episode2 特殊なNo.2
登場人物紹介
夜叉 25
歳
本名不明
属性 炎使い
正義感が強く悪を許さない。
竜崎志乃 21
歳
人間
曲がった事が大嫌い。
五十嵐亮太 46歳
研究所でのリーダー。
自分が不必要と思った者は容赦なく
切り捨てる。他言無用の秘密がある。
坂木勤 36歳
五十嵐からの信頼される人物。
上の命令には忠実に従う。
榎本千春 26歳
女性研究員の中で優秀な人物。
自分嫌い。
谷部慎司(No.3) 15歳
生まれてからずっと研究所で育つ。
五十嵐を尊敬する中学生。
属性 風使い
何処かの山奥にもう一つの研究所がある。
誰にも見つからずに建つような…ひっそりと…。建物二階建て、木々が研究所を隠している。どれくらいの広さなのか…と考えさせられる広さだ。
白衣を身にまとった沢山の研究員が
一つの部屋へ入って行く。
手術台の様な物に一人の男の子が寝かされている。彼は天井を見ていたが右側視界から黒髪の男が覗かせた。ネームプレートには五十嵐亮太とある。
『No.3、準備は良いな?』
『はい』
『読み上げろ』
五十嵐は隣に居る研究員の坂木勤という男にカルテを読ませる。
『はい。谷部慎司。十五歳。実験呼び名No.3』
『間違いは無いな?』
『有りません。No.3本人です』
『…始める』
五十嵐は注射器を三本選び、一本ずつ接種し始めた。
三本目を終わらせるとNo.3の体に異変が起きた。耳や鼻、肌や口、手や足が獣になってしまった。
耳は大きく頭の両端に、口は鋭い牙をもち
目は赤く…体は五十嵐よりも大きい。
もう彼は人間では無くなった。
狼の様な体になったNo.3は広い部屋へ誘導された。そこは研究員達の間で謂われる【バトルルーム】と謂う部屋。
所々に凹みがある。
岩らしき物も多数…まるで何処かの岩場を連想させる部屋になっている。
No.3だけ、その部屋に残された。
研究員数十人と五十嵐は別室へ移動するとマイクのスイッチを入れ、No.3へ話し掛けた。
〈では始める〉
『……』
No.3は頷くと定位置に着く。
向かい側の重い扉が音を立てて開いた。
中からは一匹の猛獣が涎を垂らしながら出て来た。
『よくもまぁ、此だけの化け物を造れたものだ』
五十嵐がカルテを読み上げた
坂木勤に訊く。坂木は顎を少し上げる仕草をしながら眼鏡を中指でかけ直す。
『あれは初めて成功したキメラです。死にかけていたホームレスと生まれたばかりの山猫を偶然見つけ合成させました。力の方は此から判るかと』
『山猫とは…偶然にしては運が良すぎるんじゃないか』
『私は強運の持ち主何ですよきっと…』
『頼もしいな』
『五十嵐様、御言葉なのですが化け物を増やしてどうなさるおつもりなのです?』
『破壊だよ』
『破壊?』
『私を見下した奴らへの復讐だよ。私を怒らせたらどれだけ恐ろしいか…最終的にはキメラで埋め尽くしてやろう…』
『…はぁ…』
谷部は五十嵐の考えていることが
何処かで判らないでいた。
〈No.3…やれっ!〉
五十嵐の言葉を理解した二頭は
互いに飛び出し合った。
その頃、夜叉と志乃は筑波の梅を楽しんで居た。ただ花をみるだけだが気持ちが段々と和らいできていた。
『ねぇ夜叉?町中でひな祭りもやってるんだって!行ってみない?この時期になるとテレビにも出てる所なの。明日で終わりみたいなのよね…』
『混んでるんじゃないか?』
『何よー!いいじゃない?財布もあるんだからぁ』
『志乃…お前裸足って事忘れてないか?』
『…あ…』
『ったく…』
『あはは…ねぇ夜叉…貴方に付いていた首輪って何処にあるの?』
『さぁな。俺も気づいたら無くなっていたからな』
『そうなんだ…』
『あれには発信器が付けられているからな…最悪逃げられてもいいように。それが有れば何処にいるのか特定出来るだろう?まぁ俺の場合失敗作としての処分だから外したって所だな』
『…もし、その研究員達が貴方を捕まえに来たら…逃げるの?』
『だろうな。もうあんな所には戻りたくねぇし…やっと自由になれたんだ』
『そうだよね…ねっ!靴を買ってひな祭り見学しましょうよ?』
『まだ謂ってるのか…』
『美味しいお店も有るみたいよ?』
志乃の最後の言葉に反応した夜叉は犬耳が出現しピクッと動かす。志乃はそれを見逃さなかった。
『行きましょう?』
『判った…』
(うふふ…食べ物に釣られるなんて子供みたい)
(釣られたか…)
夜叉は志乃を背負うと高く飛び上がり靴屋へと向かった。田舎と謂うこともあるがやはり目立つ。赤信号で車を止めているドライバーも飛び出してきた夜叉に気づき驚きの表情をつくり出している。
自転車に乗っている人や、山登りへ向かっていた者も立ち止まり二人を見る。
ニュースにならなければ良いのだが…。
『着いたぞ?』
『それじゃ買いますかっ!夜叉!貴方もよ!ほら行くわよ?』
『お前…何かキャラ変わってないか?』
『何謂ってるの?早く早く!』
