表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/22

力ある言葉?

ここで語られているのは「世間での常識」に過ぎません。

実質、PCとOSとプログラムに関する知識がある方はぴーんときたかもしれないですが、どこが正しくてどこが間違っているかは、また後で語る事に。


※いらん言葉が残ってたので修正しました。



「気付かない事は愚かではない。気付けない事も愚かではない。だが、見せて、伝えて、理解させて、それを認めることができない者は、愚かだ」

「…それとだ。こちらから女性の年齢に関する話題をふるのは、止めておけよ」




 悪夢のような夜が明けた。

 商人は周囲の静けさをあらためて確認した上で、雇った護衛達と愛馬、そして、同乗していた者達の顔を見渡す。馬はどこか得意げに鼻を鳴らして周囲を見渡す。


 動物の勘は鋭い。それが緊張を解いたと言う事は…。


「助かった…」


 安堵の声に、同乗していた村の者も強張った顔を緩めていく。

 緊張が解けた所で、火を守っている男に声をかけた。


「その子は、大丈夫かい?」


 男は小袋から砂のようなものを取り出し、焚き火の中にパラパラと撒いた。


「ああ、どっと疲れが出たんだろう。今<宿営/キャンプ>をかけ直した所だ」


 <宿営/キャンプ>は儀式型の魔法で、200m程度の周囲警戒と野生生物が忌避する気配を漂わせる事ができる。ただ、抗魔力のある魔物には周囲警戒の機能のみで、昨夜の襲撃は事前察知はできたものの、小悪鬼を退けるほどの効果は無かった。


「でも雇っておいて正解だったよ」


 毛布の上に寝かせた子供。この子が居なければ、自分の命は無かっただろう。勇敢な子だ、と商人が呟く。


「そうだな、こっちも助かった。相方は周囲の確認ついでに薪探しに行ってる」


 小悪鬼の死体は、魔物が寄って来る可能性があったので懸賞金を貰う為の部位を切り取った後、少し向こうの谷間に捨てたと男は言った。



 村の面々は、思い思いに食事を摂っている。すぐに移動を再開してもよかったが、街道に人通りが期待できる昼ごろが良いと判断して、体を休めるように商人は伝えた。


「それにしても、何があったんだ? 誰か、戦闘魔法を使ったのかい?」

「いいや、私が目の前で見たのはこの子の<火口/ティンダー>だけだ」


 家事を手伝ったりあるいは自ら火を起こす時に使われる、ありふれた魔法式の形。だが、今寝ている子供が起動した数は尋常ではなかった。その速度も含めて。最後の式は大きくて何を使ったかは判らなかったと商人が言う。


 村人の一人が先に休む事を伝えて馬車の中に引っ込む。男は手を上げてそれに答えると、商人の方に向き直る。


「この歳で戦闘用の式を覚えている筈も無いし、最後の火柱は何だったんだ?」

「…ぁ…ここは?」

「おお、起きたか。凄かったぞ少年、俺達も助かった」

「飲んでおきなさい、薬草入りで少し癖があるが元気が出る」


 商人は腰から水筒を取り、寝ぼけ眼の少年に差し出す。少年は二度三度、瞼をしばたたせた後、周囲の無事にほっとしてから水筒の中身を飲む。渋みはあるが、寝起きもあって体に染み渡るのを感じた。


「みんなは、無事ですか?」

「ああ、大丈夫だとも。それにしても、最後のは餞別で教わったのかい?」


 魔法を使える才が子供にある場合、法律では違法ながら、危険がまだ残る街道を行き来する時には1つ2つの攻撃魔法を教える事が多い。それを遠回しに餞別と称する。


「えっと…、最後のも<火口/ティンダー>なんです。村の先生に、設定の変え方を教わった奴で…」


 何かバツの悪そうな顔をした少年の姿に、男と商人は顔を見合わせる。


「絶対に人に向けて使うな、使わなければいけない時だけにしろって言われてたんですが…」

「設定の変え方? 古式の魔法を使ったって言うのかい?」

「一応、古式になるのかな? 先生が基礎魔法式を使えない人だったので」

「? あの、古式って何ですかい?」


 魔法式については生活魔法程度しか使えない商人にとっては馴染みのない言葉だ。


 古式というのは、現在普及している基礎魔法式が確立する以前までに使われていた、整理されていない大多数の魔法式の事を言う。


 「魔法式」による魔法は世界全体からすると「比較的新しい技術」であり、黎明期には効果が同じでも必要な手順や式が異なる事も多かった。


 それが100年程前に登場した大魔導師の開発した「基礎魔法式」により、整理や淘汰が進み、現在の魔法理論や開発の基礎になっている。


「魔力の弱い人でも、発動までに時間がかかったり触媒や道具を併用する必要があるけど、生活用の魔法程度なら使えるのが古式なんだ」


 病気や呪いなどで魔力が減衰してなければ生まれながらに魔力が無いという事はほとんどないため、余分な手間や道具が必要な古式の魔法は、生活用のいくつかの式を除いて廃れている。


