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加筆と修正をしました。(2016/12/24)

再度加筆修正しました。(2017/3/8)

―逃げられない。


顔の色を失い、ディーンは呆然とただ前を見ることしかできなかった。


獲物を目の前にした虎狼の瞳はぎらつき、抑えきれないのか涎はとめどなく口の端から滴り落ちている。

牙を剥いた虎狼は今まさに襲いかかろうと四肢に力を入れその身体を低くした。

虎狼が地を蹴った瞬間ディーンには色も音も失った世界が広がり、自分めがけて口を大きく開いて向かってくる姿が映った。


―食われる!


そう覚悟した次の瞬間、虎狼の姿が突然目の前から消えた。何が起こったのか理解できずただディーンは荒い息遣いのまま目の前を呆然と見ていると肩に人の手が触れた。


「おい、大丈夫か?」


そこには血に塗れた一振りの剣を持つ男が心配そうにこちらを見ていた。

男の顔を見てディーンは自分の鼓動が激しくドクドクと音を立てるのを耳の奥から感じて漸く自分が助かったことを理解した。それでも声を出すことはできず男の問いかけに首を一度、縦に振り返事をするのが精一杯だった。


「…立てるか?」


その場からいつまでも動かないディーンが腰を抜かしていることに気がついた男が手を差し伸べてくれた。

震える手で差し伸べられた手をつかみふらつきながらも立ち上がるとからからになった口をどうにか動かしてようやくお礼を言うことができた。


「ありがとう、ございました。あの、助かりました」


「無事なようでよかった、目の前で人が食われる姿は見たくないからな。それに戻るついでにいい土産もできたことだし気にすんなって。だがここにいてまた魔獣にでくわすのはごめんだからな、こんなところに長居は無用だ。

お前帰り道はわかる…わけはなさそうだな」



森を我武者羅に逃げていたディーンには道などわかるはずもなく男の言葉に素直に頷いた。


「とりあえずもう暗いからここから離れたところで夜が明けるのを待つ方がよさそうだな」


夜の森を動き回るのは危険と判断した男と共にディーンは先ほどの場所から離れたところで一夜を明かすことにした。

茶色の髪に榛色の瞳の男、アルは依頼を終えてギルドまで戻る途中偶然シャンガールバウンドの姿を見つけて追いかけてきたという。おかげでディーンは命拾いをした。彼がこなかったらと思うとまた手が震えてしまう。



「それにしてもこんなところにシャンガールバウンドがいるなんて初めてだな。こんな森にいるような魔獣じゃないから…噂が真実味を帯びてきたな」


「噂?」



焚き火を囲むように二人で腰を下ろし先ほどまでのことを思い返してうつむいていたディーンは視線を上げると思いのほか険しい顔をしたアルと目が合った。


「ああ、なんでも祈りの力が弱まってきてるから魔物が暴れだしたってギルドでは実しやかに言われていてな。

まさかとは思っちゃいたが言われれば確かにここ数年姫巫女様の代替わりがいままでより早い」


「姫巫女様って世界の平和を祈り捧げる巫女のことだよね?十年くらい一人の巫女が勤めるって聞いたことがあるんだけど違うのか?」


「そりゃいつの時代のことだ?昔はそうだったみたいだが今は三年勤められれば御の字だってな。何が原因でそんなに短くなっちまったんだかなぁ」


「そんなに代替わりが多いことっていけないことなのか?」


「お前自分の住んでる村にいる神官からちゃんと話を聞いてないのか?

ったく、祈りの力が弱まれば空が荒れ大地も枯れ自然災害が増える。作物が実らなければ人は飢えるがそれだけじゃない。魔物と人との均衡も崩れやすくなる、そうなりゃ魔物たちが暴れだすようになるからさらに世界が荒廃していくんだよ。

一人の巫女が長くその任に就けるってことは強い力があって祈りの力が安定してるってことだろ。だから短ければそれだけ力が弱く安定もしないってことだろう」


「聞いたことはあったけど同じ人間がそんなことできるなんて信じられなくてさ」


確かに聞いたことがある話しではあったがディーンはそのときにその話を信じていなかった。同じ人間がそんな離れ業のようなことをできるとは思いもしなかったし、村にもそんな奇跡の能力を持った人などいなかったから尚更別の世界のことと感じていた。



