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ラプンツェルを誘拐する悪役に転生したけど、生家は全滅・孤児院には拒否されたので、責任を持って最強の魔法少女に育て上げようと思います! 〜将来山賊に嫁ぐくらいなら、私が外の世界を全部見せてあげる!〜

作者: 此花サギリ
掲載日:2026/09/06

第一章:誘拐完了、そして「詰んだ」

「ふははは! 成功したぞ! この輝く黄金の髪を持つ赤子こそ、王国の宝……そして我が魔導の究極の触媒となるのだ!」


高らかな高笑いが、森の奥深くに建つ隠れ家の室内に響き渡った。

……はずだった。


高笑いを上げた当本人である私——リーシャ(二一歳・自称マッドサイエンティスト系魔術師)は、抱きかかえた布包みの中身を二度見、三度見し、そのまま固まった。


すやすやと心地よさそうに眠る、金糸のように輝く髪を持った赤ちゃん。

その可愛らしさは天使そのものだが、問題はそこではない。


私の頭の中に、つい数分前、雷に打たれたような衝撃とともに「前世の記憶」が蘇ってきたことだった。


(……待って? 私、前世は日本のしがない女子大生だったよね? そして、この状況って……童話の『ラプンツェル』……!?)


目の前の赤ん坊。輝く髪。

そして私。漆黒のローブに身を包み、赤ん坊を城の揺りかごから失敬してきた怪しい女。


(……私、ラプンツェルを誘拐する悪役(魔女)に転生してるーーーッ!?)


血の気が引くのが分かった。

脳内で高速回転する原作のストーリー。

魔女は髪の毛に宿る若返りの魔法を目当てに赤ん坊を盗み、高い塔に閉じ込める。そして成長したラプンツェルは、外の世界からやってきた男(※泥棒や山賊、作品によっては王子)と懇ろになり、最終的に魔女は塔から落っこちて死ぬか、哀れに破滅するのだ。


(いやいやいや! 詰んだ! 完全な詰みゲームじゃない!!)


額から滝のような汗が噴き出す。

私は若返りの薬なんて求めていないし、塔から落ちて骨折&死亡なんて絶対に嫌だ!


「返す! 今すぐ返すわよこんな事故物件(誘拐児)!!」


私は即座に赤ん坊を抱え直し、夜の森へと跳び出した。

幸い、まだ盗み出して一時間も経っていない。王城の裏手か、あるいは貧しい実家(原作によってはキャベツ的な野菜を盗んで赤ん坊を取られる両親)にそっと置いてくれば、無かったことにできるはずだ!


私は転生前の魔術知識をフル活用し、飛行魔法で一路、赤ん坊の生家と思われる農村へ向かった。


だが——。


「……嘘でしょ?」


村に辿り着いた私が目にしたのは、荒れ果てた家屋と、村長から聞いた絶望的な事実だった。


「ああ、あの夫婦かい? 先週、流行り病で二人とも逝っちまったよ。残されたのは借金だけさ。あの赤ん坊が城に引き取られたって聞いた時は、まあ運が良かったと思ったんだがねぇ……」


生家、全滅。

両親はすでにこの世にいなかった。


「じゃ、じゃあ王城に戻す……? いや、今更『落とし物ですよ〜』って城の門前に置いてきたら、厳重な警備で即捕まって絞首刑よ!」


焦った私は、隣町の孤児院へと飛んだ。

事情を伏せ、「森で捨て子を見拾ったので預かってほしい」とシスターに頭を下げたのだ。


しかし、シスターは赤ん坊の金色の髪が夜闇の中でうっすらと光を放つのを見るや否や、悲鳴を上げて引きつった顔で叫んだ。


「ひぃぃっ! なんて不気味な髪! この子は魔女の呪い子ですわ! 当院では受け入れられません! お引き取りください!」


バタンッ!!


