基礎魔法式
短め。この世界の魔法は
OSとなる「基礎魔法式」
その上で動くプログラム「実行式」
これらで構成されています。
かつて居た天才が、基礎魔法式の上で便利に扱える実行式を作り、マクロによる魔法式実行の簡素化に成功。これが広まったはいいけれど、ろくにメンテができない奴らばかりでスパゲッティ化しましたとさ、というお話。
「教えを受け、理解が深まり、色々と疑問と質問が浮かぶようになって、先生は数百年に渡って使われてきた、基礎魔法式にダメ出しをされた」
「各国の研究院でも、国ごとの汎用基礎魔法式の手入れと調整、頒布には国家レベルの大事業だというのにね」
青年にとって、魔法との出会いは狂喜乱舞ものであったが、理解が深まるごとに色々な意味で壁と落胆を繰り返す日々だったらしい。教材として出された基礎魔法式を前に、青年は普段とは別人のようにまくしたてたと言う。
「まったく! 受け継がれてきたとは聞こえはいいけど、メンテも最低、場当たり的なパッチを当てて、しかも結局、基礎魔法式に根本的に手を入れられず、昔の天才が作った実行式の上で、スパゲッティなマクロを動かすだけ! どんだけリソースを無駄遣いしてるんだ! 適切なドライバも作れないで、無理やりデバイスの性能だけに依存して、最適化もできない!」
教えの最中、いくつかの疑問について質問したらこの有り様。殆ど馴染みのない言葉ばかりで少年は混乱した。
「…すまない、昔、研究院の図書館で数代前から最新の基礎魔法式を魅せてもらったんだけどね、物凄いドヤ顔で『これが最新式だ、まあ使えないだろうが』って研究者の一人に言われたのを思い出したんだよ」
青年は慌てて取り繕うと、授業を再開する。
「応用というか、魔法式の構成は転写前に式を総括する基礎魔法式、その上で様々な効果を設定したり並べたりする実行式、実行式に実際に意味を持たせる定義式または命令式がある」
「なんだか似たような言葉ばっかりで混乱してきた」
「そりゃそうだ。魔法式ってのは結構シンプルに作れるけれど、使い勝手を考えたりして記述を増やしたり工夫した結果、それがアダになって今があるんだから。そもそも、基礎魔法式は広義では実行式の一種なんだよ」
ため息をついて、青年は手元の護符を撫でる。
「なんだよそりゃ???」
「基礎魔法式は、色々な魔法式を使うための縁の下の力持ちって事だけは覚えてくれればいい。今現在、基礎魔法式を1から開発できる能力がある人間は居ないけどね」
「え、先生に教えてもらったのって?」
「昔からある実行式だもの。機能もほぼ単一、これ以上、削る所が無い訳だ。街の連中はわざわざ基礎魔法式の上で実行式から同じ効果の魔法を使うから無駄が出る」
「利点と欠点は? 最初の集中とか、発動に時間かかるとか、何かあったりするの?」
「よく気付いた。僕の魔法式は図書館に収められていたものの一つでね、今は魔力量が多い人が殆どだから、発動と転写までにちょっと時間がかかる形式の単体実行式はあまり好まれない」
とはいえ、生活上は数秒の発動間隔程度の違いであり、魔力消費量からすれば単体実行式の方に軍配が上がる。
「一度使ったあと、別の魔法を使う時は一度忘れて再度集中ってのが欠点と言えば欠点とか?」
「うんうん、そんな感じ」
少年の答えに満足気に頷く。
「…そっか、戦う時とか咄嗟の発動には不利だからってのもあるのか」
青年は笑みを深めて、
「そういう事。僕の殆どの魔法は単純実行式でね、発動時間をかせぐ必要がある以上、誰かと組まないといけない」
「なるほどー、それで奥さんが一番、相性が良かったのかー」
「…否定はしない。基礎魔法式が登場する以前は、術者は前衛と組んで時間を稼ぐのが当たり前だったらしい」
「あ、それじゃ、こないだ中断した、中央近くの迷宮の話してよ!」
「もう時間だし、ちょっとだけだぞ?」
少年の頭も少々パンク気味でこれ以上は集中力も続かないと判断した青年は、先日、旅をする間の魔法応用として話した出来事の続きを語り始めた。




