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天空都市  作者: 上総海椰
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4-2 二人の対峙

フィアの見上げる先には一人の女性が宙に浮いていた。

鉄扇を口に当てその女性は宙にいる。

「ヒョヒョヒョ、ごきげんよう」

耳障りな笑い声とともにその女性は頭上からゆっくりと降りてくる。

「カランティ様」

三人の魔女が一斉に頭を下げる。

そこにいたのはこのトラードの聖堂回境師カランティである。

フィアはその状況を悟る。

「こんな小娘一人に言い負かされるようではあなたたちもまだまだですねぇ」

三人を見ながらカランティは嘆息する。

「ここにあったのは『抑止の宝石』というトラードの結界を停止させるものです。

そんなものを調査して何をするつもりだったのか聞きたいところですねぇ」

「…」

フィアの表情はカランティを見据え、固まったまま動かない。

フィアの顔からは汗が噴き出ている。

「ヒョヒョヒョ…やはり聖堂回境師を名乗るだけはあるようですねぇ。

あなたがここに来ることは予測できてました。目当てのモノはこれですね?」

カランティの手の平には一つの青い宝石があった。

青い宝石には小さな文字がぎっしりと描かれている。

「…まさか」

考え得る限りの最悪の展開にフィアは眩暈を覚えた。

カランティの手には青い宝石が握られていた。

それはおそらく彼女が探していたものであるからだ。

「ヒョヒョヒョ、私も見つけたのはほんの三十年前です。

そもそもこれだけの結界、抑止の一つや二つなくてはおかしい」

フィアははめられたことを悟る。

カランティはその宝石を手に取り、フィアに見せつける。

「…この部屋に施された封は外されていなかったはず」

フィアは疑問を口に出した。

「ヒョヒョヒョ、外していませんよ。場所さえわかれば封など必要ありません。

出入り口が閉ざされているのであれば、違う出入り口を作ればよいだけですよ。

この結界の力を使ってね」

カランティが手を向けると遠くの壁が削られていく。

どうやら頭上に開いていた穴はカランティが掃滅結界の力を使って作った道らしい。

フィアの表情が驚きに変わる。

「ヒョヒョヒョ…いいですねぇ、その表情。あなたは結界を停止させてどうしたかったの


ですか?まあおおよその見当はつきますが…」

カランティは勝ち誇ったかのような表情を見せフィアに近づく。

「ずいぶん私の弟子をかわいがってくれたみたいじゃないですか。

あなたには私がその分も含めてかわいがってあげます」

カランティはもう隠し立てする必要がないということだ。

そこでフィアは腹をくくる。

「…『真夜中の道化』による集団失踪事件。それだけじゃない。

『セーア民族浄化』『ローリュン紛争』『エリシカ内戦』

大陸東部の内乱幇助、民族対立をあおり、そしてそれに関係した住民の大量失踪。

行われた数々の蛮行調べはついている」

フィアはカランティをにらむ。

「ヒョヒョヒョ…よく知っていますね。誰に吹き込まれましたぁ?」

カランティはぎょろりとした目でフィアを見る。

それを前にしてもフィアは揺るがない。

「…あなたは教会を敵にするつもりなの?」

フィアを見てどこか楽しげにカランティは語る。

「ヒョヒョヒョ、教会の敵になるつもりはありませんよ。

教会側がそんなことをすればトラードの住人達も巻き込んでしまうじゃないですか」

実験で人命を犠牲にしているカランティに、人命を重じるという考えはないはずだ。

だとすれば、ここで考えられるのはもう一つの可能性は…。

「まさか、トラードのすべての住民を人質に…?」

フィアは唖然としてそれを口にする。

カランティがその気になり結界を発動させれば、数十万の人間を一瞬で奪うことも可能で


ある。そんな蛮行が行われれば教会との戦争になる。

もちろんそれで被害を受けるのは彼女たちだけではない。

「ヒョヒョヒョ…そうならないことを願っていますよ」

「そんなことはさせない」

「あなたじゃ無理ですよぉ。ヒョヒョヒョ…あなた立場わかってます?」

カランティは首をかしげ、笑い声を漏らす。

フィアは即座に魔法式を展開する。

「その者の魔法式を滅しつづけよ」

カランティのその言葉に掃滅結界が呼応する。

周囲に光が満ちる。その力の一端が発動されたのだ。

フィアの周囲に妙な光が集まり魔法式を消滅させた。

フィアはその掃滅結界の力に言葉を失った。

「魔法?掃滅結界の中であなたの周りの魔法式を滅しました。

これで私がそれを解くか、もしくはこの結界が消えるまで

あなたは魔法式を使うことはできません」

フィアは魔法式を編もうとするも、すぐに魔法式は消えていく。

「どうです?すごいでしょうトラードの掃滅結界は。フゲンガルデンの絶縁結界の真似事


までできるんですよ。最も効率は悪くなりますがね。

ヒョヒョヒョ…もう一度さっきのセリフ言ってもらえますかぁ」

状況はいうまでもなく圧倒的に不利である。

魔法式が編めなければ、魔法は使えない。

カランティは歩いてゆっくりとフィアに近づいていく。

「…まだ終わってはいない」

カランティをぎりぎりまでひきつけたところで、フィアは火球をカランティに放つ。

魔法式を体内で疑似的に作る『瞬魔』だ。

威力は弱いが、これならば外部に魔法式を作らずとも魔法を使うことができる。

「カランティ様」

弟子たちは叫ぶ。

だがそれはカランティの手にした鉄扇によりはじかれた。

「魔器…」

魔器とは魔法の力の宿った道具のことである。

「そんな…」

「危険ですねぇ。その者の周囲の魔法を滅しつづけよ」

カランティは即座にその一言を口にした。

「こんなこともあろうかと私も用心しているんですよ。

それにしても『瞬魔』も使えるとは驚きです。

ですが、いくら『瞬魔』が使えようとも、魔法を封じられては意味がありませんねぇ。

さあ、取り押さえなさい」

カランティは三人の弟子たちに命じフィアの体を羽交い絞めにする。

フィアはカランティの顔を睨み付けたまま外さない。

「ヒョヒョヒョ…あなたの存在を禁じてもいいのだけれど、

あなたにはまだ利用価値がありそうですからねぇ」

フィアの顔をつかんでカランティ。

「いつかあなたは裁かれる時が来る」

「…かもしれません。ですが、私の罪を裁くのはあなたではなかったということです。

最も裁かれる時が来るのかどうか疑問ですがねぇ…ヒョヒョヒョ」

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