無情にも閉ざされる孤児院の重い扉。


「な……なんですってぇぇ!? こんなに天使みたいに可愛い子に向かって呪い子とは何よ! あなたたちそれでも聖職者!? 人を見る目がないんじゃないの!?」


扉に向かって毒づいたものの、現実は過酷だった。


返す生家はない。

城に戻せば即座に処刑。

孤児院には受け入れを拒否された。


「詰んだ……本当に詰んだわ……」


トボトボと隠れ家に戻った私は、ベッドの上に赤ん坊を寝かせ、頭を抱えて座り込んだ。

赤ん坊は私の不安を察してか、「うあー」と小さなお手手を伸ばして私の指をキュッと握ってきた。温かくて、柔らかい。


「うぅ……可愛い……。でも、どうすればいいのよ……」


そのまま放置すれば、この子は行き倒れて死んでしまう。

かといって、原作通りに塔へ閉じ込めて育てる……?


(……ちょっと待って?)


ふと、私の頭の中で別の思考が閃いた。


(原作のラプンツェルって、高い塔に閉じ込められて、世間知らずのまま育って……最終的に森に迷い込んできた泥棒だか山賊だかの男に『外の世界に連れていってあげる』って言われて一ころになるのよね?)


世間知らずの箱入り娘が、最初に優しくしてくれたチャラい男に引っかかるパターン。

そして、その男と駆け落ちみたいにして外に出ていくのだ。


(山賊の嫁……? こんなに天使みたいに可愛い子が、外の世界も知らないまま、泥棒や山賊の嫁になるの……? ……え、それって姫の人生としてどうなの!?)


私の中で、前世の過保護な保護者人格がバリバリと音を立てて覚醒した。


(放置されて山賊の嫁になる未来と、私が引き取って育てる未来……。後者の方が百倍マシじゃない!? 私、間違ってないわよね!?)


「そうよ! 悪いのはこの子を受け入れなかった社会と、放置しようとした原作の運命よ!」


私はベッドの上の赤ん坊を見つめ、バシッと胸を叩いた。


「決めたわ! あんたは私が育てる! 塔に閉じ込めるなんてケチなことはしない! 外の世界の美しさも、美味しさも、楽しさも、全部私が教えてあげる! そして、怪しい山賊なんか一撃で返り討ちにできる『最強の魔法少女』に育て上げて見せるわ!!」


赤ん坊は「キャッ」と嬉しそうに声を上げて笑った。


こうして、誘拐犯の魔女リーシャと、元・悲劇のヒロインであるラプンツェルの、暴走気味な子育てライフが幕を開けたのである。


第二章:箱入り娘? いいえ、物理系魔法少女です

それから一五年が経過した。


「お母様ー! 今日の討伐、終わったわよー!」


ドカン!!


隠れ家の頑丈なドアが勢いよく開かれ、飛び込んできたのは一五歳になったラプンツェルだった。

太陽の光を反射して輝く黄金の長い髪をポニーテールにまとめ、手には……身の丈ほどもある巨大なバトルハンマー(魔術付与済み)を軽々と握りしめている。


足元には、彼女が引きずってきた体長三メートルを超える巨大魔獣「フォレストベア」の巨体。


「見て見て! 一撃で脳天を撃ち抜いちゃった! 今夜は熊鍋ね!」


「ちょっとラプンツェル! 玄関に血を流さないでって言ったでしょう! あと『お母様』じゃなくて『リーシャさん』って呼びなさいって……まあいいわ、ナイスショットよ!」


