黒き鉄塊
太陽の沈みかける荒野にその鉄の塊はいた。
『現在超大型機体生存機は自機のみ。撤退を進言します。』
無機質なアナウンスがコックピットに響く。
「それはキャンセルだ。冗談キツいよ。そんな事よりあと何機だ?」
返事をした男は敵地で10機もの敵機にかこまれているにも関わらず軽いノリだった。
『敵生存機残り10です。』
「全員ナンバーズじゃないか。仕方ない『コードⅨ』フルパージ。リアクターのエネルギーを30%から100%へ」
『承認しました。』
鉄の塊と言われるその機体は全体的に太く大きい尖った超大型機で、手すらないランス状でありスラスターがたくさん付いた、いわば突撃槍であり、ひと目でわかるピーキーな機体である。
『フルパージ。』
しかしその機体は全身を飛ばすかの如く装甲を飛び散らした。
装甲一つ一つが重量級の盾と言っても過言でない程の重さで、敵機に当たったのを見る限り装甲の4割は削っている。
それにより砂塵が舞う。
「Ⅸ公開無線にしてくれ」
『承認しました。』
「いいかよく聞け、今のうちなら見逃してやるぜ。さっきパージした装甲が、お前らの機体を相当痛めつけたはずだ。俺の本体はさっきまで30%の出力のリアクターだった。これが意味するのがわかるよな?ふっ…」
砂塵が舞う中から超高速で黒い機体が飛び出してくる。
その機体は従来の機体が捉えることができぬほど高速で走ってきた。
通常なら超高速戦闘などできるはずもなく敵はパニックに陥っている
「何処にいる!?」
「早すぎてついていけねぇ!?」
「うわぁぁぁぁあ」
敵機はことごとく鉄片と化してゆく。
「ば、ばけもんがぁぁぁぁあ」
瞬時に反応した1人がアーミーナイフで応戦しようとしたがあまりにも速く、構えた時には彼の機体も鉄くずとなっていた。
「100%は負担がかかり過ぎる…」
そう言って彼の目の前にWINNERの文字が現れた。
『現時点を持ってエントリー名VAN様を、第1回ブリューナク公式バトルロイヤルの優勝者とします。ベスト16の皆様には大会本部から商品が直接インベントリに送られます。』
機体から降りて男は夕暮れに染まる荒野を眺めた。
「いやぁ…終われる…」
「何をニヤけてんだヴァイン?」
声を掛けてきた人物に振り返った。
「あぁ愛さん。久しぶりです」
このおっぱい丸出しと言っても過言でない布面積を着ている時点で痴女でしかない人物である。
「優勝おめでとお前最後本気出し過ぎだろ。流石『機神』ってところだな」
「バトルはもう引退するんですがね」
「はっ?!そんなの聞いてねぇぞ!?」
驚きの表情を隠しきれていない様子。
「だって言ってませんし」
「チームの奴らはどうなんだよ!?」
「チームって言っても俺と愛さんだけじゃないですか」
「たまに妹がくるだろ!?」
「辞めるわけじゃないですから安心してください。明日から高校生なんで廃人プレイができないだけで今後は、ショップでも開こうかと…」
「早く言えよそれ。で何処に店を?」
「始まりの街ライトにでもと」
「そうかそうか偶には最前線にも来いよ」
「お断りします」
「なんだとぉ」
「グリグリしないでください。あと胸が…」
「当ててんだよ。祝勝だと思え」
現在やっているこのVRMMO『ブリューナク』は、キャリヴと言われる10m程のマシンで魔獣との戦いをメインにしたゲームなのだが、このゲームに隠された真実をまだ俺は知らなかった。
「そろそろ自分のガレージに優勝賞品が来てる頃なんで失礼します。」
「おう。頑張れよ。」
メニューから転送ボタンを押した。
転送 ガレージ
ガレージには現在沢山の試作武器と5機のキャリヴがある。
キャリヴは、一定時間経つと自動で修復される。
現在保有しているキャリヴを紹介しよう。
1機目「Number」流動系の白いボディでこれは、ブリューナクのチュートリアルをクリアすると貰える機体なのだが通常のプレイヤーなら解体や売却などする。
だが見た目のかっこよさを気に入りそのままとってある。
試作武器や試作武装をよく使う。
汎用性に長けている分器用貧乏になりやすい。
2機目「コードⅢ」初めてオリジナルの外装を作った機体である。
全体的に黒くスラスターを多く付けている。機動性に全振りした機体で100%の出力にするとキャリヴのフレームが持たないことから「コードⅥ」の開発のきっかけになった機体である。
またコードⅢのデータは後のコードシリーズに繋がる。
3機目「コードⅥ」フレームからリアクターを新規作成しコードⅢのデータをフィードバックした後継機。
普段は追加装甲で格闘性能の30%を下げているがその分コードⅢで足りなかったレイザー系武器の防御面を上げている。
追加装甲には対レイザー系コーティングを施している。
一撃離脱を主にした戦闘法を確立した。
しかしコードⅥにも弱点がありそれは稼働時間である。
通常キャリヴは、平均10時間を目安にしているがこのコードⅥは3時間が限度である。
4機目「コードⅨ」コードシリーズの完成系。
装甲は対レイザーコーティングで現在最軽量最硬度を誇るハイミスリルを全身に使用し光学迷彩が可能。
稼働時間はリアクターを3機に増やし10時間の稼働時間に。
そして一撃離脱を主にしたユニット「グングニル」これは大会で使用もしたユニットでありコードⅨの三倍はある。
グングニルには上半身を覆うように装着する。
いわゆる○ルフィング第四形態の様なものだ。
グングニルにはトンファー×2やワイヤーガン×4コーティングナイフ×4と多彩な近距離中距離を主にした武装が収納されている。
コードⅨ本体にもワイヤーガン×4にレイザーブレイド×2を装備している。
グングニルのスラスターで一気に奇襲をかけ、フィニッシャーとしてグングニルがパージしリアクターの出力を上昇させ、決めにかかるという戦法だ。
出力を50%以上出すと肉体に強力な負荷がかかる。
5機目「stormX」コードⅥのデータを元に作った可変機。
装甲は風を意識して流動系のボディでカラーリングは白に赤のラインがある。
バイクに変わるオリジナルの可変機。
コードシリーズに劣るが通常のキャリヴよりも数段早く、バイク形態ならばコードⅨの出力40%時と変わりない。
コードシリーズとは違い、ちゃんとリミッターが付いている。
とまぁ愛着のある機体達を眺めてた。
それよりも大会の優勝賞品である「《ブリューナク》フレーム」フレーム自体にパイルバンカーを内蔵したロマンあるフレームだ。肝心の性能だがコードⅨのフレームより高いのだが、コードⅨのフレームと変えるなら強度が足りない。
しかしさすが公式大会優勝賞品のだけはある。
冷静に考えたら明日から高校生だと言うのに…
とりあえずログアウトして明日に備えよう。
こうしてVRの世界を後にした。
装甲パージっていいですよね。
読んでくださりありがとうございます。