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第6回

「そんなことより、こんなところでどうしたの、真帆ねぇ」


 堂河内くんが訊ねて、真帆さんは口元に指を当てながら「そうですね」と口を開いた。


「例のお月様の件で色々と調べているうちに、地力の流れが乱れていることに気が付いたんです。その原因を調べていたら、自然とここにたどり着いた、というところでしょうか」


 地力? 乱れ? いったい、何のことだろうか。


 例のお月様の件っていうのは、当然、堂河内くんが調べているアレのことなんだろうけれど。


「やっぱり、真帆ねぇも気になってたんだ?」


「気になっていたというか、依頼があったので」


「依頼……?」


 わたしが首を傾げると、真帆さんは「はい」とこくりと頷いて、

「先ほど私のところに金剛さんがやってきて、ご依頼されて行かれたんです。どうにかしてほしいって」


「はぁ……? そうですか……?」


 なんだかよく解らないまま、私は首を傾げたまま返事する。


 堂河内くんはそんなわたしの横を抜けて、すたすたと真帆さんのところまで歩み寄ると、

「何かわかった?」

 真帆さんの隣に立って、人影のない工事現場を見渡した。


 工事現場の周囲は赤いコーンで囲われており、そのコーンを黄色と黒のストライプが入ったバーが繋いでいる。


 バー一本一本には『きけん! たちいりきんし!』と平仮名で書かれた紙がぶら下げられており、時折吹く風にゆらゆらと揺れていた。


 一部は白い鉄板みたいな壁で覆われており、中を覗いてみると、どうやら川の護岸工事を行っているらしかった。


 春先までは草木の生い茂っていた川の両サイドが、今では掘り起こされて白っぽいコンクリートか何かに半分ほど覆われていた。さらにその一部にはブルーシートが張られており、かつての面影はどこにもなかった。


 作業員の姿がどこにも見えないのは、お盆休みか何かだろうか。


 いくら町の子供が減ってきているとはいえ、今この状態では誰がいつ侵入するかわかったもんじゃない。危険だ、危なすぎる。


 なんて思っていると、

「あ、ちょっと真帆ねぇ! 危ないって!」

 堂河内くんの叫ぶ声がした。


 そちらへ顔を向ければ、真帆さんが堂々と工事現場の中へ侵入していくのが目に入ってきた。


「え? えぇっ?」


 目を丸くするわたしと堂河内くんに対して、真帆さんはへらへらと笑いながら、

「大丈夫ですって。ちょっと調べるだけですから」

 言ってあちらこちら、掘り起こされてむき出しになった地面やブルーシートの中、干上がった川底|(川の水はどこかでせき止めたかどうかしているらしい)をまじまじと見つめたり、果ては積み上げられた資材や放置されたトラックやショベルカーにまで直接手を触れて、何かごそごそと調べ始めた。


 わたしはどこかで誰かが見てやしないか冷や冷やしながらその様子を見ていたのだが、真帆さんだけじゃなくて堂河内くんもまるでそんな心配なんかしていないふうに見えて、それはそれで気が気じゃなかった。


「ねぇ、大丈夫? バレたら怒られるんじゃないの? わたしまで一緒に怒られるのは嫌だからね?」


 堂河内くんに言うと、

「それは大丈夫だよ」

 と、どこにそんな根拠があるのか、言ってのけた。


「なんで?」

 訊ねれば、

「誰も僕たちを見ていないから」

 と断言する。


「どういうこと? なんでそう言い切れるわけ?」


「そうだなぁ」


 堂河内くんは少しばかり空を見上げてから、

「――そんな魔法をかけているから、かな」

 真帆さんみたいに、微笑んだ。

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