「えへへ、ありがとー!」


満面の笑みを浮かべるラプンツェル。

……うん、育て方を少し間違えたかもしれない。


いや、間違えてはいないはずだ。

私は約束通り、彼女に魔法の英才教育を施した。

髪の毛に宿る治癒の魔法はもちろんのこと、攻撃魔法、防御魔法、さらには前世の知識を生かした「筋力強化魔術」と「格闘術」まで完璧に叩き込んだ。


結果、彼女は「可憐で美しく、かつ一人で小国の軍隊を壊滅させられる美少女」へと健やかに成長した。


「はい、ラプンツェル。冷たいハーブティーよ。汗を拭きなさい」


「わーい、ありがとうリーシャ!」


タオルで顔を拭くラプンツェルを見つめながら、私は満足げに頷いた。


世間知らずの姫? いいえ、彼女はすでに近隣の森の生態系の頂点トップに君臨している。これならどこぞの泥棒や山賊が寄ってきても、一拳で灰にできるだろう。


「ねえ、リーシャ。次はどこの国に行くの?」


そう、私は彼女を塔に閉じ込めるどころか、「超・アクティブな英才教育旅行」を行っていた。

普段は森の隠れ家に住んでいるが、年に数回は変装魔法をかけて隣国の街へショッピングに行ったり、海を見に港町へ行ったり、美味しいものを食べ歩いたりと、世界中を連れ回していたのだ。


「次は東の帝国の温泉街に行こうかと思っているわ。ラプンツェルの髪のお手入れに良い硫黄泉があるらしいの」


「温泉! やったー! 私、名物の温泉卵がたくさん食べたい!」


「ふふ、いくらでも買ってあげるわよ。だから髪のブラッシングをさせなさい」


「はーい!」


膝枕でラプンツェルの長い髪を丁寧にとかす。

金糸のような髪は、ブラッシングするたびに輝きを増す。


(よし……完璧だわ。原作の悲劇のヒロイン要素なんてどこにもない! このまま平穏に、強い子として自立してくれれば、私の破滅フラグも消滅したようなものよ!)


私は己の完璧な子育て計画に自画自賛していた。


——だが、運命の歯車は、忘れた頃にやってくるのだ。


第三章:山賊(※イケメン)の襲来と、勘違いの開幕

その日の午後。

私が薬草の採取で街へ出かけている間、ラプンツェルは一人で留守番をしていた。


森の奥深く。誰も近づかないはずの隠れ家の敷地に、一人の男が足を踏み入れた。


男の名はユリウス。

近権の国々を騒がせている義賊・「銀狼団」の若き首領であった。

黒髪にシャープな目元、傷跡の残る精悍な顔立ちをした彼は、手負いの状態だった。追手から逃れる途中で毒矢を受け、意識が朦朧としながらこの隠れ家へと辿り着いたのだ。


(くそ……ここまでか……。こんな怪しげな森の隠れ家で野たれ死ぬとは……)


ユリウスが視界を霞ませながら倒れ込もうとした、その時。


ガチャリ。


「あら? 何かしら、玄関前で倒れそうになっている不審者は」


扉が開き、黄金の髪をなびかせた少女——ラプンツェルが現れた。


ユリウスは目を見開いた。

昼間だというのに、自ら発光しているかのような美しい少女。まるで森の妖精か、美しき女神のようだ。


(な……なんだ、この美少女は……!? 天使か……?)


ユリウスの胸が、激しく高鳴った。それが毒のせいなのか、一目惚れのせいなのかは分からなかった。


「おい……お前、ここは……ぐっ!?」


ユリウスは吐血し、そのまま膝をついた。


「あら大変! 毒にかかっているわね! 大丈夫、リーシャに教わった回復魔法があるから!」


ラプンツェルは駆け寄ると、長い髪をユリウスの体に巻き付け、優しく歌い始めた。


『咲き誇れ、光の花よ……傷を癒やし、生命いのちを育め……』


黄金の髪が眩いばかりの光を放ち、ユリウスの体を包み込む。

瞬く間に毒が浄化され、激痛が消えていく。


「なっ……!? 傷が……消えた……!?」


驚愕するユリウス。

そして、光の中で微笑むラプンツェルの姿は、まさに彼の心を撃ち抜くに十分すぎるほど神秘的で、可憐だった。


「ふぅ、良かった! 治ったわね!」


「あ、ああ……助かった。感謝する、俺はユリウスだ。……君の名前は?」


「私はラプンツェルよ!」


ユリウスは彼女の手をギュッと握り締め、熱い眼差しで見つめた。


「ラプンツェル……! なんという恐ろしい魔女に囚われているんだ! 君のような美しく清らかな少女が、こんな怪しい森の奥で、世間から隔離されて暮らしているなんて……!」


