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天空都市  作者: 上総海椰
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7-2 後始末

フィアはこの匂いを知っていた。夢にまで見た暖かく大きな背中。

気が付くとフィアはその背に背負われていることに気づく。

「ヴァロ」

フィアは起きるなりヴァロを思い切り抱きしめる。

「ぐえっ」

ヴァロはフィアに思い切り首を絞めつけられ、うめき声を上げる。

「こらこら、起きるなり思い切り首を絞めるな」

「…もう会えないものかと思ってた」

フィアはヴァロの背中に顔を埋める。

「…心配かけたな、俺なら大丈夫だ」

フィアの手を叩く。

「いやあ、若者は良いですね」

横から老人のような一言を漏らす。

フィアは顔を赤らめ、彼女は抱きしめる力を弱めた。

ローも見た目は十分に彼も若いはずだが。

「あなたは?」

ヴァロの背中からフィアは声をかける。

「こんにちは。私の名はロー・ウィストといいます。聖カルヴィナ聖装隊に所属する騎士です。フゲンガルデンの聖堂回境師フィア殿ですね」

ローは兜を脱いでその場に跪いた。

フィアは聖カルヴィナ聖装隊という言葉に驚きを隠せない。

「聖カルヴィナ聖装隊?まさかそれが動いたの?

…嘘でしょう?聖カルヴィナ聖装隊は教皇直属の部隊のはず…」

彼女の頭の中に一人の女性の姿が現れる。

それを動かせる権限を持つのは現教皇だけだ。

魔女側の最高位、『聖女』の位をいただくラフェミナですら動かすことは困難だろう。

ルーランの魔女はどれほどまでの権力を有しているというのか。

魔法力だけではない。政治力、経済力それらを鑑みればユドゥンの影響力は

ラフェミナすら凌駕するのではないか。

そんな予感が脳裏をかすめる。

「フィア様、ヴァロ殿」

「あ、すみせん」

ローの声にフィアは我に返る。

「お疲れでしょう。トラード制圧はほぼなされました。お二人は本部の方でお休みください」

「俺たちはさっき話していた宿まで戻るよ。その前に俺はココルの無事を確認したい」

ヴァロは少年のことが気掛かりだった。

「ココル…先ほど話されていた者ですか。

わかりました。私がちょっと中まで行ってきましょう」

ローはそう言って城の中までかけていった。

「…終わったのね」

フィアはその城を見上げる。

「ああ」

「ふあーあ」

ローが視界から消えるとフィアは大きな欠伸声をする。

「ヴァロ、少し眠くなっちゃった。少し眠ってもいい?」

「ああ」

しばらくすると背中から規則正しい寝息が聞こえてきた。

フィアを背負ったままヴァロは城門付近に座っていた。

城門の中にはまだココルがいる。

このまま宿まで戻ってもよかったが、ヴァロは少年のことが気掛かりだった。


しばらくすると城の中から騎士らしき者の出入りが徐々に激しくなってきた。

どうやら制圧作業が完了したらしい。

しばらくするとローが一人の少年を抱きかかえて城の中からやってきた。

「ココル」

地下牢から助け出された少年の元にヴァロは歩み寄る。

「お前なにやってんだよ」

ヴァロは苛立ちとともにその第一声を口にした。

眼前には顔をはらしたココルがいた。

おそらく捕まった後、ぼこぼこに殴られたのだろう。

「へへへ、言いつけられた通りグレコさんには連絡しましたよ」

「ならなんで戻ってきた」

「あんたからは必ず取り立てるって言ったでしょう」

その言葉にヴァロは嘆息を漏らす。

「対した奴だよ、お前は。そうまでして俺に何をしてほしかったんだ?

言っておくが俺は大した金も持ってないし、『狩人』としても半人前だぞ」

「そうですね。なら体で支払ってもらいますか」

「…体って、何をさせたいんだよ」

「僕をあなたの弟子にしてください」

その言葉にヴァロはぽかんとした顔になる。

「おいおい…弟子になるなら俺じゃなくてグレコの方だろ」

ヴァロは自身をそんな大層な人間とは思えない。

自身よりもグレコのほうが『狩人』としてはるかに優れているはずだ。

「子供のころからの夢だったんです。あなたのような騎士についていくことが」

ココルは微笑む。

暗殺者は日の目を見ない。

血にまみれた暗闇の中で生きて死ぬだけだ。

だからこそずっと太陽の下で真っ直ぐ歩めるものを憧れた。

ココルの真っ直ぐな視線にヴァロは折れるほかなかった。

「わかったよ」

ヴァロは照れながらそれを承諾する。

「へへ、うれしいなぁ…」

そういうとココルはゆっくりと瞳を閉じる。

「おい、ココル、ココル!」

ヴァロはココルの体を揺すった。

「寝てしまったようですね」

ローの一言にヴァロはため息をついた。

「本当に心配掛けやがって。ローさん、こいつのこと頼めますか?」

ヴァロにはフィアの護衛と言う仕事が残っている。

薬は抜けたとはいえ数日監禁されていたために異様な眠気が襲う。

だがここで眠るわけにはいかない。

「俺はフィアを宿に送らねえと…」

ヴァロはココルをローに預けるとヴァロは宿に向かう。

途切れそうな意識の中でヴァロは必死で体を動かす。

「この子は私が責任をもってこの子を手当をしましょう」

ローはその少年を抱き上げた。

「ローさん、もし何かあればさっき話した宿の方まで連絡をください」

ヴァロはそう言うとその場を後にした。


魔剣を腰に差した人間が城の中から出てくる。

「兜はするもんじゃねえな。頭が蒸れてしかたねえ」

男はそう言ってローの前で兜を外した。

茶色で癖のある髪、口元にひげをつけた男が顔を見せる。

年齢は四十ぐらいだろうか。

「どうしたロー。いつものお前らしくないな。なんかいいことあったか?」

その男は珍しく機嫌の良さげな同僚に声をかける。

「面白い出会いがあったもので」

「…例の『竜殺し』か」

ローは楽しげに頷く。

「ええ。『竜殺し』と聞いてどんな大男かと想像していたのですが…。人の噂で判断するものではないですね」

「ちがいねえ」

二人は城門前で笑いあう。

ひげを生やした同僚がココルを背負ったローに話しかける。

「城の方は大方片付いた」

「それでカランティは見つかったのですか?」

ローは真剣な眼差しで同僚に尋ねる。

「いいや。血まみれの魔女が一人倒れていただけだった。どうにか生きてはいた。

容姿から見てデウドラと言うカランティの十三番目の弟子だろう。

これからその魔女から情報を引き出すことになりそうだ。

現状めぼしい収穫はそのぐらいだな」

「血まみれですか。誰かと交戦したのですかね」

「それが不自然でな。指と腕が一本づつ妙に捻じれていた。

それ以外目立った外傷は見当たらず、内側から血が噴き出ている感じなんだ」

「…不思議なこともありますね」

ローは目を細める。

「まあ、肝心のトラードは無傷で制圧できたし、取りあえずは良しとしようぜ」

「ええ」

ココル、ここまで出すつもりなかったのだけど、

設定作ってるうちに楽しくなって弟子にしちゃえってかんじにw

これが小説を書いていて面白いところ。

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