それって本当に彼氏のフリなのか?
指負傷中なので短めで、ただのバカップルものです。
「ともくん助けて~」
「嫌だ」
「酷い!」
昼休み。
俺に泣きついて来たのは幼馴染の明菜。
普段はクールビューティーを演じている癖に、俺と一緒の時だけは精神年齢が極端に幼くなる。
高校生になっても扱いが変わらないのは嬉しいが、教室で堂々と絡んでくるのは止めろ。
男子共の嫉妬の目線で射殺されそうな気分になるんだよ。
「男子ったら酷いんだよ」
「嫌だって言ったのにスルーですか」
「男子ったら酷いんだよ」
「おいコラ」
俺の問いかけを無かったことにするな。
この場合、延々と絡んでくるから相手をしてやるしかない。
「んで男子がどうしたって?」
「また告白してきたんだよ」
「自慢か」
「うん」
胸を張るな。
でかいから吸い寄せられちまうんだよ。
そうしたら最後、こいつは徹底的に揶揄って来やがる。
よし逃げよう。
「はい解散」
「待って逃げないで困ってるのは本当なの」
「そうか頑張れ」
「そんなに私の胸を見ちゃいそうで怖いの?」
「何に困ってるんだ?」
流石幼馴染、考えていることがバレバレだった。
仕方ない、しばらく茶番に付き合ってやるか。
「付き合う気が無いのに告白されても困るの」
「やっぱり自慢か」
「うん」
「はい解散」
「まだ続きがあるの!」
続きも何も、俺にどうしろっちゅうねん。
明菜が美人でスタイル良いんだから仕方ないだろ。
それにこうして俺と話している時に幼くなるギャップもまた男子達を喜ばせていることにこいつなら気付いてるだろ。
「ともくん、彼氏のフリしてくれない?」
「彼氏のフリ?」
「うん。彼氏がいるって思われれば告白して来なくなるかなって」
告白避けとしては定番な作戦だな。
「フリって具体的に何をするんだ?」
ぶっちゃけ今でも付き合っているように見えなくもない雰囲気なんだが。
実際付き合っているのかって聞かれることも多いしな。
「う~ん、デートとか」
「休日一緒に出掛けてるだろ」
「あるぇ?」
この前の日曜だって駅近くのカフェに行って服見てゲーセンのクレーンゲームで遊んだわ。
「違うの。そういうただ遊びに行く感じじゃなくて、もっと恋人っぽく出かけるの」
「恋人っぽくか。例えば?」
「……腕組むとか?」
「明菜勝手に組んでくるじゃん」
「あるぇ?」
本気で不思議そうにしてやがる。まさか無意識でやってたのか。
「じゃ、じゃあ名前で呼ぶとか」
「呼んでるだろ」
「だよね……」
幼馴染だからな。名前で呼ぶ定番イベントなんか保育園の頃に終わってる。
「いつもよりお洒落なレストランに行くとか!」
「ならバイトして金貯めないとな。次の休みは遊びに行けないわ」
「やっぱり今のなし!」
明菜と頻繁に遊びに行ってるから、自由に使えるお金はあんまり残ってない。だから付き合いのグレードをアップさせるなら、バイトして準備する必要がどうしても出てしまう。貯金には手をつけたくないしな。
「それなら……………………キ、キス、とか?」
「キスか。確かにそれは恋人らしいが、フリなのにキスしたらダメだろ」
「あるぇ?」
まさかフリって話を忘れて無いだろうな。明菜のことだからあり得る。
「じゃあどうしろって言うの!」
「逆ギレするなよ」
「ともくんが否定ばっかりするからだよ!」
「確かにそうだな」
いくら相手が気を許している幼馴染とはいえ、否定オンリーというのはよろしくない。俺からも意見を言うべきだろう。
「だが考えてみると難しいな。一緒に登下校しているし、『あ~ん』もやっているし、お互いの家にも遊びに行っているし、なんなら家族同士で仲が良い。他に恋人らしいことって何があるんだ?」
「恋人……恋人……恋人繋ぎとか?」
「おお、それはやってないな。確かにそれをすると傍から見て恋人っぽく見えるな。良いアイデアじゃないか」