「え?」


「安心しろ! 俺が君をここから救い出してやる! 外の世界は広いぞ! 美しい街も、美味しい料理も、見たこともない絶景も広がっている! 俺と一緒に来るんだ、ラプンツェル!」


ユリウスは心からの善意と、芽生えた恋心から、熱烈なスカウト(求婚同然)を口にした。


原作通り。

山賊(義賊)の男が、少女を外の世界へ連れ出そうとする、あの感動的なシーン——になるはずだった。


だが、ラプンツェルの反応は、ユリウスの予想とは大きくかけ離れていた。


「……は?」


ラプンツェルの顔から、すっと笑顔が消えた。

彼女はジト目になり、心底呆れたようにユリウスを見下ろした。


「あなた、頭でも打ったの? 外の世界の美味し料理? 絶景? ……私、先週帝国の高級レストランでフルコース食べたし、先月は南の島でバカンスしてきたんだけど?」


「……え?」


「それに『恐ろしい魔女に囚われている』って何よ。リーシャは世界で一番優しくて、カッコよくて、料理が上手な私の育ての親よ! 彼女を悪く言ったら、タダじゃおかないわよ?」


ラプンツェルは背後から、あの巨大なバトルハンマーを取り出し、ドバァン! と地面に叩きつけた。

衝撃波で地面が亀裂を刻み、ユリウスの髪が風で吹き飛ぶ。


「ひっ……!?」


「外の世界なら、リーシャが全部見せてくれたわ! あなたみたいな怪しい男の連れ出しなんて、百回死んでもお断りよ! さっさと出ていきなさい!」


「あ、いや……待ってくれ! 俺はただ、君を……!」


その時だった。


「ただいまー、ラプンツェル。街で美味しいタルトを買ってきた……って、何やってるの?」


私が買い物袋を抱えて戻ってきたのだ。


現場の状況。

倒れかけているイケメン男(山賊っぽい服装)。

怒り狂うラプンツェルと、地面に突き刺さったバトルハンマー。


(……あ)


私の脳内で、警報が鳴り響いた。


(この男……黒髪、革のジャケット、義賊っぽい雰囲気……原作の男(山賊)じゃないのぉぉぉぉッ!?)


ついに来てしまった。原作の運命の男が!


第四章:保護者(魔女)VS 義賊(男)の勘違いバトル

「リーシャ! お帰りなさい!」


ラプンツェルはハンマーを背中に隠し(隠せていないが)、パッと笑顔になって私に抱きついてきた。


「この人がね、急に家に入ってきて『外の世界へ連れて行ってやる』とか変なこと言い出したの! 追い払おうと思ってたところよ!」


「な、なんだと……!? 悪名高き魔女リーシャ……!」


ユリウスは剣を抜き、私を警戒するように構えた。

だが、その目には強い決意が宿っていた。


「騙されるな、ラプンツェル! その女は魔女だ! 君を幼い頃に城から連れ去り、ここに閉じ込めて洗脳しているんだ! 君が『外の世界を知っている』と思い込んでいるのも、全てこの魔女が見せている幻覚に違いない!」


「はぁぁぁぁぁ!?」


私とラプンツェルの声が綺麗にハモった。


幻覚!? 帝国のフルコースも、南の島のバカンスも、全部私の自腹(魔術の特許料)で連れて行ったリアルな体験なんですけど!?


「聞け、魔女! 俺は義賊『銀狼団』の首領ユリウス! 今日こそラプンツェルを君の魔の手から解放し、本当の自由を与えて見せる!」


ユリウスは本気だった。

彼は本気で「可哀想な囚われの姫」を助けるヒーローのつもりなのだ。


(う、ウザい……!! なにこの無駄にポジティブで熱血な勘違い男は!!)


