2-3 カランティ
デウドラと言う老女にその部屋に招待され、待たされることほぼ一刻あまり。
窓から差し込む午後の光は徐々にその姿を長く伸ばす。
部屋の中はひたすらに広く、二人はぽつんとその部屋の真ん中に立っていた。
フィアはその真ん中にある長椅子に腰かけ、
ヴァロはいつも通りフィアの斜め後ろに立っているという構図だ。
部屋にある時計が鐘を三つ鳴らす。
飛び込みとはいえ、ヴァロはここまで待たされるのははじめてでもある。
その女性が部屋に入ってきたのはいきなりだった。
「ヒョヒョヒョ、あなたがフゲンガルデンで最近新しく聖堂回境師に任命されたフィアさんですか」
カランティは独特の笑い声で二人の前に現れた。
銀の髪に眼鏡をつけて、服装は衣服の上に白い白衣のようなものを着用している。
「ヒョヒョヒョ、待たせてごめんなさいね。研究の方が手が離せなくて」
彼女はそう言ってフィアに向かい合うように座る。
前にグレコが前に嫌な笑い声と言っていたがそれはその通りだと思った。
顔立ちは整っているが、口に浮かべる笑い顔がそれを台無しにしている。
「所要でルーランまで。もうじきここも雪で閉ざされます。
その前に一度尋ねてみたいと思いました」
フィアは凛とした態度で丁寧に頭を下げる。
「ヒョヒョヒョ…それはそれは殊勝なこと。歓迎しましょう。
少しお話をしたいところですが、私はこれから私用があります。
何かあれば外にいるデウドラに話を通してください」
カランティはそっけなくそう言うとその場から去って行った。
そうしてカランティとの初めての接触は終わったのである。
「人をさんざん待たせておいて、話はあっさり終わったな」
城から出るとすぐにヴァロは毒を吐いた。
この結界は攻撃性能に特化しているのなら、聞かれる心配はない。
ルーランのように気を回す必要もないだろう。
「そんなこと言わない。こっちもいきなり押しかけたわけだし」
ヴァロをなだめるようにフィアは言う。
フィアは達観したような面持ちである。
歓待はされないだろうとはじめから思っていたらしい。
「例の事件、伝わってはいるんだよな」
ヴァロが言うのは『真夜中の道化』捕縛の件である。
「『真夜中の道化』捕縛はカランティの管理地にて起きた出来事。
それを知ったからからこそ、カランティの弟子のケイラ・ニールもルーランで暗躍していた。カランティが知らないわけがない」
フィアの言う通りだと思った。
ヴァロたちに交易都市ルーランでちょっかいをだしてきたケイラと言う魔女は、
どうして彼女の妹弟子たちがやられたことを知ったのか。
「ならどうしてカランティはあんなにそっけない態度をとったんだ?」
ヴァロは疑問をフィアに投げかける。
「相手はこちらへの対応を決めかねているか、
こちらなどほっておいてもいいとみなしているのかのどちらか」
「いずれにせよ動くのであれば早いうちがいいってことだな」
ヴァロの言葉にフィアは頷く。
「先ずはココルって『狩人』と連絡をとりましょう」
「まだ日没までには時間はあるが…」
ココルとの待ち合わせの時間は日没後。
まだかなりの間がある。
「日が沈むまで少しトラードの結界を見ておきたいわ。ヴァロは大丈夫?」
「…言い切ったな」
ヴァロはその少女に苦笑する。
この状況下でも結界に興味を持つ彼女の姿勢は大したものだと思う。
「なによ」
フィアが顔を赤らめて抗議するようにヴァロの前に上目を向けてくる。
「本当に大したもんだよ。それじゃ、どこに向かえばいい?」