ディーンの一言でアルは「これだから若者は」と言いたげな顔をしていたが、話題を変えることにした。



「はぁ、ところでディーンは見たところ魔獣を狩りにきていたようにも見えないが、何でシャンガールバウンドに追いかけられていたんだ?」


「王都まで荷物を運んでいる途中だったんだけど急にあいつが現れて、本当に死ぬかと思った」



力なく笑っていたものの先ほどのことを思い出すとディーンは本当に生きた心地がしなかった。目の前のアルがあそこで現れなかったら今頃あの魔獣の腹の中に収まっていただろう。そう考えたら途端に血の気が引いていくように感じた。


「丸腰であんなのに会えば誰でも思うだろうな。何はともあれ無事で本当によかった。

ただな、誘魔のものでも持ってなきゃあそこまで追っかけてくるようなヤツじゃないんだ。もちろん狩りをするために持っているヤツもいるけど、お前はそんなもんやっているようにみえないしな」



「俺はハンターじゃなくて運び屋。この仕事は行ったことのない場所にも行く機会があってさ、俺はそれでお金をためていつか世界中にある珍しい場所や生き物を自分の目で見に行くのが夢なんだ!

今回みたいに魔獣に襲われるのはいやだけどさ、でもどんな仕事でも俺は断らずにこなそうって思ってるんだ」


アルは何かを探るようにディーンを見て話を聞いていたが、目をきらきらと輝かせて話す姿に表情を緩めた。



「夢があることはいいことだ。世界にはいろんな場所があるからそれらを巡っていれば一生かかっても飽きることはないのかもしれないな」


その後はまだ顔色の悪いディーンの気をまぎらわせるようにアルはいくつか行ったことのあるマグマの噴出す火山や氷でできた迷宮などの珍しい場所の話をしてくれた。そのおかげで大分恐怖は薄れていた。

話に夢中になっていたからか空はいつの間にか白んできていた。


「そろそろ出発するか」


「そうだね。俺のせいで時間をとらせちゃってごめん」


「これも何かの縁だ、気にするなよ」



ディーンは自分のせいで足止めをしてしまったことを詫びるがアルは気にした風もなく軽く返事をすると手早く火の始末をし、二人はその場を後にした。

ディーンには相変わらず道はわからなかったが、迷いなく進むアルに続き歩いてゆく。昨夜はおどろ恐ろしく映ったこの森も朝日に照らされた今は緑が瑞々しく生き生きと見える。日の光を浴び、大地に根を張る青々とした木々や土の香りのする澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込むとディーンは生きているこの瞬間を感じてゆっくりと息を吐き出した。


時折何かを確認するように空を見上げる仕草をしながら進むアルに続いて緑あふれる獣道を歩き続け日が天をまたぎ傾き始めようというころ漸く拓けた草原地帯へと出ることができた。




「やっと森を抜けたな。歩き続けだったが大丈夫か?」


「だい、ッじょうぶ。少し、休めば」


確かにいつ魔獣と出会うかわからないことを考えれば仕方のないことだったけれど、朝あれからずっと森の中を歩き通しだったディーンは自分の膝に手をつき肩で息をしていたが、アルはこれくらいは慣れているのか涼しい顔のままだった。

ディーンもそれなりに体力があるはずだがアルはそれをはるかにしのぐ体力があるらしかった。



「大丈夫そうには見えないな…。だがそのおかげでこのまま進めばナダールの街がすぐそこだぞ」


「ナダール?嘘でしょ、あそこからそんなにすぐ着けるような場所じゃないよ」



ナダールの街はここら周辺では一番大きな街で王都までの移動魔法陣が設置されている。ディーンの住んでいたノーバー村からは森を迂回して行くためいくつか村や町を経由した場所にあり、正規のルートで行けば二日で着けるような距離ではない。だからディーンはアルが言ったことに驚きを隠せなかった。



「まあ普通じゃ無理だな。あの森を突っ切ってきたおかげでかなりの近道ができたんだろうな」


「俺はナダールの街に行けるなら助かるけど、アルはどうするの?」


「ああ、俺も依頼をこなしてきたからギルドに報告に行くつもりだ。ギルドがある場所ならどの街でも村でも大丈夫だからな。

まっ、ここまできたら魔獣にも遭わないと思うけどナダールまで連れて行ってやるよ、旅は道連れっていうだろう?」


「ありがとう!よろしくお願いします」



気のいい兄貴のようなアルのありがたい申し出にディーンはお礼を言い、また二人は心地よい風のふく草原をナダールを目指し歩き始めた。

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