私の頭の中で、ブチッと何かが切れる音がした。


「ちょっとアンタねぇ……! 人の子育てにイチャモンつけないでくれる!? 誰が洗脳よ! 誰が幻覚よ! 私はこの子を温かいご飯と、最高の教育と、溢れんばかりの愛で育ててきたの! どこぞの馬骨(山賊)に『解放』なんて言われたくないわよ!!」


「問答無用! 力を示してラプンツェルを奪い返すまで!」


ユリウスが素早い動きで剣を振り下ろしてきた。


「この……不法侵入者がぁぁぁッ!!」


私は魔法陣を展開し、迎撃態勢に入った。


ガガガガギィィィン!!


隠れ家の前庭で、ド派手なバトルが始まった。

ユリウスの剣技は確かに一流だった。俊敏で、無駄がない。まさに義賊の首領といった動きだ。


だが、甘い。甘すぎる!


「『重力倍増グラビティ・フォース』!」


「ぐおっ!?」


「『爆裂火球ファイヤーボール』!」


ドカーン!!


「くっ……なんという魔力……! だが、俺は諦めない! ラプンツェルとの未来のために!」


ボロボロになりながらも、何度も立ち上がってくるユリウス。

その瞳は無駄に輝いている。


(なんなのこの男……タフすぎる! しかも『ラプンツェルとの未来』とか勝手に設定作らないでよ!)


「リーシャ! 私も手伝うわ!」


ラプンツェルがハンマーを振りかざして参戦しようとした、その時。


「待ちなさい、ラプンツェル!」


私は彼女を制制した。


「これは、私の問題よ。子育ての成果をバカにされた保護者としてのプライドの戦いなの!」


「リーシャ……!」


私はユリウスに向き直り、杖を構えた。


「ユリウスと言ったわね。アンタ、ラプンツェルを外に連れ出して、どうするつもりだったの? 山賊のアジトに連れ込んで、劣悪な環境で暮らさせるつもりだったんじゃないでしょうね!?」


「な……! 一緒にするな! 俺たち銀狼団は貧しい人々を救う義賊だ! アジトだって日当たりが良く、みんな家族のように温かい! 俺は……俺は彼女を、一生大切にする覚悟で……!」


ユリウスの顔が、ふっと赤くなった。


(……あ)


私は気づいてしまった。

この男、勘違いで突っ込んできているけれど、ラプンツェルへの恋心だけは「マジ」なのだと。


原作の引き寄せの法則、恐るべし。

どんなに育ちが変わろうと、この二人は出遭い、男側は一目惚れしてしまうのだ。


(でも……だからって、ハイそうですかと渡せるわけないでしょーが!!)


「覚悟ですって? 笑わせないで! ラプンツェルの年間のドレス代と、魔法薬の材料費がいくらか知ってるの!? アンタの山賊の稼ぎで払えると思って!? 一生の覚悟なんて、経済力と甲斐性があってから言いなさい!!」


「け、経済力だと……!? 山賊に向かってなんて現実的な攻撃を……ぐはっ!?」


精神的ダメージを受けたユリウスに、私の追撃の魔法弾がクリーンヒットした。


「参ったかぁぁぁッ!!」


「ぐぬぬ……まだだ……俺は、絶対に拉致(?)された姫を助け出す……」


ユリウスはドサリと倒れ、そのまま気絶した。


「ふぅ……ふぅ……。勝ったわ……」


私は肩で息を吐き、杖を収めた。


「すごいわ、リーシャ! やっぱりリーシャが一番強いわ!」


ラプンツェルがパチパチと拍手を送ってくる。


「……で、リーシャ。この不審者、どうするの? 庭に埋める?」


「物騒なこと言わないの! 命に別条はないから、とりあえず縛って室内へ運ぶわよ!」


こうして、私たちは倒れた義賊の首領を隠れ家の中へと運び込んだのであった。


第五章:義賊の首領、まさかの弟子入り!?

