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残り3日

八月二十八日。


 朝、蝉の声が少し弱い気がした。


 気のせいだと思いたかった。


 


 海へ行くと、夏海はもう来ていた。


 防波堤に座って、足をぶらぶらさせている。


「おはよ」


「……おはよ」


 


 普通だ。


 いつも通り。


 白いワンピースも、風も、潮の匂いも。


 


 でも僕は、数えてしまう。


 残り三日。


 


「湊、今日どこ行く?」


「どこでも」


「投げやり」


「違う」


 


 本当は、どこでもよかった。


 隣にいてくれるなら。


 


 


 八月二十九日。


 


 町の小さな商店で、ラムネを買った。


 瓶の中のビー玉が、からんと鳴る。


「最後のラムネかもね」


 夏海が言う。


 


「そんなこと言うなよ」


「なんで?」


「……なんでもない」


 


 飲み干したあと、瓶の底を覗く。


 青いガラスの向こうに、夏の空が揺れている。


 


 


 八月三十日。


 


 夕方、少しだけ風が冷たかった。


 


「ねえ湊」


「なに」


「もしさ」


 そこで言葉を止める。


 


「やっぱりいい」


 


 笑う。


 いつも通りに。


 でも、その笑顔が少し遠い。


 


 僕は知っている。


 明日で終わる。


 


 


 帰り道。


 長い影が伸びる。


 僕の影だけ。


 


 夏海は、急に立ち止まった。


「湊」


「ん?」


 


 じっと見つめられる。


 大人っぽい目。


 でも、奥は少しだけ寂しそう。


 


「ちゃんと、覚えててね」


 


 胸が締めつけられる。


 


「忘れるわけないだろ」


 


 即答だった。


 


 夏海は、少し安心したように笑う。


 


「よかった」


 


 手を握る。


 今日は、向こうから。


 


 指が絡む。


 冷たい。


 でも、離したくない。


 


 


 夜。


 布団の中で、天井を見つめる。


 


 八月三十一日。


 


 明日だ。


 


 言わない。


 言えない。


 でも、胸の奥が痛い。


 


 蝉の声が、遠い。


 


 夏は、確実に減っている。

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