「ただ、現存してる式だと、設定を変えても制限式や抑制式が働く筈だよな?」

「…なんですか、それ??」


 少年は首を傾げる。少なくとも、青年から教わっていた内容には無いものだった。


 制限式、または抑制式とは、魔力が伝わる際に定められた上限以上の魔力が来た場合や、不安定な魔力が伝わった場合に浪費させ、事故を防ぐための魔法式上に組み込まれた安全装置の事だ。


 中核となる”力ある言葉”は、そのままでは発音も制御も難しかったと伝え聞く。それを人族は長い研究の末に魔法式での制御を開発した。今や、”力ある言葉”は組み込まれた魔法式の一部でしかないし、それを取り出して用いる事は人族ではほぼ不可能と言われる。


 魔法式を望む結果で実行する場合の制御や調整は制限式や抑制式が兼ねている事も多く、これを一部外しただけで機能しない事もある。これもまた、魔法式を作り上げた人物による安全処置なのだろう。


 式自体がそれのせいで肥大化してしまうのだが、式を一から構築しているならともかく、現在残っている魔法式の場合、須く組み込まれている筈のものである。


「まさか、”力ある言葉”を制御してるのか?」

「なんだって!?」


 素っ頓狂な女の声。男二人と少年が驚いて振り返ると、男の相方である女が


「あ、おぼさん…」

「ボーヤ、今の話…というか、夜にやった奴、この場でできるかい?」

「はい…、ちょっと危ないので、起きますね」


 少年は立ち上がると、緊張した面持ちで男女と商人の顔を見た後、宙に向かって指を向けた。魔法式が脳裏の仮想領域に展開、手順に従い範囲を設定、自分が使える魔力量で実行できる式の大きさに、そして、転写する。


「<火口/ティンダー>!」


 魔力が少年の使用可能限界まで消費される。そして燃える火の球が現れる。熱量は今燃えている焚き火の総量より低いだろうが、これをぶち当てられた側は熱と驚きで飛び上がるだろう。


「今できる最大がこれです、僕の魔力量だとこれが限度だから、まだ工夫が必要なんですよね…」


 そう言って火の球が消える。


「あの、何か…変でしたか?」

「…驚いた、この子、祝福持ちかもしれない」


 女が男の耳先に囁く。男は驚いた表情がだんだんと変わり、深い笑みで少年を見た。




「…所でボーヤ、あたしまだ十代なんだけど?」


 女の物凄い笑顔。こんな死の恐怖を感じたのは、少年が村で世話になった青年の奥方との模擬戦以来だろう。あちらはあちらで、高笑いを上げながら物凄い勢いで木剣を振り回していたのとは別種の怖さだが、魂の根幹に及ぼす死の恐怖は小悪鬼より上に感じられた。


「え、あ、その…」

「そりゃーね、街とか村とかの子が十四とかで旦那持ちとか子持ちとかあるけどさ、稼ぎの安定しないこんな稼業だ、流石に行かず後家とかって訳じゃないんだよ?」


 傭兵は旅稼業で結婚がのびのびになる事は多い。街では二十歳前後での結婚が増えてきているが、王族や貴族の他、農村では成人と扱われる十四前後での結婚やら婚約は普通である。


「だから俺が貰ってやるって前から」

「うっさい、それは約束してるけど今じゃない!」


 馬車の中、少年と男女を除いた村から出てきた面々は、一斉に胡乱げな目になった。少年へ同情的な目線は送るが、流石に援護するには材料が乏しい。誰しも自分の身が可愛いのである。


「…いいかい、あたしは今年で十九になるぴっちぴちの”おねーさん”でお嬢さんだからね?」

「は、はい、おねーさ…」

「あたしは、美人でぴっちぴちのおねーさん、繰り返しな?」

「ハイ、オネーサンハ、ビジンデピッチピチ、デス」

「よろしい。ではもう一度…」

「ハイ、オネーサンハ…」


 街に着くまでの道のり。至って平和ではあったが、一人、少年は抑揚無い喋りで同じことを繰り返す人形状態で残りの道のりを辿ることになった。


因みに、少年の認識も間違ってますし、傭兵二人の認識も間違ってます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