翌朝。


「……う、頭が……」


目を覚ましたユリウスは、自分がベッドの上で綺麗に包帯を巻かれていることに気づいた。

目の前には、腕組みをして彼を見下ろす私と、隣で優雅に紅茶を飲んでいるラプンツェル。


「起きたかしら、不審者さん」


「……魔女リーシャ。なぜ俺を助けた? 殺して森に捨てることもできたはずだ」


私は呆れて深々と溜息をついた。


「言ったでしょう、私は魔女でも誘拐犯でもないって。正当な(?)保護者よ。殺すわけないでしょ」


「だが……君はラプンツェルを誘拐した……」


「誘拐は認めるわ!」


私は開き直った。


「一五年前、城から連れ出したのは事実よ! でもね、その直後に生家は全滅、孤児院には拒否されたの! 返す場所も預ける場所もなかったのよ! だから私が責任を持って、今日まで命がけで育ててきたの! 文句ある!?」


「え……?」


ユリウスはポカンと口を開けた。


「生家が……全滅……? 孤児院に拒否……?」


「そうよ! 私はただの被害者……じゃなくて、善意の保護者よ! 塔に閉じ込めるどころか、家庭教師をつけて、魔法を教えて、世界旅行にも連れて行って、最高の環境で育てたの! それをアンタは『洗脳』だの『解放』だの……無知って怖いわね!!」


私はバンッとテーブルを叩いた。


ユリウスはラプンツェルを見た。


「ラプンツェル……それは、本当なのか……? お前は閉じ込められていたわけじゃないのか……?」


ラプンツェルは呆れ顔で頷いた。


「本当よ。リーシャは私の大好きなお母様(保護者)だもの。勝手に悪者扱いして襲いかかったの、あなたじゃない。謝りなさいよ」


「っ……!!」


ユリウスの顔が急速に真っ赤になった。


彼は己の失態を理解したのだ。

可哀想な姫を救うヒーロー気取りで突っ込んできたら、ただの「不法侵入して親切な保護者に暴力(未遂)を振るった痛い勘違い男」だったという事実に。


「あ……あああ……! 俺は……俺はなんて失礼なことを……!!」


ガバッ!!


ユリウスはベッドから飛び起きるやいなや、床に激しく膝と頭を突きつけた。見事な土下座である。


「申し訳ありませんでしたぁぁぁッ!!」


「うわっ、急に大声出さないでよ!」


「俺の完全な早とちりだった! 申し訳ない! どのようなお咎めも受けます! 命を斬り落とされても文句は言えません!」


「命なんて要らないわよ……めんどくさいわねぇ」


私が眉をひそめていると、ユリウスはガバッと顔を上げた。

その目には、昨日とは違う方向の熱気が宿っていた。


「リーシャ殿! いや、リーシャ様!」


「な、何よ」


「俺を……俺を弟子にしてください!!」


「「はぁぁぁぁぁ!??」」


本日二度目の見事なハモり。


「何言ってるのアンタ!? 頭撃たれて狂ったの!?」


「違う! 俺は感銘を受けたんだ! 単身で孤児を引き取り、ここまでの強者へと育て上げたその指導力! そして義賊である俺の攻撃を易々と退けたその圧倒的実力と、家事能力! 正直、俺たち銀狼団のアジトは野郎ばかりで食生活もズタズタ、教育も行き届いていない! 俺に……俺たちに、正しい生き方と強さを教えてほしい!」


(なにこの展開!? 脈絡が無さすぎるでしょ!!)


「お断りよ! なんで私が山賊(義賊)の指導をしなきゃいけないのよ!」


「お願いします! もちろん、お礼は払います! それに……」


ユリウスはチラリとラプンツェルを見た。


「それに、俺はラプンツェル殿への気持ちを諦めきれません。しかしい今のままの俺では、彼女にふさわしくないことも理解しました。だから……彼女の保護者であるあなたに認められるような、立派な男になりたいのです!」


真っ直ぐな、嘘偽りのない瞳。


(あ……アホだ。この男、見た目はクールなイケメンなのに、中身は超・真面目で一直線なアホだわ……!)


私は頭痛を覚えて額を押さえた。


原作の山賊(泥棒)は、もっとチャラくて世渡り上手な男だったはずなのに、どうしてこうなった。

いや、ラプンツェルが超絶物理系に育ったせいで、引き寄せられた男も脳筋真面目アホになったのか……!?


