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思春期とは

作者: 五円玉

すっごくくだらない作品になりました。


宜しくお願いします。

「僕は大きくなったら、お姉ちゃんのV字ヘアピンカーブを包み隠す、その柔らかかつすべすべなシルクの純白ぱんってぃーになるんだ!


当時まだ5歳。


右も左も分からない、上も下も分からない、全ては無垢なる無意識悪が彼の考察を埋め尽くし、理性の働き無く発せられるその言葉の真意。それすら知らぬ5歳児の戯言。


私の弟は5歳の時に将来なりたいモノを聞かれ、暫し悩んだ末に、姉である私の純白ぱんってぃーになりたいと見解を示した。


満面の笑み。


その笑みの中には、下心なるやましさに飢えた獣の眼は無く、ただ純粋に、何故か、


そう答えたのである。











「アマゾンの密林地帯の先で見つけた、秘境の渓谷! その深部にある、生命の神秘たる赤い果実の正体とは⁉︎」


テレビから流れて来る、近々放送予定の冒険ドキュメンタリーのTVCM。


私はリビングのソファーに腰掛け、テーブルを挟んだ向かいにある40インチの薄型テレビを考え無しに見つめていた。


私の横には、同じくソファーに腰掛けテーブル上に置かれたスナック菓子をボリボリと貪り食べる、弟。


今年で15歳。図体ばかりでっかくなった、私の弟だ。


「密林地帯の先の渓谷、深部にある赤い果実…」


CMのナレーションのワンフレーズを小声でリピートする弟。

その眼は虚ろ。濁りきった、死んだ魚の目すらもまださんさんと輝いて見えるレベルの、どす黒く虚ろな死者の瞳。


「…へへっ」


不気味な薄ら笑いを浮かべる弟。相変わらず瞳は死んでる。


「へっへへっ…へへっ」


私は横目で弟を睨み付ける。


薄ら笑い製造機と化した弟は、暫し奇声にも似た薄ら笑いを浮かべた後、ソファーから立ち上がり、ひと言。


「…バイオレンスにエロティシズム」


「なんなんだよ…」


思わず反応してしまった。




私の名前は扇谷 那峯(なね)、齢17、高等学校2学年、座右の銘は万里歩けど着かぬは福音。誰が作ったでもないオリジナリティ溢れる座右の銘。意味は察して欲しい。


私には弟がいる。

扇谷 矢那(やな)、齢15、中等学校3学年、座右の銘はお受験の受は受難の受。意味はよく分からない。オリジナリティって言葉を使えば何言っても良いわけではない。


さして普通の何処にでもいる平均的な弟と呼べる人間ならば、こんな物語は始まらない。


異端。


私の弟は世の平均とは異なる、少しばかり頭の中がオーバーフローしている、中々に曲者な弟なのだ。






「それは誰しもが持つ熱いハート。ジャスティスッ! へいカモン! ハッピーラッキーおぱんつ!」


私の弟は、今まさにバリバリの思春期ど真ん中(↑の発言は思春期に対する差別的空想の弟)


思春期、それは昂ぶる性欲との戦い。


知識と叡智、学ぶこと全ては性。


食欲、睡眠欲と並ぶ人間の3大欲求の1つ。

即ち、逆らえぬ生物の定め。

原始的欲求、無意識の内の昂ぶり。


本来ならば、の話。


人間は理性と言う、本能(煩悩)を制御し、秩序たる人間社会の絶対を厳守する、ための脳の働き、リミッターを司っている。


まだ授業は1時間目。けどお腹空いた。けど我慢。


まだ出勤して1時間。けど眠い。けど我慢。


まだ駐車場。けど買ったエロ本を早く開けたい。けど我慢。


多様な、理性は基本的に人間の脳が正常な働きをしている限り、いつ如何なる時でも脳の片隅には存在する、人間の尊厳を死守すべく常に待機している、私達人間のパートナー。


しかし。


しかし、世の中全て、例外という概念があるように、人間における理性の例外もいる訳であって、


「何故人は淫らを軽蔑するっ? 何故人は破廉恥を排除したがるっ? 何故人は…日常的性欲求を嫌悪するのだっ!!?」


次の日の晩の事。


リビングに置かれたテーブル、それに肘をつき雑誌を読み耽る私。


そして弟は昨晩同様にリビングのソファーに腰掛けつつ、突如として高らかに声を上げた。


「……」


唐突な発言に一瞬弟の方へ視線を配るも、私は直ぐにその視線を手元雑誌へと戻し、最近のファッションの流行記事へと意識を向けた。


「何故だ、何故なのだ? 人間という生き物は何故こうも性的欲求を隠すのか? 本能の昂りを意図して隠す意識を持つ事、それ即ちこの世界の一般的生物概念からしたら異端でしかない!」


