色の棒が頭に生えているくらいなんだというのだ! 民の上に立つ者として何たる狭量さ、貴様恥ずかしいとは思わないのか!」

「そこで器の大きさ見せちゃう!?」


 ベラドンナを責め立てる王子を止める者があった。件の主人公(ヒロイン)、リリィである。

 彼女は王子を手で制し、すっと前に出る。そして、蕾のごとき可憐な唇を開き――


「التбعيةэ▼жэليлثا↑↑ыالتمعةд¶й٩٧?」

「喋っ、れてっ、なーーーーーーーい!!!」


 ベラドンナは渾身のヘッドバッドを目の前の地球外生命体(予想)にお見舞いした。


「貴様、ベラドンナ! 何ということを!! よくも俺の目の前でリリィに暴力を振るってくれたな! 覚悟するがいい!!」


 ふらついたリリィを咄嗟に支え王子は吼える。ベラドンナも吼える。


「目ぇ覚ませボンクラ! これだから第二王子は!! どう考えても地球侵略の第一歩でしょ! 王家の一員となってこの国を侵略の拠点にするとかそういうアレでしょ!!」

「何をわけの分からんことを……少し言葉が不自由だから何だと言うのだ!」

「何だじゃないよ! お前が何なんだ鈍感ってレベルじゃねーぞ! ハーレムラノベの鈍感系主人公か!」


 王子は、くしゃりと辛そうに顔を歪めた。


「貴様だって覚えているだろう……今とは違う、入学当時のリリィの姿を……」


 ――脳裏に、ベラドンナとしての記憶が蘇る。

 確かに以前のリリィは、頭にアンテナなんて生やしていなかったし、普通の言葉を話す、いたってまともで正常で普通な人間の女の子だった。


「彼女の様子が変わったのは突然だった。俺がリリィと二人、お忍びで郊外の花畑へ散策に出掛けた時のことだ。

 突如頭上に空飛ぶ銀色の円盤が現れたのだ。それから降って来た光にリリィが照らされたかと思ったら、彼女の体は浮き上がり、円盤へと吸い込まれていった。

 俺はただ、彼女がふわふわと羽根のように円盤に吸い込まれていくのを、呆然と見上げることしか出来なかった……。

 三日後、彼女は花畑に倒れているところを近在の農家に発見された。だが、だが――。

 ……彼女は、それ以来ずっとこの状態だ」


「キャトられてるーーー!?!」


 おまっばっおまっ、と言葉にならない叫びを発するベラドンナを、王子はキッと睨み付ける。


「きっとリリィは酷く恐ろしい体験をしたに違いないのだ! そんな彼女のことを不憫だとは思わんのか!?」

「そりゃそうだろうけどぉー!!」


 間違いない。ヒロインは地球外生命体にキャトられて頭の中にチップか何かを埋め込まれてしまったに違いないのだ。というかアンテナを埋められている。


 頭を抱えるベラドンナの脳裏に、閃くものがあった。

 銀色の円盤。銀色のアンテナ。――銀色。


 そういえば、攻略対象の一人に、美しい銀髪と銀縁メガネが特徴の数学教師がいたが……いやしかし、それが何だと言うのだ。

 気を取り直し、とにかく何とか誤解(?)をとこうとベラドンナは王子に向き直った。原作ゲームの通りにいけば、末は処刑か生涯幽閉コースだ。それだけは何としても回避せねばならない。

 しかし、ベラドンナの毒花のごとき唇から言葉が零れることはなかった。

 先ほどから彫像のごとく呆けた視線を空に向け続けていたリリィが、突然動いたのだ。


 両手をゆっくりと天に掲げ、何やら人類には発声出来なさそうな呪文を呟きつつ、体をゆらゆら揺らしながら、ぐるぐると円状に歩き回る。目も激しくぐるんぐるんしていた。

 怖い。


「リリィ!? どうしたんだ、リリィ!」


 王子は愛しい恋人に取り縋り、そのまま引き摺られていた。その背後で、幾人かの生徒たちが頭上を見上げ何やら驚きの声を上げている。釣られてベラドンナも空に目を向ける。


 空飛ぶ銀色の円盤がいた。


ベントラ(UFO召喚儀式)ってたーーー!?」


 円盤は外周に円状の窓を備えており、ベラドンナの戦慄(わなな)く視線の先で、その一つがやおらぱかりと開いた。

 果たしてそこから顔を覗かせたのは、銀髪メガネの数学教師である。

 シルバーに輝く全身タイツをぴっちりと着こなした彼は、常には気難しく顰められている愁眉を緩めると、にっこり笑いこちらへ向かって大きく手を振った。

 円盤から光が照射された。

 リリィと、未だ彼女の腰に縋っていたままの王子が光に包まれる。


「くっ! 逃げろリリィ! 逃げ……え?」


 王子の体だけがふわりと浮き上がり、円盤に向かって飛んでいく。


「え? え? え?」


 円盤に吸い込まれていきながら、王子はキョトキョトと周りを見回し理解できないといった声を上げていた。

 ベラドンナには分かった。やつら(グレイども)が欲しているのは新しいサンプルなのだと。


 王子がキャトられゆくのを投げやりな気持ちで見守っていたベラドンナは、ふと隣にある体温に気が付いた。

 見れば、リリィがベントラ(UFO召喚儀式)を止め、小さくなってゆく王子へ透徹した青瞳を向けている。

 不思議に穏やかな心地がベラドンナの心を満たす。


(きっとこれで良かったんだ……。)


 さようなら王子、さようなら――――。


 王子を吸い込んだ円盤がやけに直線的かつ摩訶不思議な軌道で空の彼方に消えてからも、悪役令嬢(ベラドンナ)主人公(リリィ)の二人は、ずっとずっと空を見上げていた……――――。





 ――――――三日後、王子は学園の中庭で倒れているところを用務員さんに発見された。



 それからどうなったかと言うと。



「……それで、殿下。婚約破棄に関してはいかが致しますか?」

「افتت★йيئوл♭الث¬Бفي♭الأ〓مية」


 帰ってきた王子がそもそも人類の言葉を発せなくなっていたため、婚約破棄も有耶無耶になった。(というか婚約どころの話ではなくなった。)


 ベラドンナは破滅の運命を回避することに成功したのだ!


「わあ~い。やったぁ~。あはは……あははは……」

「эست☆٧٥л↑жلآэ↑ыتبرع¶йأيلول◎」

「٣٤٥∀жэ٨٣٥ л▽يت↓ش§هو〓مل?」


 頭に揃いのアンテナを生やしたヒロインと王子が、両側から不思議そうにベラドンナを見つめている。

 二人に挟まれて微笑む悪役令嬢(ベラドンナ)の瞳は、何故か、晴れた夏の日にひっくり返って道端で死んでいる両生類のごとく、濁っていたという。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