「ねえ、リーシャ」


ラプンツェルが私の袖を引っ張った。


「いいんじゃない? こいつ、見張りや雑用くらいには使えそうだし。それに、私に追いつこうとする根性だけは買ってあげるわ」


「ラプンツェル……お前って子は、いつの間にそんな上から目線に……」


溜息を吐きつつ、私はユリウスを見下ろした。


「……はぁ。分かったわよ。ただし! 厳しいわよ? 私の指導について来られなかったら、即座に追い出すからね!」


「はいッ! ありがとうございます、師匠!!」


こうして、なぜか義賊の首領ユリウスが、我が家の「見習い兼・雑用係」として転がり込んでくることになったのだった。


第六章:勘違いラブコメは止まらない

それからの日々は、騒がしくも賑やかなものとなった。


「ユリウス! 薪割りのスピードが遅い! 腹筋を使って割るのよ!」


「はいッ! 師匠!」


「ユリウス、この野菜の千切り、太すぎるわ。これじゃお味噌汁の味が染み込まないでしょ」


「すみません! 直ちに刻み直します!」


ユリウスは真面目だった。

朝は誰よりも早く起きて庭の掃除をし、私の指導のもとで料理や家事を学び、午後はラプンツェルとの組手に励んだ。


「行くわよ、ユリウス! 『爆風撃』!」


「くっ……『疾風陣』! 押し返す……ぐあぁぁっ!?」


ドカーン!


毎日、庭で盛大な爆発音が響き渡る。


「まだまだね、ユリウス! それじゃ私の足元にも及ばないわよ!」


腰に手を当てて高笑いするラプンツェル。

ボロボロになりながらも、爽やかな笑顔で立ち上がるユリウス。


「ハァ……ハァ……さすがだ、ラプンツェル。今日も美しく、そして強いな……!」


「なっ……! 急に何言ってるのよ、バカ!」


顔を真っ赤にして背を向けるラプンツェル。


(あら……?)


私は陰からその様子を見ていて、ニンマリと頬が緩むのを抑えられなかった。


(最初はただのアホかと思ってたけど……ユリウスってば、ラプンツェルの『強いところ』を本気で格好いいと思って褒めてるのよね。女の子扱いもしつつ、一人の戦士として尊敬してる)


世間の男なら、自分より強い女なんて敬遠するだろう。

だがユリウスは違った。ラプンツェルの圧倒的な強さに惹かれ、それに追いつこうと必死に努力している。


「……ふん。案外、悪くない男じゃない」


放置されて山賊に引っかかる未来は回避できた。

だけど、二人で切磋琢磨しながら絆を深めていくこの未来なら——悪くないかもしれない。


そんなある日。


王都の方角から、我が家に向かって不穏な気配が近づいてきていた。


第七章:王国の追手と、最強の家族

「見つけたぞ……! 黄金の髪の姫を連れ去った、邪悪な魔女の隠れ家を!」


ドゴォォォン!!


隠れ家の敷地を囲む柵が破壊され、甲冑に身を包んだ王国の騎士団、百名近くが押し寄せてきた。

率いているのは、嫌味そうな顔をした王国将軍だった。


「一五年だ……一五年かけてついに突き止めたぞ! さあ、魔女め! 姫を返し、洗脳を解け! さもなくば全員死刑だ!」


「ちっ……静かに暮らしてたのに、警察(騎士団)のおでましね……」


私は杖を握り締め、前に出ようとした。


だが、私の前にスッと出た影が二つ。


「リーシャ、下がっていて。私の家に土足で踏み込んでくるなんて……許さないわ」


ポニーテールを揺らし、巨大バトルハンマーを肩に担ぐラプンツェル。


「師匠、俺に命じてください。銀狼団の首領として、そしてラプンツェルを守る男として、あのような無礼者どもを排除します!」


剣を抜き、殺気を放つユリウス。


(二人とも……)


