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天空都市  作者: 上総海椰
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5-2 拘束

フゲンガルデンのいつもの日常だ。

簡単ないつもの仕事の打ち合わせが終わると、

フィアが料理を出してくれた。

そのまま取り留めのない話をして

ヴァロは定期的にフィアの様子を見にやって来ていた。

外は既に真っ暗になっている。

「さてと寮にもどるか」

ヴァロは頃合いをみて立ち上がる。

「もう面倒だからここに住めばいいのに」

ヴィヴィは椅子にもたれかかるようにして

「おいおい、俺にも家事を手伝わせるつもりかよ」

「チッ、ばれたか」

ヴィヴィと言う女性の魂胆は見えすいている。

この女、見た目はいいが、中身は研究のことしか考えていない。

仕事上の付き合いが長いため何となくわかってしまう。

「…あのなぁ」

ヴァロは呻く。

問題は家事だけではない。ここは居心地が良すぎるのだ。

ヴァロはこれ以上踏み込んではいけないという気がしていた。

「…じゃあな。フィアには先に帰ったって言っといてくれ」

「それじゃ、またね」

ヴィヴィは微笑んで手を振り、ヴァロは背を向けた。

「ヴァロ」

フィアはパタパタと小走りにかけてくる。

「コレ作り過ぎちゃったから」

少女は何やら布に包んだものをヴァロに手渡す。

パンに野菜や干し肉などをはさんだものらしい。

ヴィヴィは研究者のために携帯食を好んだ。

自然フィアの作るものもそう言う食べ物が多くなる。

「ありがとな」

フィアは微笑む。

フィアの作る料理は絶品と言ってもいい。

「今度はいつ来るの?」

「ま、そのうちな」

ヴァロはそう言って彼女たちの元から去る。


つながれる鎖の冷たさに、ヴァロを現実に引き戻された。

「…最悪の夢だな」

ここはフゲンガルデンから遠く離れたトラード。

もうどのぐらい時間が経ったかわからない。

ヴァロは両手両足を鎖で拘束され、薬を投薬されていた。

周囲には実験のための設備がそこかしこに並んでいる。

結界の中のためかそれほど寒さは感じなかった。

空腹も投薬の影響かそれほど感じない。

ヴァロは朦朧とする意識の中顔を上げると、そこにはカランティがいた。

こちらの視線を感じたのかカランティはヴァロに顔を向ける。

「これはこれは、まだ意識があるようで何よりですねぇ」

怒りがヴァロの意識をはっきりさせる。

「お前のしていることは許される行為じゃない…。

いづれすべてが明るみに出る…その時が…」

薬のために体が言うことを聞いてくれない。

「ヒョヒョヒョ、もう少し大きい声で言ってくれないと、何を言っているか聞こえませんよ」

定期的に投入される薬でヴァロは、既に意識をつなぎとめているだけで精一杯である。

気を抜けば今にもどこかに飛びそうな意識をヴァロは怒りでつなぎとめていた。

「そうそう、昨日ネズミが一匹入り込んでいました。

名前をココルといいましたか。あまりにすばしっこいので、私の弟子の一人が動けなくなるまでぼこぼこにして地下牢に放り込んでおいたとか。

何でもあなたを救い出すためにこの城に単身乗り込んできたとか。

ヒョヒョヒョ…泣かせますねぇ」

ヴァロはカランティの一言に唖然とした表情を見せた。

時間の感覚は無くなってきてはいるが、自身が捕まえられて少なくとも三日以上たっている。カランティは昨日と言った。ココルはあの場面から逃げたということになる。その上で、もう一度戻って捕らえられたのだ。再び戻ってくる理由など一つもない。

だがカランティの言っていることも嘘だとは思えない。

「我々も大概だと思いますが、子供を手先として利用する『狩人』も大概だと思いますよぉ、ヒョヒョヒョ」

背格好から考えるにそれはまず間違いなくココルとみて間違いないだろう。


「…あいつをどうするつもりだ?」

殺気の籠った瞳でヴァロはカランティをにらむ。

「ヒョヒョヒョ…そう睨みつけないで下さいよ。

知ってしまった以上、可哀そうですが実験材料にさせてもらいましょう。

魔法抵抗力のある実験材料は希少ですから、手足から内臓のひとかけらまで存分に使わせてもらいましょう」

その笑みにヴァロは深い嫌悪感を覚えた。

カランティは踵を返し、ヴァロに背中を向ける。

「カランティ」

ヴァロは怒りに任せて声を張り上げる。

「ここは他人の心配よりもあなた自身の心配の方が先なんじゃないですかねぇ」

心が、はらわたが煮えくくる。

ヴァロは怒りに任せて、手にかけられる鎖を振りほどこうとする。

体を拘束されていなければ今すぐにでも飛びかかっているところだ。

「ヒョヒョヒョ…まるで獣ですねェ。

でも無駄ですよ。ここから出る音もすべて滅していますから」

カランティは振り返り笑みを見せる。

「暴れられても面倒です、この者のもう少し薬の量を上げなさい」

カランティは冷徹に弟子に言いつける。

「はっ」

カランティは振り返ることなくその部屋を後にした。

「待てよ、カランティィィィィィィィ」

ヴァロは声を張り上げた。

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