episode3 刑事と夜叉
出来上がりました。
episode3では夜叉が少々ふてくされてしまう場面が有ります。
志乃の部屋へ戻った夜叉が気づいた事…
それは…?
昼食を終えた二人は町中のひな祭りを
存分に楽しんだ。夜叉は志乃の手を握ると通りを渡る。
『あ、ち、ちょっと…』
『ったく、何ぼさっとしてんだよ…』
『…はぁ?!』
『気付いてなかったのかよ?!』
『だから何を!』
『…知るか!』
『何よ!逆ギレ?!』
『はぁ?!それはこっちの台詞だ!バイクに跳ねられたかったのか!』
『バイク?』
『猛スピードでこっちへ向かってたんだよ…』
『そうだったんだ…有り難う』
『う…けっ…早く乗れよ…負ぶってやるから…』
『うんん。歩く。歩きたいの』
夜叉は屈むのを途中で止めると
志乃へ向き直る。
『はぁ…判った。けど向こうへ行く用事もある…』
『判ってる。少しだけでいいから…ねっ?』
夜叉は承知すると志乃の手を握り締めたまま歩きはじめた。少し長い灰色の髪は歩く度揺れる。
広い背中は今のふてくされた夜叉そのものに見えた。
『志乃』
『うん?』
『俺が行ってる間だけど…』
『大丈夫よ。何もない所だけど自然を楽しんでるから』
『…大丈夫か?』
『何?心配してくれてるの?』
『…知るかっ!』
『素直じゃないわねぇ?』
暫くすると夜叉は一度埼玉へ蜻蛉返りをした…。志乃の部屋までやってくると十二分に警戒しつつ中の様子を見る。
施設の匂いが微かに残っていた…。
玄関の鍵はめちゃくちゃに破壊されていた。あの時の選択は間違っていなかった様だ…部屋の中は少しだが荒らされている…通帳等は無事だが、クローゼットや押し入れが主に荒らされた様だ。
隠れて居るとでも思ったのだろう。
スーツや着替えを適当に紙袋へ詰め込むと
玄関の方から物音がした。
耳を澄ませると誰かの話し声が聞こえてきた。
『警部、ここの住人はやはりまだ帰って居ない様です。今、大家さんに連絡を入れて貰っています』
『判った無事なら良いんだがなぁ…』
警察だった…今の内容を志乃へ伝えておいたほうが良さそうだ…夜叉は物音を立てず部屋を後にした…。
小一時間かけ志乃の居る場所まで戻った…。
『あ!夜叉!大家さんから…』
『電話があったんだろう?さっき警察の奴らがお前の部屋先で話しをしていたからな。…それと火薬の匂いと施設の奴らの匂いが微かだが残ってた…。他の匂いは警察の匂いだろう…どうする?恐らくお前が帰るのを待っている様子にも聞き取れたが…』
『…行くわ』
『それじゃ戻りながらホテルでも予約するか…俺はあの周辺を見張る』
『けど…危険じゃ…』
『どうせ見つかる羽目になるだろう?だったらこっちから探りを入れたって同じだろう?』
『…う…うん…』
『心配要らねぇよ。行くぞ』
志乃を背負うと夕日へ向かって走り出した。日が沈むのはあっという間で、薄暗くなった街を飛びながら移動を開始した…。
部屋へ戻ると、その足で大家の元へ向かう…数人の話し声が耳へ届いた。
男の声が二人分と女の声も二人分…。
刑事達と大家達だろう。
志乃に気づいた大家の娘が目に涙を浮かべながら抱きついてきた。
『良かった!良かった無事で!もう!今まで何処に居たんですか!』
『ごめんね…心配かけて…抜けられない用事があって…大家さん…すみませんてました…』
『ワン!』
『良いのよ無事なんだから』
大家も志乃を抱きしめるよう後ろから肩へ優しく手を添える。
その様子を見ていた一人の刑事が名刺を出しながら志乃へ近づいて来た。
『初めまして、埼玉県警の宮越です。こちらは赤井。我々もお聞きしたいのですが…宜しいでしょうか?』
この時赤井という刑事は志乃の後ろで
大人しくしている夜叉を見ていた。
『はい…』
『それなら俺にも関係有るな』
『え…?まさ…か…』
志乃は驚いた表情で後ろを振り向く。
五人が見る先には煙りに包まれた夜叉の姿があった。
彼は壁へ寄りかかり立っていた。
『あ…あ…』
志乃は青ざめている。
『…えっと…僕、今犬が煙に…で…犬が人間に…』
『お前は何を謂っているんだ?』
志乃と話をしていた宮越は見ても居なかった為判らないでいる。
『俺が犬から人間になったから驚いてんだろうな』
『き、君は?僕は赤井』
『俺は夜叉。こいつがつけた名前だけどな?』