二人は靴を購入すると足を拭き、コンビニで買った靴下も履き靴も履く。
次の移動は出来るだけ目立たないように歩く。
『結構距離があるよな?あるってたら明日になっちまうぞ?』
『それもそうね…タクシーを使うとかは?』
『所要時間は?』
『大体三十分…』
『六、七千は取られるんじゃないか?』
『う…』
『乗れよ?飛ばなければ良いんだろう?』
『そうだけど…』
『早く乗れ』
『う、うん…』
志乃は夜叉にまたも”おんぶ”という形になった。夜叉は人通りの少ない歩道を走り出した。大通りを抜けると農道が見えてくる…また暫く走ると”わんわんランド”という大きな看板があった。
夜叉は大きな犬のバルーンをちらりと見ただけで何も見ていないかの様に通過した。
『夜叉って凄いのね…』
『ん?何か謂ったか?』
『何もー』
志乃は夜叉の体力や瞬発力などに関心を抱いていた。気がつく左側に”鴨亭”とあった。志乃は朝食を食べていない事に気がつき腹の音がなってしまった。
夜叉も、それに気付き見えてきたコンビニで志乃を降ろした。
『さっき鳴ったろう?』
『だって朝から何も食べてないじゃない…』
志乃が夜叉の後ろへ視線をやると
ラーメン屋があった。営業時間なので食べ終えたであろう客が二人出て来た。
『ラーメン!』
『判った判った入るんだろう?』
『うん!あたし何食べようかな〜』
一つ目のドアを開けると中にももう一つドアがあった。もう一つのドアを開けると可愛らしい鈴の音がなる。
その音を訊いた女性が人数を訊くと好きな席へ座るよう謂ってくれた。間取りはこうだった。
入り口から中へ入ると左側は小さい窓のへつける感じで二人様のテーブルが三席と
間を挟んでカウンター席が設けられている。
右側は座敷で大きいテーブルが七つ。窓際と通路側がある。志乃は、座敷を選んだ。
此方の席なら足を伸ばすことが出来るからだろう。背負ったまま走りつづけたのだから疲れているはずだ。
窓際の席へつくとお冷やが二つとお絞り二つ出された。
『あ、エビチャーハン…此も美味しそう…』
『涎垂らすなよ?』
『たっ…垂らさないわよ!』
メニューが決まると出て来るまで話をしながら待つ。先に出されたのは烏龍茶二つ。それを飲みながら今後の事を相談しあう二人。
『やっぱり戻っちゃ駄目かなぁ?』
『危険過ぎるだろう?』
『えー…』
『戻ってどうするんだ?』
『仕事もあるし電気代の支払いだって…』
『なら一度俺一人で様子を見てくる。奴らの匂いが残っていたら今日明日は戻らない。仕事は行くだらうし、志乃のスーツは持ってきてやる。此でどうだ?』
『有り難う。今の所それでお願い…』
『けど忘れるなよ?お前の会社には五十嵐と繋がりがある男が二人。青井颯人って奴と飯嶋昌一』
『嘘…二人ともあたしと同じ部署じゃない…青井さんと飯嶋さんが…』
『二人がどう繋がっているかまでは知らないが…俺の事は話すな。いいな?』
『判った』
二人がこうしている間山奥の研究所では
No.3がキメラとの決着をつけていた。
『ガルルルル…ッ!』
壁には夥しい血が所々付着している。
キメラの顔は四本爪の傷跡があり、横たわっている。
『良くやった。偉いぞ』
マイクのスイッチを押しながらNo.3を
誉める五十嵐。
No.3は強化ガラスから覗く五十嵐を見た。
五十嵐は自分を褒めてくれた…必要としているんだ。そう思っているに違いない…。
『五十嵐様っ!』
彼等の居る部屋のドアを榎本千春という女性研究員が勢いよく開けた。息がきれている様子からして走ってきたのだろう。
せっかくのポニーテールが台無しだ。
彼女のファンは結構な人数らしい。
幼い顔立ちでくりっとした目…。
『どうした?榎本?』
『大変な事が…以前…No.2を捨てましたよね…』
『ああ。あいつは失敗作同然だからな?薬の無駄遣いだ。キメラの姿にはなるが、直ぐ人間へ戻ってしまう』
『その失敗作だと思われていたNo.2が成功していた特殊なキメラだったんですっ!』
『何を寝言は寝てから謂いなさい』
『五十嵐様っ!最後までお聞き下さい!彼は人間の姿のまま能力を発揮出来ます…属性は炎使い…炎系なら何でも使いかなせます!今まで造り出してきたキメラより…彼は勝っていると…結果が出ていたんですっ!』
『…しかしあの時そんな結果報告は無かったぞっ!』
『それらのミスは…貴男なんです…。この結果報告書は先程清掃員の方が五十嵐様の部屋で見つけたもの何です…恐らくあの日の五十嵐様はご多忙だった…さすがの五十嵐様も見落としてしまったのでしょう…』
『私のミス…』
『今、派遣されている者に捜すよう連絡しているところです。生きていても死んでいても…どちらにせよ連れて戻るよう…』
榎本は手回しが早い…都内へ戻ろうとしている夜叉は無事に志乃の元へ戻ることが出来るのか…。
誰も知る由もない…。
読んで頂き有り難う御座います。
次回、やっぱり未定ですm(_ _)m