何を何故今此処で話しているのか…謎の言動。


私は嫌な予感を察知し、読みかけの雑誌を手にいそいそと自室へ戻る準備を始める。


「この世界に於いて3大欲求を理性の内に隠す意識を持つ生き物など、人間以外に何もあらず。何故だ、何故なのだ姉よ!」


自室へと戻ろうと席を立った私に、逃がさんとばかりに会話を持ち掛けようとしてきた弟。


会話…それは人間が互いに意思の疎通を図るべくしての、1つの合理的とも取れる手段。


地域人種により言語は多数あれど、人間は会話…言葉により、細かな意思や他では表現の利かない感情を相手に伝える事が出来る。


しかし、それは脆弱な面も持つ。


無視…それは字の通り。


視ない。相手に対して意識を向けず、会話…コミニュケーションを拒絶する。


会話とは双方の意思あって成り立つもの。


片方がそれを放棄したら、それは会話にならず。


意思は相手に伝わらない。


「姉よ、不思議だとは思わないか? この世界に於いて、人間だけがエロという概念の元に、性欲を隠蔽する事。虫も魚も鳥も猿も、皆々が性の昂りをオープンにする中で、何故人間だけはこうも性を汚らわしきとして食欲、睡眠欲と差別をする? 同じ三大欲求だろうに!」


熱く、ただ只管に語る弟。


無視…を決め込みこの場を去るつもりでいたが、ひと言だけ言ってから去る事にする。


これは警告の意も含めた、弟に対する私なりの

拒否反応。


「…逆転の発想よ。人間だけがエロを嫌悪し差別し、昂りを隠蔽する…それは人間だけが理性を持つからよ」


…と、発言してから後悔する。


この発言の切り出し方や文の末尾からだと、会話に発展しかねぬ流れを作り出してしまう。


案の定、弟は流れを汲み乗ってきた。


「理性…何故理性は性欲を隠蔽し嫌悪する? 理性あれど欲求には素直に従っても良いのではないか? 自然の…生物に於ける本能の摂理に反する意味合いなど、理性如きには妨げる理由は無いハズだ!」


本当何言ってんだコイツ…と、思いつつ、極力会話を短く終えられるよう、かつこの煩悩の塊に私の意見(世の中一般の意見)を納得させるような流れの結末を模索して、次の言葉を発する。


「理性の元に社会や秩序があって、その中で暮らす事こそが生物に於ける最も安定、安全、平和に時を過ごせるに値するから。だから人は殺伐とした野生的環境下を脱して今を作ったんでしょ?」


「それは誰が決めた事だ!?」


「それこそまさに人間そのものが」


こんな会話こそ理性の無駄遣い、とでも言うべきか。


私はさっさと自室へ戻るべく、リビングの扉の取っ手に手をかけ…




「パンツの話をしよう!」




突然。


突然、弟は叫んだ。絶叫。


…えっ? と、咄嗟の事に一瞬固まった私。

そこを弟は逃がさんとばかりに。


「何故人間はパンツを見られると恥ずかしくなるのか!? 何故だ、何故なんだ!」


「な、何言ってるのアンタ? そんなの、理性の中の一つに羞恥心があるからでしょ!」


ストレート過ぎる問いかけに、ついつい答えてしまった私。


「パンツに対する羞恥心…それは理性により日常的に性欲…エロが大らかになる事が無くなり、隠すことこそが当たり前になってしまった故に、本来見せぬものの概念になってしまった性器を見られた時に起こる、感情の起伏…高揚」


「本当にアンタ何言ってんだ!」


本当に本当に何言ってんだコイツ。


「異性に対してのパンツ見たい欲求…つまり性欲。これこそ、理性が生み出した欲求を満たすべくしての弊害の一つ。常日頃より性器は隠すことが当たり前になった故、本来見れぬ性器…それを隠すパンツを見ただけでさえ、性的欲求は起きてしまう…」


弟は悲しげな表情を浮かべた。


「犬や猿や鳥は異性の性器を見ただけでは興奮などしない。何故ならそれを常日頃見ているから。見ても見られてもそれは別に当たり前の中にいるから。隠すべきものではないから。しかしっ!」