『わ、判った…とりあえず信じよう…ええっと…順を追って説明してもらえますか?』
『勿論』
志乃は大家達とグループを作るように
一塊になっていた。
夜叉は志乃と出会ってからの事を刑事達へ詳しく話出した。
『そして志乃を巻き込んちまったって事さ。疑うなら調べるといい。施設の責任者は五十嵐という男だ…正面からぶつかっても相手は隠すだけだ』
『表向きはどんな活動を?』
『さぁな…ただ薬品がどうのってのは訊いたことがあるな…それと…一ヶ所だけ中と外へ繋がる穴がある…調べるなら二手に別れた方が良いかもな…正面役と裏役で…』
『えと…夜叉…君…だっけ?』
『気持ち悪いから”夜叉”でいい…判ってる。捜査にも段取りが有るんだろ?だけど正面から行ってみろ…全部隠蔽しかねない』
『なぁ、夜叉』
『ん?』
『捜査に協力してもらえないだろうか?』
『いいぜ。奴らの狙いは俺だろうが五十嵐の目的を潰せるなら…』
『感謝する。それと…龍崎さん』
『はい…』
『貴女の部屋や玄関先などに監視カメラを付けようかと思っている次第なのですが…』
『構いません。彼の謂った全てを警察全員が信じてくれるなら…』
『しっ!』
壁に寄りかかっていた夜叉は志乃と大家(親子)刑事の前へ立った。
夜叉の目は鋭くなる…。
コツコツコツ…
宮越と赤井は拳銃へ手を伸ばす。
足音は徐々に近づいて着ている…。
『この匂い…榎本か』
志乃は咄嗟にひな祭り見学をしたときに購入した帽子をバックの中から取り出し夜叉へ被せた。
『何だよ急にっ!』
『だって貴男顔もバレてるんでしょう!だったらちょっとした変装位しなさいよ!眼鏡もかけてっ!』
小声ではあるが二人はちょっとした喧嘩が始まってしまう。それを赤井が宥める。
帽子と眼鏡を着用させられた夜叉はブツブツ文句を並べながらも足音がする方へ耳を集中させる…。
この時夜叉は何故か大家(奥さん)に引っ張られ彼女の隣へ立たされた。赤井が夜叉へ呟く。
『自然に自然にですよ…夜叉…く…』
『だから呼び捨てで良いって!』
『静かにせんか!』
『『すんません…』』
宮越の一喝は二人を黙らせるのに迫力があった。
足音の主が姿を現せた。
夜叉の口から出た”榎本”…。何故此処へ居るのか…それは彼女本人が一番よく判っている…。
『今晩和。どうされたのですか…?事件?』
『発砲事件と不法侵入が有りまして、まだ犯人は捕まって居ませんので御注意下さい』
『まぁ…』
『被害に遭った方は?』
『それがまだ戻って居られなくて…今連絡をとっている最中なんですわ』
『あら…早く見つかると良いですね?失礼します』
『お待ち下さい。貴女は此処の住人でしょうか?』
『いいえ。話し声が聞こえたので”あの子”が保護されているのかと…』
『…?家出か何かですか?』
『はい。中学生何です…心当たりを捜しますので…では…』
そう話すと榎本は来た道を戻って行った。
被害者情報は気の利いた宮越の言葉で
護られた。専ら、詳しい情報はくれてはならない。マスコミは常にニュースのネタを探し回っているからだろう。
『お二方は今晩どうされますか?』
『素泊まりでホテルへ泊まろうかと…』
『そんな事しなくても僕等が保護するのに…』
『そうだな…』
『宮越さんもそう思うでしょう?ね?夜叉君?』
『赤井の奴…ワザとだな…』
夜叉の隣に居る親子は必死に笑いを堪えていた。赤井と夜叉のやり取りが面白いのだろう。
宮越が煙草を胸ポケットから取り出し
少し離れた場所で火をつけた。その後ろから夜叉がやってきた。
『俺にも一本良いですか?』
『ブラックメンソールだけどどうぞ。いや喉が痛くてね…』
『ならのど飴舐めてれば良いじゃないですか?』
夜叉は貰った煙草をくわえながら宮越へ謂う。彼が煙草へ火をつけようとしてくれたのだが、夜叉は風よけの手をやると右手人差し指で小さい火を出現させた。
『…指から…』
『ライター要らずで便利でしょう?他にも色々出来るぜ?』
『夜叉、やはり署で保護するとしよう。君から五十嵐研究施設の事を詳しく訊きたい』
『ふー…判った』
episode3も読んで頂きまして有り難う御座います。誤字脱字等、毎回申し訳有りません…。
次回はちょっとしたバトルを含めようと
考えています。
では、失礼します。