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休息日の少年と少女のそれぞれ

 少年が工房に徒弟として入ってより一ヶ月が瞬く間に過ぎた。色々ゴタゴタがあって、新たに下宿となる場所の確保も進まず、未だ少年と少女は同室である。


 流石に少年も思う所があり過ぎて、部屋の真ん中には粗末な布を縫い合わせた仕切りがある。作るよう提案したのは少年だ。少女はそれを渋々承諾した。尚、お互い間違いは起こしていない。


 少女はいつもは少年と共に魔法書の解読と研究を続けているが、週に一度の休息日は大抵半日から一日、何処かにでかけている。


 間違いは起こしていないが休息日は特に約束が無い限りは別行動をするため、少年もお年頃というべきか、暴発前に部屋で独り何とかする事にしている。


 一部問題といえば、集中すると脳裏に浮かぶのが同室の少女ばかりな所か。


「やめてくださいしんでしまいます」


 閑話休題。

 さて、少年は休息日、まだ点と線でしか把握していない街の地理を把握するため、御用聞きで知った道を起点に今週はここ、来週はここと決め、散策するようにしている。危険度が高い貧民街には仕事以外ではあまり近寄らないよう釘を差されているが、仕事の預り金を安全に運ぶためにも、道は多く把握したいと貧民街周りは入念に下調べをしている。


 絶対的とは言わないまでも、逃げる事に専念すれば街中にうろつく程度の悪い連中からはほぼ間違いなく逃げられると自負できるよう目下、修行中だ。


「ほんとにヤバい人達は、もっと怖い気配だし」


 日課にしている連続魔法式の実行をしつつ、独りごちる。部屋の中では、火の粉程の細かい火と回転して循環する水の輪、不規則に飛ぶ複数の石、そよ風程度の微風が吹いている。指で触れたり、つついたりしつつ、その動きを追加の魔法式を転写して操作し続ける。


 合計にして30程の異なる魔法式が連続で発動して維持されている。これが初級魔法式としても異常な数だ。かつて、師と仰ぐ青年教師が二重魔法を操った事に驚いた少年は、上級魔法士すら凌ぐ数の魔法式を操っている。


 現在出回っている標準的な魔法式であれば、この量の事象干渉を行おうとすると同時起動でなくとも3つ目を実行しようとした時点で術者は昏倒する。


 ではどうやっているのか?


 最小単位に近い状態の、術式への理解と把握。後は沢山の積み重ねだ。少年と同じレベルまで魔法式自体への理解ができたなら、魔力が標準的な術者は同じことができるだろう。


 だが、それには基礎的な部分への理解に始まり、異様な数のそれ自体は何の効力もない魔法式を構成する要素の知識、それらを組み合わせた際の効果の把握、そういったものが必要だ。


 魔力は数値で図れる範囲であれば公平ともいえる。完成した魔法式を使うだけなら、魔力が許せば何も問題は無い。ただ、青年教師と少年が使う魔法式の技術への理解がどれほどできるかは個々人の頑張りと、センスが問われる事となる。


「さて…と」


 ぱん、と手を叩くと事象改変が終了。原理の影響下へ入った火、水、石、風は原理の通りにその状態を変える。火は燃える物が無くなり消え、水は水滴となり床に置かれた雑巾へ、石はころんと落ち、風はもう動かない。


「今日はあいつら、いるかなぁ?」


 あいつらとは、街へ来て間もなくに知り合い知己となった、孤児院で暮らす兄妹達の事である。


「院長先生もいい人だったし、何かおみやげもってこうかな」


 正規の給与はまだ貰っていないが、休息日以外の日に小遣い稼ぎがてら狩ってくる野獣から取れる素材は、少年が持つには少々大目の臨時収入になっていた。


 お菓子と本がいいかな。


 少年は兄妹以外に居た、身寄りのない様々な種族の小さな子供達の事を思い浮かべつつ、部屋から出て行った。




 所変わって、街の外れ。街の大門から少し離れた場所にある貸し倉庫の一室に少女は居た。上には滑車とそれが滑る頑丈なロープが張られ、滑車の下にはこれまた太いロープがあり、全高3m程の巨大な何かが釣られている。それを前に、作業台の上で少女は黙々と作業を続けていた。


 外観は大型種の骨格を少し簡略化したような、木材や金属で作られた骨格模型と言った所だろうか。全体のバランスはやや下半身が大きく、腕となる部分の骨格は少々貧弱と言っていい。胴体の部分は木枠が無理矢理、肋骨の姿をしたような感じで、胸の中には粗末な椅子と手すりが取り付けられていた。頭部はあるが、何故か網カゴである。