悲しげな表情…から今度は熱く、高らかに。


「人間は隠すことこそ当たり前、故にそれを見るということは特別という概念下に値する状況。日頃から見られぬ故、ただ性器そのものではない、それを隠すためのパンツでさえも、見るだけで興奮してしまう…当たり前に本能の欲求を満たせぬ日常を送る上での、悲しき事よ…」


もういいや。さっさと自室へ戻ろう。


ダメダメ、この場が凄く面倒くさい。


「宝箱、と同じ考えよ。人間、宝箱を見ると大方はワクワク、ドキドキと言った気分の高揚、興奮を覚える。何故なら中には宝が入っていると分かるから。宝箱と言うだけあって、中には必ず宝がある。


パンツも同じ。パンツを見ると大方はワクワク、ドキドキと言った気分の高揚、興奮を覚える。何故なら中には性器があると分かるから。パンツの中には宝箱同様、日頃ではまずお目にかかれない…宝があるのだから」


三大欲求には違うところだが、物欲も性欲も欲には同じ。


欲を満たす、煩悩を満たすものが中にあると分かるからこそ、その入れ物を見るだけでも理性のある人間は興奮するのだ。


…って弟は多分言いたいんだろうな。


理解したくは無いケド。


「これは悲しい事だ。常日頃から欲を満たせぬ世に居るからこその悲劇。木で出来た箱や布地などて興奮してしまうなど、中々に悲しい。寂しい。こんな切ない生き方をする人間であって良いのか!? まだ他の生物の方が有意義に命を満喫している気がするのだ!」


「ならもういっそ野生のチンパンジーにでもなれば?」


「なれたらなりたい!」


「……」


救いようのない、煩悩。


これは本当に思春期とかそんなのではなくて、一回精神科とかにでも連れて行った方が良い気が…


「俺は性欲を擁護する。性的概念を差別し排除する者を嫌悪する。いつの世も、性にフリーダムでなければならない。それこそが世の真理に値すると思っている」


「じゃあアンタは年がら年中誰彼構わずヤってる人間が跋扈する世界こそが理想、って思うワケ?」


「それこそが生物の正き姿、正き世だとは考えている」




「…経験も無いクセにセックスに夢見てんじゃねぇよ、童貞がっ」




「……ッ!!?」


刹那。弟は目を大きく見開き、口も大きく開け。

呼吸も忘れ、ただひたすらに固まっていた。


思春期キラーな会心の一撃。


「気持ち悪いんだよ童貞。口紡がないと未使用のその玉、去勢するぞ」


「…やめて」


「なら黙って高校受験の勉強でもしてろ」


ここでやっと、私はリビングの扉を開けて自室へと戻ることが出来た。


後ろでは相変わらず固まる弟。


「…ヤる事ヤってから語れ」


トドメの一撃も放ち、静寂の中にあるリビングを去る私。


思春期…それは、理性の完成一歩手前に訪れる試練の時。


何事だってそうだ。


物事が完成する間近、っていうのは、ドキドキの連続。


リズムゲームとかで、フルコン間近で緊張して焦って、何でもないところでミスしちゃったりするのと同じ。


大人になる一歩手前。

100%の理性で生きねばならぬ大人になる直前に、変に緊張して焦って、まさに理性の知らぬところで本能が露わになっちゃう。


本来なら完成間近とは言え、理性は大方出来上がってるから、本能の露呈を羞恥心がカバーして、甘酸っぱい青春!

…とかになったりするんだけど。


ウチの弟は…よっぽど難しい曲で奇跡のフルコン間近の状況の中にいるみたいで、それに対する反動が大きく、ゲームで言う…もうコレクリア出来なかったら一生出来ないレベルのチャレンジだよ…ドキドキがやばい、心臓張り裂けそう…あっ張り裂けちゃった!


みたいな、本能の露呈が理性のキャパを超えちゃった、張り裂けちゃったみたいで、


まあいつかはコレが黒歴史とかになって、1人で悶え苦しめば良いんだ。


って思う所だったり。


と、後ろで固まる弟に対して思いつつ、彼に私の今の顔を見られぬようさっさと退散する。


だって多分…今の私の顔は真っ赤だ。


弟にあんな事を言っておいて何なんだけど…私だってまだ…その、処女であるワケで。


あの発言に対する自己への恥ずかしさがヤバい。


「…私もまだまだ思春期か」


謎の納得を弟から受けてしまった、かも。

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