私はクスッと笑い、首を振った。


「何言ってるの。保護者を置いてけぼりにしないでちょうだい」


私は二人の間に並び立ち、杖を掲げた。


「ラプンツェル、右側を頼める?」

「任せて、お母様!」

「ユリウス、左側を抑えなさい!」

「ハッ! 了解です、師匠!」


「な、なんだ奴らは!? たかが三人で我が騎士団に勝てると思っているのか! やれぇぇっ!」


将軍の叫び声とともに、騎士たちが襲いかかってきた。


「『重力崩壊グラビティ・バースト』!」


私の広範囲圧迫魔法で、前列の騎士たちが一気に地面に伏せさせられる。


「ハァァァァッ!!」


そこへラプンツェルが躍り出た。

ハンマーが一閃するたびに、騎士たちが空の彼方へと吹き飛んでいく! まるで人間ピンボールだ。


「ラプンツェルの背後は渡さん! 『銀狼一閃』!」


ユリウスの俊敏な剣技が、ラプンツェルに近づこうとする騎士たちの武器を正確に弾き飛ばしていく。


完璧な連携。

最強の魔法少女、努力家な義賊、そして激マブ(自称)の魔女保護者。


わずか五分。


百名の王国騎士団は、一人の死者も出すことなく(※全員骨折&打撲程度で)、綺麗に全滅・気絶させられていた。


「ひ、ひぃぃぃぃっ!? 怪物どもめぇぇぇっ!」


腰を抜かした将軍が、逃げ出そうとする。


ラプンツェルがその前に立ち塞がり、ハンマーの柄でドスンと地面を叩いた。


「言っておくけど! 私は洗脳なんてされてないわ! 私はこの森で、リーシャと一緒に幸せに暮らしてるの! 城に戻る気なんてさらさらないわ! 二度とこの場所に近づかないで!」


「ひ、ひえぇぇぇぇッ!!」


将軍は脱兎のごとく逃げ出していった。


静けさが戻った森。


「ふぅ……すっきりしたわ」


ラプンツェルはハンマーを収め、眩しい笑顔を私たちに向けた。


「ありがとね、リーシャ。ユリウスも」


「いや……俺は何も。君が凄すぎて、あまり役に立てなかったが……」


ユリウスは恐縮したように頭をかいた。

そんな彼に、ラプンツェルは少し頬を赤くしながら、そっぽを向いて言った。


「……ううん。背中、守ってくれて嬉しかったわ。感謝してる」


「ラプンツェル……!」


ユリウスの顔が一気にパァァァと明るくなった。


(あらあら……)


私は二人を見つめながら、温かい満足感に包まれていた。


エピローグ:ずっと続く、私たちの物語

それから、さらに数年が経ち。


王国の追手は二度とやってこなくなった。将軍が「あそこには神の化身と魔王がいる」と報告したらしい。大げさな。


そして、我が隠れ家には今日も賑やかな声が響いている。


「リーシャ! 今日の夕飯の買い物、ユリウスと一緒に街に行ってくるわね!」


「はいはい、行ってらっしゃい。ユリウス、変な男が寄り付かないようにしっかりガードするのよ」


「言われるまでもありません、師匠! ラプンツェルに近づく虫は全て俺の剣で弾き返します!」


「ちょっと、ユリウス! 大げさよ!」


文句を言いながらも、どこか嬉しそうにユリウスの隣を歩くラプンツェル。

二人の手の距離は、以前よりもずっと近くなっていた。


二人が出かけていく後ろ姿を見送りながら、私はテラスでハーブティーを一口すすった。


(誘拐した時は『詰んだ』って思ったけど……人生、何が起こるか分からないわね)


原作の運命なんて、魔法と愛と、ちょっとした筋力でいくらでも書き換えられる。


塔の上の可憐な姫ではなく、外の世界をのびのびと駆ける最強の少女。

そして、彼女を温かく見守る保護者と、隣を走る大切なパートナー。


「さて……二人が帰ってくる前に、今夜のアップルパイの下ごしらえでもしておきましょうかね」


私は袖をまくり上げ、台所へと向かった。


私たちが紡ぐ物語は、童話よりもずっと賑やかで、ずっと幸せなハッピーエンドへと向かって、これからも続いていくのだ。

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