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天空都市  作者: 上総海椰
3/26

1-2 託されたモノ

二人が入った部屋にはテーブル一杯に料理が置かれていた。

だが、その部屋には料理が置かれているだけで肝心の人の姿がなかった。

「よう」

突然背後から聞こえてきた声に二人は身構えた。

そこには見たこともない姿の人間が立っていた。

どこかの商人だろうか。大きな荷物を背負っている。

「あなたが俺たちを?」

見覚えのない男の登場にヴァロは身構える。

「おいおい、忘れちまったのかよ」

聞きなれた声に二人は目をまるくした。

その男がひげを取り眼鏡をかけると、そこには見慣れた顔があった。

「グレコさん」

「念のためにここまで来るのに尾行させてもらった。

つけられている可能性もなくはなかったからな」

ヴァロも一応尾行には注意を払っていたが、

グレコにつけられていたというのに全く気付けなかった。

「幾らなんでもおまえさんら目立ち過ぎだ。

俺の情報網にてめえらに似た二人組が北に向かったって引っかかってな。

慌ててお前らを折ってきたってわけだ」

グレコはやれやれと言った感じで席に着く。

「こちらにはやましいことをしているつもりはありませんから」

フィアはそう言ってグレコと向き合う。

「言うねえ。嬢ちゃん、いい表情するようになったじゃねえか。

ここはうちが懇意にさせてもらってる酒場でな。取りあえず座れや」

二人はグレコに言われるがままに席に座った。

「ルーランから北に向かった時点でおおよその推測はついてる。

黒幕に気づいたんだろう?」

グレコは鋭い視線をフィアに投げる。

「…はい」

「それじゃこっちの情報をくれてやる。今日はそれでてめえらに会いに来たんだ」

あまりに突飛な提案にヴァロは言葉を失った。

「そんな驚いた顔をするなよ、前に言ってただろう?すべてが終わったら話すってよ。

酒場の奴らにはこの部屋に入ってこないように言ってある。嬢ちゃん、念のために『音断


ち』の結界を使ってもらえるかい?」

フィアはすぐに魔法式を構成、発動させる。

『音断ち』の結界と言うのは外部との音を遮断するための結界である。

グレコはフィアの手際にヒュウと口笛を鳴らした。

「ラウィンさんは?」

「ちなみにラウィンは置いてきた。あいつは隠密行動には向かねえからな。

今頃書類の山と格闘してるぜ」

ラウィンが書類と格闘している様をリアルに想像し二人は吹き出した。

「さあて、どっから話すかな」

グレコは酒を片手に語りだす。

「長年の調査結果から、聖堂回境師に手引きしている人間がいることはつかんでいた。

まあ、俺にこの情報を与えた先代もそこんとこ知ってたようでな。

事件が終わるまでは他言無用はするなっていわれてたのさ」

だから事件が終わるまではグレコはそれを口にできなかったのだ。

相手は現役の聖堂回境師。『狩人』側にもそれに加担している人間がいないとも限らない


「俺にこれを託した奴もあやしいと踏んで潜入したらしいな。

ただし、遠い北の国で亡きがらとなって発見されたがな」

グレコはそう言って酒を口にする。

「まあ状況からしてユドゥンかカランティがクロじゃねえかって睨んではいた」

「ユドゥンさんも?」

「ユドゥンは状況から見て可能性は薄いと考えていたよ。

ただし、奴の手の広さは異常だ。ひょっとしたらと思うことはいくつかあった。

…直に見てきたおめえらならわかるだろう?」

グレコは言葉を濁す。

「…」

あの人間とも思えない残忍性、あの暗黒結界と呼ばれるある種異様ともいえる結界。

人間社会にもかなりの影響力を持ち、競売会では大国の国家予算を軽く動かしていた。

どこまで可能なのかが全く見えない。

ひょっとしたら大魔女ラフェミナ以上の実力者なのかもしれない。

「…大魔女に最も近い魔女」

フィアはその言葉を口にした。

「ラフェミナ様にはことのことは…」

「できるかよ。何度か上げた奴もいたらしいが、悉く握りつぶされたって聞いてるぜ?