「やった!」
「ご褒美になでなでしてやろう」
「ふにゃぁ~」
頭と顎の下を撫でてあげると、猫のように気持ち良さそうな顔になる。猫より可愛いけどな。
「でもごめんね」
おや、満足そうだった顔が少し悲し気になってしまったぞ。
「彼氏のフリをして欲しいなんてお願いしたのに、このくらいしか思いつかなくて」
なるほどな。お願いが明確でないことで俺を困らせてしまったと思って凹みかけているのか。
別に気にする必要なんか無いのに。
「気にするな。むしろ俺に彼氏のフリをしてくれってお願いしたのは正しい人選だ」
「そう?」
「ああ。普段から恋人のように仲が良い俺らが恋人ムーブしたら、周囲の人間は確実に信じるだろ。絶対に騙せるフリで、告白してくる野郎共なんていなくなるに違いない」
俺の言葉に明菜の顔がまた元気になる。
だが悪いな。また悲しませてしまうことになるが、どうしても伝えておかなければならないことがあるんだ。
「でも一つだけ大きな問題がある」
「問題?」
「皆に聞かれてるんだよ馬鹿野郎」
ここは教室で俺達の会話は聞かれてるっちゅーに。
演技だって分かってたらフリをする意味が無いだろうが。
「確かに!ともくん天才!」
「それ逆に馬鹿にしてるだろ」
「あるぇ?」
全く明菜と来たら……分かっているくせに。
「あれで良かったのか?」
「ええ、助かったわ」
俺の部屋で二人きりになると、明菜は他の人と会話する時のようにクールビューティーモードに変化する。
「偽の会話で俺達の仲を周知させて男子からの告白を減らす作戦」
「気付いてくれて助かったわ」
「明菜のこと、分からないわけないだろ」
「うれしい」
しかしクールな言動ながらも行動は甘えんぼモードであり、しおらしくたっぷりと甘えてくる。今もベッドの上に並んで座り俺にしなだれかかっている。
学校での天真爛漫モードこそが演技であり、俺との甘々な雰囲気を演出することで他人を牽制していた。それでも告白してくる男子がいるのは、それだけこいつが美少女であり諦めきれないということなのだろう。
今日その希望を完全に打ち砕いたわけだが。
「もう恋人だって宣言しちゃえば良かったのに」
「でも私達付き合ってないでしょう?」
「そう思ってるのは俺達だけだと思うんだけどな。今の関係が大事なのはもちろん分かってるけどさ」
「ともくんだけ分かってくれていればそれで良いの」
「明菜が面倒じゃないなら俺も気にしないさ」
付き合っていないなら何なのか。
それは言葉にすると非常に難しい。
敢えてするならばやはり『幼馴染』だろうか。
幼馴染だからこその特別な気持ちが俺達の間にはあり、それを恋だとか付き合うだとかいう陳腐な言葉で表現したくない。
一つだけ確実なのは高校卒業後に俺達はすぐに結婚するということ。
告白もプロポーズもしていないのに、それだけは決まっている。
それが俺達らしいと言えばそうなのだが、やっぱり想い出は欲しいものだ。
こっそりサプライズプロポーズを考えているけれど、明菜にはバレてそうだな。それでも止めようとする気配が無いということは期待してくれているということ。
まぁそれはまだしばらく後の話。
「次の日曜は何処に行こうか」
「お母さんがたまには顔を見せてって言ってたわ」
「遊びに行っても気を使って外出するじゃないか」
「気を使いすぎなのよね」
高校生になった頃くらいから、俺の親も明菜が遊びに来ると外出しちゃうんだよな。親公認なのは助かるけれど、過剰に気を使われるとこっちが気になってしまう。
「そんじゃ挨拶しにいくか」
「伝えておく」
「でも二人で遊ぶ時間も欲しいし、土曜日に何処か行くか」
「うん」
きっとその時、腕を組み、恋人繋ぎをして出かけることになるのだろう。
いや違う。
俺達はただの幼馴染だ。
だからきっと幼馴染繋ぎになるに違いない。




