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目からウロコの演算用術式

「一体、何してんのよ…」


 少女は孤児院に辿り着いた直後、さして広くも無い庭で魔法式を展開して孤児たちに披露する少年の姿を発見した。制御が得意で芸術的感性が多少はある術者がたまに披露する、大道芸のようなものだ。


 しかし、大抵は1つの事象変異程度でお茶を濁す所、少年は派手ではないが、子供心をくすぐるような色々な形を、光、炎、水、土と言った、見た目で分かり易い事象現出を行い、それを連鎖術式で展開していたのだ。

 見れば、僧衣を来た筋肉ダルマ…恐らくはここの担当僧、だと思う、多分…も感心した目つきで顎に手を中てている。


「あ、ミウ姉、来たんだ」


 そう言いつつ、魔力的に接続した空中へ、大気を材料とした固定連鎖詠唱を行う術式に基本制御を代行させつつ、軽く手を振る。トリガーになる詠唱を除いてほぼ無詠唱の術式が主流の中、あえて魔法式制御に詠唱を用いるのは術式維持の魔力量軽減、無詠唱では術者のイメージによって呼び出される補助式に差異がある所をなるべく固定化して事象介入を行える利点などがある。


 が、今目の前で行われているのは、曲芸と職人芸をごっちゃにして不安定に見える土台の中に確定して安定している点を見極めてそこに座り、画板を用意して口に咥え、両手で文字を書くようなものだ。


「お前ら、この子も知り合いか?」

「そうだよー、工房のあたらしーひとー。よく歩くお人形もってきてくれるのー」


 僧侶の問いかけに答える孤児の一人。


「ふむ、神の庭にようこそ。まあ何も無いがゆっくりしていってくれ」

「は、はあ、お邪魔いたします…」

「しかしなんだな…、工房ってのは曲芸師の才能でも無いと務まらないのか?」

「…彼が特殊なんです。いや実際の所は、彼の師匠がおかしいというか」


 遠く離れた村で、少年の師匠は盛大にくしゃみをした。



 一通り大道芸人のような術式展開で子供達を楽しませた後、少年は少女の下へ。


「曲芸はともかくとして、あなたね、その術式の凄さわかってないでしょ」

「んー? まあ、先生が凄いのはわかってるんだけど、これってさ、広めるのが目的だから」

「げ…、ちょっと、ちょっと待って。あれが主流になったら、どれだけ既存の魔法式の業界が荒れると思ってんの!?」

「知らない。先生曰く中央のエリートの人達を『エリートカッコワライ』にするんだって。カッコワライって何か知ってる?」

「同郷確定!? てかそれより、どんだけ魔法式業界に恨みあんの!?」

「さあ…? 時期が来たら、基礎理論を傭兵と探索者組合に大々的に出して『滅べば?』ってやるつもりだったらしいよ。まだ時期じゃないんじゃない?」

「…知らないからね、古式が復興するのはいいけど、何千人単位で路頭に迷うのが出てくるわよ」


 魔法式が歪な発展を遂げてしまった現在、古式を研究して新たな新式を創り上げた少年の師匠は、物凄くかの業界に恨みやら何やらがあるようだ。多分、エリートと呼ばれている術式研究者がエリート(笑)になる時期はそう遠くは無いのだろう。


 閑話休題。


「所で、いつもの二人は?」

「もう少ししたら来るって言ってたよ。二人共、教えた術式を外で試してから来るってさ」

「もう教えてんのね…。あ、所でさ、その…研究でちょっと行き詰まってて、ちょっとしたアドバイスというかなんというか」


 うつむいてちょっと上目遣いに言う少女。少年はちょっとドキっとしつつ、平静を装う。


「アドバイスって言われても、今も俺、教わってばっかりだし…」

「いやあのね、発想の転換っていうか…。色々沢山、計算しなきゃいけないのに、手が回らなくって」

「計算? ソロバンとかじゃダメなの?」

「うん。連続計算とか、変化を線で表したりとか、そういうのが必要な位、沢山計算が必要なの。せめて足す、引く、かける、割る、とかと小数点以下も…」


 段々と声が小さくなる少女。年下の少年に頼る情けなさがそうさせているのかもしれない。


「あのさ、ミウ姉、魔法式使えば?」

「あのねぇ、演算用人造精霊とかって必要魔力量とか多いのよ? 必要な触媒だってお高めだし…」

「違う違う、先生が『結局の所、魔法式というのは術式による演算結果を事象に転嫁させているもので…』って言ってた」

「へ?」

「えっとね、ミウ姉が研究に使ってる2進数と16進数って言うの、ちょっと教えてくれたでしょ? 計算方法とかさ。魔法式って、事象に転嫁させて現出させなければ、深層意識に記録された術式の範囲でなら、幾らでも構築や組み換えはできるじゃん。だったら…」

「あ、算術の法則下で規定し、その術式内で、必要な値を読み取ったら計算だけして結果を」

「そう、文字を出せばいいんじゃない? そこだけ魔力要る感じ」


 我が意を得たり、と言った感じで胸を張る少年。少女は目からウロコだ。ぽかんとした表情から、湧いてくる喜色をおさえきれず、少年に抱きつく。


「ありがとう! これでまた一歩、いや十歩前進!」


 身体能力強化の術式を無意識に展開して、少年の頭を胸に抱いてぐるぐるぶん回す。少年は突然の事に目を白黒させる。というか顔に押し付けられる柔らかい感触に物凄い勢いで顔に血が上る。



「…今回は多めに見るが、あんまり宜しくない行為は、自分の家でやってくれんかね?」

「いやぁ、面目無い、ちょっとはしゃぎすぎちゃって…」


 呆れたような声音で言う僧侶に、少女は圧迫による呼吸困難諸々で気絶した少年を眺めつつ、申し訳なさそうに頭を掻いた。

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