8-2 騎士様
グレコたちと酒を酌み交わした翌日の朝、ヴァロたち三人はルーランへ向かう途に着いた。冬が近いために吐く息が白い。
眼下に平野を眺めながらヴァロたちは歩を進める。
「フィア寒くはないか」
「大丈夫」
フィアは首にマフラーを巻いている。
フィアはトラードで衣類を新しく買ったようだ。
さすがにトラードは北にあるために寒さもフゲンガルデンとは段違いである。
ちなみに路銀はフィアを通してミリオスから若干多めにもらっている。
「また会いましたな」
横からヴァロたちに向けて声がかかる。
ヴァロが振り向くとそこには馬車に乗った商人がいた。
人のよさそうな顔に恰幅の良い体型。トラードに入る際に出会った商人だ。
「おやあなたは…」
馬車の手綱を握りしめその商人は語る。
「トラードで商談が済んで、これからルーランに戻るところです」
「俺たちもルーランまで向かうところです」
にこやかにヴァロは答える。
「それにしても私たちは運が良い。天空都市の由来となる雲海も見られましたし、
あの聖カルヴィナ聖装隊も間近で見ることができました。
少々足止めは食らってしまいましたが」
「ええ、そうですね」
カランティ捜査のため、トラードは聖カルヴィナ聖装隊とトラード警備隊により、数日封鎖されていた。
入都の制限は一日で解除されたが、出国に至っては数日の制限がかかっていた。
ただその制限をかけてもカランティ一派は見つからなかったという。
おそらく独自の逃亡ルートを持っていたのかもしれない。
「ところでその子供は?」
「子供ではありません。ココルと言う名前があります」
子供扱いされてココルは抗議の声を上げる。
「おや、これは失礼」
「私は騎士になるために騎士の国、マールス騎士団領に向かいます」
胸を張ってココルは応える。
「ほう。これはこれは未来の騎士様というわけですか」
「はい。私はこの人の下について騎士に成るのです」
ココルの弁には熱がこもっていた。
例のミリオスの一件以降、どうもヴァロの事を持ち上げるようになった。
「おいおい、買いかぶるなって」
「私は買いかぶってはおりませんよ。騎士様はミリオ…」
ヴァロは慌ててココルの口をふさいだ。
ミリオスとか出されると話がややこしくなりかねない。
どうもこの件に関するとココルは客観性を欠く傾向がある。
「よかったわね。騎士様」
からかうようにフィアがこちらの表情を覗き込む。
「こらこら、フィアまで」
フィアもフィアで戦いが終わってからというものヴァロのそばから離れない。
ぶつかりそうなので離れろと言っても一向に聞いてもらえない。
「ほっほっほ、フゲンガルデンから来たと聞きましたが、騎士の方だったのですね」
「ええ」
「よろしければ道中、ご一緒しませんか?」
「よろしいのですか?」
予想外の提案にヴァロは聞き返す。
「腕に覚えのある方と一緒に旅をできるのは心強い。それに旅は道連れ。
ちょうど荷台もガラガラですし、一人よりも二人、三人よりも四人の方がずっと楽しい」
馬車を持たないヴァロたちにとって、それは願っても願ってもない提案である。
「それではお言葉に甘えて」
ヴァロたちはその商人と一緒にルーランに向かうことにした。
馬車の裏からはトラードの城壁が見えた。
トラードがゆっくりと山陰に隠れていくのを見てヴァロたちはこの事件が終わったことを実感する。もっとも元凶であったカランティがまだ捕縛されていないことには不安は残るが。
「今度は違った形で来れるといいね」
ヴァロの脇でフィアがそうつぶやく。
「ああ」
フィアの言葉にヴァロは同意する。
カランティの影も消え、大陸東部もこれから良くなっていってほしいと思う。
ルーランまでの空はどこまでも青く澄んでいた。
既にココルはヴァロになついてます。
元暗殺者の顔も持ち合わせてますが。
さてあと二回でミッドナイトクラウン編も終わり。
次からいよいよ極北の魔術王(裏題オルドリクス)編に入ります。
北の地にて大陸の命運をかけた最大級の決戦が行われます。
ネタバレになりますが、魔術王、魔族、魔王、魔法使いが協力し、その一つの兵器と戦うことになります。
このシリーズ通して最大級、最大規模の戦いになります。
その前にトラードの聖堂回境師選ばねばなりませんが。
ようやくここまで来れた。
さあ、楽しむぞ。




