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ラムネの泡

その日は、朝からやけに暑かった。


 縁側でばあちゃんがスイカを切っている。


「湊、海行くんでしょ。帽子忘れないのよ」


「うん」


 じいちゃんは扇風機の前で新聞を読んでいた。


「毎日海だな、坊」


「……まあ」


 理由は言わない。


 言ったら、少し変わってしまいそうで。


 


 海に着くと、夏海はしゃがんで貝殻を並べていた。


「なにしてるの」


「秘密」


 振り向く顔が、今日は少し得意げだ。


「これね、町」


「町?」


「ここが湊の家。で、ここが海」


 砂の上に小さな貝殻で道を作っている。


「じゃあ、夏海は?」


 そう聞くと、彼女は一瞬止まった。


 それから、小さな白い貝殻を海のすぐそばに置く。


「わたしは、ここ」


「近すぎじゃない?」


「だって、海のほうが落ち着くし」


 さらっと言う。


 その横顔は少し大人びていて、

 でも作っているものは子どもみたいで。


 どっちが本当なのか、分からなくなる。


 


 昼過ぎ、商店の前でラムネを買った。


 ビー玉を押し込むと、ぱちん、と音が鳴る。


「やってみたい」


 夏海が手を伸ばす。


「指、痛いよ」


「大丈夫」


 でも力が足りなくて、途中で止まる。


「……硬い」


「貸して」


 僕が押すと、勢いよく落ちた。


 びっくりした顔。


 次の瞬間、ぱあっと笑う。


「すごい」


「普通だよ」


「湊、意外と力あるんだ」


 “意外と”はいらない。


 


 ラムネの泡が喉を通る。


「ねえ」


「なに」


「もしさ」


 夏海はビー玉を覗き込みながら言う。


「この夏が終わらなかったら、どうする?」


「どうするって……」


「ずっと夏」


「宿題終わらないじゃん」


「そこ?」


 あきれた顔をして、それからくすっと笑う。


「わたしはね、ずっとでもいいな」


 ビー玉越しの光が、彼女の目に映る。


 青くて、少し遠い色。


 


 夕方、急に雲が広がった。


 ぽつ、と雨が落ちる。


「走ろ」


 夏海が僕の手を引く。


 白いワンピースがひらりと舞う。


 商店の軒下に逃げ込む。


 ふたりで肩を寄せる。


 距離が近い。


 息がかかる。


 心臓がうるさい。


「湊、顔赤い」


「暑いだけ」


「ふーん」


 いたずらっぽく笑う。


 でも、目はどこかやわらかい。


 


 雨はすぐにやんだ。


 空の向こうに、虹が薄く出ている。


「きれい」


 夏海が小さくつぶやく。


 その横顔を見ていると、

 胸の奥が、じんわり痛くなる。


 これはたぶん、風邪とかじゃない。


 でも名前をつけるには、まだ少し早い。


 


 帰り道。


「湊」


「なに」


「この夏、ちゃんと覚えててね」


「当たり前だろ」


「約束」


「……約束」


 指切りをしようとして、

 夏海は途中で少し笑った。


「やっぱりいいや」


「なんで」


「ううん」


 潮の匂いが、濃くなる。


 その匂いの中で、

 僕はまだ気づいていなかった。


 この時間が、

 少しずつ減っていることに

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