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天空都市  作者: 上総海椰
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4-3 捕縛

幸いなことにヴァロたちは死角となりカランティからは見えてはいない。

この場でフィアがすることはヴァロたちを逃がすこと。

絶望に埋もれそうな思考のなかでフィアは必死にその方法を考える。

魔法式、魔法を封じられてるフィアに打つ手はない。

「さて、この『抑止の宝石』どうしますかねぇ?」

足元にいるフィアを見下しながらカランティ。

「…」

フィアは答えない。

「欲しくないのであれば、こうしてしまいましょう」

カランティは口を開けると、その宝石を呑み込んだ。

宝石を飲んだカランティはにやけながらフィアを見る。

宝石が失われたということはもうフィアたちに、この状況を打開する手段が無くなったということだ。

カランティを見るフィアの眼差しには絶望が色濃く現れていた。

「ヒョヒョヒョ…唯一にして最大の障害の大魔女サフェリナはもうこの世にいません。

ラフェミナも極大魔法は使えない。使うのであればここのトラードの住民も巻き込んでしまいますからねぇ。これでこの私に怖いものはなくなりました。

結界の力を使えば、大魔女の持つハーティア聖滅隊とも互角以上に渡り合うことができましょう…ヒョヒョヒョ」

カランティは勝ち誇ったような笑い声を上げる。


「なあココル、俺の代わりにあの人に伝言を頼まれてくれるか?」

ヴァロはココルに静かにそう告げる。

「ヴァロさん、死ぬつもりですか?」

ココルはヴァロの言いたいことを察し、鋭い視線をヴァロに投げる。

「この場はお前一人の方が逃げやすいだろう?」

「それは…」

掃滅結界はその攻撃性ゆえに索敵能力が他の結界よりも低い。

ここにいるココルは見逃される可能性がある。

「それに俺は一度カランティと会っている。フィアを捕まえれば、すぐにカランティは俺を探し始める。ココルは奴らに見られてはいないからな」

ヴァロはフィアと一緒にカランティとは彼女の城で会っている。

カランティは聖堂回境師の権限を使ってヴァロを探すことになるだろう。

カランティがいつからこの場にいてヴァロたちを見ていたかだが、それは運を天にまかせるしかないが。

それにわずかながら勝算はあった。

こちらには魔剣があるし、何も全員を倒すわけじゃない。

フィアを彼女たちの手から取り戻せば、後は逃げるだけなのだ。

「あいつを一人にさせるわけにはいかないからな。…頼むよ」

ココルにとってその姿は昔書物で見た騎士の姿に重なって見えた。

「…貸し一つですよ」

ココルはやれやれといったため息をついた。

「死なないでくださいね。私は両替商です。

貸しは地獄まで追いかけて行ってでも返してもらいますから」

「ああ」

ヴァロはその一言に笑った。

相手は聖堂回境師。こちらも出し惜しみはするべきではないだろう。

ヴァロは両方の手に剣を持つ。

「魔剣ソリュードよ。我が名において命ず。今こそその力を示せ」

ヴァロがそうつぶやくとヴァロの周りがぼんやりと光を放つ。

「魔剣…契約者…」

ココルはその言葉を唖然としながらそれを見る。

「それじゃ、頼んだ」

ヴァロは剣を振り上げる。


突如背後で爆発が起きる。煙で視界が遮られる。

「何だ」

「何が起きた?」

カランティの周囲にいる魔女たちは明らかに動揺を見せていた。

「出てきましたね。この娘は私に任せて三人は曲者を迎え撃ちなさい」

カランティは動揺する素振りを見せずに冷静にそれに対処した。

物陰から出たヴァロは粉塵の中を、思い切り駆け抜ける。

優先するべきことはフィアの救出である。

「塵を滅せよ」

カランティがそう叫ぶとその瞬間視界を遮っていた塵が消え去る。

塵が消えるとヴァロの姿があらわになる。

本当に厄介な結界だ。

ヴァロはそう思いながら間合いを詰めていく。

「ヒョヒョヒョ…探す手間がはぶけました。結界よ、その人間を滅せよ」

カランティは掃滅結界にヴァロの消滅を命じる。直後ヴァロのまわりに光が集まる。

「ヴァロ」

ヴァロが手にした魔剣の力により、その雷のような光が四散する。

周囲に散った力は地下施設を破壊する。

魔剣の加護が結界の力を相殺したのだ。

「魔剣の加護…報告にあった魔剣使いか!」

弟子の一人が叫ぶ。ばれてしまったのならば、こちらも隠している必要はない。

「力を見せよ。ソリュード」

ヴァロは魔剣の力を解き放つ。

狭い空間の中、ヴァロから放たれた衝撃波が地下空間を暴れ狂う。

彼女たちは魔法壁を使いそれをうけるしかない。

魔剣の最大の利点はその発動の早さだ。

この環境ならば手の早いこちらに分がある。

放たれた衝撃波はまるで荒れる竜のように地面や壁面を破壊していく。

その中をヴァロはフィアの元まで一直線に駆け抜ける。

「フィア」

掃滅結界の攻撃により、魔剣の加護である物理障壁は一時的に消えている。

今攻撃を受ければひとたまりもない。

だがなぜかカランティは結界による二波目を撃ってこない。

「曲者め」

三人のカランティの弟子の放つ魔法をヴァロは直に受ける恰好になる。

一人外からその戦いを観察していたカランティはその光景を食い入るように見ていた。

ヴァロ自身が持つ最強と言える魔法抵抗力。

そして魔剣の加護。

ヴァロはもう片方の手にある退魔の宝剣をてにすると、

魔女たちの前に展開された魔法壁をたやすく引き裂いた。

「なんだ?」

ヴァロは魔剣の一撃を見舞うために振りかぶる。

この魔法壁なしのこの距離から一撃を与えれば、いかに魔法使いとはいえ、無事では済みはしない。その時背後からカランティの声がかかる。

「魔剣を捨て投降しなさい。さもなくばこの娘の命は保障しません」

カランティは背後からフィアの首筋にナイフを突き立てる。


気が付くとヴァロの周りは魔女たちに囲まれていた。

フィアの首筋にナイフを突き立てカランティは冷酷にそう言い放つ。

首筋から血の雫がしたたり落ちる。

「ヴァロ、私はいいから」

彼女はそれを声にはしない。

ヴァロの周りにはいつの間にかカランティの弟子たちが囲んでいる。

フィアを人質に取られ、ヴァロは剣を地面に突き立てる。

「降参だ」

そう言った直後ヴァロは見えない結界の力で地面に叩き伏せられる。

魔剣の加護を失ったヴァロはその力をまともに受けることになる。

「…ヴァロ」

フィアは瞼に涙をためる。

「涙ぐましいですねぇ。出てきてくれてこちらも捕まえる手間が省けました。

…ヒョヒョ…いいことを思いつきました。その者は研究所まで連れてきなさい」

「はっ」

かくしてヴァロたちはカランティに捕らえられたのだった。

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