7-1 聖カルヴィナ聖装隊
その一室でヴァロはフィアを抱き留めたまま少し考えていた。
気が付けばフィアの手にした杖が消えていた。
結界の力が消え去り、ちょっとずつだが周囲は寒さを増してきていた。
トラードは大陸の北に位置するために寒さも厳しい。
ここから離れるにしても、このまま半裸の状況では凍えてしまう。
幸いヴァロの来ていた服は近くにあった。
ヴァロはフィアを下し、服を着ることにした。
「中枢の制圧を優先しろ。結界の機能を回復されては面倒だ。
カランティの身柄の確保はそのあとででいい」
ヴァロが服を着ていると、外から声が聞こえてくる。
その威圧的な声が城内に響きわたる。
「敵をなめてかかるな。敵は現役の聖堂回境師。
そしてその弟子も一人では倒すことは厳しいと思え。
魔女を見つけたら必ず複数で応戦しろ。功を焦ることは許さん」
外から聞こえる声にヴァロは安堵する。
結界が解除されたことにより、ユドゥンが用意した状況が動き始めたようだ。
あまりこの場を動かないほうがいいかもしれないと判断する。
下手に動くならば敵としてみなされる場合がある。
手にはフィアを抱えている。この状況で交戦状況になるのは避けたい。
状況から見れば敵としてみなされ、攻撃を受けても仕方ないところだ。
しばらくすると鎧のこすれる音とともに、彼らは部屋に入り込んできた。
ヴァロの周りに数人の魔剣使いが取り囲む。
あまりに整然とした動きにヴァロは圧倒される。
全身に白一色の鎧をまとい、一糸乱れぬ統率はまるで訓練の行き届いた一つの獣だ。
しばらくすると人垣をかき分けて一人の男が現れる。
身長はヴァロよりも高く、その堂々とした体躯は見るものをひきつけてやまない。
そのものの迫力にヴァロは思わず視線を奪われた。
その男はじろりと二人の姿を一瞥すると手を前に出す。
「皆剣を下げろ。この者たちは今回の最大の功労者だ」
一斉に周囲の剣が下ろされる。
「君がヴァロ殿か。君が手に抱いているのがフィア様だな」
ヴァロはその戦士を見据え、頷いた。
彼は兜を取ると肩までかかる黒い黒髪が下りる。
ヴァロは絵画でしかその姿を見たことがない。
「私の名はミリオス・ヴァーリア。この聖カルヴィナ聖装隊を率いている者だ」
何度も耳にしたその言葉にヴァロは息を飲む。
聖剣使いミリオス・ヴァーリア。
その武勇は大陸全土に轟き、当代最強とまで言われるほどの戦士。
人類最強とされる聖カルヴィナ聖装隊を率いているとされる。
教会の力の象徴でもあり、その体現者。
「話は聞いている。君たちの協力感謝しよう。よくぞ結界を内側から解いてくれた。
これでこちらも犠牲を最小限で済ませられる」
「すみません」
「なんだ?」
ミリオスはヴァロを一瞥する。
「地下に閉じ込められているココルと言う『狩人』を助けてくれませんか?」
「わかった」
ミリオスはヴァロを一瞥すると兜をつけて歩き始める。
「各自制圧作業を続けろ。何人もこのトラードから外へは出すな」
その場にいるそれぞれが頷くと、風のようにその場所から走り去っていった。
残されたのはミリオスと両脇にいる二人だけである。
ミリオスはそばにいる男を見て命じる。
「ロー、お前はヴァロ殿とフィア様を安全な場所まで送り届けろ」
「はっ」
彼の脇にいた男の一人が声を上げ、ヴァロのそばにやってくる。
ヴァロの近くに来るとその男は白銀の兜を取り、顔をヴァロたちに見せる。
兜を取ると金髪の髪に整った顔立ち。腰には魔剣のようなものが差してある。
この男も魔剣使いらしい。
「初めましてヴァロさん。私の名はロー・ウィストと言います。以後よろしくお願いしま
す」
ローは気さくな笑みを浮かべて右手を差し出してくる。ヴァロは差し出された手を握り返
す。
「こちらこそ」
「自己紹介はまた後で。こんな薄暗いところちょっちょと出ちゃいましょう」
砕けた様子でローは笑い、兜を再びつけ直す。
「そうですね」
ヴァロはローとともにその場を後にした。
聖剣破壊編でちょっと出したかも…。
コーレスにある教会最強の武力です。
トラードの現職の聖堂回境師倒すのに出てきました。