 図面と睨めっこしつつ、少女は削り終えた部品を作業台の上に置く。木材と鉄の板で構成された不格好な、3点で支えるランプスタンドのような部品である。


「…うーん、これ以上だと支えるのに魔力をバカ食いしそうだし、かといって今の手持ちじゃ木材と鉄以上の素材は無いし」


 足下に居る木製魔像に木の削りカスの掃除をするよう無言で指示を飛ばしつつ、目の前にある図面と部品へ再度、視点を落とす。


 木製魔像は操り人形のようにかくかくとした動きで歩き出し、手に持った箒とちりとりで掃除を始めた。木製魔像を作り、動かす魔法式は魔像を糸繰り人形のように魔力の糸で支えて動かすのだが、少女の目指すものはそんな術式構成では支えきれない。ある一定の重量になった時点で、魔力の糸が必要とする魔法力の負荷が増すからである。木製以外の魔像は内部へ魔法式を刻印しており、それの効果で地面を支えに大地へ立つのだが、動作開始と共に地面へ伸ばした魔力の中心棒を起点に自身を直立させている。


 魔像の重量にもよるが、基本的には静歩行と呼ばれる動きを安定させた歩きしかできない。


 また一度何かの問題で倒れてしまうと、専用の魔法式を実行して立ち上げを命令するのだが、平らな地面から立ち上がる事を想定した動作が設定されているだけのため、地形によっては上手く立ち上がれず、再度転んでしまうことがある。


「ううう、パソが無いからデータ整理もままならない…」


 行えるのはメモ書き程度。秒単位での細かいデータ取り、グラフでの表示などは全くできない。それでも必死にメモを取っては表にし、グラフを作っては想定と現実に打ちのめされるそんな日々だ。


「悔しいけど一度、可愛い後輩に相談してみよう…」


 この倉庫の事は、工房の責任者である親方と代行のガルド位しか知らない。人が利用できる巨大な人形といえば魔像が一般的な為、既存のそれらの構成を主軸としない代物をつくろうとする少女は世間で言えば変人である。


「誰が変態か!」


 そこまで言ってない。


「…あーもうだめ、あの魔法書のお陰で制御関係は順当なのに、ここに来て構造上の限界で壁にぶつかるなんて」


 少女がここに、自身の研究所とも言える場所を用意してそろそろ半年。その半年間で目の前に鎮座する骨格を作り上げた事はそれはそれで末恐ろしい事だが、今のままで製作を進めても必要な結果は得られないだろう。少女の起源からすれば、何かの研究に没頭する中、ある日突然結果が見えてしまう現象に近い。


 十中八九、下半身部分で致命的な不具合が生じて倒れ伏すだろう。


「うん、そうしよう。えっと、今日はあの街区の孤児院かな…」


 身支度を整えながら、掃除を終えた木製魔像を待機場所へ戻るよう指示する。動き始めと同じく、かくかくとした動きで掃除用具を片付けると、木製魔像は座り込んで動作を止めた。


「おし、私が出た後、全ての警戒用端末は位置へ、防犯用の子はいつも通り施錠と準備。実行!」


 魔法書のお陰か、はたまた素直な吸収力故か、ちょっと後ろだった立ち位置が横並びまでになった少年の事を頼もしくもあり、自身の成果のでなさ加減に情けなくなりつつ、少女は部屋を出て行った。


元はロボット技術の研究者と言っても、図面と表と計算尺ではデータ検証もままならないという。少年は日々着実に、先生の魔法式に対して理解を深めています。


金属線と抵抗、電池レベルの電気が用意できるなら簡易的な電子回路って結構色々作れるものです。難点といえば出力部分でしょうか。

ただ悲しいかな、少女はそっち方面は出来合いを使う位で、メインはプログラミングや構造デザイン先行。根本的な部分でど忘れしています。勿体無いw


また実際の所、この世界には歯車式計算機の他、魔法式を応用した計算機もどきはあります。国家機密ですが。

民間では計算用の道具といえば、計算尺とそろばんです。特にそろばんは、インド数字と共に転生者が概念を持ち込んでより商人の必須技能となりました。


高位の術者であれば、計算に特化した人工精霊を作ったりできますが、術式は公開されておらず、また少女が使うにも魔法式をそのまま使うには魔力が足りません。


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