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眩しい海

その日は、朝から陽射しが強かった。


 空は青くて、雲は高い。

 海は光をはじいて、きらきらしている。


「今日、泳ぐ?」


 夏海が言った。


「溺れるなよ」


「大丈夫」


 根拠のない言い方で笑う。


 


 浜辺に出ると、砂は焼けるみたいに熱い。


「あつっ」


 僕は思わず跳ねる。


 夏海は、何歩か先を歩いていた。


「熱くないの?」


 振り向く。


「え?」


「砂」


 彼女は足元を見て、それから首をかしげる。


「……うん。平気」


 冗談を言うでもなく、

 ただ本当に平気そうだった。


 


 海に入る。


 水はぬるくて、やさしい。


 波が来るたび、夏海は目を細める。


「海、好きだね」


「うん」


「なんで?」


 少し考えてから、


「ここにいると、ちゃんとここにいる感じがする」


 うまく意味が分からない。


「今もここにいるだろ」


「……そうだね」


 小さく笑った。


 


 浜辺に戻ると、真昼の太陽が真上にあった。


 僕の足元には、短い影。


 何気なく、隣を見る。


 夏海は、少し離れたところに立っている。


 白いワンピースが、光の中で揺れている。


 ——あれ。


 一瞬だけ、変な感じがした。


 足元が、妙に明るい。


 でも次の波が来て、

 砂が光って、目がくらむ。


 気のせいかと思った。


 


 商店でラムネを買った。


 ビー玉を押し込む。


「やってみる?」


 渡すと、夏海は首を振る。


「湊が開けて」


「自分でやればいいのに」


「うん。でも、湊がいい」


 そう言われて、理由もなく嬉しくなる。


 


 帰り道。


 風が止む。


 急に静かになる。


「ねえ」


 夏海が僕の手に触れた。


「湊の手、あったかいね」


「普通だって」


「……うん」


 彼女の手は、少しひんやりしていた。


 冷たい、というほどじゃない。


 でも、夏の手の温度じゃない気がした。


 


 夕方、防波堤に並ぶ。


「ねえ湊」


「なに」


「夏が終わるの、こわい?」


「別に」


「そっか」


 海を見つめる横顔は、

 どこか遠い。


 


 そのときの僕は、

 まだ何も分かっていなかった。


 砂の熱さも、

 あの一瞬の違和感も、

 手のひんやりも。


 全部、夏のせいだと思っていた。


 


 潮の匂いだけが、

 やけに強く残っていた。

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