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天空都市  作者: 上総海椰
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5-3 魔王の卵

助けは望めない。

ヴァロは朦朧とする頭の中でそう考える。

グレコもラウィンもヴァロたちを間違いなく見捨てるだろう。

彼らはプロだ。できることとできないことの判別はつく。

カランティの使う掃滅結界を目の当たりにした後ではそう思わざる得ない。

結界の力を一か所にまとめ、それに集中する。

魔剣の物理障壁がなければ今頃ヴァロの肉体は消滅しているだろう。

いくらなんでもこの結界の攻撃性は高すぎる。


フィアもココルも捕らえられている。

自身の力のみでしかこの場を切り抜けられない。

自身一人ならばどうなろうとかまわない、ただフィアもココルも犠牲にするわけにはいかない。その考えがヴァロをつき動かした。

「おい、そこのあばずれ」

ヴァロは眼前で作業をしている一人の魔女ピピンと言うらしい。

「実験動物は実験動物らしく静かにしてろ」

気に留める様子もなくピピンは作業を続けている。

「お前はもう終わりなんだよ。踏み込み過ぎたんだ狩人。

せめて最後は我々の研究の糧ぐらいには役立つといい」

ヴァロはピピンの振り向いたのにタイミングに合わせて、つばをピピンと言う魔女の顔に吐き捨てる。

「お前ってさ。実は馬鹿だろう?

こうなることを理解できなかったのか?おめでたい頭してるな」

「ピピン、止めろ。実験体もその減らず口を閉じろ」

エムローアが横から口を出す。だがヴァロはやめない。

「あんたみたいなのは、研究者には向かないんじゃないのか?

はっはっは、筋肉馬鹿には唾液の化粧がお似合いだよ」

最後は若干棒読みになってしまっている。

もともとヴァロは人をののしるのが得意ではない。

だがピピンと呼ばれるには、ヴァロの安い挑発は思いのほか効果的だったらしい。

その魔女は顔が真っ赤なるまで激昂し、魔法式を構成しはじめる。

その形相たるや鬼のようである。

「ピピン」

「お前もう死ね」

エムローアと言う魔女は説得が無駄と悟り、ピピンのそばから離れる。

ヴァロは目の前で話されるやり取りから、性格は何となくつかめていた。

目の前の女性が比較的沸点が低いことも。

それを見越したうえでの挑発だ。

「ありがとよ」

ヴァロはその魔女の魔法の直撃を受ける。

こっちの思惑通り魔法を受けてヴァロを拘束していた鎖が、

魔法の直撃を受けて途切れている。

服はぼろぼろになったが、高い魔法抵抗力のためにヴァロ自身は無傷である。

ヴァロはそのままひっかけるように、その魔女の襟首をつかんだ。

「うそだろ、魔法の直撃だぞ…」

ヴァロはそのままピピンと言う魔女の頭を近くの机の角にぶつけ意識を奪った。

魔女とはいえ生身は人間と変わらない。

「今のうちに…」

ヴァロはよろけた足取りで部屋から出る。

フィアとココルを助け出さなくてはならない。

結界を消さない以上、外からの救援は見込めない。

自身で二人を救うしかない。

途切れそうな意識をヴァロはかろうじてつなげ、歩き出す。

ヴァロが廊下を出たところで最悪の女性と遭遇してしまう。

「カランティ」

ヴァロは絶望とともにその言葉を吐いた。

その女性は驚いた様子でヴァロを見ていた。

「この結界内での狼藉は許しませんよ?」

その言葉の直後、ヴァロは頭上から妙な力を受け、地面に伏した。

結界の力によるものだ。

ヴァロがいかに魔法抵抗力に優れていようが、結界の力の前には一人の人間と大差ない。

「カランティ様、ありがとうございます。」

騒ぎを聞きつけたのか二人の弟子ホーノアとエムローアが駆けつけてきた。

「状況の説明をしなさい」


「なるほど。ピピンの魔法の攻撃魔法を、至近距離からまともに食らって無傷ですか」

カランティは考え込むようにヴァロを見ていた。

「はい、この男、魔法抵抗力だけは異様に高く、

ピピンの魔法を直に受けても無傷でした」

「…それは魔剣の防御と合わさると厄介ですね」

カランティは目を細めそうつぶやいた。

「申し訳ございません、カランティ様」

ピピンは頭を押さえながら後からよろけながらやってきた。

ピピンは倒れているヴァロの頭を髪ごと引っ張り上げ、ものすごい形相でヴァロを見据える。

「貴様、よくもやってくれたな。この私に手を上げるなどと。

ただのナイフならば、いかに魔法抵抗力があろうと肉体には傷はつけられよう。これからじっくり貴様を…」

直後、ピピンはまるで見えない巨大な手に掴まれ投げ飛ばされたように

壁に向けて吹き飛ばされる。

ピピンは血を流しながら、何が起こったのかわからないといった表情を見せている。

間違いなく結界の力によるものだ。

その場にいる他の二人も何が起きたのか理解できない表情をしていた。

この力を操る権限を持つのはこの場において一人しかいない。

「ピピン、誰がそんなことを命じました?この男の躰に傷をつけることはこれより一切認めません」

カランティは怖ろしいまでの冷たい眼差しでピピンを睨んだ。

そのカランティの表情にピピンは痛みを忘れ、寒気すら覚えた。

「一切ですか…」

さすがにこれには横に立っていたエムローアも意外な表情を見せる。

「一切です。もしこの男の躰に傷をつければ即刻首より上を滅しますよ」

カランティは言ったことは必ず実行する。

そのことは彼女の弟子である者ならば、骨身にしみている。

その場にいた弟子たちは震え上がりながらカランティの言葉に頷いた。

「はっ」

「…その男は魔剣の契約者でもあります。暴れられては面倒です。

その男は薬漬けにして体の自由を奪っておきなさい」

「はっ」

その場にいた三人は頭を下げる。

そんな三人をしり目にカランティはその場から立ち去る。


人の目が消えるとカランティは顔に満面の笑みを浮かべ、壁に寄りかかる。

「あの男…『魔王の卵』…それもとてつもなく高純度の…。

あああ…やっぱり私の見立ては間違ってなどいなかった」

恍惚とした表情で彼女は呟く。

「あの男こそが私いえ、私たちの探し求めていた素材。

ヒョヒョヒョ…私にもツキが向いてきたようですねぇ…」

魔王の卵。

これは初期に書いていました。

一部二章のクーナの捕縛のとこと聖剣破壊のとこですか。

漸く設定を生かせる。

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