code:1 「前章」
合気道ー
それは、相手を翻弄し、受け流し、
相手の攻撃を利用する、「守りの武道」。
柔よく剛を制す、防御こそ最大の攻撃。
ただ、この男は「少し」違った......
「あ、はい。......はい。分かりました。」
暗い表情で、携帯の通話を切る。
この男の名は トン 。
どうやら面接試験に落ちたらしい。
スーパーへ行き、食材を買って家へ帰る。
肩が重い。胸が重い。
これで何件、正社員の面接に落ちたことだろう......
荷物を抱えたトンの姿は、遠くから見れば
妻から買い物を頼まれた40代のリーマンだった。
(トンはまだ21歳。彼女なし。)
[ってぇな!前見て歩け!]
突然、不良が怒鳴ってきた。
「すみません。」とっさに謝るトン。
[すみませんで済んだらケーサツなんぞいらねぇんだよ、ボケナスがァ!]
不良は気が立っていたのか、執拗にねちっこく言ってくる。
トンは、小声で「すみません」と言いながら、不良の横を通ろうとした。
突如、不良は足をかけようとつま先をトンの足にかけた。
トンはとっさによける。
[何逃げてんだよ!肩が外れてたらどーすんだテメェ!]
不良は勢いよく怒鳴ってくる。
(確かにぶつかったのは肩だ。ただ、こんなことで外れたら不良やっていけない気がしたトンだった。)
不良は拳を振り上げた。
と、次の瞬間、不良の腕を掴み、勢いよく流して不良の体勢を崩した。
と同時に、足をひっかけて不良を着地不能な体勢にする。
これは完全に合気道であった。
するとトンは、掴んでいた腕をさらに強く握り、ブロック塀に向けて強く引っ張った。
不良はなすすべもなく、頭からブロック塀に突っ込む。
ブロック塀は粉々になっていた。
本来、合気道は相手の力を利用して、
自分の身を守る武術である。
彼はその力に、とてつもなく「強大な力」を
相手の力を流す時に「プラスして」相手を必要以上に突き飛ばしたのだった......
この時の日本は、段々と平和ではなくなっていた。
初投稿です。
よかったらコメントなり批評なりどうぞ。