白いまま
八月の陽射しは、容赦がなかった。
毎日海へ通っているせいで、
僕の腕はすっかり茶色くなっていた。
ばあちゃんに笑われる。
「湊、真っ黒ねえ」
「海ばっか行ってるから」
「ちゃんと帽子かぶりなさいよ」
海へ向かう坂道。
今日も白が見える。
それだけで、暑さが少しやわらぐ。
「おはよ」
夏海は振り向く。
いつもと同じ、白いワンピース。
肩に陽が当たって、まぶしい。
「なあ」
「ん?」
「焼けないの?」
「なにが?」
「肌」
僕は自分の腕を見せる。
「ほら、こんなになってる」
夏海は、僕の腕をまじまじと見る。
それから、自分の腕を見る。
白いまま。
「……ほんとだ」
他人事みたいに言う。
「毎日一緒にいるのに」
「そうだね」
くすっと笑う。
「わたし、あんまり変わらないんだ」
「ずるい」
「ずるくないよ」
そう言って、僕の腕を指でなぞる。
ひんやりしている。
「湊、夏の色になったね」
その言い方が、少しだけ特別に聞こえた。
浜辺を歩く。
僕の足の甲は赤くなっている。
夏海の足は、相変わらず白い。
「日焼け止め塗ってる?」
「塗ってないよ」
「なんで焼けないんだよ」
「さあ」
首をかしげる。
本当に分からないみたいな顔。
防波堤に座る。
真昼の光が強い。
僕は目を細める。
夏海は、まっすぐ海を見ている。
光が当たっているのに、
なぜか、まぶしそうじゃない。
「ねえ湊」
「なに」
「触っていい?」
「は?」
僕の頬に、そっと指が触れる。
「ちょっと熱い」
「日焼けしてんだよ」
「ふふ」
指先は、冷たい。
でも今日は、前より少しだけ、ぬくもりがあった。
帰り道。
並んで歩く。
ふと、影が並ぶ。
僕の影は、はっきりしている。
夏海の影は——
波がきらめいて、よく見えなかった。
「どうしたの?」
「……いや」
目をそらす。
たぶん、光のせいだ。
「湊」
「ん?」
「夏、似合うね」
「なにそれ」
「焼けて、ちょっと大人っぽい」
からかうみたいに笑う。
でも、その目はやさしい。
そのとき、ふと思った。
僕だけが、夏をまとっている。
夏海は、最初からずっと、
変わらず、白いままだ。
胸の奥が、少しだけ冷えた。
でも、その手を離したくなかった。
たとえ、焼けるのが僕だけでも。