組織の中にも内通者がいるのさ。しかも組織の中枢近くにな。

ついでにいうと尻尾をつかもうとした連中も悉く消されてる。

こうなりゃ俺たち人間にできることなんざたかが知れてるさ」

グレコはまるで他人事のようにそれを口にする。

「…」

「ここまで聞いて引き返す気になったかい?」

グレコは二人に問う。

「それを聞いてなおさら引き返せなくなりました」

「同じです」

「…頑固だねえ。てめえの師そっくりだ。

カッカッカ、マールス騎士団領であった際は、あまりにタイミング良すぎるから

あんたらを勘繰ったもんだがな」

マールス騎士団領であった時はこっちを疑っていたらしい。

「行くんだろ?トラードに」

どうやらグレコはここまでヴァロたちの覚悟を確かめたようだ。

二人は頷いた。

「…それじゃあ本題に入ろうか」

ヴァロはグレコの周囲の空気が変わったような印象を受ける。

「最も厄介なのは。トラードの掃滅結界。任意で対象を消滅できる優れものだ」

「はい」

「ならうちはお前らに違う角度からの情報を与えてやる。

まずやっこさんの下には十三名の弟子が存在する。

まあその五人はうちらが倒したから残りは八名か…」

いきなりのグレコの一言に二人は動揺を隠せない。

「弟子?倒したって…」

「うちらが討伐した奴はカランティ弟子ケシオル・エリアーナ。

残りの四人は魔法の特性から考察するにカロリッサ・フーガ、

キリーリ・ウェーブス、ミミント・シーブエイ、オオリアラーブソン。

カランティの弟子の序列では順に二番、四番、八番、九番、十二番にあたる」

「!!!」

いきなりのグレコの告白に二人は驚愕の表情を見せる。

「あのあとラウィンの奴に取りついていてな、

死の間際に奴にかまかけたら面白い顔してたぜ」

二人は絶句する。

たしかに魔法抵抗力の無くなったラウィンに取りつくことならば可能だろう。

それを看破したグレコという『狩人』の恐ろしさを知る。

「で、勝算はあるんだろうな?」

グレコは目を光らせる。

「…結界を無効化する手段なら教えてもらいました」

「なるほどな。ユドゥンの入れ知恵か。

敵だと厄介だが味方だとこれ以上に頼りになる奴はいねえな」

そういうとグレコは脇にあるかばんの中から資料の束を引っ張り出す。

「情報はその報告書にまとめてある」

グレコは報告書の束を渡してきた

ページをめくると、カランティの弟子の事細かな情報が記載されていた。

フィアはそれを受け取ると、横で無言で食い入るようにその資料を読み始めた。

グレコとヴァロは苦笑いを浮かべて目の前の料理に手をつける。

「そういえばルーランには狩人はいないのですか?」

フィアを横目に料理を口にしながらヴァロ。

「ルーランには『狩人』はいねえ。あの地には必要がねえし、誰も怯えて近寄らねえよ」

グレコは肩を竦めるしぐさをしてみせる。

どうやらユドゥンを恐れているのは『狩人』もらしい。

フィアは横からヴァロに資料の一ページを見せてくる。

「このケイラ・ニールって人…」

「ああ」

二人はその報告書を凝視する。

「知ってるのかい?」

「ルーランでユドゥンに捕まっていまっていた魔女と同じ名前…」

「カッカッカ、それじゃあと七人か。

そのうち二人は今トラードにいねえって話だが」

「なんでこんな大切な情報を俺たちに…」

ここまでして集めた情報をすんなりと差し出される理由はない。

そもそもこれはグレコたちが命がけで調べた一件のはずだ。

抜け駆けしているようでヴァロはちょっと嫌な感じになった。

「俺たちはどうやってもこれ以上は踏み込めねえからな。

相手が聖堂回境師って時点でこの話は詰んでるんだよ」

グレコはそう言って酒を口にする。

「そうそう、その報告書は読んだら直ちに焼き捨てろよ」

「いいんですか?」

「心配するなよ。一字一句、頭の中に入ってる」

グレコは指で頭を叩いた。

かなり厚めの書類の束だが彼の頭にはすべて入っているらしい。

「それとまずトラードに入ったらココルっつう『狩人』を探しな。

おそらく南の城門付近で両替商してっから。

俺の息のかかった『狩人』だ。おめーらの力になってくれるだろうよ」

「狩人?トラードにも狩人がいるんですか?」

ヴァロは意外そうに漏らす。

「ああ、いることはいる。ココルってやつのほかに三名な。

ただ他の『狩人』はカランティの息がかかっている可能性がある。

接触は可能な限り避けたほうがいい」

「聖堂回境師は自身の管理地区を担当する『狩人』を選定する権限を持つ」

フィアははっきりとそう口にした。グレコはにやりと笑ってそれに応じる。

「そうだ。もっともこっちから会いに行かない限り、遭遇することはないだろうがな。

もし遭遇したのなら護衛中ってことで押し通せ」

「はい」

「合言葉は…」

そのあとグレコからトラードにおいての情報をたっぷりと聞かされる。

おかげで料理の方はすっかり冷めてしまったが。

「宿は俺の言ったところを使うといい。

あまり部屋はよくはねえが、あそこなら俺の名をだせば、多少の融通はきかせてくれる」

「ありがとうございます」

正直ここまでグレコから助力を受けられるとは思っていなかった。

「…まあお前ら、取りあえず死ぬなよ」

そう言い残すとグレコは部屋を出ていった。

フィアはグレコから受け取った資料を握りしめていた。

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